第37話  会談のお手紙


 私は上空から下を見ていた、仮想視覚拡張により詳細に見える。飛行機が落ち。ミサイルが爆発し。戦車や大きな車両や兵器が裏返る。爆発した車両も有る。


 あそこで、たぶん、人が、死んでる。


 怪我人も多いだろう。

 そう、これは戦争、人類から見れば戦争。リリスから見れば武器を破壊する政治的武力行使。そして個人の持つ力だけ使用した武力行使。


 隔絶した力、人類には対抗不可能な力。

 やはり、ライ連と親友になりその一員になるのだ。

 それ以外、人類は生き残れない。

 これを見るとリリスが何度も私に確認する理由を知る。

 頭での理解では分からない、現実が教えてくれる。

 現実を実感し、自分の思いを強化しよう、必ず必要なことだ。


 さあ、作戦が終わった。明るくリリスを迎えよう。

 私が怯え、恐怖を持ち、悲しんでは道が閉ざされる。

 私はリリスの隣で人類の生きる道を作る。

 それが私の目的。


 目を閉じて心を落ち着けよう、いつものアリスに戻る。

 僅かな時間瞑想し。静かに目を開ける。

 リリスが下から飛んできた。

 私の隣にくる。心配そうに私を見る。


「おかえりリリス、お疲れ様」


 リリスの手を握る。そして宣言する。


「リリス、これからが私の本番。頑張るよ」


「うんアリス、ホワイトハウスに行って封書の手紙を渡す」


 リリスと手を繋ぎ、ホワイトハウスに行く。一人はここに残り作戦指令に手紙を渡す。一人は別の場所に渡すため別れる。

 そしてホワイトハウスに飛んでいく。


 30分ほど飛行しホワイトハウス上空に到達する。

 成層圏から、レーダー波が来ていないことを確認した。

 そして、上空5キロに降下する。


 上からホワイトハウスを観察する。

 特に変わった所は見えなかった。しかし。


「アリス、ここには防空設備が有る。巧妙に隠しているが色々配置されている。レーザー兵器も幾つか有る。だから、高速機動する可能性が有る。絶対に手を離さないで」


 あれから80年、時代が変わったのか! ホワイトハウス侮れない。


「わかった、離さない」


 そう言ってリリスの手を強く握る


「最悪の時は、腰に巻いたベルトの装置を私が動かし。アリスを自動回避で飛ばす。その時は、勝手に飛び回るので心づもりを」


 なんと! 私は遠隔操作で、あの黒羽の少女のように飛び回るのか! ぜったい目が回る自信がある。


「りょ、了解しました!」


「では行く」


 そう言って急速降下する。

 ホワイトハウスの白いビルの前20メーターほどに静かに着地した。

 あまりに速い降下と静かな着地で、飛行時は何もなかった。

 着地して周りを見ると。警備の人が驚いていた。

 おもわず、仕事しろと思った。


 警備が驚き顔が真剣に変わり。

 銃を抜き構えすり足で近づいてきた。


「動くな! 撃つぞ!」


 もうこれはパターンですね、と思っていた。

 小さく警報音が聞こえ、警備が駆けつける。

 私達を6メートルほど離れて囲み、銃口を向けている。

 警備の責任者と思う人が少し前に出てきた。

 そして私達の格好を見て、驚愕し驚き、そして指示する。


「黒羽の少女だ、撃つな! 近づくな! 囲むだけにしろ!」


 全員が徐々に近づこうとしていたが、止まり少し離れる。

 そして責任者が。


「ここに何をしに来た?」


 私が話す。


「大統領に重要な手紙を渡しに来ました。居なければそれに次ぐ責任者に手紙を渡します。本人に手渡しが必要です。中継は認めません」


 責任者が悩む、そして。


「私では駄目か? 警備の責任者だ」


「だめです、渡すことができなかった場合、アメリカ連合は私達からの会談の要請を拒否したものと判断し、敵対関係になります。

 いいのですか? 貴方の判断で敵対関係になっても?」


 責任者は苦い顔をして決断する。


「わかった、ここで待て、呼んでくる」


 周りを見「お前たちはこのまま現状保持だ。撃つなよ!」

 そして、白い建物の中に入っていく。

 警備員たちは緊張していた、責任者しか知らない事態が起きたのだと。それは、ただ事ではない状況を示していた。


 遊ぶには短いが、緊張して待つには長い時間がたった。

 建物から6人が急いで来る。

 警備員が場所を開け6人が並ぶ。

 その中の一人が前に出てきて話す。


「私は国家安全保障会議の責任者の一人のシュミットです。君たちの事はよく知っている、先程の作戦の結果も知っている。君たちに対応できる責任者になる。私が受け取りたい」


「分かりました」


 腰のベルトに付いているポーチを開け手紙を出す。

 数歩前に歩いて手紙を持って前に出す。


「バリアは大丈夫なのか? 近づくと危ないと思うが」


「手紙の部分はバリアがありません、安全です」


 そう言うと、恐る恐る近づいてきた。

 私の前1メートルぐらいに近づくと、手を伸ばして手紙を取る。

 シュミットは手紙を不思議そうに眺めている。

 表紙には会談の申し込み、と書いてある。


「少し説明をします、いいですか?」


「OK」


「私はこれ以上の戦闘を望んでいません。今日の作戦で私達の力も少しは測れたと思います。あれは個人で出来る力です。もう力を測るのは止めませんか? その為に会談を申し込みます。こちらの人数は2名、此処に居る二人です。そちらは10名ほどアメリカ連合の大統領は必ず出席してください、出席しない場合は会談しません。場所と時間を決め提供してください。3日後のこの時間にここに来ます。その時に返事を聞かせてください」


