6-4 カードを信じろ


「[ヴァルカン・ドラグーン]! [ボトン]を焼き殺せ!!」


 まるでさっきの動画が再生されるように、同じ動きでドラグーンが槍を投げる。


「対抗! [ボトン]のスペル枠二個使って重スペルカード《マジックガーデニング》!

相手の攻撃力を無効化してその分回復します!」



シュァァァ…………



 放たれた槍は地面に刺さったと思いきや、エネルギーを吸われるように消えていった。

 いつの間にか、槍の着地したあたりから緑色に光る雑草が生えていた。


「回復によってシールドライフは24,000に戻ります! シールド補充!」


 彼女のデッキケースからカードが飛んでいき、シールドが補充された。

 回復したらデッキから補充されるんだな。


「クソが、長引かせてんじゃねーよ。

ターン終了前、[ヴァルカン・エレメント]の効果で自分が1,000ダメージ受けて終わり! 早くしろ!」


「私のターン、ドロー!

スペルカード発動《ウォークシード》! [シードトークン]を三体を召喚します!」


[シードトークン]

攻撃力0 守備力1,000


 種にしては大きい、足が生えた木の実サイズの種型ユニット。

 そいつが三体出てきた。


「さらにスペルカード《シードボム》! トークンを一体犠牲にし、相手ユニットを破壊します!

[ヴァルカン・ドラグーン]を破壊!」



タネーーーー!(覚悟の声)


ドゴォォ!!



 小さな歩くタネが突撃し、手榴弾のような大爆発を巻き起こした。

 ドラグーンは上に乗っている戦士ごと倒れ、消えていった。


「ちっ、うぜぇ……」


「ターンエンドです!」


「ターンエンド時ぃ、テメーも[ヴァルカン・エレメント]の1,000ダメージだ!」


 [ヴァルカン・エレメント]から火の粉が飛んで来る。

 火の粉はパシっと弾けて、彼女のシールドに傷をつける。

 こいつ下級のくせにめんどくさい効果持ってるな。


「俺のターンドロー! よ~し、こいつで一気にぶっ潰すか!

上級ユニット召喚!! [ヴァルカン・ラヴァレックス]!!」



ゴゴゴゴゴゴゴ……



 地面に魔法陣が現れると地響きが始まり、地面を突き破ってユニットが出てきた。

 体長10メートルはある恐竜だ。

 他のヴァルカンと名のつくユニットと同じく、肌は溶岩石のように黒く、関節部は赤黒く光る。

 少しだけ開いている口の中は、火山の火口のように赤く燃えている。


[ヴァルカン・ラヴァレックス]

攻撃力7,000 守備力2,000 スペル枠:火属性2個


「こいつが召喚された時のスキルを発動する。自軍の『火属性スペル枠七個』消費する事で!

『相手ユニットを破壊し、さらにその数×1,000ダメージ』を与える!」


 な、七個!

 効率悪いように見えるけど、[ヴァルカン・エレメント]で既に五枠ある。

 それとラヴァレックスが持っている二枠で撃てる。

 専用の相方って感じか?

 無条件破壊とダメージなんて、ゲームエンド級のスキルだ。


「対抗! [ボトン]のスペル枠で《連帯責任》!

手札から三枚サモンカードを捨てないと、そのスキルを無効化します!!」


「おっとぁ、[ヴァルカン・クロコダイル]が対抗だ。

《波動の飛撃》! ユニット一体の攻撃力分のダメージを[ボトン]へ飛ばせ!!」


 これでもかというくらい最大級に燃え上がる、恐竜と黒い妖精。

 そこに[ボトン]が魔法を飛ばすが、ラヴァレックスの咆哮により豚花が吹っ飛ぶ。

 豚の花が無効化に失敗したため、クラウの場が火の海になった。


「きゃああ!!」


 クラウが身構える。

 彼女の場にいた[シードトークン]二体、[フェアリップ]はスキルで焼き尽くされてしまった。

 そしてスキル効果でダメージを受け、シールドライフは合計19,000。


「《波動の飛撃》を使った俺のユニットは攻撃できねぇか。

しょうがねぇ、ガラ空きになったところを[ヴァルカン・クロコダイル]! 攻撃力3,000で攻撃!」


「対抗スペルカード!」


 は?

