えぴそ~ど45 「勇者と駄女神とポッパニア ~懸念~」


 できたわッ、私にも技がっ!

 なんか凡介色に染まっている感じがたまんなーいっ!


「おい、お前こんなところで何油を売っている?」


 立ち上がったところで背後から声を掛けられる。

 凡介だった。

 私は凡介に近づくと言った。


「私、技ができるようになったわ。巴投げで『くぱぁ星人』を倒したの。見せたかったわ、凡介にも」


「技だと? それに『くぱぁ星人』って何だ? いや、そんなことはいい。お前は早く胡桃子さんのところへ行って料理の手伝いをしろ」


「はーい」


 お揃いの技――。

 お揃いの巴投げ――ウフ、ウフフ。



 ◆



 なんとか料理がダークサイドに堕ちるは防げた。

 というのも、この前の非礼を再度詫びる形で、私が最初から全ての料理を作ったからだ。

 

 はっきり言って、あの『へどろ料理』を作り始めてしまったら手の打ちようがない。

 だから、自分で作りたいであろう胡桃子さんの反発を覚悟でお願いしたのだけど、当の胡桃子さんは、


「あらぁ、ロゼリアちゃんの料理が食べれるなんて思ってもみなかったわぁ。色々勉強したいし、今日のところはお願いしちゃおうかしらぁ」


 と、拍子抜けするほどにあっさり承諾しょうだくしてくれたのだった。

 もしかしたら胡桃子さんは、アラモードのことを気持ちよく送別できさえすれば、それで良かったのかもしれない。


 ――送別会が始まるまでにまだ時間がある。

 私はだだっ広い庭園を散歩して時間をつぶすことにした。

 すると芝生しばふに囲まれた開けた場所で、古井戸を覗き込むアラモードを見つけた。


「見かけないと思ったらこんなところにいたのね」


 後ろから声を掛けると、アラモードが振り返る。


「なんだ、切れ痔でのたまっていた隣室のおばはんですか。アラモになにか用なのですか?」


 のたまったのは年増の女神っ!!

 いや、年増じゃねーしっ!

 

「あんたねぇっ、その悪態―—ああ、もういいや、どうせ今日でいなくなるのだし。別に用っていうか、いたから声を掛けただけよ。……それで? 井戸なんか覗いて何やってたの?」


「井戸の下に転移門を形成していたのです。深くてちょっと幅が小さいけれど、うまくいったのです」


「なんでそんなところに形成したのよ?」


「ここから飛び込んでそのまま天界に戻ったらおもしろそーだなと思ったのです」


 無邪気な笑みを浮かべて、くだらない遊びを語るアラモード。

 その顔を見る限り、現世に後ろ髪を引かれるようなうら悲しさは抱いてはいないようだ。


「あっそ。……ところで、イレギュラーゲートの調査はどうなったの? あのときあなたは“どこかで開きつつある”と言っていたけど、場所くらいは特定できたのかしら」


 以前も何度か、イレギュラーゲートが開いたことがあった。

 その全てが異世界から直接地球へと空間を繋げるものであり、放っておけばという最悪の有事だったのだけど、天界監理官の対応で事なきを得ていたのだった。


「多分まだなのです。いつも通りであれば特定に三週間くらいかかると思うのです。そのあと対策会議をしたり異世界に実地調査に出向いたりして、そして“異世界で開いてから二ヶ月後とされている地球側のゲート開放”を未然に防ぐのです」


「ふーん、そう。まあ、異世界のほうでゲートが開いても地球で開くのが二ヶ月後ならいいけど、これがもしほぼ同時に開いたらって思うとゾッとするわよね」


「確かにゾッとするのです。でも先例にないから大丈夫なのです。地球側のゲートが開くのは異世界で開いてから二ヶ月後なのですっ」


 ない胸を張って自信ありげに言い放つアラモード。

 私はそこで、ふと気になったことを口にする。


「二ヶ月後二ヶ月後って言うけど、その先例って何件くらいあるのよ?」


「三件なのですっ」


 少なっ!


「ちょっと、それどう考えたって、今回も二ヶ月後って言い切るには根拠が薄弱な件数じゃないっ。私の懸念けねんが現実のものとなりそうで、なんだか怖いのだけどっ。……ねえ、あんた一旦天界戻って状況を確認してくれば?」


 ムスっとした顔のアラモード。

 でも、私の言ったことも一理あると思ったのか、


「これだから年増の女神は心配性で嫌なのです。でもまあ、確認は大事なのです」


 と古井戸の中に飛び込んだ。


 そして五分後――。

 今度はその古井戸から文字通り飛び出してきたアラモードは、尻から着地してしばらく痛みで転げまわったあと、私の前に立った。で。


「ろ、ロゼリアさんの下種げすのかんぐりが当たったのです」


「下種のかんぐりって何よっ! そこは普通に推測で――って、……え? 当たったって、当たっちゃったのぉっ!?」


「大当たりなのです、ロゼリアさん。上司が言うには、異世界のほうですでにイレギュラーゲートが開いていて、しかも今すぐにでも地球側のゲートも開くそうなのです」


「マジ、なの……? だ、だったら送別会どころじゃないわねっ。そのイレギュラーゲートは地球のどこに出るのよ? あんたも早く向かったほうがいいんじゃないのっ?」


 真っ青な顔に大量の玉の汗を浮かべるアラモードが、おもむろに口を開く。

 その様は、まるでとてつもない罪の告白をするかのようにも見えた。



「向かうも何も、この場所に開くのです。――ッ!!」



「……え?」


 突如、頭上に暗雲が立ち込める。

 何もない空間に穴が開き始めたのはそのときだった。

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