第29話 パトロン ヤクザ その1
ユニットの回収作業が終わり日本の上空に戻ってきたら、夜が終わっていた。
緊張が溶けたせいか眠い。
「リリスーー、日本はお昼、そして私は眠い」
「昼の交代は見られる危険が有るので、神奈川にも小さな基地が有るから、そこで眠る?」
なんと! 神奈川にも基地が有る?
「マジですか? 神奈川にも基地!」
「世界中に多くの小さな基地が有る。基地が1つでは安全保障上問題が有り、私は分散システム。多くのノードに分散しているのが通常状態。アリスも私と同じように分散している。しかし動いているのは1つ」
な、なんと、すでに私は分散システムだった。
「宇宙にも、調査船の分離が幾つか有り、そこに大きなノードが有る。月と火星にも作っている。だからアリスは宇宙にも居る」
またも驚愕の事実、私はすでに宇宙と月と火星に居た。
岐阜基地とか地底基地とかそんなチャチな物じゃない。
もっと恐ろしい片鱗を………………
「私が動いているのは1つ?」
「そう、後は常に同期されている。この話は長くなるので、次の機会にしませんか? 眠いですし」
そうだった、驚きで忘れていたが眠かった。
「うん、先に寝ましょう」
そう言うと、アリスは「ちょっと失礼」と言って私をお暇様抱っこした。
「え、え! なぜに?」
これを被るからと言ってポーチから乳白色の膜を取り出し、私と一緒に被った。
「昼間だと、これを付けると、あまり見つからないし、見つかっても風船みたいだと思う人が居る。人が空を飛んでたら流石に問題」
そして私はお暇様抱っこされて移動だった。
リリスの胸が気持ちよく、リリスの吐息と鼓動を感じていると安心して目をつぶった。揺れも加速も感じずにそのまま寝てしまった。
★★★★★
木々の枝が揺れるざわめきと、小鳥の声が遠くに聞こえる。そよ風が頬を触り髪を梳かして行く。ここは外? と思いながら目が覚めていく。
目を薄っすらっと開けて見たものは、大きな木に生茂る枝と葉、木漏れ日が隙間から見える。そして大きな黒い山が2つ目の横に有った。
「おはよう」
と声を掛けられて、上からリリスが覗き込む。頭の下には柔らかい感触が有る。
そうか、これが膝枕なのかと感動した。
大きな黒いものはリリスの胸だった。
「あれ、基地で休むんじゃなかった?」
「入ってみたが、縦横3メートルの小さな部屋が有るだけだった。家具も何もない。だから木の下で休むことにした」
「何時間寝てた?」
「3時間ほど、今は午後3時過ぎ」
ありがとう、と言いながらリリスの膝から離れて起き上がる。
そして大きく伸びをする。
「膝枕3時間もごめんね」
「問題ない」
立ち上がって枯れ葉を払う、3時間寝て頭もはっきりした。
リリスも立ち上がり枯れ葉を払う。今は人間モードだ。
「アリス、今から何をする? 戻るのはできそうにない」
「もちろんパトロンを作る。そして住所に電話にパトロンという保護者を持てば。バイトも出来る、電話も買える、食料も買える、ネットも出来る、パソコンも買える。日本で正当な活動が出来る! 第一目標がクリアできる」
「頑張れアリス」
「パトロンを作って私達を孤児として引き取れば、身分も一応成り立つ。これからは私のターン」
満面の笑みを作ってリリスに宣言する。
リリスはそんなアリスを見て嬉しそうにしていた。
顔は無表情だが微妙な仕草や雰囲気が分かるようになった。
「よし、ヤクザを探して力で優しくお願いしてみよう、ダメなら逃げて他を探す。色々やればどれかは当たる。行くよリリス!」
「了解」
とリリスの手を掴んで山を降り様としたが……
道が分からなかった。リリスに振り返り。
「リリス町までお願いできる」
