えぴそ~ど48 「勇者と駄女神とポッパニア ~煩悶~」
「……なんと言ったのだ、今? 俺の聞き違いでなければ、俺とあんたが結婚するみたいに聞こえたのだが」
凡介が眉根を寄せて問う。
「ええ、そうです。それが『予知の絵画』が示した、ポッパニアを魔王の手から救う
そこでフローディアは私を見る。
その瞳は純真そのもので、私の心の奥底に沈殿した
「あの……なん、ですか?」
「あなたも描かれていました。――天界の女神様」
「……え?」
フローディアが私の元へと歩を進めてくる。
「勇者である彼を私の元へ導く天界の案内人として、あなたも描かれていたのです。でも結局……いえ、止めましょう。こうして勇者様と出会えたのですから、もういいのです。おそらく、導くことのできない抜き差しならぬ事情が女神様にもあったのでしょう」
――っ!
私は思わず、目を背けた。
これ以上見つめられると、重くのしかかる罪悪感に潰されそうだったからだ。
抜き差しならない事情?
そんなんじゃない。
そんなんじゃないのっ。
私は、私は、私は――っ!
「ふん。そいつの事情も何も俺は最初っから異世界などに行く気はない。結婚? ふざけるな。そんなこと俺が受け入れるわけがないだろう。……さっさと帰れ。自分の星のことなど自分達でなんとかしろ」
私の葛藤をくだらないと断じるかのような、凡介の対応。
全くぶれない凡介がそこにはいた。
異世界からわざわざ来訪した、妻の座を望む『
「んなっ!? フ、フローディア様になぁんてごと言うだぁ、勇者様っ! フローディア様はあんだに会いだぐで、会いだぐで、んでもってゲートば作って、やっとこさ来たっでのに、なんでそんな冷だいごど――」
「止めなさい、パコ」
「んでも――ッ!!」
「パコ――止めなさい」
凛とした、それでいて有無を言わせぬ口調でパコの口を閉じさせるフローディア。
一呼吸置く彼女は、そして凡介と向き合う。
「手厳しいのですね。でもわたくしも引くことはできないのです。婚姻はこの際置いておくとしても、あなたが来なければそもそも魔王を倒すことが不可能なのです。魔王の闇を払うのは勇者の光と決まっているのですから」
「そんなことは知らん。俺には俺の守るべき生活がある。それを捨て去る気など毛頭ない」
「守るべき生活、ですか。それはポッパニアの未来と同じ天秤に乗せるだけの価値があるものなのでしょうか? いいえ。敢えて言わせてもらいます。あなたは、魔王の恐怖に
「ふん、王女様とは思えない良心の揺さぶり方をするのだな」
「ええ。勇者様を連れていくためなら、わたくし個人の品位など捨て去るつもりです。ポッパニアの民の平凡でも幸せな日常を手に入れられるのであれば、わたくしは悪魔にでもなってみせましょう」
凡介の眉がピクリと動く。
それは、“平凡”という言葉が出たときだったような、そんな気がした。
「ん? なんかイレギュラーゲートの向こうが騒がしいのです。はっ! もももももも、もしかして魔物が来たのですかっ!?」
青ざめた顔でゲートを見ているアラモード。
それを機に、ここにいる全ての人間の意識がそのイレギュラーゲートへと向く。
“思い悩む私”は、そこで一旦奥へと引っ込んだ。
そういえば確かに騒々しい音が聞こえるわね。
人の声もそうだけど、別の何かの叫び声も混じっているような。
こ、これって、やっぱりアラモードの言った通り――。
「はっ、兵士達の声に混じって魔物の雄たけびが聞こえるだすっ! 大変だす、フローディア様っ、そこのど貧乳が言っだどおり、魔王軍がゲートのありがさ突き止めでやっできだみたいだすっ!」
「初対面のかっぺにど貧乳とか言われたくないのですっ」
怒り心頭のアラモード。
――は無視され、話は進む。
「それは想定の範囲内でしょう。だからこそ護衛のために二千もの兵士を共に連れてきたのです。彼らは精鋭、勇者様と話がつくそのときまでゲートの入り口はしっかり守ってくれるでしょう」
それを聞いたパコがイレギュラーゲートに顔を突っ込む。
ピンク色の着衣に覆われた、プリンっとしたお尻はこちらに突き出して。
「はうっ!? よ、予想以上に魔物の数が多いだすっ! しがも魔王軍もべっだら凶暴なやづらが揃ってるだすッ! あんれまっ! 後方に見えるあれは、もすがして……」
「パコ。どうかしたのですか?」
「フローディア様、こりゃ本気でまずいだずっ! 兵士を蹴散らすあれは、四魔しょ――!? い、いや、その前になにが飛んでぐるっ!!」
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