第47話『疾斗の親友』

「刀真!今こそ現実を見る時だ!」

「俺は現実を見ている!」

「じゃぁ、何でアダムなんかに付くんだ?あいつは犯罪者だぞ!」

「ならば今直ぐ俺の親父の病気を直して見せろ!」


刀真の親父は病気だ。

まだ若いのに…、残念ながら絶望的な状況だ。

「じゃぁ、アダムはどうやって治してくれるって言ったんだ?」

あいつは少し距離を置くと、刀を降ろした。

俯き加減で、酷く緊張した顔だ。


ココ東京ドームに集められた使徒の中には、高名な医者もいた。お前の首を持ってくれば、そいつらに命令して治療してくれるって言ってくれたんだ…。」

「お前…、それ、信じたのか?」

「悪いが、あいつならそれが出来る。人質を盾に最新医療器具の揃った病院だって占拠出来る。可能なんだ…。親父を専任で治療する場所も人も準備出来るんだ!」

「そのせいで、死ぬ奴がいるかも知れないのに、本当にそれで満足なのか?」


!!


刀真は怒りと悲しみの混じった、驚いた表情で俺を睨んできた。

分かっているんだ。

本当は許されない行為だっていうのが。

アダムがとんでもない事をしているってことが。

全部分かっていて、なお、助けたかったんだ。


「アダムはお前の純粋な想いを利用しているだけなんだぞ。」

「黙れ!!!」

一気に高まった殺意を察知し、孤高の流星アルーフ・メテオを発動する。

俺が居た場所には、水を凝固したビー玉ぐらいの大きさの弾丸が降り注いでいた。


周囲を見渡すと、ドームの外壁を洗浄するための散水栓があり、じゃぶじゃぶと流れ続ける水が、広範囲に渡って石の床を濡らしていた。

これならどこからでも水の弾丸は撃てることになる。

だけど…。


自分の足元も濡れていることを確認する。

いける!

今のうちに準備をすすめておく。

刀真は俺の動きを見定めようとしているように見える。

その慎重さがアダになるぜ!

よしっ!


今度はこっちから仕掛ける。

孤高の流星アルーフ・メテオを発動する。

「むっ!」

奴は一瞬俺を見失う。

背後に廻ると、背中に隠しておいた水を補充し、刀を銃の形にする。

ドドドドドドドッ!!!


まるでアサルトライフルのように連射させた。

「!?」

刀真も能力粒子アビリティ・パーティクルを拡散していたのか、俺の想定より早く気付き回避行動をとる。

だが心配ないぜ。

弾は無限に補充できる。


あいつが俺の居た所へ振り向いた時には、既に別の所に移動していた。

ドドドドドドドドドッ!!!

再び連射するが、刀真は転がりながら避けた。

奴も水の弾丸を撃ってくるが、もう俺はそこには居ない。


「ジリ貧だぜ?刀真!」

ドドドッ!!!

三度弾丸を発射した!

ガガガッ!!!

しかし、全て弾かれる!


「なるほどな…。」

アイツは咄嗟に水で盾を作っていた。

「発想は良かったが、残念だったな。と言うか…。」

刀真の手に持っていた刀がゼリー状になると、形を変えて銃になった。

「お前に出来るなら俺にも出来るよな!」

ドドドドドッ!!!


「馬鹿野郎!」

俺には孤高の流星アルーフ・メテオがある!

瞬間移動で、別の場所に移動する。


!?


刀真の放った弾丸が急激に方向転換し、再び俺を襲ってくる。

ここは盾か?俺も盾で防ぐ…。

いや、ちょっと待てよ。

俺は再び瞬間移動し距離を取ると、水の弾丸を発射する。

刀真の放った弾丸が、再び方向転換し襲ってきた。

ガガガガガッ!!!


微妙に軌道修正させながら飛ばした弾丸同士がぶつかり合い、どちらも水に戻り地面を濡らす。

「ほぉ?疾斗にしては上出来じゃないか。」

刀真の煽りが懐かしい。

こいつは窮地に陥るほど奮い立つ奴だ。


「そりゃどーも。」

状況は一進一退といったところか。

どうすりゃいいんだよ…。

何か打開策を見つけないと…。


「貴様迷っているな?」

あいつはニヤリと笑っている。

何か策があるんだな?

