11-3 伝説級


「わ……私のターン。」


 手が震えている。

 アレと直接対峙しているんだ。しょうがない。

 まだ戦う気があるだけでもすごい。


「[天使のたまご]を守備態勢で召喚……[虹を架ける天使・エシラ]も守備態勢に……

[虹を架ける天使・エシラ]のスペル枠を……」


「スペルを?」


 だめだ。

 何をやっても無効化されてしまう。

 今は無駄だ。


「うぅっ、このままターンエンドよ!」


「では私のターン、ドロー。

手札から下級ユニット[ハイドラゴン・ランサー]召喚。」


[ハイドラゴン・ランサー]

攻撃力3,000 守備力2,000 スペル枠:火属性1個


 竜人型ユニットの槍使い。

 普通に見たらただのアタッカー(攻撃要員)。

 しかし防戦一方のこっちとしては、ユニットが増えるだけでも脅威。

 伝説級ユニットを出してもまだ魔力があるとは、さすがオリティアの親父。


「[ハイドラゴン・ランサー]、[天使のたまご]に攻撃だ。」


 特に勢いも付けずに、ランサーが華麗な手さばきでタマゴを突き刺す。


「[天使のたまご]のスキル発動……」


「もちろん、それは無効化だよ。」


 [天使のたまご]の仲間を呼ぶ能力が消された。

 タイミングを選ばない無効化能力。強すぎる。


 その後[竜神 マグレッド=エンド]が[虹を架ける天使・エシラ]を攻撃する。

 何も出来ず吹き飛び、オリティアの場が空になってしまった。


「ターンエンドだ。」


「私の……」


 動きが止まってしまった。

 顔は絶望で歪んでいる。泣きそうだ。


「さあどうする。何もしないなら投了で良いかい?」


 確かに、これ以上の絶望感は感じたことがない。


 一応、相手のライフ7,000、オリティアは10,000で勝っている。

 手札も相手が一枚、オリティアは四枚。


 しかし相手の場には"神"のカードとアタッカー。こちらは空。

 さらにどんな手をも封じてしまう能力がある。

 これ以上何をすればいいんだと思うだろう。



パァン!!



 俺は思いっきり手を叩いた。

 全員がびっくりして俺を見る。


「あーあー、うん。これは助言じゃないよ。

オリティア! 頑張れ! 自分に"出来ること"を考えるんだ!」


 いきなりわけの分からない事を言ったと思われて、シーンとなる。

 デュエル中の助言は出来ない。

 だから俺に出来るのは、これが精一杯だ。

 伝わってくれ。


「そ、そうです! "リク君が言う"んですから頑張ってください!」


 クラウも応援をする。

 この子、もしかして頭いいから気がついたのか?


「……オリちゃん。……頑張って。」


 タタミは気づいてないだろう。


「いい友達を持ったなオリティア。それだけでも大きな収穫だ。

さあ、もういいだろう、投了して学校も辞めなさい。大丈夫、辛い思いは残らない。」


 思いが残らない……やはりこの親子「記憶」を賭けて戦ったか。

 つまりこのまま負ければオリティアは俺達との記憶が消えてしまうのか。

 諦めないでくれ、オリティア。


 オリティアを見ると、お父様の声が聞こえていないようだった。

 手札をじっと見て何かを考えている。


「……わかったわ。みんな、ありがとう。」


 表情が変わった。

 しっかりと、前を見据えている。

 彼女は元気よくドローした。


「私のターン、ドロー!

まずは手札から! 上級ユニット[輝石の守護竜]召喚!」


 よし。どうやらオリティアは気がついてくれたようだ。

 アイツにも弱点があることを。


 竜神の弱点一つ目。

 当たり前の事だが「召喚は許す」。

 どんな嫌なユニットでも、召喚自体は許してしまうのだ。


[輝石の守護竜]

攻撃力1,000 守備力7,000 スペル枠;聖属性4個


 そう。

 出来ないことを考えるんじゃない。

 まずは"出来ること"を考え、そこから相手の手を崩していく。

 カードゲームの基本だ。


「次に、[輝石の守護竜]のスペル枠1個使用! スペルカード《エンジェルドロップ》!

デッキから下級の『種族:天使』ユニットを喚ぶことが出来る!」


「守りを固めるのか。これ以上長引かせないでくれ。[竜神 マグレッド=エンド]のスキル発動。」


「私のスペルは無効化されるわ……でもその時! [輝石の守護竜]のスキル発動!

『自分の効果が無効化された時、デッキからスペルカードを一枚持ってくる』!」


「もちろんそれも無効……! なるほど。良いだろう許可する。」


「……え、どういうこと?」


 タタミがやはり分かっていないようだ。

 竜神の弱点二つ目。

 「ループする強制効果は止められない」。

 守護竜のスキルは無効化された時カードを持ってくる誘発効果。

 竜神のスキルは好きに無効化できる任意効果。

 一度スキルが発動すると、無効、持ってくる、無効……で永遠に続いてしまう。

 そのため、能力の使用を選べる竜神は諦めないといけない。

 じゃないと遅延行為としてジャッジキルされるのだ。


 淡い黄色に輝く石で体が構成されている守護竜。

 竜神がいるにも関わらず、頼もしくスキルを発動する。

 守護竜とオリティアの手が輝き、デッキから一枚射出される。

 それをキャッチするオリティア。


「そして今、持ってきたサーチしたこのカードを使うわ。

[輝石の守護竜]のスペル枠1個使用! スペルカード《ホーリーサモン》!

