第7話『人と豚との境界線』
まるで手錠のように手首を固定され、SMプレイのようになってしまっているわ。
だとしたら、ポジションが逆なのよね。
ソフトな言い方をすれば、幼児がパパに両手を持ち上げられて、高い高いしているような姿ね。
どちらにせよ屈辱的だわ。
そろそろポジションチェンジといきましょうか。
目が血走り真っ赤に染めあがり、いくら軽い体重の私だとしても、軽々持ち上げる様は恐怖を掻き立てるわね。
だけど私には逆効果。ゾクゾクしちゃうわ。
ピンチなのにどうしてかって?
手を握られているから
だけどね、こいつは優しすぎるの。
そして、オタクという自分に引け目を感じているわね。
それら全てが弱点となるわ。
だから問題ないの。あっさりと華麗に逆転するわ。
壁に足の裏を付けて、徐々に近寄る豚の顔めがけて膝蹴りを思いっきり入れる。
ガシッッッ!!
鈍い音がしたわ。口を開けてなくて良かったわね。舌を噛み切るところだったわ。
立て続けに二度三度と膝蹴りを繰り出す。
その度に豚の顔が仰け反り、汚らしい
気付いた時には床に足が着いていたわ。
繰り返し同じ所に攻撃を集中させ、ダメージを蓄積させる。
こういうのもトレーニングがてら教えてもらっているわ。
直ぐに実践投入しちゃう辺りが流石、私。
彼は耐え切れなくなりヨロヨロっとしながら、ついに手を離した。
私は思いっきり右足を振り上げ、豚の頭に乗せる。
そしてそのまま床に向けて押し込んだ。
そう、頭を踏んだ状態ね。そして叫んだ!
「
豚は
「あ…、ありがとうございます!!!」
あら…。勝負どころではなくなってしまったわね。
「あなた…、とんだ大馬鹿者ね。」
「だってぇ…。
まぁ、そうね。残念ながら、あなたの容姿では女子中学生にはうけないわね。
それに今の時代、話しかけただけで、いえ、目があっただけで事案発生だわ。
「そう。なら私が話し相手になってあげるわ。ついでに罵ってあげる。」
「本当!?」
豚は嬉しそうな顔をしながら私を見上げようとする。
「誰が見て良いって言った?」
「す、すみません!」
直ぐにひれ伏す豚。
なかなか従順じゃない。だけど、一つ課題をクリアしないと駄目ね。
「だけど、私の下僕になるには条件があるわ。」
「………。」
豚は小刻みに震えた。恐らく無理難題を言ってくるのだろうと思っているはずね。
「私は容姿で人を判断しないわ。それとオタクも許容する。」
「えっ?」
「ただし、ロリコンだけは駄目よ。」
「あっ…。ご、ごめんなさい…。」
大柄な大人が中学生に土下座するという、滑稽な状況が続いている。
「試練を与えるわ。これをクリアしたなら下僕として認めてあげる。」
そう言って少し距離を取ってから、スッとブルマを脱いだ。
豚は目を見開き、釘付けとなっているようね。
そしてそのブルマを豚の前に放り投げる。
「欲しい?」
そう尋ねると豚は、ゴクリと生唾を飲んだ。
「正直…、欲しい…。」
「素直で良いわ。あげてもいいわよ。」
豚の顔がパァァァっと明るくなる。
「ただし!そのブルマはあなたが人でいられるか、家畜になるかの境界線だと理解しなさい!」
「えっ!?」
あのブルマを手にした瞬間、彼はまともな人ではなくなるわ。
そうね、犯罪者予備軍、そう言っても過言ではないわ。
よく分かっていない豚に説明してあげる。
「いい?あなたは女子中学生と話が出来るなんて夢にも思わなかったと言ったわね。」
「あ、うん。」
「で、もしも毎日話が出来たとするわ。それもあなたの好きなオタク系の話を。」
「さ、最高だよ!」
「それで1週間、1ヶ月、1年経ったとしたらどうかしら?その感動を維持出来ると思う?」
「あっ…。」
人間って怖い生き物ね。感動することでも、繰り返すと慣れてしまって日常になってしまう。
「そして次にあなたはどうなると思う?」
「えー…。わからないよぉ…。」
「バカね。そこは得意の妄想しなさいよ。」
「だいたい、今だって夢みたいな状況なんだから、その先なんて…。」
「仕方ないわね。教えてあげるわ。次にあなたは新しい刺激を求めるの。」
「あ…、あぁ…。」
「その刺激は何かしらね。」
「えっと…。頭をナデナデしてみたいよぉ。」
「ふーん。じゃぁ、その次は?」
