第十話 VS闇のデッキケース

10-1 ガチ侵入


「ぜ、全裸!」


「……違うよ。……全裸ベルト。」


 そこの話はどうだっていいんだ。

 クラウとタタミが話してる。

 後日、放課後、いつもの俺の家。

 先日強行されたナイトクラブ潜入の反省会をしていた。


「で、これ本当に仕入先?」


 オリティアが封筒に入っていた紙を見ながら聞いてきた。


「そうみたいだよ。どこだかわかる?」


「分かる、と言われましてもねぇ。」


「ね。ここって普通にデッキケースの卸業者じゃない。」


 普通に?

 情報は嘘だったのか。

 それとも卸売業者が黒なのか。


「え、そこってみんなが知ってるところなの?」


「はい。各メーカーのデッキケースをカードショップに卸してる有名な業者さんです。」


「……ウチ知らないけど。」


「ほらタタミが知らないって言ってるよ!」


「私達には馴染みのある会社よ。グループ会社の一つだし。」


 なんと。

 ここで衝撃の事実を聞かされた。

 この国の『VLD』協会が推奨している公式アイテムは、炎の巫女一族が関連しているそうだ。

 俺がオリティアから貰った赤いデッキケースも公認のアイテムらしい。

 もちろん一番高級なケースが、プロご用達の『黒の魔術団』デッキケース。


「『黒の魔術団』デッキケースは、賢者様含め偉大な有識者が作った世界最初のケースを改良したもの。

それを一般販売出来るレベルまで落とし込んだのが私のお父様よ。」


「まじで! オリティアの父ちゃんは技術者だったの!?」


「オリちゃんのお父様は技術者どころか、VLD関連アイテムを司るグループ企業の総帥ですよ。」


「クラウのお父様だって取締役じゃない。」


 はああ。

 何だこのお嬢様方は。

 こんな狭いワンルームアパートにいていい人物じゃないな。


「……肩身が狭い。」


 タタミ、お前だけだ庶民の味方は。


「えっと、じゃあこの卸売業者についても詳しいの?」


「詳しいってわけじゃないけど、情報は集めやすいわね。

今、お父様の会社の役員に問い合わせてるところよ。」


 役員って、部長クラスの人か。

 大グループ会社の役員に気軽に問い合わせるこの子が怖い。



キンコンキンコン~



 おお? なんだ!?