 クラウさん、場に何もいないっすけど。


「『種族:植物』が破壊されたターンに『スペル枠消費ゼロ』で放てるスペル!

《燻煙を耐える種》! [シードトークン]を三体召喚します!」


 なんと、そんな効果を持つスペルが!

 [ボトン]が植物族だから今しか使えないけど、消費ゼロなんてただの魔法カードじゃん。

 本当スペルカードは種類が豊富で驚かされる。


 彼女の場に出たトークンは守備力1,000。

 三体召喚されたうち、一体クロコダイルに破壊された。

 ダメージ追加スキルを発動されてしまったが、ライフ減少は18,000に抑えた。

 相手は[ヴァルカン・エレメント]の効果で残りライフ16,000になりターンエンド。


「私のターンドロー! 中級ユニット[クマの実]を守備態勢で召喚します!」


[クマの実]

攻撃力0 守備力4,000 スペル枠:土属性1個


 襟巻みたいにオレンジと白の花びらが首についている、木の幹のような服を着てる熊さん。


「[クマの実]のスキル発動! 相手攻撃力ゼロの下級ユニットを破壊!

そして[果実トークン]を場に召喚します!」


「ああそう、もういらねーよそいつは。」 


 クマが手を地面につけると、[ヴァルカン・エレメント]の下からイソギンチャクが出てきて飲み込まれた。

 地面に引きずり込まれ、気がつくとクマの隣に足の生えたミカンみたいのがいた。

 相手を破壊した上で自分の場にトークンを置く。

 ユニット数相手マイナス1、こっちプラス1、少なく見えて大幅な差だ。


[果実トークン]

攻撃力0 守備力1,000


 これで守備力4,000のクマと、守備力1,000のトークン三体で場が守られた。

 でも相手は上級出してきたんだから、もう少し対抗できるユニットがほしいところ。

 トークンなんてまた焼かれそうだ。


 そして相手のターン。

 まずは[マグイモリ]を守備態勢で召喚していた。


「まったくトークントークンしつこいお嬢さんだなぁ!!

だが残念、ただのカモだぜ!

スペルカード発動! 《ノーガードドラム》!『全ユニットを強制的に攻撃態勢』へ!」


「ここで使うか!」


 俺は思わず叫んでしまった。

 絶対あると思った「攻守強制変更」スペル。

 トークンの攻撃力はゼロ。攻撃されたら相手の攻撃がそのまま来てしまう。

 弱点を晒すことになる。

 どこからともなく聞こえてくるドラムの音に、全ユニットは攻撃態勢に入った。


「そうだなぁ、そこのウザイ[クマの実]! [ヴァルカン・ラヴァレックス]が攻撃!!」



バォンッ!


バリィィン!!



「きゃあ!」


 レックスの吐いた豪火球が攻撃力0のクマを焼き、シールドも破壊する。

 しかもこいつ、「ヴァルカン」お決まりの『破壊したら1,000ダメージ』まで持ってる。

 与えられたダメージは一気に8,000。


「オラァ! [ヴァルカン・クロコダイル]も攻撃だ!!」


 攻撃力0で立ち向かう気満々の[果実トークン]も、クロコダイルの溶岩で消え去った。

 クラウのシールドはあと二枚、ライフは6,000まで下がってしまった。

 ここでヤクザはターンエンド。

 おい、大丈夫か? このデュエル!