「えぇ…。わからないよぉ…。」
そろそろ結論ね。
「その次は手をつなぐ。その次は抱っこする。その次は膝枕する。その次はその次はとエスカレートしていくの。」
「そ、そんなぁ。決めつけだよぉ。」
「いいえ、刺激がなくなれば新たな刺激を求める。それは前よりも激しい刺激を求めていかないと欲求が満たされないからよ。これはあなたが、というより、人間である以上そうかもね。」
「………。」
「そしてついに、太ももに、お尻に、胸にタッチし、スカートをめくり衣服を脱がせ、そして…。」
ゴクリ…。豚は生唾を飲んだ。
「もうおわかりね。このままだといずれ犯罪に結びつく可能性があるの。だから世間でも過剰とも思えるぐらい警戒しているわ。」
「う、うん…。」
「しかもあなたは能力者なの。」
豚はうつむいていた顔を上げた。
「の、能力?」
あら。やはり無自覚だったのね。
「そう。あなたは興奮すると常識じゃ考えられない力を出すの。見てご覧なさい、あそこの壁を。」
指差した先の壁は、私を押し付けた時に出来た拳ぐらいの大きさの窪みがあるわ。それに壁自体不自然に歪んでいるわね。壁の中に仕込まれている骨組みごと曲がっているのが分かるわ。
「あっ…、あぁ…。俺、どうしたら…。」
「私にも能力があるの。」
頭を抱えていた豚が私にすがるように見上げた。
不安に満ち溢れた表情の豚を横目に背後へと移動し、能力を解除した。
「!?」
キョロキョロと私を探す姿を背後より見守る。
「どこを見ているの?」
不意に後ろから聞こえる声に、小刻みに震えながら振り返る豚。
「ま…、マジで…?」
「
豚は自分の両手を見つめながら考えを巡らせているようね。
「私なら、あなたを導いてあげるけど?」
「………。」
「最初の質問に戻るわ。そのブルマを手に入れて今までの自分でいるか、ブルマを諦めて自分を変えるか。あなたが決めなさい。」
「!!」
彼は我に返り、一度に沢山のことが自分に振りかかっているこを理解している。
しかし、冷静に見ると滑稽ね。
彼においては、無造作に脱ぎ捨てられたブルマが、人か豚かの境界線なんてね。
他の人が聞いたら笑い転げるかもしれないわ。
だけど私達は至って真面目よ。それこそ大真面目よ。
ムフーッ!ムフーッ!!
豚は鼻息も荒く、目を見開きながらブルマを見つめる。
その眼力からは、今にも光線が出てきそうな勢いね。
震えながら手を伸ばしては引き戻し、何かと戦っているようだわ。
何と戦っているかって?
自分と戦っているに決まっているじゃない。
さて、仕上げにまいりましょうか。
「ねぇ。今ならブルマの他に、私が今履いている下着もつけてあげようか?」
そう言って彼に対して横向きに立ち、太ももにかかるスカートの裾をゆっくりとめくっていく。
ハァァ…。ハァァ…。
豚の興奮が最高潮に達しようとしているのが分かるわ。
ゆっくりと息を吐きながら、目が飛び出るほど見開いている。
その視線を受け止めながら、めくられたスカートは腰の付近まで上がる。
「どう?今日は紐パンのTバックなの。欲しい?」
ムッッッハァァァァッァーーーー!!
彼は何かが切れたようにも見えるわ。
あら、やはりロリコンのままだったようね。残念だわ。
ガッ!
立ち上がろうとした豚は淫らに口を開け、目は寂しげに、全身小刻みに震えたまま止まった。
へー。まだ自制が効くんだ。案外やるじゃない。
ハァ…、ハァ…。
大きく肩で息をしながら踏みとどまっている豚。
後一歩前に進めばブルマに手が届く距離ね。
私は更に追い打ちをかける。
ここは徹底的に自分と戦ってもらわないと困るの。
スカートの両サイドから手を中に入れて、下着の紐を摘む。
「下着まであげるって話し、嘘だと思っているでしょ。」
そう言って真横に紐を引っ張った。
ハラリと、包んでいた少なめの布がなくなる感触が伝わってくると同時に、元々涼しかったスカートの中が、更に風通しがよくなったわ。
そして剥ぎとった下着をブルマの上にそっと置く。
「今日はね、一日ブルマ履いていたから蒸れちゃって…。変な匂いしたら恥ずかしいな…。」
そう言ってみたわ。
豚は白目を向きそうなほど動揺し、大量の脂汗を垂らしながら床に倒れた。
フォォォォォォォォォオオオオオオオオ!!!!!
