第2章 5月は魔法解禁でちっぱい女神とヒロインバトル勃発っ

えぴそ~ど19 「ちっぱい乙女の切り込み隊長(前編)」


「ほ、ほんとに買ってくれたの……?」


「ああ、俺の名義でな。それでいいんだろ?」


 私は凡介が差し出すそれを見て、ただただ驚いた。

 それは欲しかったスマートフォン。

 しかも綾乃ちゃんと買い物に行ったときデザインが気に入って、一目惚れしたスマートフォンだった。


 帰ってから凡介に「買って買って、一生のお願いだからっ」と駄々をこねまくったけど、まさか本当に買ってくれるなんて。


「うんっ、このデザインが良かったのっ。でも……あぁ、本当に嬉しいっ、ありがとうね、凡介。大事に使うね――って、あれ、何やってるの?」


 凡介はさっきから紙に何か書いていた。

 で、書き終えるとその紙を私へとよこした。


 ん? この流れ、前にもあったような。

 そうだ、一字一句たがわないこれは――。


 私は書かれた文字を読む。



『請求書。使用料として毎月四千円と手続き代行代金一万五千円を家賃に上乗せして払うこと。異議は認めない』



 うん、予想通りねっ! 

 つーか代行代金たけーからっ!!

 

 

 ◆


 

〈あ〉


〈ううううううあああ〉


〈やっほー〉


〈ロゼリアでーす〉


〈展開からやってきた女神でーそ〉


〈天界からやってきた女神でーす〉


〈(●´ω`●)〉


〈私の胸はイーカップ〉


〈豚汁だいすき凡介君〉


〈凡凡凡凡凡凡凡凡凡凡凡凡凡凡凡凡凡凡BONN〉


〈( *´艸`)〉


〈介介介介介介介介介介介介介介介介介介介透け〉


〈( *´艸`)〉


〈オッパニア(笑〉


〈凡介のバーカ〉


〈凡介のあーほ〉


〈凡介のはーげ〉


〈凡介のたーこ〉


〈ァヒャヒャ!!(*ノ∀゚)σァヒャヒャ!!〉



。――腕ひしぎ十字固め」


 凡介が私の腕を両足に挟んで(以下省略)――関節技を決めた。


「ギブッ、ギブッ、これも普通に痛いやつううううう! 折れる折れる、右腕折れちゃうマジでギブウウウウウウウウウウッ!!」


 私が残った左手で床を叩きまくると、ようやく凡介は技を解除した。


「くだらんことをした罰だ。ふん、駄女神に文明の利器を与えると、ろくなことをせんな。スマホを取り上げられたくなければ早く買い物にでも行ってこい。今日は確か買い出しの日だったはずだろ」


「い、行くわよっ。それと言っておくけど、初めてのスマホだったから楽しくてたくさんメール送っちゃっただけよ。いいじゃない、それくらいさ、ブツブツ」


 私は床に転がっているスマホを拾うと、買い出しのために玄関に向かう。

 

 なんか腹立つから、今日の夕飯のメニューは凡介の嫌いなピーマンをふんだんに使った料理にしてやるっ。

 そうだっ、ピーマンの中に刻んだピーマンを詰めてやろ。

 ピーマンの肉詰めならず、ピーマンのピーマン詰めよっ。


「おい、待て。そういえばお前に聞きたいことがあった」


「何よ?」


 凡介に呼び止められて私は振り返る。


「冷蔵庫にある牛肉なんだが、いつ使った? かなり減っているんだが、俺は牛肉を使った料理を食べた覚えがないぞ」


 ギクッ!


「そ、それはあれよっ、あの、えーと……あっ、そうそうっ、ビーフシチューの練習に使ったのよっ、ほら、どうせだったらおいしいビーフシチューを凡介に食べてほしいじゃない? だから練習を重ねて至高のビーフシチューを目指したってわけ。オホホ」


「……で? あれだけ牛肉を使ったんだ。到達したんだろうな、その至高のビーフシチューとやらに」


「も、もちのろんよっ」


「ならば今日の夕飯に出せ。俺の舌を満足させろ。できるよな?」


「あ、あったりまえじゃないっ。最高にデリッシャスなビーフシチューを堪能たんのうさせてあげるわっ!」


 やっべええええええええっ!

 最高にデリッシャスなビーフシチューってなんだよっ!?



 ◆



「えっと、この“絶品本格ビーフシチュー”を作るには……玉ねぎ1・5個分に、にんにく1かけ分。それとトマトピューレ大さじ1にトマト缶2缶。あとコンソメキューブ1個に塩に胡椒こしょうにブーケプロバンス――ブーケプロバンス? 何それ? ――でっ、あとはなにっ! 赤ワイン200ccにカシス酒50cc、バルサミコ酢大さじ1ローリエの葉1枚オリーブオイル大さじ1人参一本砂糖っ塩ッバタアアアアアアアアアアッ! やってられっかっ、こんちきしょおおおおおおおっ!!」


 私は『ヤオコン』の女子トイレで吠えたのち、『クッキングママ』のサイトを閉じてスマホを仕舞う。


 そして早歩きでレトルトコーナーへと向かって市販のルーを手にすると、レジに叩きつけた。


「これ下さいっ!!」



 ◆



 どうせ、分かりっこないわ。

 だって、いまだに豚汁だと思って牛汁すすってんだから。

 市販のルーに牛肉転がしてそれっぽくすれば、最高にデリッシャスなビーフシチューだと思って食べるに決まってるわ、ケケ。


 アパートが見えてくる。

 市販のルーはどこに隠そうかしらなどと思案した矢先――、


 ゾクッ!


 背中に氷を当てられるような冷たい視線を感じて、私は思わず振り返った。


 

 ――中編に続くわ。

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