6-2 カードショップ


 この世界のカードショップ。

 三階建ての大きな建物だ。



 一階はグッズと軽食コーナー。

 デッキケースや、何に使うかわからないメンテナンス用品まで。

 運動器具みたいなものもある。

 体を鍛えて魔力量を上げるってこと?

 魔力と言えば精神的な修行じゃないのか。


 昼が近かったので、俺達はまず軽食コーナーに行った。

 この世界でも軽食は「ハンバーガー」が人気のようだ。

 パンみたいなやつに肉と野菜が挟まってる。

 これまた普通に美味しかった。



 二階は書籍コーナー。

 指導書みたいな書籍もあるけど、主に魔導書。

 ユニットを召喚するためには知識と経験が必要で、それを補う魔導書らしい。

 博士の家にたくさんあった。


 このフロアはカードゲーム専門学校に通っている俺らにはほぼ無縁。

 授業である程度基本的なユニットの知識は補える。



 三階はお待ちかね、カードショップ。

 壁や棚に、カードがズラッと並べられている。


「あ! 新しいスペルが出てる!」


 単品バラ売りカードコーナーで、若干テンションの上がるクラウ。

 サモンカードはずっと変わらないが、スペルカードは定期的に新作が出てるらしい。


「へー、クラウって土属性使うんだ。」


「はい! 土属性の中でもカワイイお花のユニットがあるんです!」


 カワイイでユニットを選ぶとは、君らの一族は考えが同じか。


 それにしてもスペルカードでこんなに種類があるとは。

 ガラスケースの中にきれいに並べられているカード。

 数百種類はある。

 博士の発明品翻訳メガネで読んでみると、微妙な効果ばっかり。

 ユニット一体に「攻撃力プラス1,000」のカードと「攻撃力プラス2,000」のカードがある。

 値段は違うが、完全下位効果の安い方を買う人はいるんだろうか?


 それにしても高めのカードでも5,000Gくらいか。

 5,000円だと思えば……うん、良心的だな!

 俺の世界のカードゲームだと、本当に強くて人気のカードは万近くになる事がある。

 しかも三枚とか四枚とか必要になる。

 あれ?

 でも隣のコーナー、全体的に高い……


「ねぇねぇクラウ? ここのカードは何で高いの?」


「ああ、ここのコーナーは『光るカードコーナー』ですね。

通常のカードに光る加工がされていて、暗いデュエル空間でも見やすいんですよ。」


「……効果は通常のカードと同じ?」


「はい。」


 低年齢層向けカードゲームに多く採用されるキラキラ光るカード、いわゆる「キラカード」。

 それに近いものか。

 これは暗いところで実際に光るみたいだけど、そこまで必要か?

 「デッキのカード全部光るやつだぜ!」とか自慢してくるヤツ絶対いるだろうな。


 その後、クラウは何枚かカードをお買い上げ。

 俺は特にめぼしいものは無かった。


 それよりも、レジの隣の「ストレージコーナー」が気になる。

 何百枚ものカスカードがストレージケースにまとめられてる。

 ああいうとこに掘り出し物があるんだよな。

 あと「ランダムカードパック」。

 何が出るかは開けてからのお楽しみ。

 まさかこの世界でも「ガチャ」みたいな商法があるとは……正直引きたい。


 でも今日はデート。余計な時間は無い。


「この建物の屋上が、デュエルスペースになってるんです。……ちょっと寄っていきません?」


「おお! いくいく!」


 ああ、夢のようだ。

 女の子と二人でカードショップに行き、デュエルスペースへのお誘いまで。

 こんなの元の世界じゃ滅多にない。

 たまに女の子と二人で、男臭いカードショップ来てる人を見てああああああああ!!ってなってた。

 でもついに、俺もそいつらの仲間入りを果たすぜ!


