第25話 閑話 リリスと少年


★★★★★ リリス視点


 今日は地下基地のリビングでアリスと今後の方針や計画を話していた。

 その時、ブリテン王国を調査中の虫型調査ユニットが緊急連絡を送ってきた。

 網に捉えられ、虫籠に入れられてしまったと。

 この調査ユニットは、生体部品以外の装置を積んでいないため、緊急回収の必要は無かった。

 しかし、潜入調査用の端末を運んでいる最中で、それは大きさが5ミリの金属球の潜入ユニットだった。

 この潜入ユニットを回収する必要があり、任務を行う。


「アリス、ブリテン王国で、虫型の調査ユニットが捕獲された。普通であればそのまま自己消滅し死ぬ予定だが、潜入用の調査ユニットを運んでいた。回収に向かう」


 アリスは驚いて私を見る。


「今度はブリテン王国! 世界中で不思議事件を製造しているリリスが半端無いです」


「アリスも行く?」


「行きたいですが、今はPCの私専用のソフトを作ってる。今日中に完成したいから行けないかな。急ぐの?」


「急ぐ、一人で行ってくる。アリスはこの基地に居てほしい。もし出かけるなら仮想会話で呼んで。予備のリリスを出す’」


「わかった、のんびりしてるから大丈夫、気おつけて行ってきて」


 アリスは残念そうにしていたが、笑顔で手を振って送っていた。


「了解、では行く」


 出口部屋に歩いていった。

 そして、基地出口に飛び立つ。

 洞窟を抜けて外に出ると、日差しは昼の3時頃だった。

 少し浮いてポーチから乳白色の膜を取り出し、全身を覆う。

 これで遠目に見られても警戒が薄れる。


 約1時間後にブリテン王国に着き、捕獲されたユニットの上空30キロで止まる。レーダー波は検出しない、監視はないと判断。降下して上空3キロに止まる。

 上から見ると森の中に幾つか家やビルが有る田舎の風景だった。

アクティブレーダーに脅威となる武器は見つからない。


 捕獲されてユニットから200メートル離れた地点に着地しゆっくり移動して、捕獲者を見た。

 15歳ぐらいの茶色で短い髪の活発そうな男の子が、虫籠と網を持って木の間をウロウロして何か探していた。その少年が持っている虫籠にカブトムシ型調査ユニットが入っていた。


