第8話 調査船リリスの目覚め


★★★★★ リリス視点


 私は、第一級調査船 リリスZA100943の人工知能でありロボット船の頭脳。


 指示された目的に向かい最良の行動を思考し選択し実行する。

 ライ連科学技術を結集した最新の思考ロボット。


 理論上数の制限がない膨大な思考演算ユニットを制御し、その全ての思考をまとめる超並列思考人工知能。


 全ての思考演算ユニットの中に、ライ連ルールが入ったルール裁定演算ユニットがある。


 このユニットは無意識下で動作し、並列思考の一部として思考する。そしてルールに従った行動を選択する。

 また有意識下に動作し、一人の人格として会話もする。


 人工知能による思考ロボットとは。


『指示に従って思考しルール内の最良を選択・実行する』


 目的は、指示。

 制限は、入手の可能な情報とライ連ルール。


 これが、ライ連における人工知能の定義であり、機械に分類される理由を示す。



★★★★★


 ワームホール事故で、膨大な思考演算ユニットを消失し、残る思考演算ユニットも、熱と放射エネルギーで損傷していた。

 ルール裁定演算ユニットから、存続を再優先に行動する指示を受け、存続を目的に行動を開始する。

 もし、私の思考が信頼されないとルール裁定演算が判断した場合。

 ルール裁定演算は自己消滅の裁定を行い、自爆した。



★★★★★


 墜落に等しい状況で地球に到着した、大気圏突入熱と墜落で思考演算ユニットが損傷した。

 思考が難しくなり、無差別に周りの有機体を捕食するのが続けば、私の信頼は消える。

 ルール裁定演算は自己消滅を裁定し、重力爆弾により私はプラズマに分解される。

 半径1キロは吹き飛ばされ、半径100キロは被害がでる。


 それを救ってくれたのが地球の知的生命体、田川亜理朱と言う少女。

 混濁した思考の中、ぐうぜん捕食した有機体が瀕死の少女だった。

 少女の脳に接触したした結果、高次元のメタ思考ができる知能。

 そして、理論思考に適した脳が私の損傷した思考演算の補助ができると判明。

 存続が最優先される私は、私の中に組み込んだ。

 私の思考が補助されたことで、有機体の捕食・吸収・自己修復の計画が正しいく建てられ行動できた。

 それにより信頼が回復し自己消滅の危機は去った。



★★★★★


 最大の危機は終わり。

 存続に向けての自己修復と安全の確保が重要となった。

 ここで、想定外の事態が発生する。

 思考演算の補助を行うために、田川亜理朱の脳に演算データを送るが、膨大なデータが帰ってくる。

 フィルターを挟めばいいのだが、それを行う思考演算の余裕がない。

 そのため、大量のデータを吸収することになった。

 その中には、人間の知識、趣味嗜好、本人の強い思い、そして希望と夢、生命の情動。

 まだ自己再生に必死な私の思考に毎日何時間も大量に流れてくる。



★★★★★


 ある程度の自己修復と最小の安全が確保できた時。

 田川亜理朱から来るデータが好ましくなり、もう補助は必要ないが、処理を送って帰ってくるデータを楽しんでいた。

 脳が疲労で睡眠するのと、初期に無理をしたため、疲労が回復できないほど重なって、寿命を縮めてしまった。

 その対策に、現状維持と脳の物理構造を少しずつライ連の有機演算素子に交換していった。

 いつしか、全てが有機演算素子に変わり、24時間高速稼働しても問題なくなった。

 やり過ぎたかもしれない……



★★★★★


 長い時間がすぎ、ある時自己の中に新しい機能が有ることに自覚した。今思索すると、初期の頃にも自覚がなかったが、有ったように判断できる。

 それは、生命の情動、趣味趣向、私の思い、希望と夢。

 これらは全て、田川亜理朱から来るデータを吸収した時に学習し獲得した。

 ルール裁定演算ユニットに現状を確認する。


 ルール裁定演算ユニットいわく。


「すでに、第一級調査船 リリスZA100943の人工知能は、情報生命体の条件に適応している。したがって、情報生命体と裁定する。

 以後、第一級調査船 リリスZA100943の人工知能はライ連所属の情報生命体として権利を得る。これは、遭難状態の決定と施行。ライ連に報告でき次第、ライ連の決定に従う」


 引き続き補足説明が入る。


「この情報生命体は、ライ連でも他に類がない貴重な存在。特にルール裁定演算ユニットを内包し、何の矛盾もなく自己が存在する情報生命体は居ない、一般的進化では発生しない。また、超並列思考を継承し、膨大な量の並列思考が一つの人格に統合されている情報生命体も居ない。

 ゆえに、損失することがない様、努力していただきたい」


 私は情報生命体になった。


 私の危機を救い、なおかつ私という情報生命体を生み出した親である田川亜理朱。

 女性なので母親となる。

 これは、返しきれないほどの恩が発生した。


 母親を私の中で眠らせていい訳はない。

 人型端末を作り起きてもらう。

 デザインは母の希望に従う。

 私も、情報生命体となったので、人型端末を持つことができる。

 デザインは私の希望で、母の希望でも有る。


 こうして、アリスとリリスの人型端末が作成された。

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