第31話 パトロン ヤクザ その3


 保護者になることになり、自己紹介を始める。


「紹介が遅れた、俺は武田組組長の武田鉄矢。お嬢さんは?」


「私は森田アリス、こちらが森田リリス。双子の10歳です」


 歳を聞いて、組長と裕二が驚く。


「10歳か、信じ難い。その落ち着きといい話しぶりといい、とても10歳に見えない」


 私はリリスの方に向いて、聞く。


「問題のない程度に話してもいいかな?」


「アリスのしたいようにすればいい」


 リリスの返事がブレない。それが嬉しい。


「保護者になって頂くのだから。嘘偽り無く真摯に話したいと思います。ですが総てではありません。今から関係の有る部分だけ、問題のない程度にお話します。しかし、知ってしまうと少しだけ危険になるかもしれません、それに他に話さないほうがいいでしょう。いいですか?

 知らないほうがいいかもしれませんよ」


 そう言って組長の目をじっと見る。

 組長も私の目を鋭く見る。


「裕二! お前はどうする? 聞けば後に引けねえ覚悟で聞くぞ」


「かまいません」


「という事だ、話せる範囲で聞かせてくれ」


「はい、有難うございます」


 と言ってリリスと共に深くお辞儀をする。


「私達は、ある事情でたった二人、知り合いも誰もいない状況で日本に居ました。親もすでに居ません。食料事情の問題でお金も無かったためアルバイトをしようとしましたが、自身を証明するものが無く、この外見です、仕事が見つかりません。


 そのため、まず第一に自身の証明を作る。その切っ掛けに日本に居る孤児と言う立場を作りました。記憶喪失で警察に助けを求め、児童相談所に行き。無国籍孤児として孤児院に入りました。


 これで、孤児という自身の証明を手に入れました。森田という名前も歳も違います。10歳は保護してもらうための年齢です。実際の年齢は秘密です。森田という名前もありません」


「私達の本当の存在は秘密です。そして誰も知りません。そんな、怪しい人間ですが。よろしいのでしょうか? でも、聞いた以上よろしく無いと言われると、困ったことになるのですが……」


 説明を終わり。二人で深々と頭を下げ続けた。

 組長は少しの沈黙後。


「頭を上げてくれ」


 そして二人は、頭を上げる。


「今更変えない。しかし困ったこととは何だ?」


 リリスと見つめ合った後、決意して話す。


「はい、嘘偽り無く言います。しょ、処分かな〜〜」


 裕二の顔が引きつっていた。組長は薄ら笑いをしている。


「おい裕二、困ったことになったら処分されるぞ、覚悟を決めろ!」


「分かってます!」


「この歳で、この日本で、まだ命を懸けることがあるとは。人生が楽しくなるぜ。裕二人生を楽しめ!」


「あぁ、とんでもねえ二人を連れてきちまった。楽しめそうだ!」


 組長が言う。


「ちょっと一息しようや、譲ちゃん酒飲んでいいか?」


「はい、どうぞ」


「裕二、酒とジュースとお茶に菓子にツマミ用意して松の間にいくぞ」


「はい」


 組長に案内されて松の間に来ると、大きなテーブに座布団、そして、いろいろなお菓子やオツマミにジュースが用意されていた。

 4人で座り、盃やジュースを交わして雑談をした。

 組長が二人に向って聞く。


「アリスの譲ちゃんは普通っぽいけど、リリスちゃんの目は迫力がある。俺でも押し負ける気がする」


「リリスはこれが普通ですが、そうですね、怒った事が無いですが、もし怒ったら、日本が消えるほど怖いですよ」


「マジか?」裕二が言う。


「私は怒らない。ただ、すべき時にすべき事をするだけ」


 淡々とアリスが話す。

 しかしその話しぶりがより恐怖を産んでいた。

 組長はきっと理解している。その真剣な目が、そうなるだろうと物語っている。


「二人は、凄いべっぴんさんで似た顔立ちだが、双子かい?」


「書類上双子ですが、双子以上の関係ですね」


「なるほど」


 裕二が聞く。


「前に銃口を向けられたとか聞いたけど、あれはマジか?」


「30人ぐらいに銃口向けられましたね。最初は怖かったけど、リリスが守ってくれるから慣れた」


「マジか! 半端ねえな」


などと異次元な会話をしていた。そして組長が聞く。


「大陸マフィアの件はどうするんだい?」


「力で潰すのは簡単だけど、身バレが嫌なので法的な何か弱点有りませんか?」


 組長は腕を組み思案する。そして話す。


「近日中に麻薬の大きな取引があるらしい、それを抑えて警察に出せば穏便に行けそうだが?」


 リリスが聞く。


「本部の場所は何処?」


 組長はA4ノートほどの板を出して地図アプリを立ち上げる。

 そして、大陸マフィアの本部がある場所を指す。

 リリスが一目それを見て。


「わかった、調査ユニットを今から出す。それで場所と時間が分かるから、取引時点を抑えて証拠を取る。その後本部を襲って警察に踏み込んでもらおう」


 組長と裕二がぎょっとしてリリスを見る。

 リリスは組長を見て話す。


「警察へ証拠を持って匿名の連絡をお願いできる?

