えぴそ~ど54 「熱戦・烈戦・超激戦っ!! ―VS暗黒纏いのサキュリヴァイス―(1)」


 四魔将軍の一人である黒マント。

 そいつは私とパコを前にしたまま動かない。

 目深に被ったフードが影を作り、その表情は不明確。

 不気味の一言だった。


「なぁに、つっ立ってんだすかっ? そっちがごねぇならこっちから行くだすよっ!!」


 痺れを切らしたパコが剣を構えて走り出す。

 

 ――嫌な予感。


 それは確信にも似たもので、私は咄嗟とっさに叫んだ。


「それ以上は危ないわっ! 止まって、ッ!!」


 咄嗟すぎて間違えた。

 

「ペコじゃなくてパコだがら止まんねーだす!! どぅうううりゃああああっ!!」


 いや、その訂正ができるなら止まれよっ!!


 一瞬、速度を落としたパコだけど、そのまま黒マントへと突っ込んでいく。

 次の瞬間、パコの目の前の地面に、二本の剣がクロスするように突き刺さる。

 

 煙のような怪しい黒い光を発する二本の剣。

 パコが速度を落とさずにいたら、確実にその剣で首を落とされていただろう。


 後方へ飛び退くパコ。

 すると、黒マントが二本の剣を両手で引っこ抜いた。


「あー、おしかった。あとちょっとで『暗黒の断頭台ダーク・ギロティン』でバッサリいってたのにな」


 幼い女の声。

 子供――? と思ったとき、声を発した黒マントがフードをめくる。

 褐色かっしょくの肌。そして銀色に輝く髪と長く尖った耳が外へと出た。


 ダークエルフっ!

 やだ、初めて見たかもっ。

 何度も異世界行ってるのに、一回も会ったことなかったのよねぇ。

 しかも少女バージョンかぁ、ふーん、けっこう可愛い顔してるじゃない。


「おい、そこの。何あたいのことジロジロ見てんだ。今すぐに殺されたいのか?」


 その耳、引っこ抜いてやろーかっ!?


「パコっ! この憎たらしいダークエルフをさっさとやっちゃうわよっ! 見目麗しい女神様を捕まえてブスとは言ってくれるじゃないっ――って、パコ?」


 パコが半開きにしてる口を震わせて、ダークエルフに指を向けている。

 すると、その表情を強い敵意で染めあげたのち、叫んだ。


「おんめぇは、サキュリヴァイスッ!! まさかおんめぇが四魔将軍だったどはな。ちょうどよがっただすっ、今こそ兄ぢゃんの居場所を吐いてもらうだすっ!!」


 ダークエルフ――サキュリヴァイスが首を傾げる。

 でもすぐに思い当たったのか、大きな口を歪めるようにして開いた。


「ああ、あたいをあがめる信奉者の一人がお前の兄貴ってことか。ふん、居場所なんて知ってどうすんのさ? あいつらは好きで、レアなあたいのために働いているのにさ」


 レア――。

『ポッパニア』でもダークエルフって希少なのね。

 そうなると、中にはサキュリヴァイスの言ったように崇める人もいそうね。


「拉致して連れていっだくせに、なぁに言ってるだすかぁっ! 兄ぢゃんはいつだってあたすのヒーローだった。スーパーマンだった。そんな兄ぢゃんをおんめぇは……絶対に許さねぇだすっ!!」


「勘違いもはなはだしいなぁ。だったらこのICボイスレコーダーを聞く? 信奉者あいつらがあたいを崇めるために歌っている『讃美の歌』なんだけどさ」


 と言って腰の辺りから、パナ〇ニック製の最新式かのようなICレコーダーを取り出すサキュリヴァイス。


 や、やけに科学の進歩している異世界なのね。

 魔力で発達しているほうがしっくりくるのだけど……ま、いっか。

 それにしても、パコにお兄ちゃんがいたんだ。

 もしも拉致されてむりやり労働させられているのなら許せないわね。

 