いつまでも受け身じゃ駄目だ…。

攻勢に出ないと…。




『強い能力者かどうかは、常識を打ち破れるかどうかよ。』




心優の言葉を思い出す。

常識…。

常識って何だ…?

水は冷たいとかか?

他には…。

透明で色んな形状になるな。

液体、個体、水蒸気、沸騰もするし、結露して液体に戻る。


………。

な、何か掴めそうだ…。

「疾斗!そろそろ決着をつけようじゃないか!」

あいつは何か仕掛けてくる。

そういう目だぜ。

いつもなら、それがアイコンタクトになって相手をぶちのめしていたっけ…。


駄目だ!弱気になっちゃ駄目だ!

今は刀真あいつの暴走を止める。

そんでよ!また一緒にバカしようぜ!

ニヤリ

思わず笑みが溢れる。


「お前も何か企んでいるな!最高に面白いじゃないか!俺はいつかお前と真剣勝負したかったんだ!」

「奇遇だな!俺もだぜ!」

奴はいつもクールで奇抜でスマートで、我武者羅でその場のノリと勢いの俺とは真逆だ。

だからこそお互いをカバー出来たと思うし、だからこそ最高の相棒だったんだ。


やっぱり俺はあいつを憎めない。

誰が何と言おうと改心させてみせる!

そう思った瞬間、足元に違和感を感じる。

孤高の流星アルーフ・メテオを発動させる!


ザンッ!

俺が居た濡れた地面から、剣山のように水で出来た巨大な針の山が出現していた。

まずい!

現れた場所からも直ぐに瞬間移動する!


ザンッ!

また剣山だ。

これって…、マジでやばくね?

ザンッ!ザンッ!ザンッ!

移動する先々でやられると、止まれないし反撃も難しい。

俺は次の行き先を決めきれず、思わず真上にジャンプしてしまった。


「その瞬間を待っていた!」

ドドドドドドドドドッ!!!

銃で乱射してきた。

その弾丸は無規則とも言えるほどの軌道だ!

ヤバイッ!


ここでやっと、何故刀真がこの瞬間を狙っていたのか理解する。

孤高の流星アルーフ・メテオが使えない!

俺の瞬間移動は、空間を捻じ曲げてワープするわけではない。

目に見えないほど速く走っているだけなんだ。

だから地面がないと移動出来ない!


「ハハハハハハッ!睨んだ通りだ!貴様は地面が無ければ瞬間移動出来ない!お前が移動する度に起きる水飛沫みずしぶきがヒントになったぞ!」

なるほど…。

感心している場合じゃない。

刀真は銃口を俺に向け続けている。

このままでは弾丸で撃ち抜かれるか、地面の剣山に串刺しになるかの二択しかねぇ…。

刀真の観察力は流石だぜぇ…。


!!


俺は一瞬で思いついた事を、即行動に移した。

考えている暇はない。

銃を刀に戻し、それを太い丸柱に向けて伸ばす!

「なに!?」

奴の驚きの声と共に、伸ばした刀は丸柱に巻き付き、そして縮める。

そうすることにより俺の体が柱へ引き寄せられる。

弾丸からはギリギリ逃れる事が出来た。


直ぐ様銃口を着地地点に向ける刀真。

このまま地面に降り立つのは危険だ。

足の裏に水を集め能力粒子アビリティ・パーティクル濃度を高める。


!?


