えぴそ~ど6 「大女神様の微笑みも4度まで」
「さあ、約束を守ってもらうわ、平兵凡介っ。異世界『ポッパニア』へイク……じゃなくて、行くわよっ!」
ベーシックタイプの服に着替えてきた私は、六畳間に戻った瞬間叫んだ。
そう、こいつは胸を揉んだわ。
果たしてそれが性欲からかは
なのに横になって文庫本を読んでいるこいつは、無感情な瞳をこっちに向けてこう言った。
「何を言っているんだ、お前は? 俺は約束はしていないし、胸も揉んではいない」
は――、
「はぁっ!? ふっざけんじゃないわよっ! 『ポッパニア』に行くなら好きなだけ揉んでいいと私は言って、そしてあなたは揉んだのよっ。それを何? 俺は約束してないし胸も揉んでいないって、はぁ!? こんのエロガッパ、そんな言い逃れが――え?」
急に平兵凡介が私の目の前に立つ。
すると人差し指を私のおでこに当てたのち、口を開いた。
「約束とは、[当事者の間で決めること。また、その決めたこと。]つまり、お前の一方的な通達は約束ではない」
「……なっ」
「そして揉むとは、[指先や手でつかんで力を加え、はなすを繰り返すこと。]つまり掴んだだけのあれを揉むとは言わない。――以上、もう終わりだ。駄女神」
そして当てていた人差し指で、おでこをグイッと押すのだった。
頭が爆発しそうに沸騰する。
いや、もう理性は吹っ飛んでいた。
「きいいいっ! 屁理屈こねやがって、こんちきしょーっ! ぐだぐだ言ってないで来ればいいのよ! そんでもってパッパ、チャッチャと『ポッパニア』救って、またクソみたいな平凡生活を送ればいいでしょーがっ。あのねっ、あんたは勇者なのっ! あんたが『ポッパニア』に行かないと、担当の私の成績もガタ落ちなのよっ!!」
あ――っと思ったときは、時すでに遅し。
平静さを欠いていた私は余計なことを口走ってしまった。
やっべ。
「ほう、成績か。結局のところお前は、自分のために俺を『ポッパニア』とやらに行かせたいだけでないか。……ふん、天界の女神とやらも
背中を見せる平兵凡介は、そして文庫本タイムへと入る。
すでに平静さを取り戻していた私は、そのとき視界の隅にあるものを捉えた。
なぜか、フライパンが壁に立てかけてあった。
「そ、そうよ。成績を下げたくないから、あなたには『ポッパニア』に行ってほしかった。でも……でも例え動機が不純でもあなたが来れば『ポッパニア』は救われる。そこは変わらない事実なの。……って、もう何を言っても無理よね」
「ああ、そうだな」
「じゃあ、もう……」私は手に持ったフライパンを振り上げる。「なぁんにも――言わないわっ!」
そして背後から平兵凡介に襲い掛かった。
――殺すつもりはないわ。
でも頭バシバシ叩いて、ギリギリまで瀕死の状態にしてやる。
そうすれば投げ技の抵抗も受けることもないし、引きずって転移門に連れていくことができるわっ。
で、天界に着いてから回復魔法をかけてやれば目的達成!
ああ、これで後輩女神達にも示しがつくわ。
四回も一人で天界に戻ったせいで、「こいつ、実は無能なんじゃね?」みたいな視線が、痛かったこと、痛かったことっ。
……大女神様の微笑みも五度目はない。
そうよ、あなたの言った通り、これでもう終わりよッ。
ちょっと、いやかなり邪道なやり方だけど、全部あんたが悪いんだからねっ!
ギリギリまで死ねええええええええええッ!!
スカ。
「あれ?」
会心の一撃確定のフライパンは、なんなく平兵凡介に避けられた。
「殺気、
淡々としゃべる平兵凡介がまたしても背後に回る。
次はどんな技で転移門に放り投げられるのだろう。
なるべく衝撃が強くないのがいいな、と冷静に考えていた次の瞬間――。
私は平兵凡介に、後ろから尻を蹴られた。
五度目の一人天界転移。
私は笑いながら泣いていた。
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