第28話 軍の探査と回収 その2


 私とリリスは手を繋いで、軍の研究施設上空の成層圏に居る。

 これから、潜入調査ユニットの回収を行う。


「今から施設上空5キロに降りて止まり、詳細に観測する」


 そう言うと、地球が近づいてきた。

 大地が近づく、そして止まる。


「ここが上空5キロ、下を見て、見れるようにした」


 下を見ると遠いのによく見える。大きなビルがいくつかと、体育館ほどの倉庫が10ほど有る、滑走路も見える、何もない大きな敷地が見える。総てが塀で囲われていた。


「アリスにもアクティブ重力空間波レーダーを見せる」


 見ている物が急に細かくなった。倉庫の中もビルの中も見える。材質さえ分かるような気がする。これがリリスが見るレーダー画像の一部だろうか?

 リリスはきっともっと細かく見えるはず。


「アクティブと言うことは、何かを出している? 見つからないの?」


「人類に1ミクロ以下の幅の重力変動を検出する装置は無い。だから問題ない」


 なるほど、理解した。重力を操作する技術は人類に無い。

 だから、それを検出しようという発想は。巨大な重力波観測装置による重力波天文学しか無い。極小幅の重力変動を検出する装置はない。


「ここにも幾つかのレーダーが有る。横方向は見つかるが真上は範囲外、真上からビルの横に降りて目標に進む。いい?」


「うん、大丈夫」


「私の手を離さないで、バリアは私がする」


「はい」


「レーザー兵器はバリアを通過するが、ここに少し有るが問題ない。では降りる」


 そして地面が近づいてくる。着地手前で遅くなり、ゆっくりと足から降りる。ビルの横10メートルの場所だ、完璧な制御だった。

 突然、施設中からサイレンがなる。

 思わず周りをキョロキョロしてしまった。

 周りに動くものが無かった。


「リリス、サイレンが聞こえる。音が聞こえるバリアは?」


「出ている、複数の板状のバリアが重なるように出ている。隙間が有るから聞こえる。これをしないと外部と話せない。

 このサイレンは私達が見つかった合図、前回から学習したようだ」


 さすがアメリカ連合軍、対処が速い。


「どうするの?」


「このまま行く」


 何でもないように言うリリス、何時も道り半端ない。

 ビルの前に歩き広場に出ると周りの建物から兵士がわらわらと出てくる、巡回の兵士も走ってきた。

 そして声が聞こえ得る。


「黒羽の少女が出た、包囲しろ!」


 それを聞いて思わずリリスを見て「黒羽の少女?」と言ってしまった。

 たしかにリリスを見たままだった。

 そうか! 二つ名が付いたのかリリス!