叫びながら頭をかかえて、のた打ち回っているわね。
相当苦しそうなのが見て取れるわ。ここまで我慢できるなら上等かも知れない。
でも、もうひと押しするわよ。
豚の近くで四つん這いになり、そのままの体勢で近づく。
「大丈夫?」
彼は私のゆるゆるの胸元に釘付けになっているわ。谷間が見えているでしょうね。
ハァウウウウウウウウウウウウ!!!!!
更に激しく苦しみ始めたわ。
「お兄ちゃん、私のブルマと下着はいらないの?」
最終段階よ。
「ぁ…、ぁ…。」
彼は何かを言おうとして押し殺しているわね。
そう、もしもここで「欲しい」と言ってしまえば、今まで頑張って自制してきた心が一変に折れてしまうわ。
本人もそれは分かっているみたいね。
「じゃぁ、ブルマと下着もらってくれたら、特別にお尻ぐらいなら見てもいいよ。」
「!?!?」
「えっと、前から見るのはね、やっぱり恥ずかしいから、後ろだけ見てね。だって、心優、まだ生えてないから…。」
そう言って顔を赤らめて視線を外す。
本当に恥ずかしいセリフだわ。
ウォォォォォォォォオオオオオオオオオオ!!!!!
今までにない激しい叫び声が部屋に響いた。
エビ反りしながら頭を抱え、もがき、苦しんでいるわ。
そうね、オタク特有の豊かな妄想力が、更に自分を苦しめているようね。
ガクッ…
一気に力が抜け、横たわりながら大きく肩で息を吸っている豚。
やれやれ…。長かった戦いもこれで終わりよ。豚の最終決断を聞こうかしら。
「お兄ちゃん大丈夫?」
彼は振り向くと、
「心優タソ…。」
タ…、タソ?リアルで初めて聞いたわ。さすがにびっくりしたわ。
お嬢様学校では絶対に聞かないセリフよね。
「なぁに?」
あえて優しく訪ねてみる。威圧して力でねじ伏せても駄目だからね。
「やっぱり僕…、犯罪者にはなりたくないよぉ…。」
そう言って大粒の涙をこぼした。
ふぅー。
「合格よ。あなたはロリコンの道には逸れなかった。だから飼ってあげるわ。」
今度は止まらない涙と戦っているようね。
ちょっと暑苦しいわ。
私は彼の頭を撫でようとする仕草をする。
「よく頑張った…、なんて言うと思ったの?」
「!?!?」
「この豚野郎!」
混乱する豚の頬めがけて思いっきり引っ叩いた。
バッッッッシーーーーーン!!!
クリーンヒットよ。
「こんなのね、普通の人なら即答で断ることなの!そんなことも忘れたの?だからあなたは豚野郎なのよ!我慢出来て良かったわね。本当の家畜になるところだったわよ!」
「あぅ…。」
「調教してやってあげているのだから、ありがとうございますぐらい言いなさい!」
「あ、ありがとうございます!」
「良い返事よ。」
豚はまた違う興奮に襲われているのがわかる。芽愛と似ている生き物だもんね。
「私はあなたを変えると言ったわ。だから明日から夏休みが終わるまで、合宿してもらうわ。」
「が、合宿?」
「あなたに質問権も拒否権も選択権もないの。今年の夏は、自分改造に費やしなさい。」
「は、はい!」
一段落したところで能力を発動させ、下着とブルマを履く。
まったく、手間のかかる下僕ね。
能力を解除し、私はドアの鍵を開けて扉を開く。
「ご主人様!」
芽愛が涙目で飛びついてきたわ。
「本当に役立たずね。」
「申し訳ございません。」
「あなたもよ、疾斗。」
「いやー、すまんすまん。道に迷っちゃってさ。」
はぁ…。
短いため息を付いた。
「こんな単純な地下通路ぐらい一回で把握しなさいよ。」
「次は気を付けるぜ。」
まぁ、数年間庭のように遊んでいた私と比べては可哀想ね。
今度からは目印を付けたりして対策をしましょう。
こうして4人目の仲間が加わることとなった。
誰もがまだまだ調教が必要だけれど、それなりの陣営になってきたわね。
出来れば後一人、防御系の人がほしいわ。
そして私達は暑い夏を迎えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます