えぴそ~ど34 「サバイバルゲームで遊ぼうっ(ラウンド1)」


硝煙しょうえんの匂いが恋しいぜ。さあ、次の戦場に向かうとするか。もちろん愛車のキャデラックでな――』


 映画『こまんドー』が終わった。

 私はビデオを抜き取ると押入れに仕舞う。

 そして興奮冷め止まぬ気持ちのまま、『転移代替えアイテムおもちゃ』が入ったリュックサックから、あるアイテムを取り出した。


 正に潮時しおどき――。

 五度の鑑賞で極限まで高まったミリタリー熱を、思いっきり解放するときよっ。


 私は手にした天界遊戯用マシンガン『ベレッタンMEGAMI66』を構えると、仮想の銃撃戦を始める。


「ドパパパパパパパッ、ふふんっ、どいつもこいつもザコねっ。……いや、違うわ。戦場の麗しき女神と言われた私が強すぎるのねっ。――っ!? ちっ、生意気なっ! 痛いじゃないのっ、このキモオタッ。このやろー、あんたいい加減に、バババババ、私のパンツの使用料を、ズビビビビ、払いなさいよぉっ、オラオラオラオラァッ!!」


「何やってんだ、お前」


 シコ郎の幻影をハチの巣にしたところで、凡介が学校から帰ってきた。


「あら、おかえりなさい、凡介。午前中だけの授業だとは聞いていたけど、それにしても早かったわね」


「ああ、『平凡の教え』四巻ラストの驚天動地の真相が気になってな。早く帰ってきた」


 それ、本当に『平凡の教え』っ!?


「そういうお楽しみはあとに取っておいて、取り敢えず“これ”で遊ばない? つーか遊ぶわよっ」


「また、おもちゃか。今一人で遊んでいただろ。しかしそんなに誰かとやりたいなら、シコ郎――」


「なら今ぶち殺したわっ!! ……それで? 断るんだっ? ふ~ん。だったら胡桃子さんにあのこと言っちゃうけど。私が料理を代わりに食べたってことっ」


[胡桃子さんカード]発動よっ!


「馬鹿だろ、お前」


「へ?」


 呆れたような顔の凡介が、そして私が馬鹿である理由を述べる。


「先日、胡桃子さんの料理を“不味いと言って吐き出した”んだぞ。そんなお前が、俺の代わりに料理を食べたなんて信じると思っているのか。――もう一度言う。馬鹿だろ、お前」


 ガーンっ!

[胡桃子さんカード]しゅーりょーっ。


私は膝からくずおれて、床に突っ伏す。


「う、うう、サバイバルゲームしたかったのに。『こまんドー』五回も見て、予習もしたのにぃ、うぅ」


「今、何と言った?」


 私が悲しみに打ちひしがれていると凡介が聞いてくる。


「『こまんドー』五回も見たって……」


「そこじゃない。その前だ」


「サバイバルゲームをしたかったって、言ったんだけど?」


 すると凡介は僅かな思案顔を浮かべたのち、学生カバンを放り投げる。

 そして私を見下ろすと言った。


「いいぞ。サバイバルゲームに付き合ってやる」



 ◆



 私は凡介を連れて、例の運動公園へとやってくる。

 そして誰もいないことを確認すると、『空間形成キット』のスイッチを押した。

 またたく間に形成される密林地帯。

 その広さは、運動公園の規模とほぼ同じくらい。


 これは十分にサバイバルゲームを楽しめそうねっ。

 えっとまずは……。


 私は、物珍しそうに周囲を眺めている凡介に着替えをする旨を伝えると、木の影へと向かう。そして十分後、着替えを終えた私は再び凡介の前に立った。


「なんだそのミリタリー尽くしの恰好は? 見た目なんてどうでもいいだろうに」


「そうなのです。特に顔のミリタリー風ペイントとかやりすぎなのです。ロゼリアさんは絶対、形から入って内実がともなわないタイプなのです」


 いつの間にかアラモードもいた。


「あんたねぇっ、なんでいつも来なくていい『えぴそ~ど』で現れるわけっ!? 来るならジョイトリス先輩の『えぴそ~ど』で来なさいよねっ! ……で? あんたも参加するの?」


 追い返すのも面倒くさいので、私はそう聞いた。


「もちろんやるのです。アラモと凡介様VS年増のミリタリーかぶれなのです」


 撃ち殺したろかっ!!


 私は湧きあがる殺意ををなんとか心の奥底にしまい込むと、ルール説明へと入る。


「ルールは簡単よ。天界遊戯用の武器で相手を攻撃して、ライフを三つ減らせば勝ち。ライフが減る条件は、特殊なエネルギー弾丸で痛覚を刺激されたときよ。けっこう痛いからそのつもりでいて。さ、凡介も武器を一つ選ぶのよ」


 私はリュックサックを開けると、その中にある数種類の武器を凡介に見せる。

 そのほとんどが銃であり、当然凡介もそれらから選ぶものかと思っていた。

 

 だけど――、


「俺はこれでいい。これだけあれば十分だ」


 凡介が選んだのはナイフだった。


「は? そ、それでいいの? それって近接用のナイフなんだけど」


「知っている。ところでこのナイフは、どうすれば相手のライフを減らすことができる?」


「どうって、ゴム状の刃で普通に相手を斬るようにすればいいのよ。そうすれば痛覚を刺激できるわ」


「なるほど、こうか」


 と言って、私の首をナイフで斬る凡介。

 

「ぎゃあああああああっ! って試すなっ! マジで痛いからっ!!」


「ふん、おもしろい。さあ、早く始めようじゃないか。それと俺は一人でいい。アラモードには悪いがな――」

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