「問題ない」と言ってリリスは私を後ろから抱えて、森の中を低空で飛ぶ。20分ほど飛んだ、ここは遠い場所だった。
町に着いて歩いて駅に行く。
ヤクザと言えば繁華街、それも怪しい場所がいい。
電車に乗り横浜へ行く。
二人共いつもの黒と白のゴスロリ服、注目されないわけがない。
視線が痛い。
横浜駅に着き出口に出て、駅の横に有る、少し汚い線路沿いの道を進む。前に不良そうな若者が壁に寄りかかってスマフォを見ていた。
髪は金髪ツンツン、目は鋭く尖り、黒いジーンズに革ジャンを着ていた。
横から声をかける。
「こんにちわ、お兄さん」
不良は周りをキョロキョロしてからこちらを見る。
「ひょっとして俺か?」
「そうです、道を教えてくれませんか?」
「よく声が掛けられるな? まあいいか何処だ?」
声を掛けられるのが不思議だったよう。しかし行き先を聞いてきた、意外と親切だ。
「飲み屋やゲーセンが有る怪しい所は何処ですか?」
不良お兄さんが、ものすごく奇妙な顔をして私達をジロジロ見る。
「子供が行くところじゃないぞ!」
お兄さんはキツい口調で注意する。
「用事が有って」
「どんな用事だ?」
「秘密です」
秘密の言葉に唖然としたお兄さんは、少し思案していた。そして、
「ちっ、仕方ねえ俺が案内してやる、お前ら危機感なさすぎ。着いて来い」
そう言って前を歩き始めた。しばらくして、飲み屋やバー、ゲーセンが有る通りに入る。
「ここが怪しい場所だ、このまま進んでいいのか?」
「はい、どんどん進んでください」
お兄さんは歩き始める、どんどん進み飲み屋の通り街のような6メートルほどの道を進み、次に3メートルほどの怪しい道に道に入っていく。
「怖くて危ないだろ、もう引き返したらどうだ?」
と聞いてくるが、軍隊に銃口を向けられて囲まれ、撃たれた事を思えば、全く怖くなかった。リリスに慣らされたかも。
「いえ、銃口に比べれば余裕です」
「はぁーー銃口だと、夢は寝てみろ!」
信じてくれなかった。ガックリと肩を落とす。
しばらく歩いていると前から、全身黒、全身白の背広きてサングラスを付けた、いかにもヤクザです、の雰囲気を出した5人が道の真ん中を歩きながらやって来た。
それを見たお兄さんは慌てて横道に入ろうと呼びかける。
「やばい、奴らだ、こっちに来い」
お兄さんは手でこちらにと振るが。私は悪の笑顔で。
ふふふ、チャーーーーンス。ヤクザが向こうからやって来た。
お兄さんを無視して、「リリス行くよ」と言ってヤクザに向って歩き始める。お兄さんは振る手を止めて困った顔で見る。
道の真ん中を堂々と歩くヤクザの前に、こちらも道の真ん中を堂々と歩きヤクザの前に立つ。
右のヤクザが「なんだこの子供は?」と。
左が「邪魔だ、道の横にどけ!」と威嚇する。
真ん中のヤクザが、好色な目で見ていた。
迫力なら兵隊のリーダーのほうが上だな。などど考えながら。
「ヤクザに用事が有って来ました」
左のヤクザが「はあ、何を言ってやがる!」
真ん中のヤクザ、たぶんこの中のボスが左に軽く手を上げて制する。
「譲ちゃん何の用事が有るんだ?」
そう、最初が肝心、力を見せる切っ掛けと威圧がいる。
にっこり笑って言う。
「私に、お金をください。そう300万ほど」
ヤクザが全員一瞬口を半分開けて呆れ、そして睨む。
ボスが立ち直り。
「お前ら二人を大陸に売れば、ソレぐらいになりそうだな」
と言ってニヤニヤ笑う。周りも好色そうにニヤニヤする。
左のヤクザが私を掴もうと近づいてくる。
そのイヤらしい手つきが近づき、あまりの嫌悪で来るなと思った。
その瞬間、ヤクザは空中に5メートルほど吹き飛ばされ、壁にぶつかり倒れ、呻き声を上げていた。骨折したかも。
