第13話 アリスの初飛行


 朝起きて、リビングで朝食の灰色ドロドロを食べてた。

 今日は飛行だ!


「飛行だ、飛・行・だーー」


「アリス、今日は飛行訓練と注意事項を話す」


「おけーー」


 元気よく答えて、出口下の部屋に向かう。

 リリスに、後ろから抱えられ部屋の隅の穴から垂直に飛ぶ。


「あの〜、リリス毎回後ろから抱っこして飛行ですか?」


「お姫様抱っこがいいですか?」


 思わぬ提案に、満面の笑みを浮かべるが。

 少し考えて赤面する。


「そ、それも確かに魅力は有る。真祖ヴァンパイアにお姫様抱っこ。魅力溢れる提案ではあるが、人前では恥ずかしすぎる。

 手を繋いでとかは?」


「アリスが自分で飛行できるまでダメ」


「よし、今日は飛行を習得する!」


「飛行そのものは簡単、注意事項が多い」


「了解」


 雑談しながらも基地の出口に着く。

 今日も天気は晴れだ、絶好の飛行日和。

 練習場所に行くため、リリスに抱かれて森の中を木を避けながら飛ぶ。

 しばらく進むと、周りに山が有る盆地の様な空き地に着き、ゆっくりと着地する。

 少し風が吹いていて、草木のざわめきが聞こえる。

 遠くからは鳥の鳴き声が聞こえてきた。


「ここで、飛行練習をする、あまり高く飛ばないように」


「了解」


「それと周りに少し大きな鳥が飛んでる、あれが調査ユニットの一つ、人が来ないように監視している。

 調査ユニットは昆虫・動物・植物の形態が有る。

 殆どが生物的、金属的な物は今は設備がないから生産できない、だから防御力も攻撃力もあまりない」


 明るい上空を見上げると。

 遠くに鷹のような鳥が3羽、空高く飛んでいた。


「ほえーー、あれが調査ユニット、鳥と見分けがつかない」


 一通り周りを見ていた私に。


「さて説明をする、人型端末の中に7個の小さな重力空間制御と1個の大きな制御装置が有る。これは遠隔制御とバリアと攻撃と飛行ができる。半径10メートルの周辺スキャンで3Dマップも作れる」


「なんとバリア、に攻撃?」


 思いがけない機能にびっくりして聞き返した。


「安全保障のための最低限の機能、この体を作る投資は大きい、損失は良くない。

 だから、アリスも覚えて使えるようにして、もし体が傷つけば痛みもある」


 なんと痛みまで再現、ロボットという感じがしない。

 自分の体その物で、違和感が全くない。

 体を触っても、何か装置が入っているのも分からない。


「入っている装置以外は普通の人間と同じような細胞と体液が有る。

 血液はA 型、微細で詳細な検査をされると人間でないのがわかる。


 もし何かの事故で、腕とか足が千切れたら。中に入っている重力空間制御ユニットが働いて、空に強制逃避して証拠を残さない」


 自動回収機能付き! だから数が多いのか。


「痛みが有って千切れたらどうなるの? すごく痛い?」


「痛みは上限があり、千切れたらカッターで皮膚を切るぐらい、そしてすぐに弱くなる。でも、この体の体液が出るから、応急である程度止められるけど、そのままだと体が死ぬ。そして強制帰還する」


 痛みに上限が有るのか、良かった。しかし、体が死ぬのは嫌。

 気を着けよう。


「8個のユニットが有るのはバリアのため、私は広域の3Dレーダーが有り、リアルタイムに衝突を回避しながら飛べるけど。アリスは3D画像をリアルタイムで処理できないから、飛んでる方向に何かあったら回避できずにぶつかる可能性が大きい」


 なるほどレーダーが有るから、森の中でも避ける必要もないのか。

 しかし私には無理っぽい。


「鈍くさくてスミマセン……」


「いえ、人間は誰でも同じだと思う、生身で飛ぶのは大変。だからバリアが有る。ぶつかったらバリア能力以下だと相手が壊れる、バリアの能力を超えると、バリアを超えてぶつかるので注意」


「過激な飛行ですね」


「飛行とはそういうもの、だからその事を理解しないと飛ばせない」


 なぜか、戦闘機の飛行訓練な気分、武器も有るらしい。


「まずはバリアから、前にバリアを出ろと思って」


 リリスから少し離れて、前に何もないことを確認して。

 やってみる、なんかドキドキしてきた。


 よし、前にバリア出ろ。心の中で強く思う。

……………………

 何もない…… もう一度 、前にバリア出ろ。

……………………

 なんの変化もないし、何もない。

 頭を傾げて不思議な気持ちになる。

 これは適正の問題なのか? 私がトロいのか。


「リリスーー、何も出ないけど?」


「もう出てる、1メートル先に縦に2メートル横に1・5メートル厚さ10センチ。これが初期値、大きくとか遠くとか小さくとかでき、バリアーの強さも調節できる。今は外向きに50Gとそれ以外の面に3Gの重力があり、壁の中は真空になる。確認に前から石を投げる」


 と言ってリリスは前に移動して、足元から石を拾い軽く投げる。

 私の前に飛んでくると、何か壁に当たって勢いよく跳ね返る。


「なにか、飛んできたスピードそのままで跳ね返るけど?」


「外向きに50Gだから、50G加速で減速し入るエネルギーそのまま50G加速で跳ね返る。ほとんどの物は侵入できない、50G加速の空間内を突破できるエネルギーを持ったものは、バリアを抜ける。バリアの強化は重力を増やすか、空間を厚くする」


