えぴそ~ど30 「女神ジョイトリス・О・インリーン 〈セクシャル・Ⅰ〉」


「がんばってるじゃない、ロゼリアちゃん。いっつもニコニコ笑顔が素敵って、お客様にも好評よ。おかげで売り上げも好調で、今月は五十パーセント増の売り上げを見込めそう。そんなあなたにしっかり対価を払わなくちゃね。今月の給料は特別手当を付けておくわ。あたしからの感謝のき・も・ち♡」


 

 ウフ、ウフフ。


 私はアルバイトの帰り道、帆茂沢ほもざわ店長の言葉を思い出して1人笑みを浮かべる。


 ああ、嬉しいっ。

 まだ入って一ヵ月しか経っていなのに、いきなり特別手当だなんて。

 店長はちょっと気持ち悪いけど、がんばりをちゃんと評価してくれるし、上司としては尊敬できるわね。


 今後も女神スマイル振りまいて、お客様をゲットしていくわよ。   

 ロゼリア、ファイトっ♪


「あんっ、はぁんっ、上っ、下っ。あん、はぁんっ、右っ、左っ。あんっ、はぁんっ、入れてっ、抜いてっ。あんっ、はぁんっ、そこにっ、出してっ」


 ……ん?


 アパートに着くと、どこからか女性の声が聞こえる。

 どうやら二階のようだ。

 私は怪訝けげんに思いつつ、階段を上る。


 『202』号室の前。

 そこには、きわどいビキニを着用して体操をしている女性がいた。

 私はそのビキニ……いや

 そしてその、特別仕様のサマーバケーション(淫)タイプを着用するその女神は――。


「ジョイトリス先輩っ!?」


 名前を呼ばれたジョイトリス先輩が振り向く。

 Hカップの胸をプルルンッと、無駄に揺らして。

 エロスの塊であるジョイトリス先輩は、濃厚な色気を振り舞くように長い髪をかき上げると、そのぽってりとした唇を開いた。


「あら、やっと会えたわね。ロゼリア」


「な、なんでここにジョイトリス先輩がいるんですかっ? え? なんで……」


「一向に転移者を連れてこないあなたが心配になって様子を見にきたの。もちろん大女神様の許可は得ているわ。……それで? 『異世界狂いの仕事人ザ・クレイジーゴッデス』の異名を持つほどのあなたが、なにを手間取っているのかしら?」


「そ、それは――……」


 私は突然のことに驚きつつも、今の状況に至る経緯を説明する。

 すると、ジョイトリス先輩は「なるほどね」と腕を組み、次に「私に任せてくれないかしら。転移者を必ず天界に連れていくわ」と妖艶ようえんな笑みを浮かべた。


「え? ジョイトリス先輩が、ですかっ? いやでも……」


 断ろうと思った。

 端的に言えば、自分で何とかする気だから。

 でもジョイトリス先輩の好意を無下むげにしたくはなかった。


 ジョイトリス先輩は、失態を繰り返す私を嘲笑ちょうしょうして責め立てる先輩達とは違い、唯一応援してくれる私の味方。

 だからこそ、わざわざ大女神様の許可をもらってまできてくれているのだし、断ることなんてできないわ。


 でもこの先輩の手口ってなぁ……。


 額に汗を浮かべる私はある結末を予想しつつ、それでも「はい、ではお願いします」と頷いた。



 ◆



「お、おかえりなさい、凡介」


「ああ、ただいま。――って誰だ、そいつは?」


 凡介が、部屋の中でブリッジをしているジョイトリス先輩に指をさす。

 大きく開いた股が玄関のほうに向いていて、まるで見ろと言わんばかりだ。

 

「こ、この人はその、えーと、私の天界での先輩で……今日はちょっとその、なんというか……」


 私が言い淀んでいると、ブリッジの状態からゆっくりと上半身を起こすジョイトリス先輩が口を開く。


「あなたが転移者の凡介さんね。こんにちは、私は異世界救済部所属のジョイトリス・О・インリーン。ロゼリアの先輩女神よ。今日は、あなたに異世界転移をさせるためにやってきたの。よろしくね」


 それを聞いた凡介がキッと私を睨む。


「ご、ごめん凡介。言いたいことは分かる。でもその……多分、大丈夫だから、先輩に付き合ってあげて」


「ふざけるな。付き合う義理などない。すぐに帰ってもらえ」


 取りつく島もない凡介は、部屋の中に上がるとジョイトリス先輩を無視するようにして、窓際に座る。

 そしてバッグから『平凡の教え』を取り出すと、読みだした。


「手ごわそうね。でも私の手に掛かれば必ず異世界に行くことを決意するわ。もしかしたら先にイクかもしれないけれど。ふふ」


 ジョイトリス先輩は、まるで獲物を逃さないかのように玄関に転移門を出すと、また部屋の中へと戻ってくる。

 

「さあ、まずは『官能的センシュアル体操』で体を温めようかしら」


 いや、それ外でやってましたよねっ!?

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