第39話 約束の日


 手紙を渡してから3日後の昼2時。手紙の返事を聞くため、アメリカ連合のホワイトハウス上空30キロにリリスと手を繋いで浮いていた。


「下からのレーダー波が来ていない。前回と同じ状態、今のところ問題ない。でも攻撃が来たら回避行動をするので、よろしく」


「たぶん大丈夫だと思うけど、了解」


「まずは上空5キロに降りる」


 そして、地球が近くなり始める。大地が近づき、空が黒から青に変わる。ホワイトハウス上空5キロに停止した。


「アクティブレーダーに対空兵器を検知、こちらに向いていない。約束は守られた」


 下を見るとホワとハウスが見える。ビルの正面に人が並んでいる。迎えの準備だろう、みんな上空を見ている。もう肉眼でも目が良いと黒い点ぐらいに見える。敵意は無さそうだ。


「降りる」


 大地が近くなり、前回降りた位置と同じ位置にふんわりと着地する。6メートルほど先に2名の男性、その後ろ4メートルに8名ほど、その後ろに警備員や職員が多くいた。

 二人の男性が歩いてくる。3メートルほど近づいて止まり話しかけてくる。


「もっと近くに行ってもいいかい? 攻撃は絶対しないから安心してください」


 私はリリスを見て、「いいかな?」と聞く。

 リリスは「問題ない、バリアは消す」と答えると共にシュと空気が走る音がする。バリア内の真空に空気が入った音だ。


「いまバリアを解きました、どうぞ普通に近寄ってください。アメリカ連合に、敵対意思がないと認めます」


 二人はゆっくりと近づいてきた。

 バリアは見えないから心配なんだろう。

 そして私達の1メートル前に来た。私とリリスは握手のために手を差し出す。そして二人はゆっくりと近づき握手する。

 私はシュミットと、リリスはアイザックと握手する。

 そして、前の人たちから「おおーー」とどよめきが聞こえる。考えてみれば歴史的瞬間かも知れない。


 私とシュミットが挨拶する。


「3日ぶりだね、大統領直属の情報顧問シュミットです。又あえて嬉しい」


「こちらこそ、人類大使のアリスです」


 隣では、リリスとアイザックが挨拶する。


「情報局の君たちの対応部門、アイザック大佐です」


「よろしく、ライトリング銀河連合 安全保障局のリリス」


 挨拶が終わり。入れ替わって握手して挨拶した。


 前や横から職員がカメラを構え動画が取られている。

 ちょっと恥ずかしい……

 ここはやはり普通の格好がいいと思い。リリスに向いて。


「リリス、翼と牙仕舞う?」


「問題ない」


 バサ と音がして背中に黒い翼が収納し、牙も収納した。

 シュミットが驚いてリリスを見た。

 周りから「おぉーー」と歓声が聞こえてきた。

 リリスは翼と牙を仕舞うと普通の美少女になる。


「その翼と牙は、君の種族の特徴?」


「趣味」と、リリスは無表情で言う。


「しゅ、趣味ですか」


 シュミットはその答えに驚いた。私の黒歴史がアメリカ連合にまで披露してしまった。ガックリと肩を落とす。

 恥かしいので話題を変えようと聞く。


「手紙の返事はどうなりました?」


 シュミットが私の方を向いて、背筋を伸ばし礼儀正しく答える。


「会談を行なうことが決まりました。それで、会談場所の案内と食事でもいかがですか? 良ければアメリカ連合を紹介します」


 食事のお誘いは嬉しい、飛んで来る間何も食べてない。

 それにきっと美味しいものが出てくる。

 リリスの方を見て聞いてみた。


「リリス、食事良いかな。飛んでる時食べてないから」


「問題ない」


 シュミットさんの方に向いてニッコリ笑顔で。


「食事と案内をお願いします」


「喜んで、レディー達」


 そんなやり取りをアイザックは不思議そうに見ていた。

 そんなアイザックに気がついて、私が。


「アイザックさん、前回は警戒してたからリリスの威圧が出たんです。普通はとても優しいですよ」


「なるほど、そうでしたか」


 リリスが私の斜め前に来て、男二人を見つめながら。


「アリス、二人とも全身に電子機器がついいる。そして記録やリアルタイム通信が行われている。警戒は変わらない」


 シュミットがギョッとしてリリスを見た。

 リリスは強い視線でシュミットを見る。


「外したほうが良いかい?」


「私達と友人として話すなら外した方がいい、仕事ならそのままで良い。しかし、仕事なら警戒しながら食事をして帰る」


 リリスは私を見て。


「アリス、警戒しながら食べる? 食事なら二人で何処かに行って、ゆっくり食べればいい」


「うーーん、警戒しながら食べるのは嫌かな」


 そう言いながら横目でシュミットを見る。

 シュミットは慌てて。


「まって、まって、今外すから友人として食事しよう。

 今外してくるから待ってて」


 アイザックはまるで分かってたように頷く。

 そして二人は建物の中に走っていった。

 前に居る8人を見て、私はアメリカ連合に友人になりに来たんだと考え、リリスを連れて10メートル先の人たちに近づき。


「こんにちは、握手しませんか?」


 と言って右手を出す。8人は戸惑い、顔を見合わせたが、一人が前に出てきて握手し紹介を始める。その後全員が握手を求め紹介をした。

 リリスも釣られて私の後に続き、全員と握手と簡単な紹介をする。そして、8人に囲まれながら雑談を始めた。

 がやがやと雑談していたら、シュミットとアイザックが近くにやって来る。私達の光景を見てシュミットが驚きアイザックに話しかけているのが聞こえる。


「なんか、ずいぶんフランクに話してるぞ、あの二人」

