えぴそ~ど28 「遊園地でエンジョイしたいっ(午前の部―②)」


 十分後、私は『メリーゴーランド』から戻ってきたアラモードに詰め寄った。


「あんた、じゃんけんのときに魔法を使ったわね。白状しなさいよ。『カナシバリー』の魔法を使ったんでしょっ!?」


 頭上に“ギクッ”という擬音を浮かばせるアラモード。

 なのに、「知らないのです。まほー? ナニソレ??」なんて白々しらじらしく言うものだから、私は更に迫り詰めた。


 ――のだけど、


「魔法だと? バカか、お前は。そんな非科学的でファンタジーなモノが存在するわけないだろう」

 

 と述べる凡介に阻まれた。


 いやいや、あなた魔法よりもファンタジックな存在と同棲していることを、お忘れかしらっ!?



 ◆


 

「最初はグー――固っ!? ぐぬぬぬぬううううっ!」


「じゃーんけーん、ポンッ。わーい、またアラモが勝った。凡介様、今度は一緒に『タコさん遊泳』に乗るのです」


「ああ」


 ――二十分後。


「最初はグー――固っ!? な、なんのこれしきいいいいいいっ!」


「じゃーんけーん、ポンッ。わーい、またアラモが勝った。凡介様、今度は一緒に『芋虫もぞもぞ』に乗るのです」


「ああ」


 ――三十分後。


「最初はグー――固っ!? 動け動け、私のこぶしいいいいいいッ!!」


「じゃーんけーん、ポンッ。わーい、またアラモが勝った。凡介様、今度は一緒に『小バエぶんぶん』に乗るのです」


「ああ」


 ――二十五分後。


「最初はグー――固っ!? 女神のクソぢからああああああああッ!!!」


「じゃーんけーん、ポンッ。わーい、またアラモが勝った。凡介様、今度は一緒に『ゾウムシわさわさ』に乗るのです」


「ああ」


 ――四十分後。


「遅かったわね、待ちくたびれたわ。何やってたのよ?」


 私は、今すぐにでも爆発しそうな怒りの感情を無理やり抑えつけると、こちらへ戻ってきたアラモードに聞く。


「乗り物に乗ってきただけなのです。別にソフトクリームなんて、食べてきていないのです。さ、また公平にじゃんけんをして、どっちが凡介様と乗り物に乗るか決めるのです」


 凡介と一緒にソフトクリームを食べたのね。

 なんかしゃくだから、いちいち突っ込んでやらないんだからっ。


「いいわよ、じゃんけんしようじゃないの。でも一つだけ変更してもらいたいことがあるわ」


「む……。それでなんなのです? 変更してほしいというのは」


 不満げな顔のアラモード。

 突っ込まなかったのが不服なのかもしれない。


「変更してもらいたいのは――


「――っ!?」

 

 不満を浮かべた顔が一転、ひるみのそれへと変わるアラモード。


 じゃんけんと言えば、まず初めに『最初はグー』。

 それは半ば暗黙の了解となって、まるで当たり前のルールかのように扱われている。

 でも実際は、この掛け声は正規のルールではない。

 単に、タイミングを合わせるためのものなのだ。

 

 つまり――『最初はグー』は省いても何ら問題はないってわけ。


「いいわよね、別に。……ねえ、凡介はどう思う? 省いてもいいわよね?」


「別にいいんじゃないのか。いいから早くじゃんけんして決めろ。午前は次の乗り物で最後だぞ。どうにも腹が減った」


 凡介の了承を得たのち、私は再びアラモードへと視線を戻す。


「そういうことで、アラモード――いきなりじゃんけんポンで勝負よっ」


「う……わ、分かったのです」


 その動揺は、明らかに魔法『カナシバリー』を使用できないことからくるもの。


 私は両手を組んで回転させたのち、手の中を覗き込む。


 流れは完全に私よ。

 あんたは魔法の力を過信し過ぎた。

 魔法はなにも万能じゃない。ここぞという場面で無力なときだってあるのよ。


 それが今なの、アラモード。

『最初はグー』という恩恵を失った今、あなたは翼をもがれた鳥のようなもの。

 惨めなものね、ふふ。

 あなたはもう単なるペチャパイよ。敢えて言えば貧乳ね。

 そう……午前の部、最後の乗り物で凡介のとなりに座るのは私なのよっ!!


 そのとき手の中に、まばゆく光る勝利へのかいが見えた。


 ――機、なりッ!


「じゃあ、いくわよ。――じゃーんけーん――」



 地べたに手を付いて泣き叫ぶがいいわっ、アラモード――ッ!! 


「「ポンっ」」


 渾身のチョキを出す。

 及び腰のアラモードはグー。

 私は普通に負けた。


 うそおおおおおおおおおんっ!!

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