 ターゲットを発見したが如何に回収するか考える。

 そして、力よりは話すことにした。

 翼と牙を収納し、少年に近づく。


「こんにちは」


 少年はびっくりして振り返る。しかし私の姿を見て安心する。

 たぶん、少年より小さな少女が現れたからだろう。


「君も虫を捕りに来たのかい? こんな森の奥は危ないよ」


「いや、その虫籠に入っているカブトムシを回収に来た」


 そう言うと少年は慌てて虫籠を後ろに隠し。

 怒った顔と声で否定する。


「だめ、これは俺がとったカブトムシだ。渡せない」


 困った、力で回収するのは簡単だ。しかし少年に力を振るうのは躊躇いが有る。どうしたものかと考える、そして。


「渡せない理由が有るなら教えて欲しい」


 その言葉を聞いて、少年は上を向いたり下を見たり私を見たり、唸りながら考えているようだった。しばらくして。


「着いて来い」


 と言って歩き出す。他に方策も無いので、少年の後ろを着いて行く。

 なだらかな坂を上がると見晴らしのいい丘の上に出る。

 登りきった場所で少年は止まり大きなビルを指して。


「あそこに俺の妹がいる。寝たきりで外に出られないから、カブトムシを見せて元気になってもらうんだ。だから渡せない」


 少年には正当な理由が有った。やはり力よりは理由の解決を目指そう。


「妹に会える?」


 少年は私を見て満面の笑みをしながら。


「それはいい、カブトムシを見せて、君を紹介すれば妹は喜ぶ。歳は同じ位だし来てくれ」


 そう言って私の手を握り有るき始めた。

 少年に引かれて坂を降り、小道に入り歩いてゆく。少年が指しビルが近くになリ見ると大きな病院だった。

 入り口の自動ドアを通り、受付で面会の手続きをして、進む。

 3階の通路の奥のドアの前に止まり、ノックをして中に入る。

 病室は一人部屋で、やつれた12歳ぐらいの少女が背中を斜めにしたベットにもたれていた。

 こちらを見て寂しそうな顔が笑顔になる。


「お兄ちゃん、来てくれたの嬉しい」


「今日はお前にいいものを見せに来た」


 満面の笑みで少年は虫籠を上げる。


「ほら、見てみろカブトムシだ、さっき取ってきたんだ」


 少女のベットの腰辺りに差し出し持たせる。

 少女は受取りキラキラした目でカブトムシを眺める。

 そして、後ろに居た私を少女の前に押し出し。


「友達も連れてきたぞ」


 少女は私を見て大きく目を開けて驚く。


「お兄ちゃんどうしたの、こんな綺麗な子を連れてきて」


 少年は私の隣に来て、自慢げに話す。


「さっき会って友達になった」


「凄いお兄ちゃん」


 兄を褒めるように驚き、私の方を向いて恥ずかしげに。


「はじめましてアンジーです」


「リリスです」


 挨拶をしながら、数回精密なアクティブレーダースキャンを少女にする。

 病気の原因が判明する。少女の心臓の隔壁が薄くなり小さな穴が開いていた。生まれつき隔壁が薄かったのだろう、育つことでより薄くなり穴が空いたようだ。たぶん半年も生きられない。

 この問題が解決できれば少年はカブトムシを渡してくれるだろう。

 少年に向かい。


「妹さんの病気を治したら、カブトムシを渡してくれる?」


 少女と少年は驚いて私を見る。そして少年が。


「手術しても治る可能性が低いって医者が言ってたよ、治るの?」


「治る」


「治るなら、カブトムシは幾らでも上げる」


「今日の夜10時に薬を持って、窓の外に来るから、開けて待っててくれる?」


 少女は驚きの顔で固まっていたが、目から涙が流れていた。


「うん待ってる。その時カブトムシと交換する」


「このことは誰にも話してはいけない、3人の秘密。いいですか?」


「大丈夫、絶対に秘密にする」と少年いい。

「うん、絶対秘密」と少女が宣言する。


「では、数本の髪の毛と、口の中のを見ていい?」


 少女は急いで涙を拭いて私に近づく。


「見てください」


 少女の涙声を聞きながら、ポシェットからハンカチを出して、人指し指にハンカチを被せ、少女の口の中に指を入れ頬の裏を拭き取る。そして数本の髪の毛を抜いた。これは、少女の遺伝子を採取して生体再生用の人工細胞を作るため。

