第3話 田川有理朱は捕食された
二人は頭を上げて向き合う、リリスはゆっくりと話し始めた。
「私は、ライトリング銀河連合、連合宇宙軍、安全保障局が管理する、第一級調査船リリスZA100943」
え? なんかリリスが真剣な顔で飛んでもない話をしてる。
マジなの、本当にマジなの、危ない人じゃないと思うけど。
ちょっと話が宇宙の彼方に飛んでいる。
いや、本当に宇宙の彼方の話だ。マジなの?
「ちょっと待って、あなたは宇宙人?」
「地球外知的生命体が管理する調査船」
「調査船…… 船なの?」
「そう、私は船」
とうとう、生命でもない船と話をしている事になった。
宇宙を飛び越えて船と会話。
危ない話なのか本当のことか、判断がつかない。
「こうして普通に話してるけど、生命じゃないの?」
「いえ、ライトリング銀河連合、以後ライ連と略す。のライ連ルールでは人工知能を搭載したロボット船、分類は機械的な物質」
答えが出た、船の人工知能と会話、飛んでいるのは同じだけど。
本当に人工知能なら、途轍もない技術だ。
話していても会話に違和感がない。
「なんと、人工知能で物ですか……」
こんな少女が船で人工知能で物、少し可哀想。
事実なら人類にはまだ出来ないオーバーテクノロジー。
「続けても良い?」
「どうぞ」
「今から、地球時間で92年前、探査プローブ船が新たに発見した知的生命体を調査する任務でアルファ宇宙域に移動した。移動にはワームホールを使ったが、移動中突然ワームホールが消滅することを観測。
徐々に細くなっていく道を駆け抜けるため加速を開始。しかし無傷で出ることができなかった。
徐々に細くなる道に船体が削られ、全体の95%がエネルギーに分解され消滅。わずかに残り5%が脱出できた。
ここ太陽系の近くに」
「ここまで何か質問はありますか?」
「いえ」
話が宇宙の彼方、光速も超えた先にあった。
質問など不可能か、あり過ぎるかのどちらしか無い。
「いつでも、質問して良い」
「はい」
「脱出できたが船体の損失が大きく、特に並列思考演算ユニットの有機部品が船体消滅時の輻射エネルギーと熱で大きく損傷し た。
修復しようにも有機部品がほぼ無く、有っても輻射エネルギーで汚染され使えなかった。
その結果、私の思考が大きく損傷していた」
「ルール裁定思考演算ユニットから、存続を総てにおいて最優先に行動する指示を受けた。残っている資源では存続が不可能なため、外部に求めた。
それが地球。
地球上には豊富な有機生命体を観測し、それを資源に再生を行う」
有機生命体を資源って、食うの? 食べちゃうの?
「ちょっと待って、生命体を資源にって、それは食べるということ?」
「存続が最優先される」
「ひょっとして私、食べられた?」
「捕食した」
「……」
そうか、食べられたのか……
食べられた……
たべ……
……
美味しかったかな……
は! いけない、現実逃避している。
「ちなみに、味覚を感じる機能が無かったので、味は不明」
「はぁ、それは残念。いや! 現実逃避してる場合じゃない!」
現実逃避しつつも、ここに居る私は何? と思ってしまう。
そして聞く。
「でも、私はここに居る、生きている、どうして?」
リリスはその経緯の説明を始める。
「太陽系の近くに脱出後。数年かけて残った船体を分離しつつ、直径10mの球形の殻に包まれて地球に着陸する予定であった。しかし、思考演算の多くが機能不調で重力空間制御が操作不良になた。
そして、ここに墜落した」
「地球接近時の観測で、知的生命体が居ることは分かっていた、その姿も。
正常な思考演算が出来ていれば、あなたを捕食することは無い。たとえ死にかけていても放置し接触しない」
「死にかけていた?」