刀の形も解除すると、両腕に集め足の裏と同じようにする。

そのまま柱に触れると、俺の体はピタッと張り付いた。

銃口を俺に向け、構わず連射する。

だが、蹴る場所さえあれば孤高の流星アルーフ・メテオは発動出来る。

直ぐに場所を移動し、ついでに距離を取っておく。


「そういうお前の小賢しい機転が大嫌いだ!」

「へいへい。」

そうだな。

刀真の言うことも一理ある。

俺が小難しい戦略立てるとかよ、ガラじゃねーんだよな。

俺は決心し、瞬間移動で刀真の目の前にやってくる。

両手両足に水を集めた。


「やっぱそうだよな。俺達流のやり方で決着つけようじゃないか。」

刀真も俺と同じように両手両足に水を集めた。

そう、銃だの刀だの、俺らの勝負に必要なかったんだ。

どうしてかって?

拳があるだろ?

それで十分だ!


だが俺は刀真の奇襲に警戒している。

この勝負は青春真っ只中の仲良しごっこじゃねーからな!

ブオンッ!

俺の右拳による撃ち下ろしたパンチが空を切る。

刹那、刀真の左フックが視界の端に映った。


これをもらってしまったら、即、連続攻撃が襲ってくる。

そうなると厄介だ。

あいつのペースに持っていかれる!

俺は足払いを仕掛け、奴の両足をそっくりすくってやった。


!?


刀真は水で柱を作ると、自分の足をくっつけた。

さっき俺が本物の柱でやったことを、アイツは水だけでやってのけた。

もうアップデートしたって言うのかよ!

水平になった体勢のまま、右拳からの強烈なアッパーが吹っ飛んできた。

もう避けられないと悟ると、俺は両腕を纏う水の濃度を上げて、腕をクロスさせて衝撃に耐える。


ドンッッッ!!


強烈な威力を受け止めた瞬間、俺の両腕の水の能力が解除される。

だが、足元から直ぐに水を補充し再度武装する。

あ、危ねぇ…。

油断せず、バックステップで距離を取る。


「フンッ!」

刀真は踏み込み連続回し蹴りを繰り出してくる。

こいつ…。

足場の水を能力で操作し、いつもよく鋭く回転出来るようにしてやがる。

1撃1撃がとてつもない威力だと、見た目にもわかるほどだ。


孤高の流星アルーフ・メテオで一旦距離を取るか?

いや、この連続回し蹴りを掻い潜り、カウンター気味に拳をぶち込んでやる。

その方がダメージがでかいだろうし、その後とどめを刺す事も可能なはずだ。

集中力を高めろ!

散布している能力粒子アビリティ・パーティクルからの情報を見逃すな!


一際鋭い回し蹴りが俺を襲う。

直ぐに違和感を感じた。

視界からではなく、能力粒子アビリティ・パーティクルからの情報で、奴の足の裏に棒状の水の塊がくっついていることを理解した。

ヤベッ…


左腕に水を集め、急ぎ濃度を高める。 

右手で支えて、この強烈な1撃を凌ぐ体勢を整える。


ガッ!!!


水で出来た棒は俺の左腕によってブロックされると、ぶつかったところで折ることが出来た。


!?


その折れた破片が俺の顔面左側に向かって吹っ飛んできた。

ちょっ…。

このままでは無傷では済まされない。

そう危険を察知した瞬間、体の隅々まで神経が研ぎ澄まされる。

その感覚から、体の表面全体を無意識に水が覆っていたと気付くことが出来た。

考えるよりも先に体が動く。


まるで第二の皮膚のようになっている水を操り、そのまま膨らませると球状の防御壁を展開した。

何故ならば、視界からの情報では、目の前の刀真が銃を構えていることを理解していたからだ。


左から水の破片が、正面からは弾丸が襲ってくる。

これを耐え忍んで、即反撃するんだ。

それで勝負を決める!


だが、弾丸は顔付近に放たれ、水の防御壁はガラスが砕けたように細かいヒビが多数入ってしまう。

これでは視界が…。

その時気が付いた。



あいつが居ない…!!!


