第18話 軍事基地の異物


★★★★★ アメリカ連合 軍事基地 (三人称)


 地下にある軍事管制用コンピュータ室。

 機器の一つに不具合が発生し、早朝の8時から修理と点検を行うことになった。

 コンピュータ筐体が立ち並び、数えられないほどの空調と冷却のファンの音が暴風雨の様に鳴り響く。しかし気温は肌寒い、その中に数人の男たちが入ってくる。


 チーフ保守員のカービンと同僚は数年ぶりに床下の点検作業をする。

 彼らはフローリングの床を見ると、何年も開けてなかったせいか、隙間は総てホコリで埋まっていた。

 取っ手を引き出し少し引いた。


「お、重いな、それに硬い。何年開けてなかったんだこの床。

 よし、お前そっち抑えろ。お前はこれを持て」


 保守員に補助の指示を出し、一緒に開ける。


「いくぞ、せーーの」


 ガコンと床が開き、ホコリが周りを立ち込める。

 咳をして周りのホコリを手で振り払うカービン。


「全く、不良装置め、総点検作業も増やしやがって」


 と言って中を除く、そこには1.5メートル下に埃っぽい床が見え、多くのケーブル走り回り、太い金属の電源ラインが有り、80センチ間隔で床を支える柱が立っていた。


「お前ら、中に入って目視点検だ。ケーブルは気をつけろよ。電源ラインは触るな。俺は配線ボード類と点検ボードを確認する」


「「「おけー、ボス」」」


 懐中電灯と書類を持って、一人ずつゆっくりと入っていく。

 最後にカービンが入り点検作業に散っていく。

 高さ1・5メートルとは言え、中には1メートル以下の場所も有り中腰では無理がある。皆四足で移動していた。


…………


 20分ほどして、保守員の一人が叫ぶ。


「ボス、何か変なものが有る。来てくれ」


 カービンは声をした方に振り返り。と怪訝な顔をして聞き返す。他の保守員も動作が止まり声の方を見る。


「変なものとは何だ、正確に報告しろ」


「何かは、木のコブのような20センチほどの大きさの物体が有る。見てくれ、それが速い」


「わかった今行く」


 怪訝な顔は抜けないが、点検作業を中断して、声の方に行く。

 近くの保守員も興味深そうに後ろから少し離れてついていくる。


 四足で移動して声を上げた保守員の隣に着く。


「変なものとは何だ?」


「あれを見てください」


 保守員の照明が照らした先を見る。

 3メートルほど離れた場所に、確かに木のコブの様な物がある。

 大きさは20センチほど、表面は白っぽくひび割れが有る、白樺の木の様な外見だ。

 そのコブから数本の蔦のような枝が伸びケーブルに絡まっていた。

 それを見たカービンの表情には、驚きが現れていた。

 周りの保守員も同じように押し黙って見ていた。


「こんな所に植物が生存できる理由がない、何かの偽装装置かもしれん。絶対に触るな」


 全員に注意を呼びかけ確認する。

 隣の発見した調査員に聞く。


「ここに有るケーブルは何か分かるか?」


 補修員はしばらく周りを見渡し答える。


「外部との通信を行うケーブルが集中しています」


 その答えに、カービンの警戒感が強くなる。

 そして、対処方法を考え始める。


「おい、おまえ、金属探知機を持ってこい中を確認する。第一発見者以外はこれと同じ物か異質なものを探せ。見つけても絶対に触るなよ」


「「了解」」


 全員に指示を出し、緊張の中、捜査と点検を始める。


 しばらくして、金属探知機を持った保守員がやって来る。

 カービンは装置を受取り、接触しないギリギリで探知を始めた。

 いろいろな方向から探知した結果、コブの中心に金属の反応が有ることを確認する。


「コブの中心に金属が有る、これは植物じゃない偽装した何かだ。爆発物かもしれん、俺達の仕事を超えている。上に報告して対処しよう」


 そう言って、全員に叫ぶ。


「お前ら、他に何か有ったか?」


「「「いえ」」」


「点検は終わったか?」


「「「はい!」」」


「よし、全員静かにもどれ、俺は点検を終わらせて報告する」


「「「了解!」」」


 全員が静かに動いて床の出口に向かう。

 カービンは点検ボードの確認を終わり出口に向かう。

 出口に向かうと、全員真剣な顔でカービンを見た。


「ボス大丈夫ですか?」


「何をやってるんだ、全員部所にもどれ、この事は結果が出るまで秘密だ。いいか、無闇に話すなよ。ここは情報部と爆発物関係が調査する」


「「「了解」」」


 そして、コンピュータルームの閉鎖に気がついて一人を呼ぶ。


「あ、お前出口を見張ってろ、俺が来るまで誰も入れるな、いいな」


「了解!」


 全員で出口ドアに向かい、ドアを施錠して封鎖した。

 ドア前に保守員が一人監視に残る。


…………


 カービンはシステム部門の大佐に詳しく報告する。

 大佐は事の重大性を理解し、情報部へ連絡して、今すぐ会いに行くことを決める。そして、大佐とカービンは共に情報部へと向かう。


…………


 情報部大佐の部屋の前、コンコンとドアを叩く。


「はいれ」


 奥から入室許可の声がかかる。

 ドアを開けシステム部門の大佐と共に入る。

 大きな机の後ろに中年の男が居た。斜め横には応接テーブルセットが有る。


 「こちらに座ってくれ」


 情報部の大佐がテーブルを指す。二人は座り、向かいに情報部の大佐が座る。


「緊急事態とは何かね?」


「カービンくん説明を」


 カービンは話し始める。機器故障のため修理と共に基地制御システムの点検に入った事。そして、地下に有るコンピュータの床下ケーブル類を点検していた時、木のコブのようなものを発見。