「私のターン……トークンは二体用意出来たけど……。」


「クラウ!」


 咄嗟に叫ぶ。

 明らかに表情が負けている。

 これでは勝てる勝負もうまくいかない。


 彼女は魔力量があるにも関わらずDPランキングが低い。

 それは恐らく、デュエルに自信がないからだ。

 さっきカードショップで練習試合した時も、どこか一歩前に出れない雰囲気を感じた。


「クラウ。自身を持てよ。君の魔力は人一倍強い。」


「でも……」


「おいおい助言は禁止なんじゃねーのか~?」


「いやいや、手が出せねぇ彼氏さんの最後の言葉くらい聞いてあげようぜ」


 がはははははとヤクザたちが笑う。

 彼氏ではない、と突っ込んでる余裕はない。

 助言と見なされデュエルの誓約に止められる前に、伝えたいことを伝える。


「大丈夫、出来るよ! 君が召喚したいと思ってた、大好きなユニットなんだろ?」


「はい。」


「ユニットを信じよう!」


「はい!」


 クラウの目つきが変わった。


「……かなりデュエルは出来るようですが、あなたみたいな人には負けない。

人を蔑むそのスタイル、VLDデュエリストを名乗る資格はありません。

私が、ここで倒してみせます!

その思いを、この一枚のカードに!

私の魔力を最大限に消費して……最上級ユニット召喚!!」


 ファサッ……と。

 デュエル空間に何かが舞い始めた。

 ピンク色の花びらだ。


「お願い出てきて! [桃薔薇の姫・ローゼ]!!」 


 舞う花びらの中、大きな魔法陣が地面に現れた。

 ……が、何も出てこない。


「お願い!!」


 彼女がそう言うと、風が巻き起こる。

 風は花びらを魔法陣に集め、竜巻を起こす。

 花びらの竜巻がなくなったと思ったら……そこには巨大な薔薇の椅子に座った女性がいた。

 ピンクのドレス、濃いピンクの髪、ピンクのティアラ。

 これでもかってくらい桃色ばっかり。

 しかしその出で立ちは、気品あふれる「姫」だった。


[桃薔薇の姫・ローゼ]

攻撃力3,000 守備力10,000 スペル枠:土属性4個


「よかった……[桃薔薇の姫・ローゼ]の召喚時スキル発動!

『私のトークンは二体まで、攻撃力9,000』になります!!」


「何ィ!? 9,000だぁ!?」


 彼女の場に残されたトークンは[シードトークン]二体。

 トークンは光り輝き、宙に浮いた。


「よし! ローゼの守備力は相当固いから守りに徹するとして!

9,000攻撃力が二体、いけるぞ!!」


 俺はテンションが上り、状況を口に出してしまった。

 トークンを前のターンに用意しておかないといけない。

 そんな面倒な用意をしてやっと活躍するユニット。

 しかしそれを十分するだけの価値が、このカードにはありそうだ。


「[シードトークン]! [ヴァルカン・ラヴァレックス]にアタックです!」



パチュン!!



 弾丸のように高速で飛んでいく種トークン。

 ラヴァレックスは撃ち抜かれ、光となって消えていった。

 差し引き2,000ダメージがヤクザのシールドまで届く。

 相手シールドは14,000ライフになった。


「糞がぁ! このアマ……」


「続けて! [シードトークン]! [マグイモリ]へアタック!」


「あ!! 待っ……」



ブーーーー!



 思わずクラウの元へ行くところだった。

 謎の電子音とストップマークに、俺は止められた。

 これがデュエル空間の助言禁止効果。

 これから告げようとする事が助言とみなされたようだ。


「ぐぉぉあ!!」


 強制的に攻撃態勢になっていたヤモリは撃ち抜かれ、シードがシールドに突き刺さる。

 一気に9,000ダメージなので、ヤクザのシールドは二枚ぶっ飛んだ。

 破壊された衝撃でヤクザが身をかがめる。


「グゥッ……[マグイモリ]のスキルで1,000ダメージ受けろや……。」


「くっ……ターンエンドです!」


「待っ」



ブーーーブーーー!



 言おうとしたら体が動かない。

 でも……このままじゃ!


 クラウのシールドライフ5,000。

 ヤクザのシールドライフも5,000。

 次はヤクザのターン。

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