 これで私も二つ名が! と現実逃避していた。


 現実逃避している間に、半包囲でされて銃口を向けている。

 こ、これは怖い。とリリスの腕にしがみつく。

 リーダーと思う人が前に出てきたて、大声で言う。


「君たちは包囲されている、投降しなさい」


 リリスが挨拶する。


「こんにちは、お邪魔します」


 私も釣られて。


「お邪魔しています〜〜」


 声が裏返った挨拶をしてお辞儀する。


「君が来るのは分かっていた、抵抗は無駄だ。隣の少女もだ」


 どうするのと言う視線でリリスを見る。

 リリスは何も動ずることもなく。


「アリス、横を通っていく。何も気にする必要はない」


 そう言って私の手を握り、横に歩き始める。

 リーダーが命令する。


「前を塞げ!」


 兵士が私達の進行方向5メートル前に集まってくる。

 リリスが立ち止まって、溜息をしたように感じた。

 大きな声で兵隊たちにリリスが言う。


「近づくとバリアに触れて危ない。進む先に居る人は横に投げるので投げられる準備をして、投げられたら受け身をするように。

 では投げる」


 そう言うと、前の兵士が左右に投げられ転がる。

 見事に綺麗に投げられ道が開く。

 そして歩く、前に来る、投げる、転がる。

 まるで、コントのようだ。


 パンパンパンと発砲音が聞こえた、ビクッ としてリリスにしがみついて撃った人を見た。

 撃った人は呆然とこちらを見てつぶやく。


「銃弾が反射された……」


 リリスがそちらを見て大きな声で言う。


「銃弾は反射する。味方に当たると危ないので撃たないように」


 兵士はそんなリリスを呆然と見ていた。

 兵士のリーダーが。


「くそ! 本当に反射しやがる。どうすりゃいいんだ」


 私は不思議な顔をしてリリスに聞く。


「ねえリリス、何時もこんな感じ?」


「そう」


 リリスが何でもないように言う。

 やってることは過激だが、内容が思った以上に戦いではなかった。

 口頭で注意をして、道を作って歩く、戦闘というよりもただ進む。

 軍も半分諦め気味な感じ。

 技術力の差があり過ぎる。

 ビルに向かって進む。


 そして、私たちはビルの扉の前に来る。


「この扉どうするの?」


「破壊する」


 破壊、そうか破壊するのか、ちょっと待って聞いてみよう。


「リリスちょっと待って、聞いてみる」


「うん?」


 そして、私は兵士や研究員と思われる方に向いて言ってみた。


「あのーー、すみませんビルに入りたいのです。このままだとドアを破壊するので、誰か開けてくれませんか?」


 兵士のリーダーと研究員が顔を見合う。そして会話が聞こえる。


「どうする? 止めるのは無理だぞ」


 研究員が答える。


「破壊が見たいから、破壊でいい」


「破壊でいいそうだ。くそがーーーー!」


 と兵士のリーダーが答える。

 よく見ると、研究員が何かの装置で観測していた。

 撮影もしている。

 私たちは研究対象でした! ガックリと肩が落ちる。


「リリス壊していいって」


 扉がメキメキメキと奥に向って千切れていき、床に倒れて床に押し付けられていく。

 ビルの中に入っていく通路の幅は2メートルぐらい、中に進むと研究員が居た。私が注意する。


「すみません、通してください」


 研究員が壁による。しかし、リリスが注意する。


「そこに居ると、バリアに触れて体が潰れて死ぬ。それでも良いならそのままでも良いが? 4メートル以内に近づかないように」


 と言うと研究員は慌てて奥や部屋に移動する。

 4メートル以内の近い人は、リリスが容赦なく飛ばした。

 怪我しても骨折ぐらいだろう。これだけ注意しても近づくなら怪我も仕方が無い。

 通路を幾つか曲がりながら大き部屋に入る。

 中央テーブルに白樺の木のコブの様な物がある。

 リリスがポーチから袋を出しそれを入れた。

 そして周りを見渡す。

 幾つかの木の蔦みたいのを袋に入れる。


「終わった、帰ろう」


 出口の方に向くと、兵士と研究員が居て通れない。


「帰るので、そこに居る人投げます」


 そして、「ぐわーー」とか「あーー」とか言いながら部屋の隅に投げられていく。

 道を戻ってビルの外に出る。

 広い場所に出で、後ろに振り返る。

 兵士と研究員が居た。研究員は忙しそうだ。

 一人の研究員が前に出てきて尋ねる。


「あーーその、お嬢ちゃん達、ちょっと話をしないか?」


 なんだろうと首を傾げる。


「なんですか?」


「君たちは、誰だい?」


 ちらりとリリスを見て、仮想会話で聞いてみる。


『リリスどうする?』


『秘密』


『了解』


「秘密です」


「ひょっとして宇宙人かい?」


「秘密です」


「うーーん、秘密かーー、何か話せること無い?」


 お友達になったら話したいと思う、リリスに聞いてみる。


『お友達になったら話せるって言っていい?』


『問題ない』


「お友達になったら話せると思う」


 研究員はの顔が晴れやかになり、元気に聞いてきた。


「そか! お友達ね、いまは?」


「今は無理」


 研究員は肩を落として「残念」とつぶやく。

 なおも何か言いたそうに考えていた。

 しかし、これ以上話すつもりがないので帰ることにする。


「では、帰ります」


 リリスも挨拶する。


「お邪魔しました」


 二人で礼をする。そしてリリスの翼が バサ と開く。

 そしてわずかに浮く。私は皆に向けて手を振っていた。

 徐々に上昇し兵士たちが小さくなる。そして高加速で上昇する。


 回収作戦は終了した。成層圏に戻ってみると既に他の4人は上で待っていた。

 6人が揃った所でリリスが話す。


「今回は、前より戦闘も僅かで、話しかけてくるほうが多かった。戦闘より情報収集をメインに変えてきたようだ。アメリカ連合軍も理性的な集団と言える」


 私はそれを聞いて嬉しくなった。

 人類の評価が少しでも良くなるように願った。

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