 終わると少女に。


「これで薬を作る。夜10時に来るから待ってて」


「お願いします」


 と言って泣きながら私の手を握る少女と、心配そうに見守る少年がいた。


「では、急いで作るから行きます」


 軽く手を振って病室を後にする。

 森に戻り、垂直に飛び日本基地に入る。アリスと少しだけ会話して、生体製造ラボに入り、採取した遺伝子を元に生体再生人工細胞を作り始める。




★★★★★ 少女の病室 少年主観


 銀髪の少女と別れた後、夜の10時に窓を開けて待ってる? ここは3階、高くて窓からは入れない。本当に大丈夫だろうかと思う。

 しかし、妹が治るなら何でもすると思っていた。


 面会の終了時間前に少女の病室に来て、ベットの下に隠れる。

 妹には「ここに隠れてるから、知らないふりしてて」と言ってある。

 看護婦の夜の見回りが終わり。10時前にゆっくりとベットの下から

出てきて、妹に小声で。


「起きてるか? 準備はいいか?」


 妹は流行る心を抑えて、嬉しそうに小さな声で。


「大丈夫、もう誰も来ないから」


「よし、音は立てないように静かに話すぞ」


「うん」


 時間前に窓に近寄り、ゆっくりと窓を開ける。

 外は暗く僅かな街灯と星が見えるだけで何も見えなかった。

 後ろから心配そうに妹が見ている。

 だから、妹のそばに来て一緒に窓を見ることにした。


 もうすぐ時間た。妹が


「10時になるよ、くるかな?」


「絶対来るさ」


 自信の有る声と妹の手を握って、不安な妹を安心させる。

 でも、ほんとに来るのかは不安だった。

 妹と一緒に窓を見ていた。

 窓の外に何かが動いた、目お見開いて窓を見る。

 上からゆっくりと、足が降りてきた。そして全身が見え始める。

 そこには大きなコウモリの翼を背に、銀髪の髪がなびき、真紅の瞳をした少女が居た。

 ゆっくりと窓に近づき、翼が小さく折りたたまれて窓から少女が入ってきた。

 驚きのあまり声も出なかった。あまりにも幻想的な状況が目の前に有る。銀髪の少女は床にゆっくりと音もなく降り立つ。

 昼間の少女リリスだった。


「こんばんは、来ました」


 挨拶をされたけど、声が出ない。妹に押されて気がつく。


「こ、こんばんわ、ま、待ってた」


 どもってしまった。それに気が付いて赤面した。


「待っていました」と妹が言う。


 妹を見ると、目がキラキラしている。

 だめだ妹が呆けてる。俺がしっかりしないといけない、気を引き締める。

 リリスがゆっくりと近づいてくる。


「今から駐車みたいな事をするけどいいかな?」


 妹を見て聞いてきた。


「はい、どうぞ」


「袖をめくって右腕を出してくれる?」


「はい」


 妹がなんの疑問もなく、行動する。

 俺なんか心配でオロオロしてしまう。

 リリスがその腕を取り、口を近づける。

 そして見た、口に2本の牙が有った。

 驚いて制止する。


「まて、その牙は何だ?」


 リリスが止まり、俺の方に向いて。


「薬を注入するんだけど、止める?」


「お兄ちゃん! やめて! 私は信じてる。もう痛いのも苦しいのも嫌、治りたいの、昔のように遊びたい」


 妹の剣幕にタジタジとなる。確かに妹はとても大変だった。死ぬほど胸が苦しくて痛いとよく泣いていた。


「わ、わかった。リリスよろしく」


 そしてリリスは、妹の腕に牙を刺す。

 1秒ほどで終わり口を離す。

 妹に近寄り傷口を見ると、血も何もない、少しへこんでいるだけだった。妹も、狐につままれたように見ている。そして妹がこぼす。


「最初、チクとしただけで痛くなかった」


「1週間ほどで治る、何故治ったか聞かれるけど絶対に言わないで。言ったら治らない」


 二人して、顔を上下にして頷く。


「では、このカブトムシは貰っていく」


 そう言ってリリスは、カブトムシの籠を開けると。カブトムシがリリスの手に乗り静かにしていた。

 信じられない光景を見て、妹と手を強く握っていた。


 そして、ゆっくり浮き窓に移動して、窓の外に出ると。翼を広げ上に飛んでいった。

 信じられないほど幻想的な光景だった。




 あれから1週間、妹は本当に元気になった。何の痛みもなく庭を歩き、少しだが走ることも出来る。

 体力が戻ったらもっと走れる、そう思った。

 医者は信じられないと騒ぎ検査しまくり。

 父母は泣いていた。

 何度も聞かれたけど、絶対に秘密だ。

 妹と二人だけの秘密が出来た。

 あの時いらいリリスと会えなかった。

 お礼がいいたかった。



 2年後に、リリスがTVで出てくるまでリリスに会えなかった。

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