えぴそ~ど4 「女神のおパンツ」


 平兵凡介は、なにやら難しい顔をしながら戻ってきた。

 しかし私の顔を見ると、冷たい無表情へと変わった。


「まだいたのか? 帰れと言っただろう」


「帰ったわよ。でもなんか知らないけどシャワーが壊れているみたいで、着替えとタオルだけ持ってきたの」


「着替えとタオルだけ、だと? シャワーはどこで浴びる気なんだ?」


「あなたの部屋のシャワーを借りようかなぁって思ってるわ。いいわよね? シャワーくらい。浴びたら帰ってもう来ないから」


 視線を斜め上にして、何やら考え出す平兵凡介。

 そして考えがまとまったのか、「いいだろう。さっさと浴びてこい」と顎を廊下のほうへとしゃくった。


 あ~ら、素直じゃない。

 これはちょっとうまくいくかもっ。

 やっぱりこいつも男だったってことね、フフ。


「ありがとう。あ、それと分かっていると思うけど絶対にドアを開けちゃだめよ。私がナイスバディしているからって変な気は起こさないようにね。もしそんなことしたら、私に求愛している数多の男神があなたを殺しちゃうかもしれないから」


「そんなことはしない。いいから早くしろ」


「はぁい。シャワー♪ シャワー♪ 色んなところをちゃんと洗わないとねっ」


「……」


 そして私は平兵凡介の視線を浴びながら、六畳間を出てシャワーがある個室へと入った。


 せっまっ!

 アパートのユニットバスが狭いのは知っていたけど、ちょっと狭すぎじゃないこれ。

 ……ま、そんなことはどうでもいいわ。どうせシャワーは浴びないし。

 さ、始めるわよ。


 私は服、そして下着を脱ぐと体にタオルを巻く。

 そして少しドアを開けると、平兵凡介に聞こえるように大きな声でこう言った。

 

「持ってきた服や下着と混じって分からなくなっちゃうから、脱いだ服と下着は廊下に置いておーこおっとっ」


 これ見よがしに、脱いだ服と下着を廊下に放り投げる私。

 次にドアを閉めてシャワーを出すと、一緒に持ってきていたカメラを握りしめて“そのとき”を待った。


 そのとき。――それは平兵凡介が私の服や下着、特にパンツをいかがわしいことに使う瞬間のことだった。


 女神の脱ぎたてほやほやのパンツよ。

 絶対、何かするわ。しないわけがない。つーかして。

 その瞬間を写真に撮って、それをネタに脅迫してやるんだからっ。

 この写真をばら撒かれたくなかったら、異世界『ポッパニア』へ来いってね。


 フフッ、我ながらさっく士ぃ! 

 やけに落ち着いた奴だけど、少年のみなぎる性欲が女神のパンツを前にして爆発しないわけがないわ。


 と、聞こえる平兵凡介の歩く音。

 それは近づいてきて、ドアの前で止まる。

 そして聞こえた声は、私の求めるものだった。


「女神のパンツか。これは――使える」


 よっしゃああああああっ!

 使え使えっ、とことん使っていいのよっ!

 ただ、平凡バカがどう使うにしても、少し時間を置いたほうがいいわね。

 よし、四分後に決行よっ!


 その四分後――私はドアを勢いよく開けると、カメラを構えて六畳間に飛び込んだ。 


「もらったわっ、決定的瞬間! 私の使用済みパンツで、さあ、あなたは一体何を――――あれ?」


 平兵凡介は横になって文庫本を読んでいた。


「どうした、シャワーは終わったのか? しかしバスタオル姿で出てくるとは、はしたない女神がいたものだ」


「……ねえ、あなた私のパンツは?」


「パンツ? ああ、あれならシコ郎さんにあげたぞ。……いやでも助かった。謝ったものの、“何かしら女神の着衣をくれないと許さない”と突き返されたところだったからな」


「……は? マジであげたの?」


「ああ。元はと言えばお前が撒いた種だしな。シコ郎さん喜んでいたぞ。渡した瞬間、被ってフガフガしていたが、料理に使いたいとも言っていたな。刻んでふりかけの代わりとか、まあそんな感じだろう」

 

 

 使ってる奴がちげえええええええっ!!

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