第27話 軍の探索と回収 その1
孤児院に着いた翌日は様子を見て、パトロンを確保する為に密かに抜け出す時間を考えていた。
孤児院の案内と説明を聞きながら一日を過ごす。
夕食が終わった後、2階の部屋で休んでいたらリリスがとんでもない事を言った。
「アリス、アメリカ連合の各軍事施設で潜入調査ユニットが見つかっている、回収が必要」
「各施設? と言うことは多数?」
不安と驚きが入り混じった声で問いかけた。
今まで回収の機会は少なかった、それが複数同時。
ただ事ではないと感じる。
「前回の軍事基地回収が切っ掛けで、各施設が捜索されている。前回の回収からカモフラージュを行うユニットに交換しつつ有るが、間に合っていなかった、その分が見つかっている」
アリスは少し真面目な顔をしている。
何時ものような散歩に行くような話しぶりではない。
私も何が起こっているか知るべきだ。
「私も行っていいかな?」
「問題ない。しかし、こちらからは攻撃しないが、向こうからの攻撃が有る。銃や強力な兵器で撃たれる可能性がある。総て跳ね返すが、撃たれるのは怖い、周囲から敵意も受ける。アリスはそれに耐えれる?」
そう、これは戦いだ。こちらからは何もしなくても、相手にすれば軍事施設への侵入者、そして力で回収する任務。
私の最終目標には避けて通れない道だ。今はこちらから攻撃せず、死人が出ない様にしている。でも、何時かは大量に殺す。それも1国が無くなるほどに。
時代が、世界が変わる時は死ぬ人も不幸になる人も大量に出る。
1人の命が人類より重いと思っていない。人類が生き延び繁栄するなら、例え多数の命が危険になっても仕方が無いと思っている。
その覚悟もなく地球征服など、ただの妄想だ。
その現実を目で見て感じて受け止める必要がある。
だから、怖いけど行こう。
それに、リリスが行っている調査は正しい。未知の生物を見つけた時。何も調べず、防具も武器も持たずに「こんいちは」と言って近づく人間は生存できない。最初の遭遇は死んでも、次からは詳細に調べ武器防具を準備して対応する。駄目なら安全な所を確保し移動するか絶滅しない方法を実行する。
そうして人類は生き延び、生存競争に勝ってきた。
宇宙の生存競争に勝ってきたライ連の調査船が調査するのは当たり前だ。特にリリスは原子爆弾関係の調査を最優先にしている。ライ連への脅威ではない。この原子爆弾使用による知的生命体の滅亡が多いからだ。この壁を乗り越える文明は少ない、人類は危険な状態と判断されている。
人類がライ連の調査に文句が有っても、ライ連には関係がない。
ただ当たり前にすべき事をしているだけ。
その現実を見に行くんだ。
「行きます、怖いけど受け止める」
「分かった、寝る時間になったら抜け出す」
「はい」
これから起こることに恐れも不安も有る。でも、それ以上に決意も有る。消灯時間までが長い。
★★★★★
時間が来た、一緒に2階のトイレに行く。そして、手を繋いでトイレの窓から外に出てゆっくり上昇する。屋根の上に出てから加速する。
急上昇して成層圏に行く。
上を見ていたら、真っ暗な中に何かが居た。
近づいたら見えた。
「え! え? リリスが5人と私が1人居る!」
そこには、全く同じ姿の黒ゴスのリリスが、翼を広げ荷物を持って私を真ん中にして手を繋き浮かんでいた。
信じられない光景に驚きながら隣のリリスを見る。
「私の予備とアリスの予備、全員私が操作。私は超並列思考人工知能、大量の人形端末を1人の人格が別々の目的で動かす。問題ない」
「前に居る私は?」
「私が操作して下の孤児院に戻る。これで長時間離れてもいい」
なんと影武者付き、リリスが半端ない!
「服を着替えて、この服では行けない」
4人が成層圏で浮かびながら着替えを始めた。
それぞれの服は、他のリリスが持って受け渡しをしていた。
数百キロ先からでも見える、開放的すぎる成層圏で着替えをする。
天文台のような大型望遠鏡なら見えるかも?
とても運良く見つける人が居ても、理解不可だと思う。
シュールすぎて言葉が出ない。
「ねえリリス、これ着替えなくても操作する意識が変われば良いんじゃない?」
「アリスにとって意識の連続性は重要。人間のアイデンテティに触れる。慣れればいいけど今はダメ」
「なるほど、データー人間でも寝たり食べたりトイレと同じなんですね」
「そう。それに、こういった儀式は重要、疎かにしてはいけない」
ぐは、儀式ですか……
たしかに儀式と言うか、TPOと言うか、形式は重要だと思う。
人類の文化は儀式の集合でしか無いのだから。
文化を尊重するライ連らしいく、とても面白く楽しい。
などと話をしていたら着替えが終わり。
前に居る手を繋いだ私とリリスが少し離れていく。そして手を振りながら急速に降りていった。
黒い空と地球を背景に降りていく二人、その幻想的な風景に見とれていた。
「今回の回収は5箇所なので、5人のリリスで同時に行う。その中の1つをアリスと行く、いい?」
「問題なし!」
右に3人左に2人のりリスが並び手を繋ぐ。そして成層圏を高速で移動する。
数時間後に東の空が明るくなって朝になった。
下は太平洋の海ばかり見える。
でも雲がとても綺麗で見惚れていた。
音が何もしない空で、私の心臓の音と呼吸の音だけが聞こえる。
その数時間後に北アメリカ大陸が見えてきた。
左右のリリスが、一人一人手を振りながら「行ってきます」と言って離れていく。
それぞれの目標に行くようだ。
最後は何時も居るリリスと手を繋いで二人になった。
アメリカは昼の2時頃、明るい時間だ。
そして、アメリカ大陸が動かなくなった。止まったのかな?
「アリス、この下が目的地、軍の研究施設が有る。軍事基地ほど武器は無いが、警備の兵や各種兵器が有る。覚悟は良い?」
真紅の瞳が私の目を見つめて真剣に話す。
作戦の最終確認をする。
もちろん私はもう決意した。
「問題ない」
リリスの口調を真似して答える。
リリスは頷く。
さあ、作戦開始だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます