第16話 アリスご飯を欲す


 次の日の夜、リビングのソファーに座って寛いでいると。

 リリスが帰ってきた。


「ただいまアリス」


 振り向くと、ドアの前に頭に鷹を乗せたリリスが立ってた。

 鷹は周りを見ていた。

 あまりのシュールな姿に固まってしまった。


「おか…… 頭のそれ何?」


「鷹」


「いや、鷹は分かるんだけど、なぜ頭に?」


「アリスに回収した調査ユニットを見せようと思って」


「近づいても大丈夫?」


「問題ない」


「そう、ちょっと見せて」


 リリスに近づき頭の鷹を見る、鷹もこちらを見る。

 恐る恐る手で触れてみる。ピィーと可愛く鳴いた。

 手が少し止まったがそのまま撫でる。柔らかい羽の手触り。

 本当に普通の鳥だ、普通に動くし柔らかいし温かい、本物と区別がつかない。


「これ、本当に生きてるように見える」


「自己の意識としての知能は私だが、生物的な特徴は生物と同じ。基地には金属加工の装置がない、その分有機細胞部品ですべて作る。だから、見える物総てが有機細胞か、有機細胞の分泌物で出来ている。宇宙にある調査船の一部では金属加工ができる」


「なるほど、だから皿やコップが木なんだ」


「でも、作れないのがいろいろある」


「そうか、事故で壊れたんだよね」


「そう」


 リリスの船は、ワームホールの事故で全体の95%が消滅したんだった。

 事故とは言えほとんどが壊れた、それでも今こうして居る。

 回復するのがとても大変だったと思う。


「アメリカ連合の回収どうだった?」


「動物を売買している所の檻の中で捕まってた。ドアを壊して中に入ったら、動物たちが騒ぎだして、持ち主が来て銃で撃たれた。バリアが余裕で反射して、檻ごと回収してきた」


 爆弾発言きた、さすがアメリカ連合の銃社会。

 リリスの話しぶりは、まるで散歩に行ってきました、な感じ。


「なんか、すごい冒険をあっさりと、大丈夫だった?」


「問題ない」


「なんか、そのシーンが想像できる。不思議事件が追加されたかも」


「証拠は何も無いから大丈夫。地球技術では出来ないから迷宮入り」


 リリスの通常の語りが、返って確信犯ではないかと思う。

 不思議事件製造機リリス、やっぱり活躍してる。


「なぜ、そこを調査してたの?」


「近くの軍事基地にあると思われる、原子爆弾を探してた。地球で最も危険な兵器、所在を突き止める必要がある。攻撃能力の調査は安全保障を行う上で重要な調査」


「なるほど」


「原子爆弾が使われると、即人類は敵性危険生命体と判断される。だから事前調査が必要、私達の存続のためにも」


 たしかに、原爆は危険だバリアでも光線や高速な放射線は防げない。それに環境汚染がある。

 征服するにも原爆の無力化が必須、征服計画に追加する。


「リリス、地球征服するにも原爆の無力化が必要だよね」


「検討する」


 リリスが検討すると言った。リリスなら原爆の無力化をやってしまいそう、私の遥斜め上の発想で。期待していいのか、驚愕していいのか分からないけど、原爆の無力化は必須だ。

 相談しながら着実にやろう。


 しかし、先の話よりもまずは目前の大問題。食糧問題を解決するのだ。それにはお金! リリス様。


「リリス、調査ユニットが回収したお金有った?」


「持ってくる」


 頭の上に居た鷹は羽ばたいて、近くのテーブルの上に移動した。

 リリスは自分の部屋へ歩いていく。

 前に居る鷹が気になって目が離せない。よく見るために近づく、ピィー と鳴く。

 可愛すぎる。これがロボットとは信じられない。

 ペットにほしい……

 しばらくしてリリスが木の箱を持って戻ってきた。


「これがお金」


 テーブルにおいた箱を上から見てみる。

 ちょっと汚れた紙幣と硬貨がたくさんある。


「これは?」


「殆どが拾い物、20万近く有ると思う」


 あまり高いものは買えないけど、当面の費用には使えそう。

 稼ぐ手段がないから大切にしないと。


「20万、それは凄い。有り難く使わせてもらいます」


「どうぞ」


 まず最初に使いたいのが有る。家に行ってみたい。


「最初は、私の家に行っていいかな? 何もないと思うけど、何かの切っ掛けになるかもしれない」


「了解」


「よし、明日の朝一で電車で行こう、決まったので今日は寝よう」


 自室に戻り、ベットに横になりながら考える。

 家族は居ないし、家が有るか分からないけど、とにかく確認だ。

 何か切っ掛けが有るかもしれない。

 わくわく半分、不安半分の気分で睡眠に入った。



★★★★★


 次の日の朝、ベットで目を覚ました。

 今日は私の自宅に行く日だ。

 朝食を終えて、開口一番。


「今日は自宅へ行く日。飛行練習もしたし、今日は一人で飛んで見る」


「了解」


 ふふふ、もう飛行練習はした、行ける。

 基地出口の部屋に向かう。そして、穴の下に来て上を見上げる。

ーー上にゆっくり飛ぶ。

 と考えると上に向かって落ち始めた。

 どんどん上に落ちていく、照明が横を通り過ぎて行く。

 楽しい、これは楽しい。

 そう思っていたら、行き止まりが見える。

ーーあそこの手前に止まって。

 減速の為に下に引っ張られる、そして立坑の終わりで止まり浮く。

 横を見ると出口の部屋。

ーー部屋の真ん中を見てあそこに降りる。

 ゆっくりと移動しながら進行方向に回転して足が部屋の中央に着く。

 なんとも簡単に飛んだ。

 飛行方式から考えるに、とても細かい重力空間制御をしているはず。

 私の思考を読み、方向を決め、強さを決め、目線から座標を読み取り。地球からの相対ベクトルを求め、安定した体の方向を保ち、飛行時のブレを制御し。目的の場所へ行く。

 人類の技術では難しすぎる、それをあっさりと行う。

 少し感動してしまった。

 感動の余韻に浸っていると、隣にリリスがきた。


「出口への飛行おめでとう」


「ありがとう、なんか感動した」


「出口の扉を開いてみて、開けと言えばいい、思考でもいい」


 出口を見ながら「開いて」と言う。

 ドアが自動で開き始める。

 二人で洞窟に入り。

 後ろのドアを見て「閉まって」と言うと、隙間無くキレイに締まり洞窟の壁と一体化する。


「音声認識がやっぱりいいかな」


 と言いながら、洞窟の出口に向かう。

 今日も空は綺麗だ、朝の日差しが優しい。

 飛ぶことが楽しかったので、森も飛ぼうと考えて。


「よし、今日は手を繋いで飛ぶぞ」


 と言ったが、よくよく周りを見れば森の中。

 木を避けながら飛ぶのは、無理そうだった。

 リリスの方に顔をゆっくり向けて。


「森は、ちょっと無理かも……」


「了解、抱っこしていく」


 と言って、何時もの様に後ろから抱っこされ飛ぶのであった。


「ううーー、見つかったら不味いし、高く飛べないから、抱っこから離れられない……」


 そうして、町の近くまで運ばれる。

 歩いて町に入り、バス停まで行く。

 相変わらず注目の二人。白と黒のゴスロリ少女は目立つ。

 バスに乗り駅に向かう。

 リリスは静かに隣を歩いて、いろいろな物のを見ていた。

 駅で切符を買い市内までの電車に乗る。


 ガタ、ゴト、と揺れながら電車は進む、踏切の警報音がドップラー効果を伴って、前から後ろへ流れていく。

 電車の中でのんびり座っていると。

 近くの若者がこちらをチラチラ見て話していた。


『リリス、あそこの学生が話してるの分かる?』


『分かる、謎のゴスロリ美少女がいた、とか言ってる』


『謎のゴスロリ美少女だって、それって私達?』


『たぶん』


 なんと! 謎人物になっていた。大丈夫だろうか?

