第45話 シュミットと月


ーーーー 以後日本語と英語の区別は無しです。


 アメリカ連合と会談が終了した、数日後の早朝、日が上がったばかりの時間に、武田家の呼び出しチャイムが鳴る。

 二人の外人がアリスとリリスに会いに来たと組員が呼ぶ。

 玄関に出てみると、シュミットとアイザックが居た。


「あれ、日本に何しに来たの?」


 シュミットが笑いながら。


「リリスが脅かすから、近くに家を借りて引っ越してきたよ。よかったら食事でもしないか?」


 そうだろう、そうだろうと、つくづく思い。笑いながら。


「奢ってくれるなら行く」


「もちろんさ、経費で落ちるから安心して」


 笑いながらシュミットが言い、アイザックも笑顔だ。


「元貧乏孤児としては、美味しいものがいいな」


 と気軽にねだってアリスに「行こう」と聞く。

 アリスはいつもの「問題ない」の返事が来る。

 組員に朝食は外で食べると伝えて外に出る。


 外には黒塗りの重そうで硬そうな車があった。大使館が使う等な車だった。きっとあの厚いガラスは防弾だ。まだ車まで準備できてないのだろう。


 車の後ろに乗り、レストランに行く。

 個室が有るレストランで防音処理がしてそうだった。

 テーブルに向かい合わせに座り、モーニングセットを頼む。

 そして、シュミットが苦笑いしながらこぼす。


「あの後大変だったよ、緊急会議を何度も開いて、議論・議論・議論、寝不足になった。それで、調査と監視を兼ねて、近くに家を買った。君たちをしっかり調査するからね。知性体は調査するのが常識だからね」


「迷惑がかからなければ問題ない。ただし、武器を私達に向けると撃たれる前に潰すので気をつけるように」


 リリスが当たり前のようにシュミットの顔を見て言う。

 シュミットが呆れ顔で対応する。


「はい、分かりました、気をつける。所で、レーダーか何かで感知してるの?」


「人類には感知できないレーダーが有る」


 シュミットとアイザックがリリスを見て感心する。


 前に聞いた時は、マイクロ単位の幅の重力空間を大きな広さで展開し前に発射する。原子核がそれに触れ揺れ動くと、物質特有の電波を出す。


 その電波を精密観測する。発射と移動タイミングが分からないと、自然の中の雑音電波と全く区別がつかない。発射側でないと理解できないレーダ。なおかつ防御不可。


「そんなものも有るんだ、興味魂がうずく。あーー知りたい、知りたい、知りたい、でも秘密?」


「もちろん」


 シュミットはガックリと肩を落とす。


「まあ、元々重力操作できるは、光速を超えるはで、人類と桁違いの科学技術だと分かってはいるが。信じがたい」


 そんなシュミットを見て。


「シュミットさん、人類も使える未来を目指そう」


「そうだね、明るい未来を目指そう」


 サンドイッチセットのモーニングが届いたので食べ始める。

 普通の味だったけど、実物はやっぱり良い。

 サクサクっとサンドイッチを食べたシュミットが紹介する。


「私はたまにしか来ないけど、こちらのアイザックが常駐する。何か有ったら彼に相談よろしく。それとこちらが君たち専用の通信機。世界中どこでも話せる。24時間オペレーターが対応する。持っててほしい」


 そう言って私達の前に、携帯型の通信機一式がテーブルに置かれる。

 リリスがそれをじっくり見た後、シュミットを睨む。


「これ、定期的に位置を送信してる」


 シュミットとアイザックぎくりと顔が緊張する。


「あははは、やっぱり分かる? 分かるかーー、でも場所がわからないと通信できないからね、どうだろう?」


「常に持ち歩かないければ問題ない、それでいいか?」


「仕方が無い、それでいいよ。君たちと全く連絡できないより良い」


 と言って項垂れる。

 リリスが受取、シュミットから簡単な説明を受ける。


「その他は、次の会談に話すけど。今日は挨拶と通信機を渡しに来た。アメリカ連合にとって君たちは最重要人物だからね」


 そして思い出したように。


「おっと忘れていた。確認の為の小惑星の位置教えてくれるかな? 前回はあれで終わってしまって、聞き忘れていた」


「わかった、書くものは?」


 シュミットは携帯端末を出すと、メモ帳のような物を起動する。

 リリスは3つの小惑星の座標と軌道を記入した。


「これは、現在時間の太陽を基準にした座標と公転軌道、これでいいか? 遠いので移動しても、直ぐには観測出来ない、多少時間がいる。何時から移動させるか連絡を。観測後元の軌道に戻す」


