第35話 アリスとリリス
アイザックと別れたあと、リリスは私に向いて話す。
「アリス話が有る、いい?」
「もちろん、私達の部屋で話そう」
そして門に入り、玄関に戻る。
冷たいお茶を準備して部屋へ行く。
私達の部屋の大きさは10畳ほど、床は緑の絨毯、机は二つ並びベットも2つ有る。タンスに小物入れが2つ、窓にはレースのカーテンと蔦草の模様が有る厚手のカーテンがある。
中央にはコタツのような和風テーブルと座布団、和洋折衷な部屋だった。
座布団居座り、テーブルには冷たいお茶とお菓子を用意した。
そして、向かい合わせに座る。
「アリス、今回の件でアメリカ連合にこの場所が分かってしまった。もう秘密ではない、必ず何かのアクションが有る。その対策が必要」
真面目な顔で私を見つめる真紅の瞳。何時も真面目だが真剣だ。
たしかに、アメリカ連合に身バレした、きっと何かが起こる。もう平安ではない。
「うん」
「私は、アメリカ連合と会談をしようと考えている。私には政治的交渉能力と政治的判断が出来る人工知能。だから、政治的会談をする」
おおーー、とうとうリリスが前に出るのか。
何かが起こると予感する。
「うん」
「その時、アリスは人類大使として紹介する。ライ連からは今までと同じだが、人類からライ連への大使の役割を示す」
胸がどきりと音を立てる、とうとうこの時が来たのかと。
私に何かできるだろうか?
「アリスはアリスのままで考え行動すればいい。アリスは人類の滅亡を無くし、繁栄のためにライ連に入る人類にしたい。それが目標」
「うん、そうしたい」
「でもこの確認は、アリスの方向を決める物ではない。もし人類は滅べと思ったら。私が滅ぼすことも出来る」
びっくりして否定する。
「いや、滅べなんて思ってないから」
「アリスがライ連の基本理念から離れてしまったら、私はアリスを守ることは出来ない。アリスよりライ連が私には優先度が高い。それだけは覚えておいてほしい」
そう、リリスはライ連の第一級調査船、ライ連の為に存在する船。それはリリスの存在意義であり使命だ。
そして私はライ連の基本理念を羨ましく思っている、人類にはまだここまで来ていない。民族対立や国家対立、思想対立を克服できていない。
「分かっています。それに、とても多くの多種族多民族をまとめ、繁栄して、ルーツを手繰れば数万年も維持しているライ連の基本理念は素晴らしい。私はそれに賛成だから、大丈夫」
「ライ連にいる知的生命体は、ライ連の基本理念を理解し納得しなければならない。それこそがライ連がライ連である存在意義。ライ連のルールに納得できない者は、外の者として滅ぼす。それがライ連が生存競争を生き抜いた証明。
人類はその壁を超えなければ滅ぼす。アリスの目指す道は厳しい、多くの命と涙が流れる。再度聞きます、覚悟は有りますか?」
真剣な顔で私を見つめる。まだ私はリリスから見れば甘いのだろう。知識として分かっていても、実感としての理解がないのだろう。リリスは優しい、それを見せないようにしている節が有る。だから、心配で聞くのだ。
分かっています私の甘さを。だがそれでも乗り越えたい。私のためにも人類のためにも。
「心の中での覚悟はあります。これから実感としての覚悟を作っていく。それが私の答えです」
「分かりました」
そう言ってリリスは目を瞑り、瞑想しているように身動きしない。
そしてゆっくりと目を開け、話し始める。
「アリスには嘘偽り無く話していますが、政治の場ではそうではありません。誇張やまぎらわしい表現、強い意見に狡猾な話しぶりや態度、一見嘘のように見える話もあります。アリスはそれを見て驚くかもしれません。それを間近に見る覚悟をしてください」
政治家としてのリリスの一面を見る事になる。きっとブレないリリスが全面に出る。地球の政治家の様な曖昧なものは出ない。アメリカ連合の政治家はきっと頭を抱えて悩む、対応に悩む、狡猾な提案など事実の前に切って捨てられる、着地点を明確にしなければ切られる。
その姿が見える。
「分かりました」
「私の冷酷な部分や狡猾さを見て、アリスに嫌われてしまうかもしれない。アリスの進む先で、私は人類に酷いことをします。どんなに上手くやろうと、それが予測される」
リリスが下を向く、何故かリリスが泣いているように見える。何故そんなにも私の事を、と思ってしまう。
「リリス大丈夫、私がリリスを嫌うことは無い、安心して」
「ありがとう」
「アメリカ連合の捕獲作戦には、僅かですが武力の一部を見せる。これは政治的な武力行使。相手がこちらを知らないからこそ、大きな戦力が準備される。それを高速で短時間に回収すれば次はもっと大きくなる。だから今回は相手の武器を破壊する。死なないように加減するが、死人が出るでしょう。しかし、政治的には必要なこと。そして会談を申し込み、その場にアリスは同席する。いいですか?」
こちらから見れば調査も回収も当然の行為。相手から見れば悪の侵略者であり破壊者。調査は私の目的のため、回収は人類に技術が渡った時点で、敵性判定されるので回収する。
ライ連に入ることを考えなければ、滅亡させたほうが速く、面倒事がない。殺さないようにしているのも私のため。調査の目的は核兵器、それも人類が自滅しないようにするため。
人類が核兵器で自滅しようがリリスにはどうでもいい事、きっと私が泣くから気にしている。
アイザックに対するプレッシャーも暴走に釘を刺すため。
捕獲作戦の武器を破壊するのもこれ以上の戦いを望まないため。
そして、リリスが前に出るのも私の環境を守るため。
言葉とは裏腹にリリスは優しい。
「うん、大丈夫、私は人類が生き延びて繁栄できるように頑張る。そしてアメリカ連合の人たちと友人になる」
「では、一緒に行動し大使として会談の手紙を渡す、いいですか?」
「はい!」
「捕獲作戦には、リリス3人とアリスが行く。アリスは危険なので上空で待機、作戦終了後主要人物に手紙を渡しに行く。アリスと私はホワイトハウスに行く。以上」
「了解!」
とうとうアメリカ連合と直接対話、目標、友人になるんだ。
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