第42話『烈生の家族』
僕達は、時間を惜しむように訓練に励みました。
初日こそ、訓練以外は普通の生活をしていたけれど、二日目からは学校や仕事と言ってられなくなっちゃった。
襲撃されるかもしれないという緊張感や恐怖というのは、想像以上に酷いものだったよ。
お姉ちゃんは「こんなんじゃ、何もされていないのに精神的にまいっちゃうわ」とか言いつつ、直ぐに関係各所に連絡して、長期休講を承諾させてくれた。
勿論、護さんの職場にもね。
そんな訳で、1日中訓練に打ち込んだのだけれど、皆さん苦戦していました。
護さんと力音さんは、
逆に、芽愛さんと疾斗さんは、属性は簡単にクリアしたけど、散布の方は苦戦しているみたい。
唯一夕美さんは両方とも順調に出来るようになっています。
あっ、もちろんお姉ちゃんも。
で、僕はというと…。
「じゃぁ、次は閃光爆弾ね。」
「閃光?」
「強い光で「うわっ!?まぶしっ!」って敵がなるやつよ。」
「あー、わかったよ。」
イメージして爆弾を作ってみる。
お試しなので、爆発力は最小限に調整しておかなくっちゃね。
爆竹程度の威力だよ。
ヒョイっと投げてみる。
バンッ!
乾いた小さな音だったけれど、強い光は想像以上だった。
「ん…。」
お姉ちゃんも手で光を遮るけれど、それでもまぶしかったよ。
「また成功ね。烈生が一番飲み込みが早いわ。」
「本当?」
「周りを見てみなさい。」
他のメンバーは呆気に取られながら僕を見ていた。
「また成功したのかい?」
力音さんからだ。
「うん!」
「すごいなぁ。コツとかあったら教えてよぉ。」
「えっとね。イメージが大切だと思うよ。」
「妄想は得意なんだけどなぁ…。」
苦笑いする力音さんに向かってお姉ちゃんも助言する。
「バカね。妄想出来るなら、それをそのまま能力で再現すれば良いのよ。純粋に、単純にね。余計な事を考えたり、難しく考えちゃ駄目よ。」
「うーん…。もう一回やってみるよ。」
力音さんは、ちょっと上を見て何かを想像しているみたい。
目線を落とし指先を見つめる。
そんな力音さんは、昔は太っていたんだって。
今は筋肉ムキムキで格好良いよ。
でも話し出すとアニメとかゲームのことばかり。
僕は最近おすすめのアニメを教えてもらって、一緒に見てみることにしたんだ。
凄く面白いし、感動するお話しもあったりして、とても楽しみにしている。
見た目や会話からは想像しにくいかもしれないけれど、僕の事に気を使っているのがわかるし、とても優しいお兄ちゃんって感じかな。
「イメージをそのまま能力と重ねるのよ。」
お姉ちゃんの言葉に、迷うこと無く指先に集中したその時。
ボッ…。
ロウソクぐらいの炎が現れた。
「おぉ…。」
近くにいた護さんが驚くけど、お姉ちゃんはシーッと一本指を口に当てて、静かにするようジェスチャーしたよ。
真剣な表情で炎を見つめる力音さん。
小さな炎は、本当に燃えているように、ゆっくりとユラユラ揺れていた。
「力音。その炎を大きくしなさい。」
「御意…。」
「ただし!熱さはイメージしちゃ駄目よ。温度は考えず、炎の形だけ大きくしなさい。」
「………。」
額の汗が滴り落ちる。
物凄く集中しているのが分かった。
ボッ…ボッ…
炎は、激しく燃える度に大きくなっていく。
ボッ…
手の平の上に移った炎は、力音さんの顔ぐらいの大きさになっていた。
凄い…。
でも、熱くないらしく、手の上の炎を顔の前に持ってきてマジマジと見ていた。
お姉ちゃんは、ツカツカと歩いて力音さんの元へ歩いていくと、徐ろに炎の中に手を突っ込んだ。
「あぶ…。」
危ないって伝えようと思ったけれど、既に炎の中に腕が貫通していた。
本当に熱くないんだ…。
「どう?炎の存在と同時に、能力が作っているって実感があるでしょ。」
「うん…。今なら分かる…。」
力音さんは、余裕がなさそうに答えていた。
それだけ集中しているんだと思う。
「後はイメージするだけで能力が勝手に反応してくれるはずよ。その練習をしなさい。」
「どどど、どやって?」