全方位の能力粒子アビリティ・パーティクルに集中した。


あいつは…。


どこだ…。


刹那。


真後ろから防御壁が刀によって突き破られる感触が、俺の脳裏に伝わる。


やっべ…。


プシャァァァァァァァァアアアアア…。


球体を貫いた刀真の刀を中心に、内部は激しく吹き出た赤い血で覆い尽くされた。


「ハハ…、ハハハッハ…。」

刀真は刀を解除し、崩れていく真っ赤な半球体の防御壁を見つめる。

「俺はった…。ったんだ…。」

崩れ落ちた防御壁の中からは、血まみれの疾斗が倒れていた。


「ついに俺は疾斗を超えた!超えられたんだ!」

刀真は、そう叫んだ。

彼は疾斗に劣っていると感じていた。

奴の直感のセンスは誰にも真似出来ないし、天才的だと思っていた。

そいつを仕留めた。

それは自分が彼に勝っている証拠でもあった。


だが…。


刀真は両腕をダランと垂らし、そのまま血に染まる地面に膝をついた。

「俺は…、俺は…。」

ボロボロと涙が落ちる…。

「親友になんて事を…。」


後悔―――


刀真を襲ったのは、親友永遠のライバルを超えた喜びの感情ではなくて、懺悔の念だった。

「取り返しのつかない事を…、」

両手で顔を覆う。


その時だった。

刀真は首筋に冷たく硬い刃物が添えられていることに気が付いた。

ハッと顔を上げる。

「動くんじゃねーぞ。」


疾斗だった。

「お前…。」

そして刀真は理解した。

防御壁を自分が出られる分だけ空洞を作り、そこを瞬間移動したのだと。

赤い血は奴の能力によって染め上げられ、倒れていた人も能力で作りあげたんだと。


「やっぱりお前は天才だ。」

「俺はそんなのには興味はねーよ。」

「そうだったな…。」

刀真は、再び両手をダランと下げて、その場に座り込んだ。


「俺を殺してくれ。こんな畜生なんか、死んで当然だ!!!」

「大馬鹿野郎!!!」

疾斗の持つ刀が細かく震えた。

怒りからだ。


「俺は能天気で直感的なお前が、確実に成果を上げていくのを見てスゲー奴だと思っていた。天才だとも持っていた。自分の信念に向かって何の疑いなく突っ込んでいくお前が…、俺は最高に格好良い親友だと、常々思っていた。」

「この前の校舎裏で聞いたセリフと真逆だぞ?」

「俺は…。俺の信念を捻じ曲げないと、自分の願いすら叶えられないと思った。だけど分かっていた。そうじゃないってな…。」


刀真は…、泣いていた。

「親友に手をかけてまで成し遂げることじゃない…。そんなことは分かっていた!だけど…。だけどな…。」

寂しそうな声だった。

「だから俺は馬鹿野郎だと言った。」

「?」


「物心付いた時から二人で悪さしてきたじゃねーか。何をやるにも一緒だったじゃねーか!何でその苦しみを!辛さを!寂しさを!俺にぶちまけなかったんだ!!!それが一番頭にくんだよ!!!」

「言えるわけねーだろ!!!」

刀真は…、震えていた。


「言えるわけ…、ないだろ…。親友のお前を苦しめることになる!」

「それが許せるから、親友って言えるんだろ?」

俺の言葉にクイッと頭を上げた。

「そういう奴だよな…。お前は…。」

「ったりめーだろ。お前の苦しみは俺の苦しみだ。何もかも分かち合ってきたじゃねーか!お前の顔はな!親の顔より見てるんだ!!俺はバカだから、お前の望む答えなんか出やしねーよ。だけどな、憂さ晴らしに付き合う事も、気を紛らす事も、頼りになる誰かに相談してやることも、何か1つでも出来たかもしれねーだろ!」


刀真は空を見上げていた。

「本当に…、俺は馬鹿野郎だ…。」

「そうだぜ!だから俺達と…!」

「すまん…、疾斗。親父は人質になっている。」

「なん…だと…?」

「だから…。」


嫌な予感がよぎる。

そしてそれは一気に膨れ上がる。

「やめろ!何をする…。」







「今までありがとうな、親友!」








刀真は…、刀で…。






自らの体を貫き…、倒れた…。







「ウワァアァァァァッァアァァァァァアアアアアアアアアアア!!!!!」






俺は天に向かて泣き叫んだ。

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