 タイミングを合わせて本部を襲撃し、気絶させておくから。

 どう? 警察は乱闘事件発生で踏み込んでもらう」


 組長は酒を飲みながら、面白いものを見たように笑う。


「あはははは、たまらん、タレコミは任せろ。後は任してもいいか?」


「問題ない」


 つまみを取りながら裕二の方に向く。


「おい裕二、直ぐに新しい世界を見せてくれるそうだ。楽しいな」


「正直、想像も付かん。実際に目に見てえ」


 重すを飲んでいたリリスがジュースを下ろし裕二を見る。


「取引現場、一緒に来る? 少し離れて見てるだけだけど、それでいいなら」


「おう、行く、絶対行く」


「その時は顔を隠す様に、それにユニを付ける。アリスいい?」


「おけーー」


 リリスは窓を開ける。すると、窓から鷹のユニが入ってきてリリスの頭の上に乗る。

 裕二と組長はそれを見て固まっていた。


「ユニちゃん来たね。お疲れ様」


 と言ってユニに近づき頭を撫ぜる。ピィー とユニは可愛い声で鳴いた、可愛すぎ。


「えーーと、それは鷹?」裕二が聞く。


「そう鷹、この家に置いていく。呼べば来るし何か有ったらユニに話せば私に聞こえる。一方通行の携帯電話だと思って。

 あとで攻撃と防御が出来る、もっと強力なものに変える。

 食事は人間が食べるものならなんでもいい、そして水を」


「お前ら二人は、何でも有りだな」


 私が裕二を見ながら答える


「裕二、深く考えたらダメ、あるがままを受け止めよう」


「わ、わかった」


「鷹は大切に扱ってほしい、何か有ったら私が力で回収に来る。いいですか?」


「わかった」


「これは私達や、武田組も含めて守りになる。あなた方を守ってくれるから大切にしてほしい。文化的に言うなら幸運がやって来る」


「幸運の鷹か、武田組も守り神を持つか、裕二大切にしよう」


「もちろんだ」


「「触っていいか?」」


 と、組長と裕二は声を揃えて聞いてきた。


「組長、腕を前に出して、そこに乗るので強めに」


 組長が腕を前に出すと、ユニは飛んで腕に乗る。


「どうぞ触って」


 腕に乗った鷹を興味深げに眺め、ゆっくりと手を出して翼あたりを撫でる。鷹は小さな声で ピィー 鳴いた。


「これは凄いな、鷹を手に載せ撫でるのは初めてだ…………

 裕二お前も持つか?」


「頼む」


 そして、裕二は腕を前に出す。鷹は裕二の腕に飛び移る。

 裕二はそれを受けて、しげしげと鷹を見てゆっくり触る。


「そうだ、何か有った時のために、スマホを渡しておく」


 そう言って、後ろにある物入れの引き出しから薄板と充電器を出し渡す。私は目をキラキラと輝かせて受け取る。

 おーー、現代の携帯だ!


「使い方は分かるか?」

 

 リリスが「問題ない」と答える、そして。


「調査結果と実行日や計画をこれで連絡すればいい?」


「ああ、俺か裕二に連絡してくれ。実行前に大陸マフィアが来たら、知らぬ存ぜぬでいいか?」


「問題ない、すぐに解決する」


 夜になり、夕食を頂いた後、帰ることにした。


 組長が「車で送ろう」と言ったが、リリスが「庭の影から帰る」

と言ったので、4人で庭の家の影に行く。そして一言。


「秘密の一端を見せる」


 私とリリスが手を繋ぎ、少し離れて組長と向かい合う。


「それでは、これからもよろしくお願いいたします」


 と言ってお辞儀をした。

 そして、手を振り少し浮く、その後上昇していった。

 飛んでいく二人を見上げて、組長と裕二は笑っていた。


「世界が面白くなりそうだ」と組長がこぼす。

「本当になんでも有りだな」と裕二が言う。


 こうして、私達は大陸マフィアの壊滅に向けて動き出す。

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