第3章 6月は聖王女や4魔将軍とか出てくるけどラブコメで

えぴそ~ど44 「勇者と駄女神とポッパニア ~起程~」


「スイーツばっかりじゃないっ、しかもロンテモーザの高級なやつっ!」


 私はアラモードから渡された、食べたいメニューの書かれた紙をクシャクシャにする。

 そのままヤオコンのゴミ箱に捨ててやろうと思ったけど、止めた。


 ……ふぅ、しょうがないわね。

 全部は無理だけど買っていってあげようかしら。

 だって、あいつが主賓しゅひんだし。


 アラモードはイレギュラーゲートに対処するために、明日にでも天界へと戻るということだった。

 よって今日は、そのアラモードの送別会。


 正直、勝手に戻れよと思ったのだけど、あのおんぼろアパートでは誰かが退去するとき、胡桃子くるみこさんと残っている住人で送別会を行うという決まりがあるらしい。

 ちなみに残っている住人は、私と凡介と志湖シコ郎、そして一階に住む[佐藤、鈴木、高橋モブキャラ]さんの六人だ。


〈あの人はそういった博愛の精神の持ち主なんだ。ちなみに毎回自作の料理を振舞ってくるが、まあ料理も格段においしくなったし別にいいだろう〉


 ―—と涼しい顔で述べていた凡介だけど、アラモードから、


〈この際だからぶっちゃけますと、まず魔法というものは存在するのです。そして矢継ぎ早にぶっちゃけますと、この前使った胡桃子さんの料理を美味に変えた『オイシクナール』の魔法は、一ヵ月に一回しか使えないのです〉


 ――というぶっちゃけ話を聞くと、血相を変えて私にこう言ったのだった。


〈お前が手伝うのだ。暗黒に染まりし料理に光を差せるのはお前だけだ、ロゼリア。できるよな、ロゼリア。お前ならやれるロゼリア。ああ、ロゼリア。――美味しい料理が作れるロゼリア〉


[五回のロゼリア連呼]と[美味しい料理が作れる]の文言で昇天しそうになった私は、当然とびっきりの笑顔でこう答えていた。



〈うんっ、凡介のためにがんばる!!〉



 ◆



「……やっぱり私って単純なのかしら」


 そう呟いたのち、私は自分で決めたメニューの材料を買って、家路へとく。

 でも送別会の場所が胡桃子さんの住むお屋敷だということに気づいて、そちらへと足を向けた。


 そのお屋敷は実のところちゃんと見たことがない。

 で、このたびしっかりと拝見することとなったのだけど、そのお屋敷は“クソ”が付くほどでかかった。


「めっちゃ、でかっ! これ、絶対錦鯉にしきごい飼ってるわよ、あの池とかで五十匹くらい。……ん?」


 その池のそばに人影が見える。

 近くにある樹木が邪魔して誰だか分からないけれど、鯉にエサをあげているそのでピンときた。


 ――凡介っ。


 私は小走りで凡介の元へ走り寄る。

 そして樹木のところからピョンっと跳ねるように飛びながら、「ぼ~んすけっ」と凡介の前に出た。



「ロゼリアたん?」



 間違えたシコ郎だった。


 一生の不覚っ! 凡介の手とキモオタの手を間違えるとか、一生の不覚っ!!


「ごめんなさい。エサやりの邪魔ね。じゃ」


 と足早に去ろうとしたのだけど、「待って、ロゼリアたんッ!!」と呼び止める声のその大きさにびっくりして、私は立ち止まった。


「な、なによ。そんな大きな声出して」


「今、君を見て決めたんだ、僕は。もう一途いちずでいようって。浮気なんかしないって」


「は? なんの話? 私、忙しいからもう戻るわね」


 そのとき、シコ郎が手に持っていた写真の束を空へと投げ捨てた。

 不規則に飛び交うその写真はやがて地上へと落ちて、いくつかの鮮明な画像が私の目に入る。


 その全てがアラモードだった。

 スクール水着や体操着やメイド服を着用したアラモードの。


 そこで私は思い出す。

 アラモードが[クンカクンカ券]や[写真撮影]で、シコ郎からお金を搾取さくしゅしていたことを。


「妹系女神のアラモたんは可愛くて生きるのが辛いレベルだけど、僕の前からいなくなるのならもういいんだ。初心忘るべからず――“えぴそ~ど4でふりかけにしたパンツの味を忘るべからず”――。そうなんだっ、僕には最初っからロゼリアたんしかいないんだっ!」


 やっぱり、ふりかけにしたんかいっ!


「おあいにく様っ、私には凡介っていう大切な人がいるから、あんたの気持ちに応えることなんてできは――」


 すると、黄ばんだ歯を見せながらにじり寄ってくるシコ郎。


「ロゼリアたん……僕の愛しき女神……もうパンツじゃだけじゃ我慢できない……したい。ロゼリアたんのをいっぱいいっぱい、したい」


 一線超えちゃってるからっ!


 そして、変態凡介を超える究極の変態が迫りくる。

 

「させるわけないでしょ、このキモオタッ! ちょっと落ち着きなさいよっ。こ、これ以上近づいたら――ッ」


「くぱぁ、くぱぁ、ロゼリアたんの、くぱぁ、くぱぁ」


 今にもしがみ付いてきそうなシコ郎。

 私はけ反ってそれを回避しようとする。

 でも尚も距離を詰めるシコ郎によって、私は後ろに倒れそうになった。


 そのとき――。

 ひらめく。唐突に。

 これ以上にない打開策を。


「こんの『くぱぁ星人』……食らえッ、ともえなげーっ!!」


「くぱっ!?」


 私は咄嗟とっさにシコ郎の服をつかむと、そのまま後ろに倒れ込む。

 そしてシコ郎のたるんだ腹を足で押し上げると、後方に投げ飛ばしてやった。


 ザブーンッと音がする。

 投げられたシコ郎が池に落ちた音だった。

 私は『くぱぁ星人』を倒した。

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