第6話『怪力なオタク』
「すっげー。黒塗りの車なんてテレビでしか見たことねーよ。」
はしゃぐ疾斗に呆れつつ車に乗り込む。
彼は走りだした車内でもあーだこーだと煩いわね。
「疾斗。私達と一緒の時は、こちらの状況に合わせてもらうわ。」
「どうゆうこと?」
「素行が下民臭いって言っているのよ。」
「グサッときた…。すまんな、こういうの慣れてなくて。」
「早く馴染みなさい。部屋での無礼は許すけど、一歩外に出たら気を付けるのね。」
「無礼とか初めて言われたぞ…。まぁ、そういうのもあるわな。気を付けるわ。」
「助かるわ。そうじゃないと召使達に心配をかけてしまうの。」
そう言うと、運転をしていた召使の谷垣が静かに小さく頷いた。
「お心使い、ありがとう御座います。しかし、赤子の頃からお嬢様を見守っている私には無用の心配でございます。」
「お…、お嬢様…。」
疾斗は私がどんなポジションにいるか、ようやく理解したようね。
「ありがと谷垣。頼りにしているわ。」
そう言いつつ、私は彼にも警戒している。
パパと連絡取っているのは知っているからね。
お嬢様も楽ではないわ。
「到着いたしました。」
そう言って車のドアを開ける谷垣。
疾斗はどもどもとか右手でチョップしながら、遠慮しつつ降りている。
いい加減慣れなさいよ。
私達3人はゲームセンターへと足を運ぶ。
「では、豚狩りといきましょうか。」
「はい、ご主人様。」
「おっし!いっちょやるか!」
すれ違う男達の視線が熱いわね。
これだけ完璧な可愛さなら仕方のないことね。
まぁ、見るだけなら許してあげるわ。
土下座するほど感謝しないさい。
その頭、踏んづけてあげる。
ゲームセンターのコーナーがある3階に到着したわ。
自分で言うのもアレだけど、なかなかいい雰囲気ね。
ちょっと遊んで行きたくなった。
私が褒めるのだから、全社員で祝賀パーティーでも開くといいわ。
さて、ここで二手に別れる。
私は単独で囮に、芽愛と疾斗は兄妹の振りをしながら近くで待機するの。
そして上手く連れ出すことが出来れば、二人は先回りしてほとんど使われていない地下の倉庫へ行く。
芽愛とは下見は終わっているし、どこに潜むかも決めてあるわ。完璧ね。
そこへ私が豚を連れて行くの。
後は私の精神攻撃でノックアウトさせる。
念の為に二人にはバックアップをしてもらうわ。
能力が怪力である以上、万が一にも掴まれたらお終いだから。
勿論物理攻撃にも注意が必要よ。
私は二人が付かず離れず居ることを確認しつつ豚を探す。
「ブヒィィィィィィイイイイイ!!ライラちゃん可愛いよ!」
居た…。
相変わらず小学校低学年、それも女子用のカードゲーム機の場所にいるわ。
1台だけ置いてあるようだけど、そいつしかプレーしていないわね。
まぁ、あんな身体の大きなデブが遊んでいたら、小さな女の子は近寄り難いわね。
私は構わず後ろに並ぶ。
それにしても完全に自分の世界に入っているわね。
ある意味羨ましいわ。
だって、これだけ形振り構わず自分の好きな事に没頭出来ることって、なかなか無いわよ。
彼をキモいと思う人達に聞いて見たいわ。
あなたにはあるの?これだけ打ち込める好きな事が。
そして、そんな奴に限って月に一度はこう言うでしょう。
『何か面白いことない?』
ってね。本当に吐き気がするわ。
まぁ、いいわ。
このゲームを愛するおじさんの中には、小さな女の子を押しのけてまで遊ぶ輩もいるらしいし、秩序やマナーは必要だし、そもそも常識があってこそだからね。
全員を是正する訳ではないよ。
チラッと後ろを見ると芽愛と疾斗の姿を確認出来た。
小さく頷くと向こうも頷き返してきた。
作戦実行よ。
「お兄さん。まだまだ遊ぶ予定なの?」
ちょっと幼い感じで声をかけてみたわ。
「ん?あぁ、ごめんね、今丁度良いところでボス戦なんだ。もう少しだけやったら交代するからね。」
あら?意外な回答ね。てっきり無視か、黙って待ってろぐらい言ってくるかと思ったのだけれど。
それこそ私の偏見だったからしら?