「そうねぇ…。炎の輪っか作ったり、口からファイヤーブレス吐いてみたり、アニメで見た炎系の真似でもしてみなさいよ。」
「お…、おう…。」
その時、谷垣さんが何かをお姉ちゃんに渡した。
「ありがと」と言って受け取った物は、どうみても庭にあった石ころのようだった。
それを護さんに渡す。
「石…?」
「そうよ。それとそっくり同じ物を反対の手の平に作ってみなさい。」
「………。」
試行錯誤していたけれど、これがきっかけで夕方には崖を作ってクライマーごっこするぐらいにはなっていったよ。
護さんは、回りくどい言い方はしない人かな。
何でもビシッと言ってくれるの。
最初はちょっと怖かったけれど、きっと僕の為に言ってくれているんだと気付いてからは、怖くなくなっちゃった。
それに、プラモデル作るのが、凄く巧いんだ。
僕も一緒に作らせてもらっている。
作りながらも、色んなお話しをしてくれるんだ。
女の子の口説き方とかも…ね…。
とっても頼れるお兄ちゃんって感じかな。
疾斗さんと芽愛さんの訓練も大変だったみたい。
意外と言ったら失礼だけれど、疾斗さんの方が先に上手く出来るようになって、色々と挑戦していたよ。
「疾斗はきっかけさえあれば、何でも出来るタイプよ。後は繰り返しの訓練が重要ね。
「おう!やってみるぜ!」
簡単に引き受けているけれど、とても大変な作業だよ…。
疾斗さんは、とても行動力がある人。
何でもやってから考えるタイプかな。
一緒にキャッチボールして、ついでにバッティングとかも教えてもらったけど、僕の投げたワンバウンドするようなボールも打っちゃうんだ。
サッカーやってもそうだった。
どんなボールにも食らいついちゃう。
そう言えば、初めてやるゲームも直ぐに上達しちゃって、力音さんといい勝負していた。
お姉ちゃんも言っていたけれど、真似しようと思っても出来ないタイプ。
一緒にいると何でも出来ちゃうような錯覚すら感じるお兄ちゃんかな。
そんな疾斗さんを見て、クスクスと夕美さんが笑っていた。
夕美さんは、ちょっと先走りするけれど、明るくて何でもチャレンジする感じの人だよ。
勉強を教えてもらっているけれど、お話し好きで、しかも直ぐに脱線していってしまって、いっつも止まらなくなってる。
なので勉強以外のことも色々と教えてもらったよ。
でもね、一緒にいると僕も明るくなれるし、前向きにもなれるし、いつも笑っていて楽しいお姉ちゃんかな。
「後は芽愛、あなただけよ。」
「すみません…。」
「謝る必要はないわ。人には得意不得意があるだけよ。直ぐに追いつくわ。」
「ご主人様…。」
お姉ちゃんはいつも公平でいようとしていると思った。
「あなたは光は操れるようになってきているから、まずは光の玉を作ってみなさい。」
「はい…。」
手の平には、まるで光る電球が乗っているように見えるよ。
「その光の玉は、何で出来ているように感じる?」
ジーッと光の玉を見つめる芽愛さん。
「細かい粒が…、キラキラ光っているように視えます…。」
「そう。じゃぁ、霧が近いかしら?」
「あぁ、そうかも知れません。」
お姉ちゃんは安堵したような表情を見せたよ。
「それが掴めれば、後はイメージだけよ。」
「んん~~~。」
「唸ったって駄目よ。想像するの。霧のイメージを。」
「でも、霧ってあんまり見ないですよね…。」
「バカね。霧に似た『何か』でも良いのよ。朝靄や煙、それこそ何でも良いわ。」
そう言ってスマホを取り出した。
除いて見ると、霧の動画を探しているみたい。
「これが良いわ。」
そして1本の霧の動画を見せていた。
「あぁ…。イメージし易いです。」
そう言った途端、芽愛さんの
「これが…、能力散布…。」
気が付いた時には、彼女の周囲を包み込んでいた。
「フフフ…。上手くいったじゃない。」
「はい!ご主人様のお陰ですっ!」
「違うわ。あなたが努力した結果よ。私はヒントを言っただけ。」
「ご謙遜です。」
「本当のことよ。」
お姉ちゃんはいつも自慢したりしないよね。
お金のことや、持っている物も自慢しない。何でだろう?
