第6話 ライ連 安全保障局の騒動


★★★★★ 数日後 調査船統括部 部長室 (三人称)


 部長室の音響システムから緊急連絡音が響く。


「どこからだ!」


 秘書AIの音声が告げる。


「第一級調査船 リリスZA100943の管理部門から第一級緊急連絡です」


「つなげ」


 スクリーンに制服を着た女性士官が映る。


「リリスZA100943管理部門のリベルです。リリスの状況管理用の常時接続通信が切断しました。

 その後、他の総ての回線で連絡を試しましたが接続ができません。消息不明の可能性が高くなり、当管理部門の権限を超えた問題と判断し緊急連絡しました。

 連絡とともに、トラブル関連データを秘書AIを通して送っています」


「少し待て」


 報告を聞く間に、秘書AIがリリス関連データーをスクリーンに出す。

 目の前に映し出されたリリスの運行計画と問題の発生点を見ながらつぶやく。


「その時間はワームホール移動中か……」


「はい、ワームホール移動ゲートに連絡を行っていますが、連絡が繋がりません、事故か何かの異常が起こったようです」


 女性士官は、緊張した表情で指示を待つ。


「わかった、引き続き原因究明と調査船への連絡手段をさぐれ。関連技術部門に連絡し問題の調査に当たれ。そして通常通信以外の通信方法がないか調べさせろ。何か分かったら何時でもいい緊急連絡を使え」


「了解しました」


 緊急連絡の回線が切れる、部長は考える。


(ワームホールゲートの事故だと?)


「秘書、ワームホールゲートに関する緊急の情報を部長権限で調べて報告」


「了解」


 数秒の沈黙時間が流れる。


「緊急で流れている情報が多すぎます。まとめますので、しばらくお待ちください」


「30秒待つ、その時間で出せる情報を出せ」


「了解」


 ……………………


 (30秒が長い……)


 ……………………


「報告します。

 1,リリスが移動に使用しいたワームホールゲートベースから緊急事態信号が出たあと総ての通信が切れて、状況問い合わせができない。

 2,遠距離からの観測では重力空間異常と発光現象、各種エネルギー放射を検出している。

 3,災害級異常事態が発生と報告が上がっています」


(災害級異常事態か、リリスが原因でなければいいのだが・・・

 安全保障局に調査船との連絡が切れた報告をする必要がある。

 いま、安全保障局はこちら以上の緊急事態に対処しているはず。

 調査船の通信不能は今すぐ緊急対処が必要なことではない。

 しかし連絡は必要、第二級緊急連絡が妥当か)


「秘書、安全保障局局長に連絡を、第二級緊急連絡で通信をしてくれ」


「了解」


 ……………………


 秘書AIからの応答が遅い。


(やはり、非常事態か)


 ……………………


「通信が繋がりません。

 緊急通信が多すぎて接続待ちにスタックされました」


(非常事態で待ちスタックか、混乱状況が想像できる)


「ワームホールゲート災害の非常事態だろう。緊急事態に直接関係がない、調査船総括部の連絡まで対処できないだろうな。しかたがない」


「緊急連絡の待ちスタックはどうしますか?」


「そのまま維持で」


(局長もリリスの移動中の災害と気がつく、きっといろいろ聞きたいだろう。

 しかし、恒星破壊兵器を持った要塞宇宙船である第一級調査船の行方不明はまずい。

 なんとしても連絡して帰還不可能なら自己消滅命令を。通信が不可なら、機能が壊れてるか止まっているだろう、見つけ出して回収か破壊しないと)


(調査任務を初めて数千周期。第一級調査船は何度も戦闘・戦争行為を行っている。しかし負けたり破壊されたり行方不明になったことは一度もない。まだ断定はできないが今回が初めてかも知れない)


(要塞船が行方不明、それにより発生する問題が大きすぎる。武器の流出、それも、星系制圧兵器類と、恒星破壊兵器。そして技術の流出、ライ連最新科学の結晶。考えれば考えるほど、事態の深刻さがわかる。

 遭難時の対策はもちろん調査船自身に、何重にも施されているが、それで安心にはならん。

 安全保障局の局長と相談して対策をしなければ)