[輝石の守護竜]を他のユニットと入れ替える!」


「他の……? 何を企んでいるかわからないが、それは無効化させてもらう。」


「まだよ! 対抗! スペルカード《能力降格の王政》!

このターン、全てのユニットはスキルを使用できない!」


「全ての、か。さすが聖属性だ。多種多様なスキル無効スペルがあるな。

もちろんそれは許可しない。無効だ。」


 使えそうなスペルを持ってきても無効化される。

 無効化が得意なデッキでさえ無意味と化す。

 が、それがオリティアの狙い。うまく乗ってくれた。


「……ありがとうお父様。そう来ると思ってた。

私は[輝石の守護竜]の最後のスペル枠を使用してこのカードを発動するわ。

四回目の対抗の時のみ使える特殊なスペルカード、《神への冒涜》!

このスペルは『私のカードを無効化する効果』をすべて打ち消す!

しかも『この効果は無効化されない』!」


「何だと……!」


「決まった! 対パーミッションカードの切り札、無効化耐性!

これをデッキに入れてるやつはそうそういないだろう!!」


 思わず説明口調で叫んでしまった。

 竜神の弱点三つ目。

 「さらに上位のルールには勝てない」。

 魔属性や聖属性のスペルにたまにある『この効果は無効化されない』効果。

 竜神と言っても所詮VLDのカードだ。

 この後出しジャンケンのようなルールには従ってもらう。


 オシマ・レッドマインはこれ以上対抗がない。

 つまり最後に使った効果から順に解決される。

 まずは、《神への冒涜》による無効効果の打ち消し。

 これにより《能力降格の王政》の効果が発揮される。


「お父様、その竜神様のスキル、制限させてもらいますわ。」


「ふむ……」


 何故か余裕そうなお父様。

 しかしこれで、陥落不可能だと思われた竜神を止めることが出来た。


 竜神の弱点四つ目。

 「全体効果は適用される」。

 ユニット一体を弱体化させるなどの効果の目標にはさせてもらえない。

 しかしフィールド全体に及ぶ効果は適用される。

 カードゲームによくある「目標を取らない効果」というやつだ。

 それにより無効化スキルを使用出来ず、次の《ホーリーサモン》が効果発揮する。


「[輝石の守護竜]を何に変えるかですって? わかってるでしょお父様。」


 守護竜の下に大きく光る魔法陣が展開された。

 そして体長5メートルほどある守護竜が、魔法陣に吸い込まれる。

 この効果でデッキから出せるのは守護竜と同じ上級ユニットだ。

 だとしたら俺もよく知っている、あのユニットしかいない。


「出てきて! [暴走天使イグ・マオ]!!」


 辺りが暗くなり、魔法陣から12枚の真っ赤な翼が生えてきた。

 その後にゆっくりと、革のベルトや鉄の輪で拘束された男性が現れる。


「このターン、《能力降格の王政》により全てのユニットはスキル使用を禁じられる。

よって[暴走天使イグ・マオ]の拘束スキルも無効!」



オアァァァァアアアア――――!!!



 暴走天使の咆哮が響き渡り、彼の拘束具が解除される。

 威圧感は目の前の竜神に劣らない。


「元々の攻撃力15,000!! [ハイドラゴン・ランサー]へ攻撃!」


「……DECK ON」



バキイィィィン!!



 暴走天使が音速で突撃する。

 途中のハイドラゴンは粉みじんになり、相手シールドさえも紙のように飛散した。

 気がつくと天使は、オシマ・レッドマインの後方数メートルで止まっていた。


 ……何だこの違和感。

 暴走天使にアタックされ、微動だにしていない相手。

 いや、もともと幻影の攻撃なので体にダメージが無いのは当たり前だ。

 しかし何かいつもと違う。それに何か言ってたような。


「……すばらしい。見事だよオリティア。ここまで成長していたなんて。」


「……え? どういうこと? 何で私の勝ちにならないの!?」


 そうだ。

 いつもの勝ちアナウンスが流れない。


「あれは何!?」


 クラウが空を指差した。

 さっきまで屋上にいるような広い空だったのが、ガラスのように割れている。

 まるでドームの天井が壊れているような状態で、そこから雷雲が見えた。


「ここまで頑張った君たちに、いいものをお見せしよう。」


 オシマ・レッドマインがそう言うと、天井が一気に、いや、世界が崩れた。

 景色が一遍。見渡しのいい天空闘技場から、地獄のような火山地帯へと変わった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る