残り4人おヤクザは、後ろを振り返って飛ばされたヤクザを見て、直ぐに臨戦態勢に入る。
スーツの中からメリケンサックを出して装備したり、棍棒のようなものを出したり。ナイフを出すものもいた。
ボスが指示を出す
「子供! 何しやがる! 捕まえて大陸に売る、捕まえろ!」
3人が武器を片手に迫ってくる。
隣のリリスが静かに手を上げて、ヤクザを静止するように手のひらを見せる。
その瞬間4人のヤクザは空中を10メートルほど飛んだ。そして、壁や道路にぶつかり倒れて呻き声を上げる。
あ、あれは骨折したな、間違いなく。なむーー
ちょっとやり過ぎたかも、話が出来ない。
1回目は失敗、それに大陸に人身売買は許せん。
パトロンなど拒否する。ここは逃げよう、そうしよう。
そう思って、後ろを振り返るとお兄さんが物凄い勢いで手招きしている。必死の形相だった。
お兄さんの所に行くと、二人の手を掴んで走り始めた。
一緒に走ること10分ほど、喫茶店のような所に入る。
そして奥の席に座り、一言。
「おまえら、とんでもない事をしてくれたな!」
「はい?」
首を傾げながら、何か問題でも? と言いたげに声を上げた。
お兄さんは片手で頭を抑えながら呻く。
「こいつら、何をやったか分かってない……」
何やらぶつぶつと呻いている。そうしている間にウエイターが来て注文を聞く。メニューを見て私たちはコーラフロートを2つ、お兄さんはホットコーヒーを頼む。
気を取り直したお兄さんが説明する。
「アイツラは大陸から来たマフィアで、この横浜を荒らしているやつだ。お前らは、絶対に見つけられて捕まる。そして慰み者だ、その後大陸に売られる。わかったか、どれほど危険か!
俺も顔を見られた、最悪だ!」
そう言って又頭を抱え始めて、ぶつぶつと呻いている。
「私達は大丈夫ですよ。何の問題もない」
挨拶するように普通の調子で話す。
何の問題もない、来たら倒すそれだけだし。
お兄さんを見ていたらコーラフロートとホットコーヒーが来てテーブルに並ぶ。
私は目をキラキラさせながら食べ始める。
コーラフロートが美味しい!
お兄さんが立ち直り。
「お前に問題がなくても、俺には大有りだ!
だいたいお前ら、ここに来たのは喧嘩が用事なのか?」
「いや、ヤクザの人に優しくお願いしようかなと」
「お前らの優しくお願いは、人を10メートル吹き飛ばすのか?」
「いや、大陸に売り飛ばすって言うから、つい」
「ついって、ついであれか!」
と言ってお兄さんは頭を抱えた。
しばらく、無言で二人は食べていた。
お兄さんが復活する。そして聞く。
「ヤクザにお願いってなんだ?」
「私達のパトロンを探してて」
「パトロンてなんだ?」
「私達孤児で孤児院に居て、引き取り手を探してるんです」
「な・ん・だ・と! その格好で、その美少女で、あのメチャクチャな力でか! 世の中狂ってる」
また、頭を抱え始めた。
……………………
そして立ち直る。
「親父に話してみるか……」
「はぃ?」
「俺の親父はテキ屋の組長、昔風に言えばヤクザだ。今大陸のマフィアにちょっかい掛けられて潰されそうだ。俺の顔がありその仲間が喧嘩して怪我をさせた。潰す言い訳が出来たわけだ!
お前らのせいで俺の組は最悪だ……」
そう言って、テーブルにうずくまる。
あちゃーー、最悪な状況を作ってしまった。
そして、ここに気質っぽいヤクザが居た。
カ・モ・ネ・ギ・だ!
心の中で悪い微笑みをして優しく言う。
「私達が助けたら、パトロンになってくれる?」
悪魔の囁きをするのだった。
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