えぴそ~ど17 「バドミントンで遊ぼうっ」


 初志貫徹しょしかんてつよ、ロゼリアっ!

 

 誕生日祝ってもらって喜んでいる場合じゃない。

 お花見行って日本の分化を堪能たんのうしている場合じゃない。

 私に課せられた使命を忘れてはダメよっ。


 そう、凡介を異世界『ポッパニア』に連れていくことが私の役目。

 これをおろそかにしたら芯がブレて読者が離れていくわよ。


 読者? 何言っているのかしら、私。 

 そうじゃなくて、女神としての存在意義すらなくなってしまうのよっ!


 だから、だから――、


 私はラケットを握りしめて振り返る。


「さあ、凡介っ、バドミントンで遊ぶわよっ!」


 私の声が窮屈きゅうくつな六畳間に響きわたる。

 すると、胡坐あぐらをかいて『平凡の教え』を読んでいる凡介の肩が、ピクリと動く。

 でも、それだけだった。

 だからもう一度言った。


「さあ、凡介っ、バドミントンで遊ぶわよっ!」


 凡介がこちらを向く。

 うるさい駄女神だといった空気を発散させながら。


「……なぜだ? 俺はバドミントンなどに興味はない。そんなにやりたければ、シコ郎――」


「ストォォォォップッ、Close your mouth口を閉じろッ! 困ったときのキモオタはいいのっ! 私は凡介とバドミントンをやりたいのよっ。だからやるわよ。本ばっかり読んでいても体がなまるでしょ? さあ、せっかくの祝日よ、一緒にお外でいい汗かきましょっ」


 凡介の視線が一瞬、私から逸れる。

 何か考えるかのように。

 そして再び視線が私に戻ってきとき、凡介の瞳は疑念の色に満ちていた。


「お前、何か企んでいないか?」


 ギクッ。


「な、なぁに言ってるのよっ。運動していい汗をかきたいっていうほかに他意はないわよっあるわよっ。だから早く公園にいきましょっ、豚汁だって作ってあげるからっ、ね?」


 こっちも困ったときの豚汁を出すわよ。

 相も変わらず牛肉使ってやってるけどっ。ケケ。


「豚汁か……少し飽きてきたな。だから断る」


 使いすぎで効果薄れとるっ!?

 で、でも大丈夫よ、私にはもう一つカードがあるのだからっ!


「ふぅん、断るんだ? だったらあのこと胡桃子くるみこさんに言っちゃおーかなぁ」


「あのこと? 一体なんのことだ?」


「あの日、胡桃子さんが作った料理をあなたが全く食べていないのに、食べたって嘘をいたことよ。その事実を知ったら胡桃子さん、ショック受けるだろうなぁ。凡介のために作ってきたのに、実は私に食べさせていたのだから」


 そう、あのゲロまずヘドロ料理は全て私の胃袋へと入ったわ。

 いや、凡介の屁理屈で全てじゃないとされたけれどもっ!


 凡介の表情が一瞬ひきつる。

 明らかな同様。

 揺動する両眼がやがて落ち着くと、凡介は一つため息を出してから口を開いた。


「なぜそこまで俺とバドミントンをしたいのか分からんが、やってやる。だから胡桃子さんには絶対に言うな。約束を破ったら分かっているな?」


「オッケー。契約成立っ」


 よっしゃーっ。

 でも、このカードは使えるわね。

 ゲロまず料理も死ぬ気で食った甲斐があったってものね。


 今後は[豚汁カード]と[胡桃子カード]を効率よく使って、凡介に私の言うことを聞かせていくわよ――って、私がバドミントンで勝ったら使う必要ないけどねっ。

 


 ◆



 舞台は近所の運動公園。

 私は誰もいないスペースにこぶし大の『空間形成キット』を置くと、スイッチを押す。

 すると、リアルホログラムであるバドミントンのコートとネットが瞬時に形成された。


「おい、またこういうやつなのかっ」


 立って見ていた凡介が、いきどおりをにじませて言葉を吐く。

 続けて、“こういうことなら俺はもう帰る”なんて言うもんだから、私は言ってやったわ。


「胡桃子さんに言ってやろ(棒)」


 帰ろうとした凡介の足は、ピタリと止まった。



 ◆



「要は、落とさずにシャトルを打って、相手コートに入れればいいんだな?」


「そうよ。それで、三ゲームマッチで先に二ゲームを先取したほうが勝ち」


「なるほど、分かった」


 と、言って素振りをする凡介は、傍からみても初心者と分かるぎこちない動きだった。


 ぶっふうううっ、何あれwww。

 余裕で勝っちゃいそうっ。

 天界バドミントン倶楽部のレギュラーメンバーだった私から見たら、凡介のレベルはクソね。


 ……いや、でも油断は禁物よ。

 そうだっ、ダブルスにして勝利を更に強固なものにしちゃおっ♪


 私は、“ダブルスのほうが楽しいからやっちゃおうよ”と凡介を言いくるめる。

 そして次に、パートナーを選ぶために空中にホログラムタッチパネルを出現させた。


 スロット形式で選ぶのだけど、二種類あるのよね。

 一つは『ノーマルタイプ』で、もう一つは『デンジャラスタイプ』。

 もちろん私は、平均的な能力を持ったパートナーが排出される『ノーマルタイプ』よ。

 危険な掛けなんかする必要ないし。

 

 私はタッチパネルを触れると、スロットを開始する。

 リアルホログラムとして出たのは、

『ペペッペ星のスポーツジム指導員、サモ・ハン・インポー。クラスB+』。

 動けるデブって感じの奴だった。


「見た目暑苦しいけど、まあまあかしらね。じゃあ次は凡介よ。ここの画面をタッチしてね」


「ここだな」


「うん」


 私はさりげなく『デンジャラスタイプ』へと誘導する。

 すると凡介は、なんの疑いもなくスロットを開始した。


 私の勝ち、確定ぃぃぃっ!

『デンジャラスタイプ』は千分の九百九十九で、ゴミパートナーしか出ないから『デンジャラスタイプ』なのよ。

 0・1パーセントの確率で激烈最強パートナーを引く可能性もあるけど、あり得ないわっ。

 

 だって0・1パーセントよ?

 初っ端でいきなり激烈最強パートナーを当てるなんて刺激的な展開、あるわけがないわ。

 そこでスロットが止まる。

 私は見る。

 



『ガルガン星の魔王アストロモス。趣味、バドミントン。クラス




 めっちゃ刺激的いいいいいいっ! 

 引きが全く平凡じゃねええええええっ!!


「まるで凶暴な鬼だな。こいつは頼りがいがありそうだ。よし始めるとしよう」


 

 ◆



「私からのサーブ、行くわよ――えいッ!」


 私の打ったシャトルが相手コートへと向かう。

 予想通り空振りをする凡介。

 

 よっしゃ、一点っ――と思ったのだけど、高速で動く魔王アストロモスがシャトルに追いついた。


暗黒の灼熱大凶殺カタストロフィ・スマッシュ


 高速で動く魔王アストロモスの叩いたシャトルが、光すら通さない暗黒をまとう。

 それは禍々まがまがしき火焔かえんを拡散させながら、私のコートへと飛来する。

  

 凄まじき魔のエネルギー。

 迎え撃つサモ・ハン・インポーが、まるで黒い竜に食われたかのようにそのすべてを消失させる。

 そしてシャトルはそのまま地面へと衝突すると、熱風と砂塵さじんを巻き上げて大地を地中深くまで削り取った。


 底の見えない大地の穴を、私は恐る恐る覗く。



 ……。

 …………。

 …………………勝てるかっ!! 

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