第20話 軍事基地その後


***** アメリカ連合 軍議基地(三人称)


 時間は少し戻って、異物回収後の研究室。

 ここは爆発物の実験及び研究調査を行う研究室、強化ガラスの先には爆発物の実験を行う、縦横20メートル高さ5メートルの大きな部屋が有った。

 研究室には各種機材や棚や資料が並べられ、中央には大きな作業台が有った。


 コンピュータルームの床下に有った異物が冷凍されコンテナに入り、爆発物実験室の中央に置かれていた。

 回収作業中、爆発もせず、動く訳でもなく、何の害も発生はしなかった。

 情報局研究員のケイトは、本体と別に回収されたケーブルに絡まっていた蔦のようなものを見ていた。


「まるで、ただの植物の蔦のようだ、他に表現のしようがない。

 顕微鏡で見ても、植物の細胞に見える。

 本体のコンテナを開けて中身を見ないと。中に金属物体が有るらしいが、今はまだ冷凍状態。解凍され安全が確認できないと調べられない、待つ時間が残念だ」


 ケイトは分厚い強化ガラスの先に有る、爆発物実験ルームの中央テーブルに置いてある。コンテナのケースを見ていた。


「早く見てみたい、植物が育たないコンピュータルームで、なぜこんなものが有ったのか。光もなく水もない中でなぜ育つのか、新種の生物だろうか? でも、エネルギーが周りの電気か電磁波しか無い。そんな物で育つ生物など聞いたことがない。事実なら世界的な大発見だ。

 くーー、早く見せろ!」


 そう言って、熱い視線でコンテナを見ている。

 その時、基地中のサイレンが鳴る。

 はっと、顔を上げて周りを見たケイト。


「こんな警報は軍に入って、警報訓練以外聞いたことがない」


 手元の端末を持ち、警報の内容を見る。

 端末には<危険人物の基地内侵入>が書かれていた。


「危険人物だと、不審者ではないのか? このビルは基地内でも最も頑丈なビル、退避場所にも指定されているほどだ。一応緊急事対策をしよう」



 その後の展開は、急だった。

 外部から発砲音が何回も聞こえ、ビル出口から大きな破壊音が響き。爆発物実験室の厚いドアが軋み音を上げた後。

 ドアの扉の横の壁が破壊され、侵入者が入ってくる。


 ケイトの目の前で小さな少女が重いコンテナを片手で持ち、研究室に入ってきた。そして言う。


「他に残っていますか?」


 ケイトは全力で否定する。

 そして少女は爆発物実験室の壁を壊し空へと飛んだ。

 ケイトは実験室に戻り、周りを見て。


「異物ほとんど持って行かれたーーーー!」


 手元には、顕微鏡にセットしていた物と、薄くスライスした破片が有るだけだった。



***** 軍事基地 会議室


 ここは、軍事基地でも最上級の防音設備があり、各種スクリーンが表示できる会議室、横5メートル縦10メートルの部屋の中央に大きなテーブルと革張りの椅子が並んでいた。


 そこには、基地司令と情報部大佐、情報部リーダー、研究員ケイト、基地警備責任者、第一接触者の軍曹、システム部の少将、第一発見者のカービン、その多数人の関係者がいた。