 そう言って相手を見つめる。

 シュミットは私の目を見つめる。そして。


「分かりました、3日後に返事が出来るよう相談します」


「それと、この手紙は10名ほど渡しました。これは出席者を決める物のではありません、手紙を渡した事実を多くの人に知ってもらうためです」


「わかりました」


「アリス追加事項がある」


 と後ろから声が掛かる。振り向いてリリスを見ると、私の横に歩いてきた。


「ここには幾つかのレーザーを含む対空兵器を検出している。3日後に私達の方向に向いていた場合、アメリカ連合は敵国と認定し攻撃を行なう。その時は力のセーブをしない。注意していただきたい」


 リリスは今にも刺すような目と威圧をシュミットに向ける。

 シュミットは僅かに狼狽するが、すぐに元の顔に戻り答える。


「了解した」


 緊張した空気をほぐすように私は別れの言葉を言う。


「シュミットさん、兵器の件も、よろしくお願いします」


 そう言ってお辞儀をする。

 そして、リリスと手を繋ぐ。


「それでは、3日後に来ます」


 少し浮き、そして急上昇する。

 そこに居た全員、唖然として上を見上げた。




★★★★★ 捕獲作戦司令部


 司令室は救出指示や被害状況の報告が大きな声で飛び交ってた。救出対象が多すぎて全く間に合っていなかった。特に重車両が裏返ったことで脱出出来ない兵士が多く存在し救出の連絡が入る。しかし怪我人の救出が優先され、状況の説明と他が終わるまで待ちの指示が出される。

 その時ひときわ大きくレーダー担当の女性オペレーターの声が響く。


「上空に停滞していた目標Cが降下してきます!」


 指令室は一瞬で静かになった。みんなオペレーターを見る。そしてスクリーン見る。そして中央指令のテーブルを見る。

 指令室の大半が「どうするんですか?」と問いただす顔で指令を見る。

 元帥の隣に座る、作戦遂行参謀が元帥の顔を見て、「どうしますか?」と問いかける。


「もう戦いは無理だ、降伏しかなかろう……」


 肩を落とし俯きながら、つぶやく……

 つぶやきだが、静まり返った指令室の全員が聞いた。

 そして、もうこれ以上戦いは無いのだと安堵した。

 参謀が大声で告げる。


「降伏の合図を出せ! 白旗では分からないかもしれない。白旗と共に武器を捨て手を上げろ、全部隊に連絡を!」


「了解!」


 各オペレーターが担当部隊に降伏の連絡をする。

 その後全員が、少しでも時間が有ると、スクリーンを不安な顔で見つめる。

 少しして、オペレータの声が響く。


「目標C、10キロ切りました、この位置に向っています」


……


「目標C、1キロ切りました。着地点司令部です!」


 全員が緊張する。


「目標C、司令部前に着地しました!」


 全員が中央指令テーブルを見る。元帥は肩を落とし俯いたまま動く気配がない。その元帥を見た作戦参謀が立ち。


「私が行く」


 と言って、出口へと向かう。

 参謀がドアを開けると、外に居る全員が手を上げていた。白旗を持つものも居るが動かない。

 参謀が黒羽の少女の前10メートルまで歩き止まる。


「私はこの作戦の指揮者だ、戦闘の意思はない、降伏する。何か用か?」


 黒羽の少女はポーチから1つの封書を出し。


「この手紙を作戦の責任者に渡す。これは10人に渡している。メインはホワイトハウスで渡す。10人に渡すのは手紙を出した事実を知らしめるため。ここはその一つ、受け取っていただきたい」


 手紙は参謀に向ってゆっくりと飛んでいき。手前に落ちる。そして黒羽の少女はゆっくりと上昇し空に消えていく。

 参謀は前に落ちている手紙を拾い表紙を見た。


「会談の申し込み?」




★★★★★ 情報省 アイザック大佐視点


 アイザック大佐は情報省に戻り。黒羽の少女捕獲作戦の映像を見ていた。

 空中戦の戦闘機と黒い点は機動能力に桁外れの性能差を示し。一瞬で戦闘機を無力化している。レーザー、粒子ビームは撃つこそさえ出来ない。ミサイルは目標の遙か前で落とされ。地上軍の重兵器は数秒で無力化される。それもただ単に、裏向きにされ落ちるだけ。攻撃と言うには馬鹿馬鹿しい方法だった。だが、それで総て破壊される。


 遠くから映される映像では、玩具の戦車がひっくり返されている様に見える。

 これを戦闘と言って良いのだろうか?


 これを知っていれば、リリスが何も気にしていなかった訳が分かる。

 もしリリスが本気で武力を使用したらアメリカ連合が滅びる。リリスの発言は事実だろう。戦いは自国の滅亡を招く。


 アリスがキーポイントだ、アリスが最大のチャンスを握っている。絶対に友好になり、犯してはいけない。

 と心に誓う。

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