 目が合ったのでニコって微笑んで手を振ってみた。

 途端に若者が騒ぎ始めた。

 失敗したかな? まあいいかなと気にしないことにした。

 しばらく電車や景色を楽しんでいた。


 市内の田川亜理朱宅近くの駅に着いたので降りる。

 駅は80年前とは様変わりし、近代的になっていた。

 駅を出たら道も景色も変わっていた。

 駅前の大きなロータリーとタクシー乗り場、車が列をなしている。そして上には立体的な歩行通路、周りは十階建ぐらいのビルが並んでいる。ビルはガラス張りで、洒落た喫茶店やレストランが見える。騒々しい車の騒音や、人の行き交う姿を見ていた。


 余りの変わり様に呆然と見ていた。

 そして、昔と違いすぎて道がわからない。

 でも、方向と大体の場所が分かるから問題ない。

 駅を出たローターリ付近で立ち止まっていた二人は、注目の的だった。

 今日もリリスは黒のゴスロリ、私は白のゴスロリだった。


 前方の右上に見える仮想スクリーンの時計アプりを見る、お昼だ。

 今はお昼だ、ご飯だ、普通の・ご・飯!

 ふふふ、普通のご飯が食べれる。


「リリスちょうどお昼だからご飯食べよう」


 満面の笑みでリリスを見た。そして…………


「持ってきた」


 と言って、肩に掛けた少し大きい、花柄の深い青色ポーチを出してきた。

 思わずポーチを凝視して、違うんだ、それじゃない。

 ソレじゃないんだ。

 お金は勿体無いがしかし、80年ぶりに普通のご飯が食べたい。

 リリスを睨んで。


「普通のご飯が食べたい」


 とお願いする。


「いいよ」


 許可が出た、喜んで周りを見渡すと駅の隣にファミレスが有る。

 あそこだ、あそこなら安い!


「リリスあそこに入ろう」


 リリスの手を握り、並んで進む。

 進んだ先には、昔と変わらない雰囲気のファミレスが有った。

 一緒に入ると、ウエイターが現れ禁煙席に誘導してもらう。

 窓際の4人テーブルに二人座る。


「リリスは普通のご飯食べたこと有る?」


「初めて」


「何食べたい?」


「アリスのおすすめで」


「おけーー」


 メニューを見る。昔と変わらないメニューで安心できる。

 リリスにメニューを見せ、指で示す。


「この、ランチセットのドリンク付き和風ハンバーグとライスでいい?」


「それで」


 ウエイターをボタンで呼び、ランチセット二つとオレンジジュースを頼む。

 灰色ドロドロ以外を初めて食べる期待にワクワクしていた。

 しばらくして、ランチセットが運ばれる。

 リリスも興味深く見ていた。


「リリス食べ方大丈夫?」


「問題ない」


「では、いただきます」


 最初にハンバーグをナイフで切って食べる。

 うん美味しい、リリスの味ほど美味しくないが、やはり見た目と食感には勝てない。実物を食べるのはいい。

 リリスは、興味深げにランチを食べている。


「リリス美味しい?」


「何時もの食事より美味しい」


「あれ、リリスは味を変えてないの?」


「食べられる程度に少しだけ変えた」


「へーー、リリスも少しだけ変えてるんだ」


「実物は、不味い」


「どのぐらい不味いの?」


「おすすめしないが、食べてみる?」


 と言って、右に置いてあったポーチを出してきた。


「どうしよう?」


「止めておいたほうがいい、食べられなくなると困る」


「それほど!」


 食べられなくなるほどの不味さ、想像が出来ない。

 止めておこう、今は外の食事を毎回食べるお金がない。


 雑談をしながら昼食を終り、ファミレスを出る。

 とても満足した、基地でも自炊できるように計画しよう。


 さあ、食事も終わったので、80年ぶりの自宅を見に行こう。

 期待と不安を胸に歩き始める。

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