第12話 アリス「日本国籍が必要!」


 基地出口の周りを見る。日差しが明るい。

 片隅に見える時計アプリの時間は午前9時頃。

 優しい風が吹き抜け、森の木の葉の揺れるざわめきが聞こえる。

 基地の中では感じなかった草木の匂いが、周囲から香る。

 後ろで バサリ と音がして振り返ると、リリスの黒いコウモリの翼が背中に収納されていた。

 そして顔を見ると、牙がなかった。


「え? 牙も収納できるの」


「できる」


「便利、それなら最初から牙も翼も無くていいのに」


「私の好み、変更は受け付けない。それに、この牙と翼にはいろいろな機能が有る」


 リリスのキッパリとした発言に、黒歴史の修正は不可能だと溜息が出た。


「アリス、何処に行く?」


「そうね、まずは近くの町に」


「了解、遠いので低空で見つからないように飛ぶ。

 アリスの飛行練習は人のこない山奥で次の機会にする」


 そう言って、私を後ろから抱き少し浮く。


「あれ、翼出さなくても飛べるの?」


「仕舞うと機能に制限がかかる、出したいが見つかると困る。

 出せば、地球を数時間で回れる」


「戦闘機も真っ青! わたしも?」


「アリスは無理、性能が低いユニットが入っているし、広範囲レーダーを装備していない」


 話しながら森の中を走るより速いスピードで進む。

 森の中なのに器用に木の無い道を飛んでいる。

 まるで既に道が分かっているように。

 30分ほど飛ぶと、遠くに町が見えてきた。

 随分遠い山奥に基地が有った。

 町の近くで降りて歩いていく。

 この辺りの地理は見たことがない、キャンプ地と違うような?


「あれ、キャンプ場近くじゃない?」


「あの場所で安全確保はできない、移動した」


「そうか、山火事だしね」


 しばらく雑談しながら歩いていく、そして、民家が立ち並ぶ町に入る。

 すれ違う人がみんな見てくる。

 黒と白のゴスロリ服を着た、美少女が二人歩いてれば、注目されないわけがない。

 自分の服とリリスの服を見ながら思う。


「リリス、注目されすぎ服変えたい」


「これしか無い、人間の服を手に入れるのがいい」


「お金は?」


「いま使えるのがない」


「うぐ、家にも行ってみたいけど、電車賃がない。まずはお金の入手が目標か」


 うーーん、 お金の入手、 お金の入手……

 おカネの入手方法を考えながら歩いていた。

 通り過ぎたコンビニで、アルバイト募集のチラシを思い出した。

 アルバイトしか無いかな?


「リリスはアルバイトできる?」


「たぶん問題ない。ただし、安全保障上アリスと別行動できない」


「よし、さっき通り過ぎたコンビニでアルバイトを募集していた。リリスこちらに、あそこで聞いてみよう」


 リリスの手を引いて道を戻っていく。

 コンビニの外見はほとんど変わっていない、店内は明るく人は居なかった。

 透明なガラスの自動ドアの前に立つと、左右に開いてピンポーンとチャイムが鳴る、室内音楽が聞こえ始めた。

 二人揃ってコンビニに入る。


「いらっしゃいませ!」


 店員がレジ奥から元気な声を掛けてきた。

 レジの前に進む、背が小さいので上目遣いで店員を見て。


「あの、そこのアルバイト求人を見てきたのですが」


 窓に貼ってある募集ポスターを右手で指して言った。

 店員は少し怪訝な表情で私達を見た。


「えーーと、履歴書と住民票または国民番号が入った国民証明書、もし外国人なら就業許可証を持ってきてください。

 でも、ちょっと年齢的に無理かもしれない」


 私達の外見は12歳程度、たしかに無理かも。

 それに、証明書がない!

 リリスはどう見ても外国人。


「それは必要なのですか?」


「はい、前から不法滞在者の外国人が多くて問題になってて。証明書は必ず取るようになってます」


 時代が変わっていた、不法滞在外国人問題がこんな田舎にまで。

 と、内心で驚いていた。

 昔は履歴書ぐらいだった。

 少し肩を落として触りのない返答をする。


「そうですか、書類を揃えて来ます。ありがとうございました」


 お礼を言ってコンビニを出る。

 こまった、どうしようか考えながら歩き始める。

 しばらく歩くと通り沿いに公園が見え、中に入りベンチに座って考え込む。リリスも隣に座る。

 こまった、自身を証明するものが何も無かった。

 アルバイトも出来ない。

 無いものが多すぎて、一つ一つ考えてみる。


 まず、住んでいる住所がない。

 そして、連絡先の電話がない。

 住民票もない。

 日本人を証明する国民番号がない。

 もちろん外国人の証明も就業許可証もない。

 国籍を証明するものがないので無国籍。

 そしてお金もない。


 自身を証明するものが何もない。

 存在証明が何もない。

 こまった。

 

「リリス〜、日本人なのに証明するものがない。地球上に私の存在を証明するものが何もない〜」


「ライ連には、アリスの存在を証明するものがある」


「そうだけど、アルバイトも出来ないから、お金が〜」


「アリス、調査ユニットが回収した資料の中に、お金が入っている可能性が高い。今後期待されても困るから言わなかったけど、調べてみる?」


 思わぬ助けが来たとリリスに向いて ヒシ とリリスの手を握り、感激の涙を流す。


「ありがとう、それを元に私は日本人だから、日本国籍を取る!

 リリスも日本国籍を取る!」


 そう言って立ち上がり、拳を握りしめる。


「どのぐらい有るの?」


「基地に帰って調べないとわからない」


「よし、じゃ今日はゆっくり街を見ながら帰ろう」


 公園を出て、しばらく歩いてたらお腹が空いてきた。

 朝食を食べていなかったことを思い出す。


「リリス〜、お腹空いた」


「水なら公園に有る、食料はない」


「外のご飯が食べれると思って、朝ごはん食べなかったけど、お金がなかった」


 ガックリと肩を落とす。


「空腹を無くすことはできる、ただし長期はダメ」


 とたんに空腹感がなくなった、便利すぎる。


「なんか、納得できないけどありがとう。何処かで水のジュース飲もう」


 町を歩き回りながら、いいろいろ話して二人は基地へと帰る。

 明日は飛行訓練をしようと話していた。




***** 町の学生 (三人称)


 三人の学生が集まっていた。

 学生Aが二人の学生に問いただす。


「おい、二人の超美人ゴスロリ少女見た?」


 学生Bが興奮して答える。


「見た見た、あれ誰? 何処の子? 見とれて電柱にぶつかりかけた」


 学生Cが自慢げに言う。


「おれ遠くから拡大で写った」


 学生AとBが、即効でスマホに送るのを要求する。


「「くれ、送れ、今すぐ送れ!」」


 学生Cは二人にメールで写真を送る為に、スマホを操作始めた。

 しばらくして、ピロロンとメールの着信音が響く。


 学生Aが嬉しそうに宣言する。


「よし、ちょっとネットで囁いてくる」


 二人の知らない間に《謎のゴスロリ美少女》としてネットに上がる。

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