 基地司令が口火を切る。


「まず、概要を説明してくれ」


 情報部大佐立って各種資料と映像資料を示しながら説明する。


「08:30に、コンピュータルーム床下に異物発見。これです。

 10:40に、回収作業に入る。回収後に爆発物実験室に搬入。

 16:05に、空から侵入者が基地内の倉庫の間に降りてくる。

 同時間に第一接触し、捕獲しようとしたが不明の力場に阻まれて捕獲できず。侵入者と少し会話する。

 16:10に、基地内侵入警報をだし、基地警備兵が接触、発砲するが、バリアと思われうものに阻まれ効果がなし。侵入者と少し会話する。

 以後、進行を止めるため立ち塞がるも、すべて何かの力で排除される。その間数回攻撃するも効果なし。

 16:20に、研究棟のドアが破壊され侵入する。

 以後、爆発物実験室と研究室に入り異物を奪取される。

 16:30に、爆発物実験室に追い詰めるも、壁を破壊され外に出る。会話後、垂直に急上昇し逃走する。

 以上」


 調査部が写真と映像を示し、簡単な状況説明が終わる。

 少しの沈黙後、基地司令の質疑応答が行われる。


「目的は?」


「コンピュータルームに有った異物の奪取と思われる」


「こちらの被害は?」


「建物が破損した以外、特にありません」


「相手は何も攻撃しなかったのか?」


「ドアと壁を破壊した以外、進行方向に居た兵士が不明な力で左右に投げられただけです。こちらから各種携帯兵器で攻撃するも効果なし」


「会話内容を教えてくれ」


「会話と言っても、ほぼ一方的な会話が少し


 第一発見時 「こんにちは、お邪魔してます」

 同、質問に 「この先に用事が有るので行きます」

 同、近づいた時に「触ると危ない」

 同、周りを囲んだ時に 前方の兵士に向かって。

  「近づくのは危険、横に飛ばすので受け身をして」

 同、発砲後、

  「バリアが攻撃を反射する、危ないので攻撃を控えて。肉体が触ると怪我をする、注意」

 その後、警備と戦闘中に同じような警告を数回。

 研究室で、「他に残っていますか?」

 これは、異物が他に有るかの質問と思われる。

 逃走直線に、「お邪魔しました」

 と言って一礼し飛び去った」


 それを聞いた基地司令や他のメンバーは事態を考え込む。

 基地司令は、感想を漏らす。


「なんとも、敵意がない」


 その言葉に情報部大佐は補足説明をした。


「はい、常にゆっくりと歩き、危険を感じている様子がありませんでした」


「こちらの攻撃は、眼中になかったと?」


「そうです」


 基地司令は、こちらの攻撃が意味を持っていなかったことに驚きを隠せずにいた。そして。


「異物は総て消えたか?」


 情報部大佐から目線で研究員ケイトに説明を促した。

 ケイトは2つのシャーレを前に出し説明を始める。


「情報局所属の研究員のケイトです。顕微鏡で見るために切り取った一部と、ガラスパネルに挟んだ資料だけが残り、他は総て奪取されました。

 顕微鏡で見た限り普通の植物に見えます。しかしコンピュータルームで生存できません、これだけですが遺伝子解析に出します」


「そうしろ、他に何か情報があるか?」


「第一接触者のリゲル軍曹です、私だけがバリアを素手と警棒で触りました。指がが触った瞬間指先に痛みが走り、少し内出血しました。強く触れた場合怪我をする可能性があります。

 警棒で触った時は、硬いゴムのようなものに触れた感じがしました。しかし、バリアなるものは何も見えません、完全な透明です」


「そうか、重要な情報だ詳細にまとめろ」


「了解」


「基地警備部です、上空監視カメラでは基地真上から高速で垂直に降下し静かに着地。上昇も何も痕跡無く垂直に高加速で飛び去りました。推進方法が推察できません。また、基地内監視カメラの映像は総てまとめて複製しています」


「極秘資料にしろ、外部に出すな」


「了解」


「情報部リーダーです。飛び去るときの画像を解析した所、上昇する瞬間に髪の毛がふわりと広がりました。これから推測されるに、地球の重力の効果が消え、上向きに重力が掛かって上昇したのではないかと思われます。現時点の推測ですが、バリアも兵士を投げたのもドアを壊したのも重力ではないかと思われます。詳細に解析する前ですが、侵入者は重力を操作できるのではないかと思われます」


 全員が驚愕の顔で情報部リーダーを見る。


「そんな事は出来るのか?」


「私の知る限り、人類の科学技術では不可能です」


 その回答に基地司令は困惑した。そして、言ってしまう。


「まさか、相手は異星人なのか?」


「可能性はあります」


 全員が沈黙した。

 突然の事件が、未知の力を操るものによって行われ。

 アメリカ連合の軍が何もできなかったのだ。

 基地司令は決意を示す。


「これは1軍事基地で対処できる事態ではない。至急国防省に連絡を行い対策会議を行う」


 そして、情報部大佐に向かい。


「数日後に対策会議が開かれる、君も出席し資料をまとめ報告を行え。必要に従い数名の随行を許可する」


「了解しました」


 出席者全員を見渡し。


「この件は極秘事項にする。絶対に外部に漏らすな」


「「「了解」」」


「以上だ会議を終わる、必要な作業にかかれ」


 慌ただしく会議が解散し、資料の調査・検証・解析・まとめをするために走る。

 関係者の間で、侵入者の外見から『黒羽の少女』と呼ばれるようになる。

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