えぴそ~ど22 「恋するアラモは攻めまくるのです」


 運命の出会いってあるのです。

 赤い糸で結ばれた運命の出会いって。


 十四歳のアラモにとって、それはまださきのことかと思っていたのです。

 でも、思いがけず出会っちゃったのです。

 それも天界ではなく下界で、運命の殿方と。


 その方は名前を平兵凡介といって、とても素敵な男性なのです。

 ぶっちゃけ、見た目にビビビッってきたのです。

 ぞっこん惚れ込んだのです。


 そうなのです。

 アラモは見た目重視なのです。

 見た目さえ好きになれれば、中身も無条件ウエルカムなのです。

 なんだって我慢できるのです。


 運命の赤い糸で結ばれた相手なら、それこそなんだって――。


 今すぐとは言わないのです。

 でもいつか絶対に、「アラモードたんは俺の嫁」って言ってもらうのです。

 いえ、違うのです。

 凡介様は、そこらへんの現実逃避した萌え豚クズ野郎とは違うので、そんな痛い言い方はしないのです。



「アラモード、俺と結婚しよう。必ずお前を幸せにしてやる」



 これなのです。

 これを必ず言ってもらうのです。

 そのあとは熱い抱擁ほうようをしてもらって、濃厚なキッス――。


 ああ、なんか下腹部が熱くなってきたのです。

 そう、下腹部と言えば子供はたくさん欲しいのです。

 できれば十一人作って、サッカーチームを作りたいのです。


 それまでは凡介様のお傍にいるのです。

 

 ――それでは始まります。

 タイトルは『ね? お願いだからアラモと結婚しよっ?』

 ジャンルは『ラブコメ』。

 

 ちなみに[ラブ]のほうはアラモが担当。

[コメ]のほうは年増の女が担当するので、楽しく読むといいのです。



 ◆



「始まらないからっ!! 何、他人ひとの部屋の玄関の前でモノローグ垂れ流してんのよっ! 私を差し置いてラブコメなんてやらせないわよっ。つーか年増とかゆーな!!」


「玄関の前でそんな大声出すと、また凡介様に怒られるのです。


 こんの、ガキャァ……ッ!


「凡介は学校に行っているからいいのよっ! ……大体、あんたなんでここにいるのよ? 凡介を天界に連れていかないと決めた以上、いる必要ないでしょ。早く天界に戻って仕事に戻りなさいよ」


「モノローグを読んだくせに全く理解していないのです。アラモは凡介様と結婚するまで天界に戻らないのです。なので、溜まりにたまった有給休暇を取得したのです。魔力は大幅に制限されるけどしょうがないのです」


「はぁっ!? あ、あんた本気だったの? あのモノローグの内容。……うそでしょ」


 唖然とする私を前にアラモードは言う。


「本気なのです。だって運命の出会いなのです。ところで凡介様は本当にいないようですね。なので一旦、帰るのです。では」


「え? ……ええ」


 アラモードはくるりと向きを帰ると、階段のほうへと向かう。

 でも階段は降りなくて、手前の『201』号室に入った。

 鍵を使って普通に。


 ……。

 …………。

 ――って、お前かいっ!!



 ◆



 また厄介な隣人が増えたわね。

 キモオタとは別種の、それも脅威的な隣人よ。

 だってあいつは新しくラブコメを始めるとか言っているのだからっ!

 

 しかも[ラブ]担当はあいつで[コメ]担当のほうは私って、ふっざけんじゃないわよっ!

 確かに今までLOVE要素が少なかったけど、だからと言ってあいつがそのLOVE要素を注入していいわけないじゃないっ!

 しかも子供十一人作るとか、どんだけなのよっ。


 異世界転移云々は置いておいて、まずは私とあいつの立ち位置をはっきりさせたほうがいいわね。

 私がメインヒロインであいつがサブヒロインという、絶対的な立ち位置を――。


 ……ふふ、ふふふ、新章に相応しい展開じゃないの。

 やってやろうじゃない。

 

 でも――、

 


 【ロゼリア】     【アラモード】

 色気漂ういい女 VS ガキんちょ

 第1章から登場 VS 第2章から登場

      同棲 VS 隣人

    Eカップ VS ぺったんまな板



 結果は見えているけどねっ。

 ふふんっ♪



 ◆


 

 インターホンが鳴る。

 覗き穴から見ると凡介がいたので、私はドアを開けた。


「おかえりなさい、凡介」


「ああ」と述べて部屋に入る凡介。


「お邪魔するのです、ロゼリアさん」


 その後ろからアラモードが付いてきて、一緒に部屋に入った。


「いらっしゃい、アラモー――うぉいっ!! なんで、あんたまで入ってくるのよっ。あまりにも自然に入ってくるから、笑顔で出迎えちゃったじゃないのよっ!」


 追い出そうとする私。

 そんな私を制止させる凡介は、そして言う。


「その子は客だ。挨拶にきた隣人、しかも同じ女神を追い出す奴があるか。『くらずっぽり』の最中もなかも頂いている。上げてやれ」


「で、でもっ――うぅ」


 言葉を詰まらせる私を、アラモードが「ふふん」と鼻で笑う。

 そのアラモードは、天界監理官の証である青いローブは部屋に置いてきたのか、キャミソールにミニスカートという恰好だった。


 太もも上部までのサイハイソックスを履いていることもあり、黄金比率の『絶対領域』が目が眩むほどにまぶしい。


 くっ、やるじゃない……ッ。


 一瞬よぎった敗北感を、私はブンブンと頭を振って追い払った。


「俺は洗濯物を取り込むから、お前はお茶の用意を頼む」


 凡介はそう言い残して、ベランダへと出る。

 二人きりになる私とアラモード。

 口火を切ったのは私。


「何が目的よ。最中をダシに部屋にまで上がり込んじゃって。まさか、さっそく凡介と[ラブ]的展開をしにきたわけじゃないでしょうね」


「そのまさかなのです。今日中に凡介様の心を奪うのです。そしてロゼリアさんをメインヒロインの座から引きずり降ろすのです」


 せ、攻めてくるじゃないっ、この新キャラ。

 でも……。


「ふん、無駄よ。[ラブ]担当だかなんだか知らないけれど、凡介に恋のアタックなんて利かないわ。だってあいつ、女神を人間以外の生物だと思っていて、まるでそういう対象だと考えていないから」


「それはロゼリアさんが年増で魅力がないからなのです。ぴちぴちの太ももを持ったアラモなら気を引くことができるのです」


「年増とかぴちぴちの太ももとか、関係ねーからっ! ……ふう、もういいわ。好きにやってみれば? それで打ちのめされて泣きながら帰ればいいのよ、ふん」


「こっちこそ、その余裕面を吠え面に変えて見せるのです。ふふん」


 凡介がベランダから出てくる。

 その瞬間、アラモードが言った。

 

「あれ? お茶がないのです。アラモが持ってきた最中に合うお茶が出ていなのです。頼まれたどこかの女神が出さないので、アラモが自分で用意するのです」


 あ、こ、こいつぅ――ッ!


 瞳を光らせる凡介が私を睨む。


「客が最中を持ってきているというに、お前はお茶も出せないのか。使えん奴め」


 

 ―――――――――――――――――――

 ロゼリアの『メインヒロインゲージ』に10のダメージ。

                        

【ロ】□□□□□□□□□■【ア】

 ―――――――――――――――――――



 ――げっ。

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