 鉄琴楽器みたいな音が部屋に鳴り響いた。


「噂をすれば早速。私のコンパクト鳴ってるわね。」


 オリティアは鞄から手のひらサイズのコンパクトを取り出す。

 音の発生源はそれだった。

 着信音かよびっくりした。


「オリティア、コンパクト持ってたのか。」


「私も持ってますよ。」


「ちょっと、静かにしてて!」


 オリティアがコンパクトを開けて、着信に応答する。


「りっくんは持ってないんですか?」


「いや、俺は持ってないね。なんか女の子っぽくて」


 ヒソヒソ声で喋る俺とクラウ。


「……ええ! その会社の資料をくださらないかしら。……もちろんワタクシの権限ですわ。」


「おい、誰だよあいつ。ワタクシとか、ですわとか言ってるけどあんな高圧的でいいの?」


「りっくん、静かにしないと聞こえますよ」


 キッっとオリティアに睨まれた。

 聞こえてたか。

 相変わらず俺ら以外の人と会話するときは態度が変わる。

 今思えば、敬語を使っている彼女はどこか演技臭いというか少女漫画キャラのコピーみたいだ。


「……ですわ。ですわ。」


「『ですわ』ってww 二回連続で使わないだろwww」


 思わず笑ってしまう。

 数秒前と全然別人。


「りっくん、聞こえますって!」


「……ええ。……そう……でっすわ。」


「意識した意識した!ww 『でっすわ』になったよ今www」


「りっくんやめて、私も笑っちゃう」


 二人で笑いをこらえる。

 オリティアがめっちゃ睨んでる。

 そのままトイレのほうに行ってしまった。


「いやー、ほんとあいつキャラ作りがすごいな。」


「……ウチら一般生徒は……あれに慣れてるからね……。」


「はあ、ちょっとりっくん、笑いこらえてお腹痛いですよ。」


 しばらくしてオリティアがトイレから出てきた。

 めっちゃ怒ってる。


「ごめんごめん、キャラが違いすぎてさ。」


「――『火之夜藝速男神ひのやぎはやをのかみの罪、巫女の純血、岩根さえも裂く石折神いはさくのかみ

根折神ねさくのかみ、その炎が――』」


「オリちゃんストップストーップ!!」


 オリティアがいきなり中二病みたいなことをつぶやき出したところを、クラウが抱きついて止める。


「……おお! ……今のは炎の巫女に伝わる……一子相伝の神剣召喚呪文。」


「オリちゃん! ここでその剣を出したら部屋が吹っ飛びますよ!」


 剣?

 タタミが今シンケンって言ってたけど、神の剣ってことなのかな。

 すげえ、ファンタジーっぽい!

 たださすがに部屋を壊されるのはごめんだ。


「マジか、ごめんオリティア! 本当にごめん!…………『でっすわ』。」


「くっっ」


 オリティアに抱きついてるクラウが笑いをこらえる。


「『詠唱破棄』!!!」



ブォン! ゴゴォォォ!!



 召喚の勢いで部屋の椅子とテーブルが吹っ飛ぶ。

 オリティアの右手には、燃え盛る細い刀身の剣が。


「……おお、これが一子相伝の神剣『天之尾羽張あめのおはばり』……

しかも最終奥義『詠唱破棄』で即時召喚まで……。」


「感動してる場合じゃありませんタタミちゃん!」


「あ、あ、ごめんって! 冗談だよオリティア!」


「うるさいっ!」



ゴンッ!!



 刀身の腹で頭を殴られた。

 俺はしばらく床に倒れ、もがいていた。



◆◆◆



「で、うちの会社の営業本部長に聞いた情報なんだけど。」


「ええ。どうでしたか。」


 椅子とテーブルが直され、普通に会話が始まる。

 俺はベッドで横になり頭を押さえてる。


「『黒の魔術団』デッキケースを卸してるのは本当みたい。でも数ある卸業者の中の一つだって。」


「専売してるわけではないんですね。何でこの業者からだけ違法ケースが流れるんでしょう?」


「……この業者がケースを改造してるとか……?」


「その可能性もありそうね。」


「直接調べてみましょう。」


「え、直接調べるって、乗り込むってこと?」


 頭を押さえながら質問する。

 オリティアに睨まれる。


「はい。こっそり侵入して証拠を掴むんです。」


「それで証拠を突きつけて経営陣を犯人捜索のアシにするのよ。」


 こいつら、物騒なことを平気で言いやがる。

 俺らがナイトクラブでどんだけ危ない目にあったか話しただろ。


「……簡単に侵入出来るの?」


「いいえ。ナイトクラブに侵入するのとはワケが違うわ。セキュリティが相当厳重だから。

ま、でも侵入先の情報は親会社である私の会社から得られるし。」


「バレたとしても圧力をかければ問題ないですからね。」


「そうね。しっかり計画立てて、戦力としても私達二人いればなんとかなるでしょ。」


 女の子二人が悪い顔をしている。

 ……なんだこいつら頼もしいっていうか怖い。

 

