第32話 マフィアと正義の味方?


 武田組から帰宅後、数日間は孤児院に慣れるために、孤児院内の掃除や遊びをしていた。

 その間、組長や裕二と電話連絡を行う。

 ある日裕二が訪ねてきた。

 背広を着ている。髪はそのままだが、真面目なサラリーマン風だ。

 思わず笑ってしまった。


「裕二、何その格好? ちょっとグレた新入社員に見える。ぷぷぷっ」


「仕方ないだろ、ちゃんとした格好で対応が必要なんだよ」


 そして小声で話しかけてきた。


「正式な手続きに時間がかかる。お前らが孤児になって日数が短すぎるんだ。だから、急いでいるならここを逃げ出して家に来い。それを家が保護すれば書類上の一時保護者に出来る。正式な保護、まあ親父の養子だな、半年か1年程度の実績で出来るはずだ。こちらはもう何時来てもいいようにしている。逃げる日が決まったら連絡してくれ」


「分かった、決まったら連絡する。

 しかし、裕二お兄ちゃんか、よろしくね、お・兄・ち・ゃ・ん」


「ぐっ、俺より強い妹が二人も出来るのか。頭が痛い」


 その後、雑談して裕二が帰っていった。

 ここに来たのも保護する手順の一つだった。

 また、外人が孤児院を訪ねてくることも有った。

 職員の話では外人が来るのは初めてだと言っていた。

 予感が有った。きっとあれは……



★★★★★


 大陸マフィアに出していた調査ユニットから連絡が来た。

 明日の夜11時に横浜港の倉庫で麻薬の取引をすると、

 組長と裕二に連絡する。大まかな計画を伝え準備してもらった。



★★★★★


 作戦の日の夜の8時に武田組に行ため、影武者と交代して飛んでいく。

 武田組の上空に着き空から見ると、組長と裕二が縁側に座って上を眺めていた。

 すぐ近くに数秒で降り立ったつ、それに気がついた裕二が驚く。


「うぉ速、速すぎだろお前ら、音もなく降りて来るし」


「こんばんわ裕二、これから何回もあると思うから気にしないで、気にしたら負け」


 そう言ってニコッと笑う。


「いらっしゃい、待っていたよ何か飲むかい?」


 組長に案内されて、松の間に入りジュースやお菓子を食べる。

 組長は酒を飲んでいた。

 裕二はこれから起こることに好奇心と期待で落ち着かない。

 雑談をしながら計画を打ち合わせした。


 10時前になり出発の準備をする。

 私とリリスは組長に準備してもらった、黒のジャージ上下にポーチ付きのベルト、そして黒の目指し帽。裕二も似たような格好に肩掛けバック。リリスの頭の上にはユニが居た。

 4人と1羽が庭に出る。


「俺も飛ぶんだよな?」


「そう、怖い?」


「大丈夫だ」


 しかし、声は緊張している、組長は笑って裕二を見ていた。

 私とリリスが 裕二の両脇に行き、腕にしがみつく。

 裕二は驚いて「ちょ、なぜに?」と慌てている。


「飛行時に安定するため。暴れると危ない」


 リリスの説明を聞いて裕二の体が固くなる。

 組長が笑いながら「裕二、両手に花だな」とからかう。


「では行く」


 ふわりと3人が浮く、そして急上昇。上空5キロまで上がる。

 裕二が驚きで声が出ない。ひたすら下を見ている。


「横に進む」


 下に見える景色が流れ始め、移動する。

 裕二が「浮いてるだけで加速を全然感じない……」と漏らす。

 「そういう飛行」とリリスは答える。


「下に降りる、着地の準備を」


 下に降り始めて建物が近づいてくる、港のような場所だ。海は真っ黒で何も見えない。港には街灯が多く、近くの道には車が列をなして走っている。海の横の少し暗めの場所に倉庫が並んでいた。その中の一つの屋根にゆっくりと降りる。今は取引の1時間前。

 裕二の体の緊張が溶けてふらつく、リリスと共に裕二を支えた。

 そしてゆっくりと座り、体を潜める。


「すまん、この飛行は初めてだ」


「問題ない」


 リリスはポーチからスマホを出し、3人で囲った中で画像を出す。

「これは?」裕二が聞く。


「調査ユニットが撮影した今の動画、今から撮影をしている。

 裕二はこの動画を持ち帰り、タレコミの証拠に使う」


 そこには、大陸マフィアが3名箱に座り、大きな四角い事務カバンを抱えていた。音や話し声がボリュームを落とした大きさで聞こえる。今から行われる取引の話や雑談をしていた。

 まだ時間があるのでのんびりしている。

 裕二はそれを凝視していた。口元が何度も動き、とても何か言いたそうにしている。

 私は裕二に顔を向けて小声で。


「裕二、深く考えたらダメだよ?」


「分かっては、いる。分かってはいるが、そのうち聞かせてくれ」


「そのうちね」


 と言って裕二の手を握った。

 裕二はスクリーンを凝視していた。


 しばらくして黒い車が倉庫の前に着く。その車もスクリーンが2分割して動画で写っている。私達は静かに息を潜めていた。

 2人の男が黒いバックを持って降りてきた。

 倉庫の大きなドアの横にある、事務所ドアが静かに叩かれ、合言葉のような話をする。そして、ドアが開けられ2人の男が入る。


 男たちは大陸の言葉を話している。

 裕二は理解できないようだが、私とリリスは理解できた。

 縦横8メートルぐらいの部屋に、車で来た男たちが入る、中にはマフィアが待っていて、特に緊張もなく挨拶をしていた。

 すでに何度も行っているのだろう。又は繋がりのある組織だろうか。


 テーブルの上で相互にカバンを開けて中身を確認している。

 マフィア側はお金を出し。車の男は白い粉が詰まった袋が多数。

 入れ替えて確認をして、取引が終わったようだ。

 アッサリしたものだった。

 車の2人がドアから出ようとして歩くがドアの手前で止まってしまった。


 「おい、前に進めないぞ!」


 慌てる男たち、マフィアもドアに向かうが進めない。

 それだけではなかった。他の男たちも何かに押されテーブルに集まってくる。男たちが混乱し、周りを叩くが何も出来ない。

 拳銃を出した男が何かを撃つ。銃弾は見えない壁を超えたが壁の先でコロリと床に落ちる。

 あれは、弱いバリアで回りを囲ったのだろう。


「今から眠らす」とリリスが言う。


 見てると一人一人ゆっくりと倒れていく。

 疑問に思いリリスに小声で聞く。


「リリス何したの?」


「周りを囲ったあと、テーブルの裏に張り付いてる調査ユニットが睡眠ガスを出した」


 いつもの、何でもないように言うリリスが半端ない。

 裕二は理解できない出来事の連続で口をパクパクしていた。


「回収しに行こう、手袋してる? 髪の毛は全部隠してる? 確認して。何かの証拠が残ってはダメ」


 二人は急いで手と目指し帽を確認して、頷く。


「では行こう」 裕二の手を抱えて下にゆっくりと降りる。

 事務ドアの前に来て開ける、中には一人寝ていた。

 奥の部屋に入ると5人が寝ていた。

 その光景を裕二が呆然と眺めて一言。


「簡単過ぎだ……」


 私も一言「リリスは半端ない」


 スマホから小さなメモリーカードを取り出し、何重にもビニール袋に入れ裕二に渡す。


「取引終了までの画像が入っている、中は開けて触らないで、指紋や汗やホコリが入ってしまう。渡す時はこの袋の中の袋を手袋をして渡して

 私は人と物を持って大陸マフィアの本拠地に行く。

 殴り込みを掛けるて騒動を起すので、すぐにタレコミを」


 そう言ってスマフォを出して、同じような事を組長に連絡する。


