第9話 情報生命体アリス


 朝起きてリビングのソファーに座って、今の状況を考えていた。


 私、田川亜理朱は死にいかけ捕食された。

 まあ、死にかけたのも、捕食者が落ちた時に巻き込まれたわけです。

 だから、原因は全て落ちてきたリリスに有るのです。


 部屋の横のキッチンブースで灰色のドロドロとした液体を、レンジでチンしている、真祖バンパイアの外見で、超美人なロリ巨乳がリリス。

 私がここにいる原因の張本人です。


 今日も食事はこの灰色のドロドロとした液体、スープとも言う。

 味はいいんです。

 とても味は美味しい、今日はミネストローネ味。


 リリスは言う。


「今日の味はいい?」


「味はいい、味はいいが、見た目がなんとかならない?」


「むり、外から入手するにも今使えるお金がない。盗むのは、ルール裁定演算ユニットが許可しないし、私の思考演算も安全保障上ダメと判断」


「前に、私や周りの有機生命体を捕食して食べたじゃない?」


 と、無差別に捕食したのを突っ込んでみる。


「存続するための非常事態なら、ライ連以外の生命体を捕食するのになんの問題もない。現在も自然の小動物や植物は捕食している。

 虫はいくらでも増える。

 しかし、知的生命体の関係物を正当以外の形で入手するのは、安全保障の観点から認められない」


 反論点が見つからない…………

 だがしかし、灰色のドロドロを見つめながら。


「もう、この灰色の液体はイヤ、なんとかしようよ。飲み物もだよ、全て実物は水だけど、オレンジやりんご、コーラにヤクルト味、番茶まで、なんでも出来るけど、見た目がーー

 食事は目でも食べるんだよ」


「改善を検討する」


 会話が終了して、もくもくと食事する。

 食事が終わって、一息ついた時リリスは話す。


「まだ話していない事有る」


 ドキリとし、少し固まる。

 まだ有るのかとか顔をしかめる。


「なに」


「アリスの現在の状況と、ライ連からのアリスの存在情報」


「むむ、難しい話」


「まず、現在の状況。アリスは現在私の中に居る、いい?」


「うん」


「存在状況は、いくつか変わっている。

 最初は脳がそのまま私の中に組み込まれた。

 だが、脳は80年も正常に機能しない」


「了解、寿命ですね」


「アリスを保護するために、初期の段階でアリスの脳を、ライ連の技術である有機演算素子に徐々に変えた。早い段階で全て有機演算素子に変わった。結果、アリスは高速で思考できる。

 しかし、現実との乖離問題で、今は普通のスピードにしてる。慣れれば速くても問題ない、速く思考したい?」


 なんと、ラノベで有名な高速思考!

 これは来たかチートなアリス。

 でも、今は高速に思考する必要がない。

 それに慣れてない。


「できれば使いたいが、ゆっくりと無理無くしたい」


「はい、ゆっくりする。

 次が重要。

 脳全てが有機演算素子に変わった副作用として、アリスの脳情報は全てデータとして読み取れるようになり、他の思考演算ユニットでも動くことができるようになった。

 ライ連の知的生命体の定義では、アリスは情報生命体となった」


 驚愕の事実、人間を辞めてしまった。

 そして、情報生命体になった。


「いや、あの、その、本気ですか?」


「はい、事実」


「今のが一番驚いた。なぜ限定的不老不死になったのか理解できた。いわゆるデータ人間か」


 なるほど、納得してしまった。今までの話の特殊性がここに凝縮されていた。


「これは、事故による緊急事態が、結果的にこのような事態になってしまった。ライ連でも許される内容ではない。

 ライ連の人権を適用しない知的生命体を、普通なら事故でも捕食しない状況で捕食し。なおかつ、思考が正しく働かなかった状況で、利用するために組み込んでしまった事故。天文学的な確率でもありえない事態。

 誠に申し訳ございません」


 そう言って、リリスは深々と頭を下げる。


 わたしは、なんと答えていいか分からなかった。

 結果的に生きているからいいとか。

 メリットが多いから良いとか。

 …………


 まて、許すことしか考えてない。

 しかし実際生きてるし、メリット多すぎだし、問題もない。

 もう結論は出てる。


「生きて、人生楽しめそうだから、謝らないで」


「ありがとう」


 とリリスはお礼をいって頭を上げる。


「次に、ライ連から見たアリスの存在情報」


 もうなんでも来い!

 これ以上驚くことはない!


「どうぞ」


「アリスは現在、第一級調査船が保護した知的生命体になる。そして、人類との窓口としてライ連に所属する知的生命体となった。これは、遭難時の状況にしたがって決定した、存在情報」


 ちょっと待ったーー 聞き捨てならない単語がある。


「ちょっと待って、遭難?」


「はい、第一級調査船リリスは、ライ連と通信ができず、遭難中」


「80年間?」


「はい、92年間」


「それはもう、誰も救援に来ない遭難レベルの孤立?」


「とても近い、通信回復が優先順位の2番目」


「一人だけで遭難?」


「一人」


 一人で孤立遭難、寂しい寂しすぎる。

 涙が出そう。


「リリスには私という親友が居るよ、だから二人」


「ありがとう」


 92年間も遭難とは。

 よほどの事故が有ったのか?

 私がデータ人間になる確率、それが実現になるほどの事が有ったのか。

 そして、リリスは一体どこから来たのだろうか?


「故郷って分かるの?」


「観測で見つけた」


「どこ?」


「別の銀河」


 いままで、飛んだ話を聞いていたが、別の銀河まで飛んでいた。

 ライ連の技術は銀河間も移動可能なの?。


「この銀河にライ連は居るの?」


「私だけ」


「帰れる見込みは?」


「とても少ない」


 うぐ、ほぼ無いような口ぶり。

 私には何もできないかもだけど。

 でも、そんなことは関係ない、何かしたい。


「私も手伝うから二人で頑張ろう」


「ありがとう」


 瀕死の事故のあと、一人で92年間も頑張ったリリス。

 なんと言葉を掛けていいかわからない。

 私なら寂しさとつらさで死んでしまうか狂ってしまう。

 私にも何かできないだろうか?


………………


「つ、続きをどうぞ」


「と言うことで、アリスは私の保護下で、ライ連の知的生命体と等しく守る」


「一人で?」


「はい」


「二人で二人を守ろうよ」(泣)


 リリスを ヒシッ と抱きしめ、二人居るよ、二人居るよとささやく。

 リリスは、何も言わず抱きしめられていた。

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