「あれは、アリスがそうしていると思う」


 私達の光景を見ながら、シュミットが考えていた。


「なるほど、アリスは何か目的がありそうだね」

「たぶん」


 そう、私には重要な目的が有る。

 シュミットが全員に聞こえるように話した。


「レディー達、車が用意してあるので此方に来てください」


 シュミットに振り向き頷く。


「分かりました、皆さん又お話しましょう」


 と8人に向いて手を振る。8人も笑顔で答えていた。最初の緊張は消え去っている。挨拶して良かったと心から思う。


 シュミットに案内され大きな黒いリムジンに乗る。前に3台後ろに3台の国旗を掲げた黒い車に挟まれていた。

 外にいた体格がガッチリとした黒背広のSPが各車に乗る。

 これはもう、大統領の送迎レベルだった。

 はじめての経験、まるでファーストレディーの気分だった。


 しばらく走ると、大きな屋敷の様な建物が見える。その建物の玄関に止まり、ドアに近づくとドアボーイが両開きのドアを開ける。中からクラッシックな音楽が聞こえる。

 シックながらの絨毯が敷かれた大きな広間に入り。中央には大きなシャンデリアが有る。私は田舎から出てきた小娘のように周りを見ていた。


 シュミットに案内され、大きなテーブルが有る10畳ほどの部屋に入る。ボーイが椅子を引いて、右奥から私とリリス、正面にシュミットとアイザックが座る。

 前には真っ白なテーブルクロスにナプキンが立っていた。ナプキンを取り膝に敷く。


「君たちは、食べ物の条件とか有るかい?」


「なんでも食べます」


「同じ」 とリリスが簡素に答える。


「では、おすすめコース料理でいいかな?」


「はい」「問題ない」


「飲み物は?」


「お酒以外なら、何でもいい」「同じ」


 それを聞いて、シュミットがボーイを呼び注文した。

 すぐにオレンジジュースが運ばれてくる。

 一口飲む、美味しかった。物が違うと感じる。


「私のことはシュミットと呼んでください。アリス、リリスと呼んでいいかな?」


「はい」「問題ない」


「私もアイザックと呼んでほしい」


 アイザックを見て笑顔で頷く。

 食事が来るまで雑談タイムとなった。

 シュミットが私を見つめて聞いてきた。


「アリスは人類大使と有るが地球人かい?」


「そうです。国籍が無いけど」


「何処の国の生まれって聞いてもいい?」


「うーーん、会談の時には言えるかな。今は関係者に何か有ると怖いことになるから秘密です」


 そしてアイザックに顔を向けて。


「アイザックも秘密でお願い、怖いことは無しで行こう」


 少し引きつった顔で「分かっている」と答える。

 シュミットはリリスに顔を向けて聞いてきた。


「あの、リリス、ライトリング銀河連合ってどんな国?」


 少し思案したリリスは答える。


「約3000の恒星系を持つ、星間国家」


 その答えを聞いたシュミットとアイザックは驚愕して固まる。

 そして、シュミットは深刻な顔をして何処かを見ながら考え込む。


「確かに、地球まで来ているということは、恒星間を航行する技術を持つわけで、星間国家になるわけか。しかし3000とは……」


 独り言のようにシュミットはつぶやく。


「ああーー聞きたいことが山ほど有るけど、リリス達は光速を超えた移動と通信が出来るんだよね?」


「できる」


「アメージング、人類には不可能だ」


 オーバーアクションで首を横に振っていた。

 うんうん唸っているシュミットを他所に料理が運ばれてきた。

 フランス料理風の前菜だった。

 食べてみる、美味しかった。おいしい料理でニコニコだ。


「聞きたいことが多すぎて、聞いてもいいかな?」


「聞くのは自由、殆どは秘密、会談で話す内容も有る。それでもいいなら、どうぞ」


「地球に来た目的は?」


「秘密」


「異物の目的は?」


「安全保証上の必要な行為」


 その後シュミットの興味が赴くままオーバーアクションと共に。質問と秘密が交わされていた。

 それを、横目で見ながら、おいしい料理を食べた。

 質問と秘密の応酬が、第三者的に見ると面白かった。

 アイザックはそんな3人の様子を冷静に見つめていた。


 ようやく落ち着いたシュミットが料理を食べ始める。リリスは対応をしながらも料理は総て食べ終わっていた。

 食事が終わったシュミットは。


「ふうーー、秘密が多いのは分かっていたが、これほど興味が出た会話は無かった。楽しかった」


 満足したような顔をしながら、私に気が付き申し訳無さそうに。


「あ、アリスごめん、リリスだけに話してて」


「いえ、シュミットが楽しそうでよかった」


 その後雑談が終わり、ホワイトハウス内の案内と周辺の案内。

 庭でのんびりした後、帰ることになった。


 ホワイトハウスの前に戻る。

 シュミットが私に向って、礼儀正しく聞く。


「では、1週間後の午前10時にこの場所でいいかな?」


「はい、問題ないです」


「たぶん1日掛かると思うので、宿泊が必要なら此方で用意します」


「お願いします」


「今回だけでなく、次回も色々話したいです」


「お友達になり、親友になって、信頼が深くなってきたら、色々話せるようになると思います」


「それは楽しみだ、頑張るよ」


「それでは帰ります。また1週間後に」


 そう言って手を振りながらリリスと共に、上空へと飛び去る。

 シュミットを含め大勢の人が手を振っていた。

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