 金属探知機で調べた結果、内部に金属があり、木のコブに偽装した何かの装置ではないかと、コブの近くは外部との通信ケーブルが集中している場所だった。

 他に同様の異物はなかった。

 保守部門ではこれ以上対処が出来ないので、その状態を保持したまま部屋を封鎖し報告に来た。

 対処をお願いしたい。


 情報部の大佐は黙って聞いていたが、徐々に眉間のシワが深くなり。緊急に対策が必要であると理解した。


 「わかった、直ぐに調査を派遣しよう。そして爆発物関係者も呼ぶ。閉鎖はこちらで引き継ぐ、君も一緒に行って閉鎖の交代をしてくれ」


「了解しました」


「その後の対処はこちらで引き継ぐ、中に入る時は君も立ち会ってくれ。よく報告してくれた」


「はい」


 正規の部所に対処が移ったことで、システム部門の緊張が少し溶ける。そして戻ろうと立ち上がりかける。


「ちょっと待て、今閉鎖する要員を呼ぶ」


 そう言って、内線にて連絡を始める。

 しばらくして、軍服に銃を携えた数人が現れ、一緒にコンピュータールームへと向かう。



★★★★★


 数時間後、コンピュータルーム前には、数人の情報員と爆発物専門家が各種装備を持って集まっていた。その中にカービンとシステム管理部門のリーダーがいた。

 封鎖は周辺領域に拡大され、他に人は居ない。

 情報員のリーダーが言う。


「今から調査に入る。システムを停止してくれ」


「了解」


 システム部門のリーダーは内線通話でシステムの停止を指示する。

 数分後システム停止の完了が報告される。


「システム停止しました」


「よし、今から入る。準備はいいか」


「「「はい」」」


 カービンの案内のもと、情報員2名爆発物処理班2名が各機材を持ち室内に入る。

 情報員1名は動画の撮影を、1名は高画質写真の撮影を始めた。

 カービンが床下の入り口パネルを開ける、中は暗い。

 各員が頭や胸、手に持つ照明をつける。

 カービンを先頭に進む、問題の場所に着き異物を照らして示す。


「あれです」


 全員の顔が緊張に硬くなる、誰かが一言。


「なんだ、あれは…………」


 数秒間全員が見つめていた。

 カービンが説明する。


「金属探知機で調べたら、あのコブの中に金属がありました。それに、この環境で植物は育たない」


 その説明を聞いて、情報員のリーダーは我に返り指示を始める。


「爆発物処理班、調査を開始してくれ。情報員も撮影と調査を、刺激を与えないようにゆっくりと」


 指示に従い各種機材を準備して操作を始めた。

 しばらくして、リーダーが聞く。


「結果はどうだ?」


 各員が報告を始める。


「外見の温度はこの辺りとほぼ同じ、発熱なし」


「内部に2センチほどの金属反応があります。1ミリ以下だとこの機材では不明」


「特殊な電波は検出できません。ただし、ここではノイズが多く電波が弱いと判別できません」


「音響探査では、中に空洞は検出されません。また、音は発生していない様ですが、ここは騒音が多く小さい音は判別できません」


 リーダーは爆発物処理班に聞く。


「爆発物と思うか?」


「調べた内容では判断できませんが、爆発物として処理すべきでしょう」


「対処は?」


「冷凍した後、爆発物コンテナに入れて回収です」


 それを聞いてリーダーは考える。

(冷凍しては、内部が変質するかもしれない。しかし、もし爆発してしまえば、変質以上のデメリットが発生する)

 そして意を決した。


「その他、調査や撮影は終了したか?」


「「「はい」」」


「よし、全員一時戻った後、爆発物処理班に回収を頼む」


「「「了解」」」


 リーダーが宣言するとともに、全員が各種装置を収納し始める。

 その後全員がゆっくりと出口に向かう。


…………


 そして、部屋の外に出た後リーダーが宣言する。


「爆発物処理班に回収を頼む、回収したら爆発物ラボに搬送」


「了解しました」


「回収した後、もう一度詳細に調査する。それまで閉鎖はこのままで、システムも停止のままで行う。調査が終了しだい通常の業務に戻る」


「「「了解」」」


 そして、リーダーはカービンに向かい。


「カービン、調査にはまた同行してくれ、今度は人数が多い」


「了解しました」


 爆発物処理班を残してこの場を離れる。

 数時間後回収が終わり、再度10名ほどで床下を調査したが異物は見つからなかった。

 以後、異物の調査体制に入った。


 数時間後にリリスが来るまでは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る