 その後それぞれ卸売業者に関する情報を仕入れて、潜入の準備を始めた。

 しっかり計画を立て、数日後の深夜に作戦決行になった。



◆◆◆



『あ、あー。聞こえる? リクシン。』


「おう、聞こえるよ。」


 《ブルートゥース》からオリティアの声が聞こえる。

 作戦決行当日。

 オリティア・タタミチームと、クラウ・俺チームに分かれて行動している。


 時刻は深夜。

 場所は学院前駅から四駅ほど離れた遠い工業地帯。

 そこに近未来感ある丸みを帯びた高い建物があった。

 ここが今回侵入しようとしている、デッキケース卸売業者。


「卸売業者のくせにカッコイイ建物だな。」


「そうですよ。この会社は多くのVLDアイテムを取り扱っています。国のVLD事業の要ですね。」


 何でまたそんな大企業に黒い噂が。

 国から金でも貰ってるんだろうか。


 いわゆるRPGの世界から100年も経ったわけで、この世界の景観はファンタジー感薄く感じる。

 しかしこの建物はファイナルなファンタジーに出てきそうだ。そっちで来たか。

 今、そのオサレ建物の三階にオリティア・タタミチームがいる。

 事前に用意していた地図から、三階のバルコニーが警備手薄だということがわかった。

 そこに魔法でひとっ飛び、その後俺らの侵入経路を作ってくれるらしい。


『おっけー、解除できたわ。そこの魔導制御室から入れるわよ。』


「了解、ありがとうオリティア。よし行こうクラウ。」


「はい!」


 魔導制御室がよくわからないが、ボイラー室みたいな機械のある一階の部屋に侵入した。

 この世界にもビルセキュリティみたいのがあるみたいで、簡単に侵入は出来ない。

 が、そこは親会社の力。

 オリティアはこっそりマスターパスワードを入手し、一部セキュリティを解除できたようだ。


「マスターパスワードがあるっていっても、簡単には入れないのな」


 魔導制御室から出て、階段を上る俺ら。

 三階でオリティアたちと合流する。


「ええ。セキュリティを全て解除してしまうと、それはそれで面倒なんです。」


 一気に上階へ上がろうと思ったが、二階までの階段だった。

 上に続く非常階段は廊下の奥。

 廊下は真っ暗、人の気配はない。


「ここ右だったよね。」


「そうですけど……ちょっと待って下さい。あそこ。」


 クラウが指差した先に、何かいた。

 巨大な人影……ロボットか!?

 ディズ○ーに出てきそうな丸みを帯びた巨体に、トゲトゲしたパーツがついている。

 侵入者は確実に殺すって雰囲気が出てる。


「なんだよあれ。」


「警備ユニットですね。大丈夫です、私が行きます。」


 そう言うとクラウは呪文を唱え、彼女の足元から風が巻き起こった。

 今日のみんなは、実技授業で着るジャージのような服装だ。

 だからスカートが捲れない。

 風に乗るような感じで、すごい速さで警備ロボットに突っ込んでいった。


「おい、クラウ、大丈夫!?」


 警備ロボットに見つかり、ロボットの目?が赤く光る。

 まずい、これはサイレンが鳴って仲間を呼ばれるとかあるんじゃないか?


 と、思ったが。

 目が光った瞬間、クラウは壁を走り天井を走り。

 一気にロボットの背後に回り込んだ。


「えい!」



ボシュッ!



 ロボットの首元が一瞬光った。

 その後ロボットの目のランプは消え、動かなくなった。


「りっくん、今です。」


「お、おう。」


 俺はロボットのところまで行き、横にあった階段をクラウと一緒に上った。


「クラウ、何やったの?」


「警備ユニットは首に魔力回路が集約してるんです。それを焼き切りました。」


 焼き切る……

 この子も怒らせたら怖いのかな。気をつけよう。


 三階まで上り、目的の場所まで窓も無い暗闇の廊下を行くことに。

 クラウに炎魔法で灯りをつけてもらう。


「なんだかドキドキしますね! 何が出てくるかわからないスリル。」


「何楽しんでるんだよ。まあさっきのを見る限り、何が出てきてもクラウなら倒せそうだけど。」


「もう、私だって女の子なんですから怖いんですよ?」


 そう言って俺の腕に抱きつく。

 俺もドキドキしてるけど、何に対してだかわからなくなってきた。

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