「必要ねぇだすっ! おんめぇが拉致したに決まっているだすからなぁ! おんめぇばぶっ殺して兄ぢゃんの居場所を吐かせでやらべっだらばあああああああっ!!」


 再び、考えなしに斬りかかるパコ。

 その距離は近い。

 ぶっ殺したら吐かせられないわよっ! という突っ込みをする暇もなく、パコの剣がサキュリヴァイスの首へと迫る。

 

 しかし甲高い金属音がなり、それは弾かれた。


 そこから始まる、両者による剣戟けんげきの嵐。

 どちらかというと押しているのはパコ。

 私は驚いた。

 だって四魔将軍相手に互角以上の戦いをしているのだから。


 めっちゃ強いじゃんっ、パコ。

 でもそれもそうよね。

 だって、聖王女ホーリー・プリンセスであるフローディアの側近騎士だって言ってたし。


「へえ、やるじゃん。ただの人間のくせに。でも分かってるよね? あたいが――」


 して焦ってもいないサキュリヴァイスがバックステップで間合いを取る。

 すると、猛炎のような黒い光を発する二本の剣を左右に広げ――、

 

「まだこれっぽっちも本気を出していないってことにさっ――『暗黒の暴狼ダーク・フェンリル』ッ!」


 勢いよく前方に向けた。

 

 二本の剣から飛び出た“巨大な狼を思わせる黒い光”が、パコを食らうかのように猛然と飛びかかる。


 左手で盾を構えて防御の体勢をとるパコ。

 でも押さえきれなかったのか、体ごと後方へと吹き飛ばされた。


「うわあああああっ!」


「パコっ!!」


 受け身もできずに、地面を転がっていくパコ。

 私はパコの元へ走り寄ると、なんとか立ち上がろうとするそのパコを支えて言った。


「大丈夫なのっ、パコっ!?」


「だ、大丈夫だす。体はいでぇけっども、側近騎士に代々伝わる『セイコウの盾』が邪悪な魔力を吸収してくれただす……ところで女神さんは魔法とか使えるだっぺか?」


 セイコウの盾――?

 ああ、邪悪な魔力を吸収するから多分『聖光の盾』ね。


「ええ、使えるわ。だからその魔法であなたを最大限サポートさせてもらうわ」


「助かるだす。女神さんの魔法と、この『の盾』があれば、奴の邪悪な魔力はなんとかなりそうだす」


 そっちの性交っ!?

 淫力で邪欲を引き寄せそうねっ!!

 せめて精鋼にしたらどうかしらっ!?


 ――閑話休題。


 天界監理官でない私は、下界で魔法を使ってはいけない。

 使えば懲罰刑であり、最悪『悪しき神の檻』に投獄されるだろう。

 でもそれは逆に言えば、懲罰を覚悟すれば使えるということであり、私の気持ちはすでに固まっていた。


 受けてやろうじゃない。懲罰だろうがなんだろうが。

 今の状況があるのも元はと言えば、私が凡介を『ポッパニア』に連れていかなかったのが原因なのだから。


 凡介への気持ちは変わらないし、変える気だってない。

 だったら……だったらせめて私は自分を犠牲にしてやる――。


「ふーん、いい盾持ってるじゃん。普通は盾ごと喰らいつかれるんだけどね。ところでそこの金髪なんだけど、デボネイアのおばさんになんとなく似ているんだよなぁ。いや顔とかじゃなくってさ。こう、なんていうのかな、同種、同族の匂い? 確かあのおばさん、自分のこと元女神とかほざいていたことあったけど、もしかしてお前女神なの?」


「正解よ。そして雑話をありがとう。おかげで詠唱を終えることができたわ」


「――えぇ?」


 距離を詰めてきていたサキュリヴァイスが素っ頓狂な声を出す。


 刹那、私は後ろへ隠していたをサキュリヴァイスへと向けると、間髪入れずに発動させた。


「メガイナズーマ!!」


 私の右手から拡散するまばゆい光。

 次の瞬間、雷系上級魔法『メガイナズーマ』が、サキュリヴァイスを電火の渦へと引きずり込む。


 直撃だった。


 

 でもそれは、だと、私は知っていた。

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