「アリス、裕二を家に送って、ユニが見ているレーダーの地図と飛行方向をアリスに見えるようにしたので、迷わない。上に上がって示してる方向に移動して降りるだけ」


 アリスの頭の上にユニが居た。

 目の前に立体的な線画の地図が半透明で見える。方向と距離も出てた、便利すぎる。


「たぶん大丈夫」


 裕二は人が倒れている現場を見渡し、心配な顔で。


「何か手伝うことがあるんじゃないのか?」


「問題ない、人が多いと逆に証拠を残してしまう」


「わかった」


 腑に落ち無さそうだが、納得する。

 裕二を連れて外に出る。線画の地図には人も記号として写っていた。周りに人が居ないことを確認し裕二の腕にしがみつ。


「飛ぶけどいいかな?」


「おう、もう大丈夫だ」


 上昇する。線画の立体地図が下に移動する。遠くに飛行機が飛んでいるのが分かる。地図上の目標高度に向って上り、目標高度の数値が下がっていく。

 目標の0近くで止まり、示される矢印の方に移動する。距離がどんどん小さくなる。これも0あたりで止まる。ここは武田家の庭の上だ。周りが真っ暗で見えなくても、この3D地図があるので怖くない、不思議な気分だ。

 ゆっくり降下する、武田家が見えた、組長が見える、組長の近くにゆっくりと降りる。


「おかえり、お疲れだ」組長がねぎらう。


「ただいま」微笑んで挨拶する。


裕二が。


「親父、おれは信じられないものを見てきた。あれが彼女らの力の一部なのか? 驚愕だ、世界が変わるぞ」


「裕二、いい経験をしたな、たぶん力の一部だ。日本を消せると言った言葉、あれは事実だと俺は思っている」


「裕二、お前は今、誰も経験できない事をしている。よく噛み締めて人生に刻め」


「わかった……」


「証拠の映像は?」


「ああ、これだ、中は絶対に触らないように、証拠が残るからだそうだ」


 そう言ってカバンから、何重にも入れられたメモリーカードを出して渡した。


「わかった」


 組長はアリスに向って少し頭を下げた。


「アリスちゃん、ありがとう。裕二にはいい経験だった」


「いえ、気にしないでください」


「さあ、中に入って休んでくれ、俺はやることがある」


 松の間に入ってのんびりお茶お飲んでいた。

 裕二は何か深刻な顔で考え込んでいた。

 今は何も言わないほうがいいかなと思う。



★★★★★


 2時間ほどしてアリスから電話が有リ。終わったので戻ると連絡が来た。組長と裕二と私が庭でアリスを待っていると。空からアリスがカバンを持って降りてきた。

 3人で出迎えて、一緒に松の間に行く。


 席に座って落ち着くと組長が聞く。


「どうだった?」


「直接顔を見せなくても良いように、ビル全体を囲んで、睡眠ガスで眠らせた。ボスの部屋に取引メンバーと物を置き、窓や壁を沢山壊して大きな音を立て、マフィアが持っていた拳銃を打ちまくってきた。警察が来るのを屋上から確認して帰る。今頃警察が中を調べている」


 とんでもない事を、あっさりと言った。

 組長は笑っていたが、裕二の顔は引きつっていた。

 私は、リリスはリリスだと思った。

 そしてテーブルにカバンを載せて開ける。

 中には大量のお金が有った。


「犯罪のお金だから貰ってきた、武田と私達で半分にしよう」


 さらっと言ってのけた。当面の資金が出来た。

 組長は笑い声を上げて笑い。

 裕二は引きつり顔がより引きつり。

 私は、パソコンが買えてネットが出来ると喜んだ。


 翌朝テレビは、大量の麻薬と銃剣類の押収で大騒ぎとなり、大陸マフィア問題は解決した。

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