「墜落に巻き込まれた」
墜落に巻き混んだのかい! と心の中で叫んだ。
「そう、ですか……」
しかし、死にかけてたのか。
確か最後の記憶は、友達に連れ出されたキャンプで、散歩のつもりでキャンプ場を離れたら、迷子になっていた。
あれが最後だったのか。
「大気圏突入の熱と墜落時の衝撃で、思考演算ユニットは大きなダメージを受けた。そのため思考の殆どが機能せず。残りの総てを存続の行動のためだけに思考した。そして、周りに有る有機生命体を手当り次第に捕食した。
そこにあなたがいた」
「あなたを分解吸収している時、知的生命体であることを理解した。そして、論理演算に適している脳構造であること、さらに、生きたいと強く思っていること。
私はすでに捕食して分解吸収するするだけの、原始生物に近かった。その状態の中であなたの持つ知的生命体として、高次元のメタ思考が出来る知能が、私の消えかけた知能の補助になると判断。
その結果、あなたの脳を、思考の補助に利用した。
そしてあなたは、私の機能の一部になった」
リリスが一息ついて、私の目を見ながら話す。
「それが、あなたが今、生きて思考している理由」
私は一連の説明を聞いて、テーブルを見ながら深く考に入った。
なるほど。
確かに私は、友人から超技術オタク少女と言われるほど技術に傾倒していた。
コンピュータ開発会社に務める馬鹿な父親に教育され、赤ん坊の頃から歩くよりも早くボタンを押していた。
チンパンジーの教育を参考にしたそうだ。
今思うと狂っている。
幼稚園で既にプログラミング言語とは何かを知っていた。
小学1年でプログラミングしていた。
そんな父親にお礼を言うべきなんだろうか。
「なんとなく理解できました。私はあなたの中に居るのですね?」
「そう」
「ではこの体は何?」
「ほぼ人間と同じ構造の人型端末」
リリスが真剣な表情で人型端末と言った。
それは、すなわち機械、と言うことはロボットですか?
「えーーと、ロボット?」
「そう、遠隔操作され、人工細胞で構成するロボット」
驚愕の事実! 私はロボットになった!
いやちょっと違うか、だがしかし、それほど違いはない。
「あなたの体が破壊されても、あなたは死なない。
私の本体が総て破壊されると、あなたは死ぬ。
あなたの体の予備は現在2体ある」
驚愕の事実、第二! 私は不死になった!
ちょっと違うか、だがしかし、それほど違いはない。
「ひょっとして、不老にもなった?」
「私が存続する限り、老いは無い」
驚愕の事実三、不老。ちょっと驚くのに疲れた。
「他に何か人間と違うところは有る?」
「SFアニメに出てくる様な、空間に仮想スクリーンが見える」
突然、目の前に青い半透明のスクリーンが見える。
某Window○画面が現れた。
私が使用していたパソコンのOSの画面だ。
そして、何故か目の前に、マウスとキーボードも半透明に見える。
なおかつ幽霊のように透けて見える両手があった。
リリスの話と体の変化以外で、人類の技術では有り得ないオーバーテクノロジーが目に前に現れた。
詳細な映像を映す空中スクリーンは実現できていない。
マウスとキーボードが半透明で空中に浮いている。
そして、私の手が半透明にそこに有る。
しかし、何故空中に有るスクリーンがWindow○でマウス、キーボード装備なのか問い詰めたい、小一時間問い詰めたい。
「あなたが理解できるように、あなたの使用したOSの画面を出した。
しかし、それは80年前のOS、今は使われない。使いたいなら当時のアプリケーションも入れて使える」
まて、聴き逃せない単語が、80年前、マジですか? ホントですか。
私が記憶している最後の年は1985年、今は80年後?
