えぴそ~ど23 「続・恋するアラモは攻めまくるのです」


「うん、おいしかった。ごちそう様」


 凡介は最中もなかを食べ終わるとアラモードに会釈えしゃくする。

 

 あれ? やけに丁寧なのが引っ掛かるけれど……客だからよね――?

 

「いえ、お礼などいらないのです。アラモは凡介様がおいしく食べるところを見たくて最中を買ったのです」


「そ、そうなのか」


 やたらと近い距離で凡介を見つめているアラモード。

 その瞳は、必要以上にうるおいを帯びていた。

 ちなみに、私のだけ最中はなかった。


「飲み終わった湯呑ゆのみも全部、のアラモが下げるのです。どこかの女神より気が利くのです。ささ、凡介様の湯呑ものアラモが下げるのです」


「いや――」とアラモードに声を掛けようとした凡介が、そこで私を見て「おい」と睨み付ける。


「な、何よ?」


「何よじゃないだろ。なぜ、お前が下げない? 客であるアラモードに下げてもらってなんとも思わないのか」


「下げたくて下げてんだから勝手にやらせておけばいいのよっ。……大体、私最中食べてないし」


「ふん、最中がなかったことへの腹いせか。心の狭い奴め」


「そ、そんな言い方っ――ん?」


 ふと、台所のほうから視線を感じる。

 見ると、アラモードがしてやったりのニヤケ面で見ていた。


 あんの、クソツインテールめぇぇ……ッ


 ――――――――――――――――――――

 ロゼリアの『メインヒロインゲージ』に10のダメージ。

            

            

 【ロ】□□□□□□□□■■【ア】

 ――――――――――――――――――――

 

 ――地味に痛いわっ。



 ◆



 最中を食べ終わると、凡介は予想通り読書タイムへと入る。

 本はもちろん『平凡の教え』。

 もう『えぴそ~ど23』まで進んだというのに、まだ三巻目を読んでいた。


 最終巻の三百二十巻を読むのはいつかしらっ!!


 なんて心中で突っ込んだとき、何を思ったのか、アラモードが凡介の背中に密着する。


「肩を揉むのです。本を読んで肩が凝る前に揉んで予防するのです」


 いや、予防とか意味不明だからっ。

 大体、密着し過ぎっ!

 ペチャパイが背中にくっついてるじゃないっ。

 私だってあんなに押し付けたことないのに――ッ


 ……でも、いいわ。どうせすぐに凡介に投げられんだから。ケケっ。


「悪いがもう少し離れてくれないか。集中できない」


 そう確信したのだけど、凡介は投げなかった。

 しかも、やんわりと断っていた。


 ――え? 

 なんでよ……なんでぇぇっ?


 ――――――――――――――――――――

 ロゼリアの『メインヒロインゲージ』に20のダメージ。

            

         

 【ロ】□□□□□□■■■■【ア】

 ――――――――――――――――――――

 

 ――20もっ!?



 ◆


 

 釈然としない私の前でしぶしぶ凡介から離れたアラモードが、今度は本棚を眺めだす。

 すると、悩んだ末に一冊の『平凡の教え』を手に取った。


「この巻が楽しそうなのです。アラモも読むのです。『へーぼんのおしえ』」


 最後の三百二十巻だった。


 邪道だから、それ! 最初から読めよっ!!


 アラモードはそして座る。

 当たり前のように、凡介の横に密着するようにして。

 その凡介の眉毛がピクリと動いた。


 そりゃそうよね。

 密着するなと言ったのに、性懲しょうこりもなくまぁた密着してんだから、あのガキんちょ。

 よーし、今度こそくるわね、

 さあ、何がくるかしらっ!

 いや、吊り天井固めロメロ・スペシャルよ、ロメロ・スぺシャルを掛けるのよ、凡介っ。


 ロメロ・スペシャル第2章開始記念バージョンよっ!

 おっぴろげちゃって、凡介っ!!


 私は部屋の端っこで雑誌『anあんaanああん!』を開きながら、凡介が行動に移るのを待つ。


 だけど、結局凡介は技を掛けなかった。

 僅かにわかる程度の戸惑う表情を見せたのち、まるで“しょうがないな”といったていで、アラモードの密着を許していたのだ。


 なによ……。

 なによ、なによっ、おかしいじゃないっ。

 私だったら技掛けてる密着具合なのに、おかしいじゃないっ!

 同じ人間じゃない生物なのに扱いが違うって、おかしいじゃないっ!!

 これって差別よ、差別ううぅぅぅっ!


 ――――――――――――――――――――

 痛恨の一撃っ!  

 ロゼリアの『メインヒロインゲージ』に30のダメージ。

            

 

【ロ】□□□■■■■■■■【ア】

 ――――――――――――――――――――


 いったーいっ!

 でも、それくらいのショックは受けたわよっ!

 ――ん? 何か聞こえるわね。


 私は音の発生源であるアラモードを見る。


 

 スピー、スピー。

 

 

 アラモードは凡介に寄りかかって寝ていた。


 一ページも読んでねーじゃんっ!!



 ◆



 ムニャムニャ……。

 

 アラモはとっても幸せなのです。

 運命の赤い糸で結ばれた凡介様のお傍にいれて、本当に幸せなのです。

 天界監理官なんて、もうどうでもいいのです。

 アラモは絶対、凡介様のお嫁さんになるまで帰らないのです。

 もし有給休暇の期間が終わってしまったら、特別休暇を取得するのです。

 なんなら日本に帰化して、平兵亜羅門土あらもおどになってもいいのです。

 

 年増のボインには、絶対負けないのです。

 最近はちっぱいだって需要があるのです。

 凡介様もきっと気に入るはずなのです。

 若さに恥じらいを加味したアラモのちっぱいを、必ず気に入るはずなのです。

 これ以上は描写できないのです。

 お察しくださいなのです。

 

 つまり、メインヒロインは若いほうがいいに決まっているのです。

 それがこの世の真理なのです。

 

 凡介様、好きなのです。

 凡介様、愛しているのです。

 凡介様、あいらぶゆーなのです。


 

 ムニャムニャ……。


 さて、『えぴそ~ど23』も終わりの時間がやってきたのです。

 お話は、『続々・恋するアラモは攻めまくるのです』に続くのです。

 そしてそのお話が終わったら、次から『凡介様とアラモのサッカーチームを作ろうっ(子作り編♡)』が始まるのです。


 楽しみにしているのです。


 ムニャムニャ……凡介様……zzz 

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