「OK、連絡して確認する。それと、月旅行もいい?」


「問題ない、何時行なう?」


「どのぐらい時間がかかる?」


「月の裏側を回って戻るなら2時間ほど」


「小惑星の確認は会談前に出来ないかもしれないが、これは会談前にやりたいので、2日後の朝10時でどう?」


「問題ない、あの重い宇宙服は周りの確認や機器操作にお勧めしない。普段着でもいいが、気になるのは宇宙線ぐらい、情報はこれでいいか?」


「確認してみる、場所はこの座標に来てくれ」


「わかった」


「わおーー、宇宙旅行だ!」


 会話を聞きながら、宇宙旅行だーーと言ってしまった。

 すかさず、シュミットが突っ込む。


「えっ、アリス宇宙旅行初めてなの?」


「あっ、成層圏は飛び回ったけど宇宙は初めて。シュミットは目ざとい、僅かな情報に突っ込む鋭さ」


 そう言ってシュミットを睨む。


「伊達に大統領の情報顧問をしていないよアリス。それにアリスは宇宙を飛び回ってると思ってた」


「地上人です」


 などなど雑談しながら朝食を食べた。




★★★★★ 


 2日後の朝10時、アメリが連合の宇宙センターに来ていた。

 上空から下を見ると、中央に3人居る。その周りを20メートルぐらい離れて各種観測機器が囲んでいる。3人の近くに急降下して着地。

 カメラや観測機器に出迎えられた、モルモット状態である。


 前には、2名の男とシュミットがいる。

 近寄って握手をしながら挨拶をした。2名は月旅行経験者の宇宙飛行士、1名がシュミット。薄い宇宙服に小さなバックパックを持ち。幾つかのポケットと腰の左右にバックが付いていた。そして頭の全周を被るヘルメットを右手に持ってる。


「あれシュミットも行くの?」


「こんなチャンス、絶対に逃さないよ。アリスたちの飛行を体験したい」


 彼らの右手に有るヘルメットを見て、これ会話できないかなと思って、リリスに聞いてみる。


「リリスヘルメットている?」


「無くてもいいけど、彼らに任す」


「シュミット、ヘルメットすると会話できないよ、無くても問題ないと思うけど?」


 それを聞いて、宇宙飛行士とシュミットが相談している。

 そして結論が出たようで。

 一人がヘルメットをして、二人が腰に取り付ける。

 そして交代するようだ。さすがアメリカ連合慎重だ。


 飛び立つために、輪になって手を繋いだが、観測機器が持てなかった。仕方がないので腰に取り付け必要な時に持つことにする。


「みなさん、手を繋いだかな?」


「「「OK!」」」


 周りの観測班が忙しく準備する。


「では飛ぶ」と言って5メートルほど浮く。


 男3人は無重力状態に近いが何故か下半身が下、上半身が上に弱い力で引かれている。


「これは、浮いてるけど、上と下に引っ張られる」


 と驚いて感想をもらす。3人は、周りを見、自身を見て、多少顔が引きつっている。


「完全な無重力だとフラフラするので、安定のため上下に引っ張っている。今回は多めに空気を運ぶ、外気と遮断するので音が消える。いいかな?」


「「「OK」」」


 周囲に大きなバリアが貼られ、環境音が消える。衣擦れの音と心音と呼吸音だけが聞こえる。3人は目お見貼って周りを見回り驚く。


「今から飛ぶ」


 言った瞬間、上に落ちる。

 何も聞こえない無音の中、大地が急に遠ざかる。

 目お見貼ってそれを見る3人。

 空が青から徐々に黒くなり、地球の丸みが見える。


「観測をしなくては、しかし手が離せない」


 たしかにこの状態で手を離すのは怖い。

 初めての肉体だけの飛行、それもほぼ無重力。怖いと思う。


「止まる?」と聞いた。


「ちょっと止めてくれ!」


 そして、地球が動かなくなり止まる。

 実はまだ少し動いているが、人間にはわからないと思う。

 私は前に見た、3D線画のレーダー画像が見えている、そして周りの状況が遠くまで分かる。

 最初に成層圏を見た時は怖かった。


「あーーその、お嬢ちゃん達、手を離しても大丈夫か?」


「暴れなければ問題ない」


 飛行士とシュミットはゆっくり手を離し装置を操作し始めた。


「すごいな、体が引かれて安定している。フラフラしない」


「姿勢を調整している」さり気なくリリスが言う。


 観測機器等を操作が終わり 「OKだ、飛んでくれ」


「では行く」


 みるみる地球の地平線が丸くなっていく。そして地球が回転し始める。


「今月に向って軌道を変えた、後は暇」


 3人は器材の操作や、撮影をしていた。

 わたしは地球を見ていた。綺麗だった。

 周りは無音、衣擦れの音と機器の音、心臓の鼓動に、呼吸音、そして地球が少しずつ小さくなるだけ。

 3人ともヘルメットを外していた。

 太陽の当たる部分と、影がくっきりとしている。

 太陽が明るすぎて、直接は見れない。

 これが宇宙なのかと感動する。


★★★★★


 しばらく飛んでいた、と言っても地球が少しずつ小さくなる以外飛んでいるのが分からない。真っ暗な中に5人がいるだけ。

 地球が十分小さくなると。リリスが「アレが月」と指差す。

 見ると月が大きく見えていた。どんどん近くなる。

 パノラマのCG映像を見ているみたいで、動いている実感がない。


 月が目の前に大きくなると、月が回り始める。

 裏側に行くんだと思うけど。加速を全く感じない。

 さらに、リアルな映像を見ている気分が強くなる。

 男3人は、何も話さずに見入っていた。


 月がゆっくり一周回ると徐々に小さくなってくいく。

 これは、本当にヴァーチャルワールドに居て見てるだけ感が強い。思わず。


「リリス、なんか旅行している気分にならない。映像を見てる感じ」


 3人の男もうんうん頷いている。


「アリス、これがライ連の飛行だから、加速感はない」


「分かっているけど、地球人としては……」



★★★★★


 短時間のあっという間の宇宙旅行は終わり。宇宙基地に着く。


 宇宙飛行士の男が一言。

「技術が違いすぎる……」


 シュミットがリリスに向いて。


「リリスありがとう、これは勝てん、無理だ、実感すると分かる。戦いにならん、何が起こったか理解できん。アメリカ連合は戦わないほうがいい……」


 最後はぶつぶつ言い始めた。

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