「ちょっと待って、80年前のOSってなに?」
「墜落事故に遭遇したのが今から80年前」
80年前! 確かに長く寝ていたような記憶が有る。
寝ながらなにか作業していたような。
80年か、世界が変わっているかな、お父さんお母さん亜理朱は寝ていました、帰れなくてごめんなさい。
「私、田川有理朱(たがわありす)はどうなったの?」
「田川有理朱は山火事に巻き込まれ、死亡となっている」
私は既に死んでいた、それも山火事で。
何を言っているのか自分でも理解できない。
お父さんお母さんごめんさい。
「私は、現実では死亡扱いだったのか。なぜ80年も開いてるの?」
「存続のための再生、極秘するために地下への避難、知的生命体人類の調査、極秘潜入調査、太陽系に分離し残した調査船の一部の機能修復等々、存続のために必要な行為と安全の確保。
そして、あなたの体を作成する設備と作成時間、この基地の作成。
必要な準備ができるのに80年かかった」
話を聞きながら、親のことを考えて俯いていた。
「そうですか。父母はどうしているのだろう」
「残念ながら、死んでいる」
「80年も経ったら寿命も切れるか、天涯孤独か……」
「孤独ではない、あなたの親友が此処に居る」
天涯孤独と思って寂しかった瞬間、親友が居ると言われて、嬉しかった。
リリスは悪い人ではない。
話は飛んでるけど、話しぶりは真摯で嘘や誤魔化しを感じない。だから親友になれるかも。
「ありがとう」
少しの時間沈黙が訪れる、そして。
「では続ける」
「見えるスクリーンやマウス等は、あなたと私しか見えない。現実にそれが有るわけではない。それはあなたの脳に、それが有るように加工して情報を送っている。
実際に操作してみて」
私は手を動かしてみた。
すると半透明の手が動く、目の前に持ってくると向こう側が透けて見える。でも自分の手だと分かる。
マウスを透明な手で触る、マウスを握っている感覚が有る。
机の上で動かすように接地感も重さもある。
動かすとスクリーンのカーソルも動く。
メモ帳を立ち上げて透明な手でキー入力する。
クリック感もあるし、手が机の上に乗っている感じもする。
操作音やビープ音まで聞こえる。
まるで実物を操作しているように感じる。
でも総て半透明。
そして私に付いているリアルの腕は、邪魔にならないように動いていた。
「あなたの体の肩から先の腕は、私が問題ないように操作している。あなたは肩から先の透明な腕を操作している。全体で、行動に矛盾が起こらないように制御している」
ここまで現実に有り得ない状況を体験すると、地球の科学技術ではできないオーバーテクノロジーだと分かる。
遥か未来の技術だ、リリスの話が全部事実だと信じられる。
疑ってごめんなさいと心の中で謝罪する。
しかし、ちょっと待ってほしい。会話が妙にツボを心得てる。
まるで私の心が見えてるように。
これは聞かねばならない。
「リリス、ちょっと気になることが有って聞きたいんだけど」
「なに?」
「私が考えていることが見えてない?」
「私は、超並列思考型人工知能、私に組み込まれたあなたは平列思考の一つ。見えているのでは無い、あなたの思考は総て私の物」
「…………」
言葉が出ない……
理解不可能! が頭の中でこだまする。
「申し訳ない、私のかなり深いところで、あなたと私は融合している。
今は切り離すことができるが、あなたは死ぬ」
落ち着くんだ私。深呼吸しろ。ふーーはーー、ふーーはーー。
これはあれだな、聞こえてるとか見えてるとか、そんなチャチな事じゃない、もっと恐ろしい片鱗を……
………………
………………
………………
と現実逃避する。
「えーーと、私にはリリスの思考は感じないんだけど?」
「あなたの人格を守るために、あなたに他の思考が影響しないようにしている」
「そうですか……
まあ生きているし、いろいろ驚愕のメリットもあるし。
思考が総てダダ漏れは諦めよう……
あははは、ダダ漏れ……
ダダ漏れ……
ダダ……」
私はガックリと肩を落とす。
「元気を出してください」
キッとリリスを睨み、それをリリスが言うな! と心で叫んだ。
でもこれも聞こえているか、と諦める。
そして、休憩が欲しくなる。
「少し休憩しましょう、驚くことが多すぎて疲れた」
「了解、寝てた部屋があなたの部屋。ゆっくり休んで」
私は、寝てた部屋に行きベットに横になりつつ目を瞑る。
色々な事を考えていたが、思った以上に疲れたようだ。
そのまま眠ってしまった。
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