4-4 作戦会議


「リクシン! すごいよあれ! 触ったことある!?」


 翌日。

 食卓の部屋に降りていったら、興奮気味のオリティアがいた。


「なんだよ触ったって。」


「魔女様の乳よチチ! なんていうかこう……水!? フニョぷるんみたいな!!」


「はあ……水って何だよ。」


「もう柔らかいを通り越して水なのよ! あの気持ちよさは水魔法でも再現できないわね!」


「あ、そっすか。気持ちよく寝れたんだね。」


 そんなことを喋りながら、オルモアの用意してくれた朝食を食べる。

 魔女様とは仲良くなれたようでよかった。

 その後俺たちは作戦会議を始めた。


 とは言うものの、犯人の手がかりは全く無い。

 ひとつわかるのは、俺らが考えていた強奪方法にとても近いということ。

 まず実行予定だった作戦の流れを整理してみよう。


①まずあの厳重な魔術結界が施された『赤石』の格納箱が開放されるところから始まる。

  ↓

②その瞬間を見計らい、赤石を含めた周囲ごと"デュエルフィールドに似た亜空間"に取り込む。

 VLDのトレーニングモードを飛躍させ、高レベルの亜空間物質転送装置として利用する方法だ。

  ↓

③そしてその空間内で「実体に近い幻影」を出現させ、現実の物質に干渉する。

 幻影に『赤石』を盗ませて、トレーニングモードを解除。

  ↓

④亜空間に取り残された『赤石』を、あとで回収する。


 この作戦はこの「黒の魔術団」高レベル対応デッキケースを魔改造したものが必要。

 つまり犯人も似たような道具か、あるいは術を持っている可能性がある。


 また、競技場の広さを亜空間に入れるとなれば、相当魔力を消費する。

 それこそ『赤石』を警護していた国家召喚術師レベルまで必要だ。

 彼らはあの亜空間に瞬時に適応し、神話クラスのモンスターを召喚出来ていた。

 しかも空間から離脱する強力な魔法を唱えることも出来ていた。

 それに近い人間、あの会場にいただろうか。


「DPランキング上位の人はどうなの? 相当魔力も強いだろ。」


「そういう人もいるけど……あの壇上でそんな素振り見せている人いなかったわよ?」


 そういえば事件の瞬間、オリティアは赤石から数メートルの距離に座ってたな。


「もう~、情報が少なすぎるわねぇ。」


 困ったように(いや会議に飽きた?)ヴェアロックがテーブルの上にうなだれた。

 確かに情報が少ないので話し合っても先に進まない。


 とりあえず、オリティアは上層部の情報をこっそり集めること。

 俺は生徒の間で噂などがないか調査すること。

 ヴェアロックは探知機など使えそうな道具を開発すること。

 連休明けから以上を遂行するという話で、会議が終わった。


 そのあと俺とオリティアは資料室に行った。

 デッキの強化と、カードをオリティアに紹介するためだ。

 会議が終わったのが昼間。

 明るいうちに帰ると人の目につく。

 夜中に帰ることにして、それまではオルモアを交えてトレーニング。

 もしかしたら『赤石』を賭けてデュエル! なんてことになり兼ねないしな、この世界。



◆◆◆



「それじゃあまた連絡する。」


「はぁい、気をつけて帰ってねぇ。」


「私も、お借りしたこのスマホ?で連絡します!」


 深夜0時。

 普段ならこんな山をこの時間には歩かないだろうと思う。

 しかしこの山は賢者が魔女に与えた庭みたいなもの。

 モンスターはペットみたいなものなので、むしろ山賊など居ないので安心して帰れる。


「安心して帰れるって聞いても、俺にくっつくんだね。」


「あ……当たり前でしょ! 子供の時からの恐怖が!」


「はいはい。」


 今日は風向き的に、斜め後ろからめっちゃいいにおいがする。

 ノーブラだとわかった右腕の感触を死ぬほど堪能しながら、さっさと山を降りよう。



◆◆◆



 連休中はむやみな外出は禁じられている。

 しかし生活用品の買い物くらいは大丈夫。


「すみません、このアイテムが欲しいんですけど。」


 俺はまず、雑貨屋……家具屋?へ出かけ「TV」を買ってきた。

 アンティークな装飾の施された、長いとこで直径1メートルくらいの楕円の鏡。

 普段は鏡として使えるが、映像を映し出せる。賢者が使っていたあのアイテム。


 情報を集めるならまずTV!ということで、博士からバカみたいな額のお金を頂いた。

 ちなみにそこから生活費ももらってる。ありがとうヴェアロックママ。


 お金の単位は「G(ジー)」で、電子マネーのようなシステムで支払う。

 カードに金額が書かれていて、利用するたびに引かれていく。

 カードには所有権があり、所有者しか使えないようになっている。

 俺は博士のカードの所有権を一時的にもらった。



 ちなみに昔はこのカード、モンスターの結晶石を封印していたらしい。

 モンスターが死ぬと出る結晶は複製が困難な上、人を魅了する美しさがある。

 それが貨幣として使われたって。

 俺はそれを聞くまで、モンスターって倒したらお金落とすのかと思ってた。



 そんなこんなで5日ほどあった連休も終りを迎える。

 こっそり街をうろついてみたり、TVをずっと見てたけど有用な情報は得られずじまいだった。


 明日からまた、異世界学園生活が始まる。

 目立たないよう情報収集って、スパイ活動みたいだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る