えぴそ~ど2 「同情心からのフラグ立て」
「何? 何が気にくわないの? それをまず言ってくんない?」
転移門に放り投げられた私は、また平兵凡介の元へ戻っていた。
正直、別の転移者にチェンジしてほしかったけど、担当となった転移者は責任をもって天界へと連れて行かないといけないのが、絶対のルールだった。
「お前は話を聞いていないのか? 気にくわないとかそういう問題ではない。俺の現実は充実しているから行かないと言っているんだ」
「それが信じられないのよっ。勇者に選ばれたってのもあるし、それにだって充実オーラ全く感じないもの。絶対に平凡な毎日に嫌気が差しているはずよ」
「……今、なんといった?」
平兵凡介の瞳が威圧的に光る。
「へ、平凡な毎日に嫌気が差しているはずって言ったのよ」
「平凡な毎日の何が悪いのだ? 平凡を享受できる幸せこそ、充実の際たるものだろう。刺激を求めて何かを犠牲にするならば、平凡だが幸せな毎日を送るほうがいいに決まっている。お前の物差しで俺の充実度を測るな」
平凡こそ幸せって、その若さで言ってのけることかよ。
どうやら、平兵凡介は普通の若者ではないようね。
あー、めんどくせーな、なんか。
「分かったわ。あなたの人生がとっても充実していることは。でもね、もう充実してるしてないとかどぉーでもいいっ。そんな設定いらない。なしなしっ。まぼろしーっ」
「……」
「と、とにかく来てほしいの。充実ついでにパパッと魔王を倒してくれればいいからさ。ねっねっ?」
「平凡を保ったまま救える異世界などないだろう。そもそも異世界に行くこと自体が平凡ではない。ゆえに却下。帰れ」
平兵凡介はそう言うと、背中を向けて寝転ぶ。
そして文庫本を読みだした。
『平凡の教え』というタイトルだった。
普通、異世界に行くことが充実につながるのに……。
こいつマジ、イレギュラーなんだけどっ。
どうしたらこの平凡バカをその気にさせられる?
力づくじゃ、また投げっぱなしジャーマンを食らうだろうし……。
どうしたら――そうだっ!
「あなたが『ポッパニア』を魔王の手から救わないと、そこに住む多くの人が死ぬわ」
平兵凡介の肩がピクリと動く。
よし、反応あり! このまま同情作戦を続けるわっ。
「あなたが行かないと駄々をこねるせいで、そりゃもう、多くの善良な人が魔王軍に殺されるのよ? そこには無垢で無邪気な子供達だって含まれているかもしれない――それでもあなたは行動せずにいられるの?」
平兵凡介がむくりと上半身を上げる。
そして文庫本を閉じた。
効いてる、効いてるっ。
やっぱり子供が死ぬっていうのが響いたのかしら。
だしにするにはちょっと抵抗があったけど、この際気にしていられないわ。
もうひと押しよ、ロゼリア!
「あなたが行動すれば、立ち上がれば、剣を取って悪を薙ぎ払えばその犠牲は最小限に抑えることができるのよっ! あなたが救える命が『ポッパニア』にはたくさんあるのっ。だからお願い、私と一緒に来て。そして『ポッパニア』を魔王の手から救って。勇者、平兵凡介――あなたの力が必要なの」
……言い切ったわ。
どう考えたって、[ポッパニアに行く]フラグが立ったでしょ、この流れ。
あとは立ち上がって振り向いた平兵凡介が、私の切実を匂わせた微笑を見れば、
〈しょうがない奴だ。そこまで言うなら行ってやろうじゃないか〉
となって、めでたしめでたしね。
――そして、平兵凡介が起立してこちらを向いた。
「しょうがない奴だ」
ほらっ、キタコレッ!
よっしゃあぁぁぁ、えぴそ~ど2にして目的完遂っ!!
「もう一度食らいたいらしいな」
「へ?」
平兵凡介は向き合っていた私の向きを百八十度変えると、再び後ろから腰に手を回した。
すると――、
「
再び投げっぱなしジャーマンで、私を転移門に放り投げた。
フラグ回収しろよおおおおおおおッ!!
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