えぴそ~ど38 「禁断のクスリ→B面」


「膝、擦りむいちゃった。大好きなロゼロゼの“お膝チュッチュ”で治してほしいな。痛いよー、ロゼロゼ」


「ごめん、また今度」


 私は今度こそ、ユニットバスへと入る。

 そして服と下着を脱いで廊下に放り投げると、熱いシャワーを全身に浴びた。


 めっちゃ気持ちわりいいいいいいッ!!

 どうしよーっ、あんな凡介と一時間だって一緒にいたくないわよっ!

 多分、優しいとは思うのだけど、あれは無理っ。

 なんか隣室のキモオタに通ずるものがあるし。

 ……本当にどうしよう。

 ――あ、そうだ。


 と、退避先に綾乃ちゃんの家を考えたとき、ドアの向こう――六畳間のほうから凡介の声がかすかに聞こえた。

 よく聞き取れない私は、シャワーを止めてドア越しに耳をそばだてる。

 すると、声がはっきりと聞こえてきた。

 

「あー、このパンツとブラジャーたっくさんロゼロゼの匂いがする。あぁ、ロゼロゼ、大好きだよ、ロゼロゼッ! も、もうダメ。もう我慢できないよぉぉぉぉ!!」


 

 うっそッ!!?



 私はドアを思いっきり開け放つと、バスタオルを巻いて廊下へと出た。


「ち、ちょっと凡介あなた、私の下着で何してんの――はっ!?」


 六畳間に変態がいた。

 六畳間の中央で、トランクス姿の変態凡介が。


「エクスタシィィィィぃぃぃッ!!」


 凡介が体をよじって恍惚こうこつな瞳を浮かべる。


 

 それ全部ひっくるめて、“えぴそ~ど4”で欲しかった奴っ!!


 

 いやいや、そんなことはいいっ。

 もういやだっ、こんな凡介は凡介じゃない――ッ!!


 私は変態と化した凡介に抱きつくと、懇願するように声を荒げた。


「私が悪かったわ、凡介っ! あなたの優しさに飢えて惚れクスリなんて飲ませた私がっ! 本当に反省してる。だから、だからいつものあなたに戻ってよぉっ!!」


「積極的なロゼロゼたん。今日はいっぱいいっぱいたぁくさん愛撫してあげるね。だいちゅきだよ、ロゼロゼ」

 

 凡介がバスタオルに手を掛ける。


「止めてぇッ!!」


 私は反射的に凡介を押していた。

 かなりの力が出たのだろう、凡介は飛ぶように後方へ倒れると、そのまま後頭部を本棚に打ち付けた。

 陳列されていた数冊の『平凡の教え』がぴくりともしない凡介の体に落下したとき、私はとんでもない仕打ちをしてしまったことに気づいた。


「ごめんなさい、凡介っ! あぁ、本当に私ったらなんてことを――っ。凡介っ、凡介っ!」


「う、うう……」


 凡介がうめき声を出す。

 どうやら最悪のシナリオは回避できたらしい。 


「良かったぁ。凡介……頭、大丈夫?」


「くっ、なぜ頭が痛い? ……む? お前そんな恰好で何している?」


 ――あ。


 それは明らかにいつもの凡介だった。

 頭を打ったのが逆に良かったのか、変態凡介はノーマル凡介に戻っていた。


「良かったぁ! 凡介ぇぇぇ、戻って良かったよぉ」


 私は嬉しくて再度抱きつく。

 すると、「何をしているっ?」との凡介に四の字固めを掛けられた。


「いたあぁい。でも嬉しーっ!」


「な、何だお前? ……ん? はうあッ!?」


「どうしたの?」


 凡介がそばにあった姿見を見て、驚愕に目を見開いていた。

 やがてわなわなと体を震わせる凡介は、かぶっている私のパンツを引きちぎると憤怒の表情を浮かべた。


「おい、俺はなぜトランクス一丁でお前のパンツをかぶっていたのだ? これではまるで変態ではないかッ! ……貴様、何をした? 一体、俺に何をしたッ!?」 


「悪いことしたわ。あなたに惚れクスリを飲ませてとっても悪いこと。だから技掛けて。お仕置きして。いつもの凡介のが欲しいのっ」


「そうか、やはり貴様のせいか。技を欲しがる貴様の真意がよくわからんが、今日はたっぷり楽しませてやろうではないか」


「そうよっ、その調子よ、凡介っ! 早く、早くいつもみたいに私に技を掛けてっ!! こんなんじゃなくて、もっと激しいやつを頂戴っ!!」


「ならば――これを食らえぃっ!」


「もっと、もっとよおおおおおおおっ!! 全然足りないわッ!!」


「ほう、ならばこれはどうだっ」


「ああっ、いい、いいわっ、凡介っ! 凄い痛い、めっちゃ痛いよおぉぉぉぉっ! でも嬉しいいいいッ! もっと不愛想に技掛けてええええええええッ!!」


 

 ――その後、私は七つの新技を食らってイった。

 切れ痔は当然ながら悪化した。

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