第1章 4月はボロアパートで始まるイチャLOVE?同棲生活

えぴそ~ど1 「平兵凡介という名の勇者」


「おめでとうございます。難易度Aの異世界『ポッパニア』への転移者に、あなたが選ばれました。誰もが羨む異世界での勇者ですよ? ハーレムあり、無双あり、チートありの素晴らしき日々が待っています。荒んだ現実から逃避して、異世界『ポッパニア』の地で俺TUEEEつえーを楽しみましょうっ。さあ、私の手を取って下さい、平兵凡介へいへいぼんすけさん!」


 私は最高の女神スマイルを浮かべて手を差し出す。


 顔色一つ変えない平兵凡介は、そして三秒後――。


 パンッ!


 と、邪魔だとばかりに私の手を払った。

 そして唾棄するように言う。


「俺の現実は充実している。帰れ、この駄女神」


 これが私ロゼリアと、選ばれし勇者である平兵凡介の最初の出会いだった。



 ◆



 日本、埼玉県某市にあるボロアパート。

 私は大女神様に、そこに異世界を救う勇者に相応しき人材がいるとの情報を聞いてやってきた。


 そして実際にいた。

 大女神様の言った通りの風貌の少年、平兵凡介が。

 だから前述のセリフを述べて、この平兵凡介を異世界に連れていこうとしたのに、手を払われた。


 しかも、めちゃんこ腹の立ついい方されて――っ!


「いつまで立っているんだ? 早く帰れと言っているだろ。この駄女神」


「だ、だから駄女神とかゆーなっ! 初対面の女神様に駄女神とか何様っ!? それに、は? 現実が充実している? はんっ、バカ言ってんじゃないわよっ。逃げ出したいほどに現実がクソだから、異世界を救う勇者に選ばれているのよ、あなたはっ!」


「現実が、クソ……」


 はっ、いきなりキレてしまったっ。

 女神はいつ何時なんときも、平静でなければならない高貴な存在なのに初っ端から。

 平静に、平静によ、ロゼリア――。


「こほんっ。……そ、そうよ、あなたの現実は絶対にクソの筈なのです。このおんぼろのアパート、そしてこの部屋のくたびれた雰囲気からそれは分かります。あなたの現実は絶対にクソなのですよ」


「ふんっ、女神がクソクソ言うとは底が知れたな。やはりお前は駄女神のあばずれだ」


 平静じゃいられねーっ!


「あばずれとか付け加えるなっ!! ……こんの、そこまで侮辱してただで済むと思うんじゃないわよっ! あなたになんか、絶対にチート能力なんて授けてあげないんだからっ」


「いらん、そんな物は。どうせ行かないんだからな」


「ウソ! 授けるから来てっ! つーか、もうあなたの意志なんてどうでもいいわ。無理にでも連れていく。異世界行けばどうせやるしかないんだしっ」


 私は平兵凡介の腕を掴むと、後ろで光り輝いている魔法陣型の転移門へと連れて行こうとする。

 この転移門から一旦天界へと戻り、そして別の転移門を使って救うべき異世界『ポッパニア』へと向かうのだ。


 そうだ、一回天界へ連れて行ってしまえば、もう『ポッパニア』で魔王を倒すまで地球に戻そうとは思わない。

 ならば、本人のやる気なんか関係なく連れて行ってしまえばいいのよ。

 ちゃっちゃと魔王を倒してもらって、こんな奴とはすぐにおさらばよ。


 ……って、あれ? 全然動かない。


 平兵凡介は微動だにしない。

 けっこうな勢いで引っ張ったのに全く動かない。

 私はやけになって、今度は綱を引くように両手で平兵凡介の右手を引く。

 そしたらやっと動いた。


 と、そのとき。


 平兵凡介が私の背後にスっと回り込む。 


 え? え? 何?


 そして腰に手を回すとこう言った。


「行かないと言っているだろ。お前一人で――帰れ」


 体が浮いた。

 と思ったら、投げっぱなしジャーマンをされて私は転移門に放り投げられた。


 な、なんなのよ、こいつううううううううっ!!



 私の波乱な日常の幕が切って落とされた――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る