 ティアナ部長は手に汗を握りながら何度もスクリーンを見ては考えにふけっていた。

 しばらくして、意を決したように。


「悩んでいても仕方がない、他の緊急情報を調べるか」


「秘書、リリスとリリスが使ったワームホールゲートの緊急情報を必要優先順位で出してくれ」


「了解」


 画面に部長権限で見れる緊急連絡内容の一覧が表示される。

 右にあるスクロールバーが上の方に小さく表示されている。

 軽く見ても数百はありそうだ。


「これは多いな、連絡が着くまで調べるか」


 部長は重大問題に頭を抱えながらも情報収集と連絡待機となった。




★★★★★ 連合宇宙軍 安全保障局 局長室


 ジーリアクリフ局長は登局して数時間後に、ワームホールゲート事故の緊急警報と緊急連絡が入った。


 突然の異常警報通信後に通信不能になったワームホールゲートベース。


 事態の把握のために各部署に緊急連絡と対応の指示。

 その間各部署からの緊急連絡が来るが、対処できずに接続待ちにスタックされていく。

 秘書AIが優先度の高いと予測される連絡を繋げる。

 状況の把握・対処すべき事・指示・調査待ち、やるべき事がどんどん溜まっていく。


 報告・連絡・対処・指示、目が回るほどの問い合わせと指示。


 観測部署からの事態の異常性を示す観測結果が次々と届けられる。


 報告・連絡・対処・指示、次々と緊急事態の大きさが分かってくる。


 ついに、各部署リーダから災害級の異常事態発生の意見が寄せらる。


 決断の時がくる。


 そして、連合宇宙軍首脳部の緊急時連絡網を使い、災害級異常事態発生宣言を出す決定をもらった。


 その後、連合宇宙軍各部署と星域を管轄している自治体及び国、そしてライ連政治中枢へ 災害級異常事態発生の連絡を行う。


 あまりにも忙しく、深刻な事態の発生、当面の出来ること、問題の分析・そして行動の決定・ライ連TOP全体で対処すべき問題の連絡。

 5時間後に国のTOP含め関係部署の首脳が緊急災害対策本部で対策会議を行うことが決定される。


 災害対処が局長の手から上の管理者へと移行したため、少しの安堵と少しの思慮時間を得る。

 局長はふと思う。


(なぜこんな事態が発生したのか?)


(ケート運行管理部から、新造船の第一級調査船がワームホールで移動中に問題が発生したと報告が有った。「今回のトラブルに関係しているのではないか?」と)


「まさか、新造船のトラブルが原因?」


 と局長はつぶやく、そして秘書AIに指示を出す。


「秘書AI、調査船総括部から何か連絡はないか?」


「はい、調査船総括部の部長から 来ています。第二級緊急連絡のため他の優先順位連絡及び第一級緊急連絡が優先され、接続待ちスタックに入っています」


「そうか、至急繋いでくれ」




★★★★★ 局長と部長の会話


 調査船総括部の秘書AIは告げる。


「安全保障局局長と緊急連絡が繋がりました」


「繋いでくれ」


 ピッという音と共に映像通話が開く。

 スクリーンに出た局長は深刻で疲れた顔をしていた。


「調査船総括部のティアナです」


「待たして悪かったな、忙しいすぎて繋げられなかった」


「お察しします」


「ワームホールゲートの異常時に、君のところの調査船が通過中だったな」


「はい、異常時に当方の船がワームホールを通過していました。異常発生とほぼ同時刻に常時通信回線が切れ。以後総ての通信が不通になり、現在の状況と所在が不明です」


 局長の顔が疲れよりも厳しさが際立ってきた。


「それはあれか、行方不明なのか?」


「はい…… 現在総ての回線を調査しトライしています。また通常以外の連絡方法がないか技術者を集めて対策を行っています」


「第一級調査船が行方不明……

 強力な武力を持つ要塞艦クラスの船が行方不明は、大問題ではないか?」


 局長はより一層厳しさと深刻な顔で問い詰める。

 部長は内面の感情を押し殺し、感情を表さない顔で答える。


「はい、まことにその通りです」


「まずいな……」


 局長は一言つぶやいて視点を少し下に向け深い思考に入る。

 部長はその姿を見て、今は待つ時だと理解し、微動だにせず待つ。


 安全保障を行う上で、最も深刻な問題が発生しつつ有ることに気がついた局長は、深刻な表情で考える。


(私が着任して以来最大の危機だ。まずい、まずすぎる。

 ないおかつ、出航時の式典にも出ていない。

 責任を追求しかねない、本当にまずい)


 今後発生する問題の大きさ、そして当面の対処方法を考え、長い沈黙ををしていた。

 そして局長は答える。


「約5時間後に緊急災害対策本部で今回の異常事態の会議がある。君も出席しなさい。なにか聞かれたら現在判明している事実のみを答えなさい。トラブルの原因に新造調査船が関係していないか? と聞かれた時は、現在分かっている範囲で答えなさい」


「了解しました」


「安全保障局として、調査船の行方不明が最も重大な問題であり、早急に所在を突き止め、状況を把握しなければいかん。問題解決に当たり最大限の対策を行うなう。

 以上だ」


「了解しました。会議後に今後の行動方針と対策の相談時間をいただけますか?」


「もちろんだ」


 ワームホールゲートの災害は、基本的にワームホールゲートを運用管理する運輸省がメインとなって対処することだ。

 安全保障局としては、なぜトラブルが発生したか調査し、外的要因で発生した場合、それを未然に探査し調査し発生前に除去する。

 今後同じようなトラブルを未然に防ぐ対処が使命である。


 通話が切れたあと、ティアナ部長は調査船の情報を可能な限り集め始めた。特にワームホールの崩壊に巻き込まれた場合どうなるか、詳細な情報を必要とした。


 そして、緊急災害対策会議に出席する。

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