えぴそ~ど3 「隣人現る」


「なんなの、あんたっ? マジでなんなのっ!?」


 私は三度みたび、平兵凡介のところへやってきた。

 ほかの女神達の白眼びゃくがんを思わせる視線にいたたまれなくなって、急いでやってきた。


「また来たのか? 懲りん駄女神だな。いい加減、ほかを当たれ」


 平兵凡介はハエを追いやるかのようにシッシと手を振る。


「いたらあんたのところなんて来ないわよっ。あんたの担当が私だからしょうがなく来てんのよ! もうっ、何であんなルールがあるのよぉ!」


「わめくな、駄女神。となりの住人に迷惑が掛かるだろ」


「となりの住人? いるんだ。こんな掃き溜めのようなおんぼろアパートに」


 私は、はっと口を押さえる。

 さすがに言い過ぎたと思ったからだ。

 でも、平兵凡介は然して気にしていないのか、相変わらず『平凡の教え』を読んでいた。


 ところでこの平凡バカ、となりの住人に迷惑が掛かることを気にしていたわね。

 ……ムフフ、いいこと考えちゃったっ。


 私は壁に向かうと、思いっきりその壁を叩いた。

 と、平兵凡介が顔を上げて口を開く。

 

「お前、何をやっている? 迷惑だと言っているだろ」


「うん、迷惑よねぇ。とっても迷惑。えいえいっ」


 今度は壁を足で蹴ってやる。

 さっきよりも大きな音がした。

 壁も薄そうだし、これはすごい迷惑なはずだ。


「何をやっていると聞いている? 怒ったとなりの住人が来たらどうする」


 むっとした顔の平兵凡介に私は言ってやる。


「さあ、多分一発くらい殴られるんじゃなぁい? でも止めてあげてもいいわよ。もしあんたが『ポッパニア』に来てくれるのならね」


「そういうことか。……ふん、好きにしろ」


 投げやりな平兵凡介。

 どうでもいいといった感じだ。


 こ、こいつ、こんなにも美しい女神様をぞんざいに扱いやがってぇ。

 そっちがそう出るなら、もう知るもんか。

 とことんやってやろうじゃないのっ!


 私は壁を殴りまくった。蹴りまくった。頭突きもしてやった。

 そしたら「ピンポッピンポッピンポーンッ!!」と、となりの住人と思われる怒りのピンポンラッシュが聞こえてきた。


「あ~ら、本当に来ちゃったみたいね。私、知~らな――ハガっ!?」


 平兵凡介が私の顎を下からムギュッっとして、そのまま玄関へと連れていく。

 そしてドアを開けた。


「うるさいじゃないか! 平兵君っ、一体何をやっているんだっ!」


 案の定、怒っているとなりの住人。

 すると平兵凡介は「すいません。こいつがやったことなのでこいつを上げます。どうやら天界からやってきた女神らしいですよ、では」と言って、私をズイッととなりの住人に差し出した。


 私を抱き抱えるとなりの住人は、

「め、女神っ、女神様 キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!」と歓喜して、そのまま私を自分の部屋へと連れていく。


 その三分後。


 私はう這うのていで、平兵凡介の部屋へと逃げ帰ってきた。


「めっちゃキモオタなんだけどっ! めっちゃキモオタなんだけどっ!! 何あいつっ!? 部屋ん中、四方八方、女神のポスターとフィギュアとか女神ワールド全開っ! 女神のダッチワイフもあってめっちゃ使い込んでるしっ! 私を見る目も淫獣そのもので、あやうくシミだらけの布団の上で貞操失うところだったわっ! マジで何なの、あいつっ!?」


 平兵凡介は、ふんっと鼻を鳴らすと言った。


志湖しこシコ郎さんは、『あんっ、女神様』というアニメの大ファンでな。以来、あらゆる女神にそれはそれはご執心な御仁だ。本物の女神を差し出すとなれば、あの人の怒りも収まると思ったのだが、なぜ逃げてきた?」


「逃げるわっ!! あーもう、なんか体も臭いんだけどっ! キモオタ臭がこびりついてマジ最悪っ。シャワー浴びたーいっ!」


「なら帰って浴びればいい。そして二度とくるな。……しょうがない、シコ郎さんには俺から謝っておくとしよう」


 平兵凡介はキモオタに謝罪をしに行く。


 あ、そうだ♪

 

 そのとき私は妙案が浮かんだ。

 思い立ったが吉日とばかりに私は急いで転移門へ入ると、ブツを探しに行ったのだった。

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