そう思っていると、芽愛さんは
「ふーん。これが芽愛の能力粒子なのね。」
そう言いながら、感触を確かめているみたい。
「あれ?」
芽愛さんは何かに気が付きました。
「どうしたの?」
「えっと、
「あらそう。あなたの能力自体が『視る』ことだから、能力粒子から感じ取れても不思議じゃないわね。」
「それは何となく理解出来るのですが、ご主人様の能力が、
お姉ちゃんは不思議そうな顔をしていた。
「どういうこと?」
「具体的には…。すみません。まだよく分かりません…。」
「まぁ、いいわ。
「はい!」
二人はニッコリ笑いあっていました。
芽愛さんは、普段は物静かで、ちょっとした気遣いが直ぐに出来る人です。
そう思っている間にも、冷たい飲み物を持ってきてくれたり、新しいタオルを準備してくれたりしています。
とても優しい人で、怪我とかすると直ぐに応急手当とかもしれくれる。
夕美さんとは違って、グイグイ前に出るタイプではないけれど、傍にいてくれるだけで安心出来るようなお姉さんです。
「ご主人様はの方は、どうですか?」
どうですかって言うのは、能力の属性付与の事を言っているようです。
「万全よ。とういうか、何でもこいって感じ。」
「流石です!」
「ありがと。」
二人はまた同時にクスッと笑った。
「見てなさい。」
右手を左から右へ水平に振ると、バチバチバチっと派手な音を立てながら雷のような物を撒き散らす。
「おぉ~。」
他の人からも感嘆の声があがります。
両手を前に出して、左右の手の平を内側に向けると、その間を複数の雷が飛び交っている。
凄い…。
「ちょっとアレンジしていくわ。」
そう言うと、ドドンッと本当の雷が落ちたような音が響く。
続いてかッと閃光を撒き散らしたり、まるで本物の雷があるみたい。
今度は両手を握り胸の前に持ってくると、どうやら
フワッとお姉ちゃんの能力の気配を感じたかと思うと、ゴロゴロゴロ…と彼女の周囲で音がした途端、バチバチバチッと雷が突然落ちた。
その雷はお姉ちゃんの周囲を回り始め、気が付くと複数の雷が行き交います。
もう、何がなんだかわからないぐらい。
「常識を打ち破れるかどうか…。能力バトルはコレにかかっているわ。各自何が出来るか想像しなさい。映画やアニメのような事も可能になるほどにね。」
皆さんは、自分が成長している実感と、この先どうすれば良いかの道筋が出来たことで、笑顔もありました。
「でもね。」
お姉ちゃんは話を続ける。
「一番重要なのは、強い能力者になれるかどうかじゃなくて、全員生きて再会することよ。」
部屋は静まり返りました。
「私は、どんな手を使ってでも皆を守りたいと思っているし、絶対に死なせない。」
そう言った時のお姉ちゃんの顔は真剣でした。
「特に烈生。」
ドキッとした。
まるで見透かされていると思った。
だって僕は死んでもお姉ちゃんを守るんだって思っていたから。
「いい?絶対に自己犠牲しちゃ駄目よ。」
「うん…。」
「不利なら逃げてもいいの。例え腕を1本失っても、生きる選択肢を取りなさい。」
「………。」
想像出来なかった。
そうなるシチュエーションを…。
「わかってる?」
「うん…。」
「分かってないわね。いい?他の人も聞いて頂戴。どんなに不格好でも、どんなに屈辱的でも、生きていれば何とかなるわ。死んでしまっては何も出来ないの。」
お姉ちゃんの言葉は重くのしかかってきた。
「烈生の能力は、この中の誰よりも柔軟にこなせるようになってきているわ。だから明日からは谷垣にサバイバル術を学びなさい。生きる為の訓練よ。」
「うん、分かった!」
「絶対に生きる選択肢をしなさい。そして…。」
お姉ちゃんは優しくハグしてくれた。
温かい体温と、お姉ちゃんの
「私の執事になるって約束。必ず果たしなさい。楽しみにしているのよ?」
僕は涙が出そうになるほど嬉しかった。
誰かに認められる。
誰かに求められる。
こんな事が、生きるという感情を掻き立ててくれる。
僕は産まれて初めて、家族を知ったような気がした。
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