 そしてこのあと、オサレな喫茶店でお紅茶を飲む。

 ほんと、今日は良い日。



◆◆◆



「いいね……程よい甘みとフルーティーな香り。これくらいが丁度いい(?)」


 よくわからん感想を述べてみる。

 カードショップを出た俺とクラウは、もう少し駅から離れたこの店にやってきた。

 近くに他の店舗もない、隠れた名店。

 ここのハーブティーを飲むのが、今日のメインクエストだ。


「お待たせしました~。」


 メイドみたいな格好をした店員さんが、パンケーキみたいなものを運んできた。

 店員さんも可愛い。


「ん~、美味しいです! 口コミは本当でした!!」


 いや、目の前のこの子のほうが可愛い。

 この国の数少ない甘い食べ物。

 それを美味しそうに頬張り、目がトロンっとなっている。


「うん、当たりだったねこの店。新聞部の情報は間違いじゃなかった。」


「はい! こんなに美味しい食べ物と飲み物があるなら、もっと早く訪れるべきでした!」


 よかった。満足そう。

 ここに来た本来の目的は何だっけ?

 ああそうだ、人脈の多いこの子から情報を引き出すためだった。

 もうどうでもいい気がしてきた。


 それから俺らはハーブティーをおかわりしながら、他愛のない話をした。

 学院のこと、生活のこと、ちょっとオリティアの話も。

 この子もお嬢様だけど、あの子とは違う悩みを抱えてるようだった。

 みんなお年頃ね。


 店を出る頃にはすでに夕方だった。



◆◆◆



「本当に美味しかった。また来ましょうね。」


「おう、そうだね! えーっと帰る方向は……」


「確かこっちにもバス停があったはずです。」


 そう言って来た道と逆側のほうを指差すクラウ。

 裏道のような細い道だが、奥でバスが通る道とつながっているようだった。


「ああ、ここ繋がってるのか。じゃあこっちから行こう。」


「はい。」


 そう言って太い通りを目指す俺ら。

 しかしだんだん道が狭くなっていく。

 工場?倉庫?みたいな大きな建物に囲まれ、薄暗い。


「この道覚えたら、バス降りてからさっきの店まで近道になるね。」


「はい、そうですね。……あら?」


 お?

 向こうから三人ほど人が来る。

 自動車一台分やっと通れる道なのに、三人は広がって歩いていた。

 左右は大きな建物で塞がれてる。俺らは壁際に寄った。


「おお~? ちょっとストップストップ。」


「どうしましたアニキ。」


 10メートル前くらいで、三人が俺達を見て立ち止まった。

 彼らをよく見ると、この説明が思い浮かぶ。

 「いかにもガラの悪そうな三人だ。」


「おーいお前ら。お前らデュエリストかー?」


 うわあ、絡まれた。

 これはめんどくさい。


「そ、そうだけど何か用か?」


「おめえじゃねえよ!!」


 ビクゥ!!

 いや、何でこういう人たちはすぐ大声を出すの。

 小心者の俺、はっきり言って弱いの。


「私に何か用ですか?」


 この子強い。

 全くビビらずに睨みつけてビシッと言い放ってる。


「その腰につけてるのはデッキケースかって聞いてんだよ。」


「あなたみたいな人に答える義理はありません。立ち去って下さい。」


 ひゃああカッコイイよ~。

 違うって!

 「デートでヤクザに絡まれて、それを男が倒す」がテンプレだろ?

 完全に俺が後ろ、彼女が前に出てる。

 でもだって武器もないし怖いものは怖いのよ。


「じゃあデュエルしようぜ~。俺ちょっと腕に自身があんのさ。」


「はっ! そうか、いいっすねアニキ!」


 何がいいのかわからんが、取り巻きのヤンキーが囃し立てる。

 真ん中の喋ってる角刈りのお兄さんは強そうだが、他二人は身長も高くないし怖くない。


「……立ち去って下さいって言ってるんです!」



ボワッ!



 おお、びっくりした!

 俺の目の前で、クラウの手が燃えた。

 ああそっか、こいつも炎の巫女の末裔、炎魔法は得意なのか。


「おーこわいこわい。そう怒るなって。」


 アニキと呼ばれていたヤンキーは、腰からデッキケースを外す。


 ――――黒い。


「Holen Wette~、お前の『体の自由』。

Wette~、俺の『体の自由』。」


「あなた一体何をやって………………え!?」


 ヤクザのデッキケースからレーザーのような光が出る。

 それがクラウのデッキケースに繋がった瞬間、周りの景色が変わり始めた。

 もちろんデュエルの許可などしていない。


「DECK ON~、あっはっはっは!!」

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