 なるほどほど、重力加速がバリアなのか、納得。


「石の様な硬いものは、そのまま跳ね返るが。柔らかいものは50G加速で潰れた状態で跳ね返る。特に生物や人間はバリアー内に入った部分が潰れるから注意。覚えておいて」


「了解」


「次は自分を囲むバリアを考えて」


 よし、バリア私を囲め……

 あれ、静かになった、草木のざわめきも風も感じない。

 ここだけ、別の世界に切り取られた様に周りを感じない。

 静かだ。


『バリアの壁の中は真空になってるから、音か通じない。アリスは上下左右前後の6つの壁のバリアーで囲まれてる、囲まれた中は空気がそれだけしかない、酸素が尽きたら窒息する』


『ちょ、窒息は困る』


『体内に小さな酸素ボンベがあるから、24時間大丈夫。これで宇宙空間も飛べる』


 安心した、これがバリアか。

 しかし、飛行もバリアも重力制御、さすが超科学。


『バリアを解いて』


 バリアを解くと全周から シュッ と空気の音がする。

 きっと真空に空気が入る音。爆縮の破裂音がしないのは、解除のスピードを調整しているのだろう。


「時速10キロを超えると自動でバリア出る。危険だから、あまり速く飛ばないように」


「了解しました」


「それと、バリアはアリスが危険と思うと自動で展開する。だから、危ないと感じなかったらバリアされない、気をつけて」


「了解」


「では飛んでみよう、無重力と思って」


 よし、無重力、あっ体が浮いた。

 なんか足が着いてないと不安、空中で回転しそうだけど安定している?


「無重力でも、ふらふら回転しなくて安定してる?」


「地球の相対位置とベクトルを管理しているから、回転しない様に自動で制御されてる。もう少し上に」


 言われるままに、少し上に行くように考えた。

 ゆっくりと上に30センチほど動いて止まる。


「前に移動して」


 よし、前に移動してみよう、何となく分かってきた。

 ーー前に移動

 おおーー前にゆっくり飛んでる。


『細かい制御は自動でやってる。アリスはこうしたいと思うだけ、とても簡単。意識に止まりたいとか、あそこに行きたいとか思うだけ』


 リリスと離れたので内心の通話で話してきた。仮想通話と命名しよう。しかし、人類が空を飛ぶのと比べると感覚が違いすぎる。浮力もなく、動力もなく、反動推進もない。だから加速を感じない。


『適当に飛んでみて』


 なんか初飛行だけど、こんなに簡単とは。

 上へ下へあっちへこっちへと自由に飛んでみる。

 適当に飛んでいたら、突然前に木が有った。

 ちょ! 木にぶつかる! と思ったら急制動で止まった。


『なにこれ、恐ろしく簡単なんですけど』


『こちらに来て』


『はい』


 リリスを見て戻りたいと思ったら、戻っていた。

 何をしたとか、そんなチャチな事じゃない。思うだけだった。

 

『つぎ、緊急退避、上に逃げたいと強く思って』


 よし、上に逃げたいいい!!!

 突然目の前の景色が流れた。上に物凄いスピードで落ちていく。


「あーーーー、空に凄いスピードで落ちるーーーーーー!」


 周りが暗くなって、もう止まってと思った。

 そして、黒い空と地平線の丸さが見える。

 下には日本の大地が雲とともに見える。


『ここ何処?』


『成層圏、上空約30キロ』


 気がついたら成層圏に来てた、何を言ってるのか…………

 綺麗な地球を見ながら現実逃避してた。


『アリスがそのまま降りたら地面に激突するから、待ってて』


 激突! 確かに距離感が分からないから、落ちるとそのまま止まれず激突しそう。


『りょ、了解、速く来て』


『慣れたらゆっくり降りれるけど、慣れるまでは緊急退避の時はゆっくり動いて私に話しかけて。特に上空は飛行機が危険』


『気おつける、って、今は大丈夫だったの?』


『私がレーダーで上空に何もないのを見てたから、問題ない』


『そ、そうですか……』


 と、話してたら隣に翼が全開したリリスがいた。

 近づいてきて手を繋いだ。心からホッと安心する。

 宇宙みたいな成層圏で一人は怖い。


「アリスはレーダーが無い、だから近距離しか距離感が掴めない。高速な移動や長距離の移動はとても危険。

 高い空や長距離は緊急以外飛ばないように。普通は低空をゆっくり飛んで」


「肝に命じておきます」


 と言いつつ、すでに降下してて地面が見えてきた。

 リリスが私も一緒に包んだ空間を制御して飛行してた。

 リリス万能すぎ。


「最後は攻撃だけど、簡単なのだけ設定してある、なにか見て危険だから向こうに行ってと思ったら、対象の空間に5Gの外向きの重力空間が出来て、対象が吹っ飛ぶ。以上」


「なんと簡単な!」


「攻撃もバリアも距離は十メートルしか届かない」


「近距離ですね、理解しました」


「私はもっと強力で長距離の攻撃ができる。総て重力空間制御の攻撃だが、それ以外いらない。物理的には、石を持てばレールガンより速く飛ばせる。上か下に100G掛ければ、すっ飛ぶか潰れる」


 リ、リリスさん怖いです。


 その後雑談しながら、飛ぶ練習を一日楽しんだ。

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