「うん、分かったぁ。じゃぁ、待っているね。」
豚は次々とお金を投入し、何とかこの難しいステージをクリアしようとしていた。
背中は汗でびっしょり。少し臭うわ。
そしてギリギリのところでクリアし、報酬のレアカードを手に入れたようね。
まさしくブヒブヒしながら喜んでいるわ。
少女用のコンテンツに、男の大人が遊ぶ事に嫌悪感を抱く気持ちは理解出来るわ。
だけど、こうした大人がコンテンツに投資し育てている事は無視しては駄目ね。
小学生ではここまでお金をつぎ込めないでしょ。
恐らく彼はゲームだけではなく、色んなグッズとかも買っているのでしょう。
もしも彼らみたいなのがいなかったら、このゲーム自体シリーズ物にはならなかったでしょうね。
それに…。
彼は私の問いかけに紳士的に答えてくれた。
なるべく威嚇しないように気を使ったこともわかるわ。
これでイケメンなら背中に抱きついてゲームを一緒に楽しんでもいいぐらいよ。
私はしないけど。
さて、早速仕掛けましょうか。
「お兄さんすごーい!私そこクリア出来ないよ。」
まずは持ち上げる。基本ね。
「ん?そう?ぼ、僕もね滅多にクリア出来ないんだ今日は調子いいみたい。」
「カード見せて見せて。」
「ん?あぁ、いいよ。」
彼はカードを大事そうにそっと渡してくれた。
これがどれだけ欲しかったか、そんな気持ちが伝わってくると、私は少し同情してしまった。
私もまだまだ駄目ね。
同じような立場なら、大好きなゲームで遊ぶことすら視線を気にしなければならないなんて我慢出来そうにないもの。
筐体ごと買ってしまいそうだわ。
「キラキラ綺麗だね。」
そしてそっと返す。彼はカードが手元にくるとホッとした表情をした。
さて。
同情ばかりしてはいられないわ。彼は能力者なの。
それに、私は気付いている。
彼の鋭い視線がどこに向かっているのかを。
胸元や太ももに、時折鋭い視線が飛んでくるのが分かるわ。
ゴクリと唾を飲み込む豚。
これはいただけないわ。目が血走ってきているもの。
オタクな部分は否定しないわ。むしろ話をしてみたいぐらいよ。
だけどロリコンは駄目ね。
そう、何度も言うけれど、彼は能力者なのだから余計に駄目よ。
見過ごせないわ。
「ねぇねぇ、私の持ってるカードでも勝てるかな?」
そう言って準備しておいた適当なカードを豚に見せる。
頼られて嬉しかったのか、ニンマリしながら「見せてみて」と答えてきた。
私はここで挑発行動に出る。
短めのスカートを気にせず、足を開き気味にしゃがんだの。
こうすればスカートの中が見えてしまうわね。
でも、これで彼がどう出るか様子を見るの。
そして釣れるなら連れ出すのよ。
!?
彼は目の前のスカートの中に釘付けになったわ。
でも安心して。ちゃんと見せパン履いているのよ。いわゆるブルマね。
あら。本当に鼻の下って伸びるのね。初めて見たわ。
しかも、ムフーッと鼻息も荒いわね。
あら?そういうことね。
目が血走っているんじゃなくて、赤くなってきているわ。
もしかしたら興奮が能力の発動条件なのかも。
この場所ではあまり刺激し過ぎない方がいいわね。
「あー!お兄さんどこ見ているの?」
私の言葉に彼は飛び上がるほど驚いた。みっともないわね。
「あっ、いや…。ご、ごめんよ。つい見えちゃって…。」
「えー、そうなの?でもね、
頭の悪そうなガキを演じるのも大変ね。言葉がおかしくなったわ。
でも彼は少し安堵したような表情をする。
そうね。ここで私が大声出して騒いだら大変なことになるものね。
「それで、私のカードで勝てそうかな?」
豚は我に返ると、再度カードを見渡した。
「あぁ…。ちょっとだけ厳しいかな。でもね、後1枚ぐらいレアカードがあればいけるかも。」
ふーん。一応真面目に考えてくれるんだ。
それも気を使って、もう少し頑張ればいけるよ的な応援風にね。
調べた限りでは、この手持ちのカードでは絶対に勝てないわ。
まぁ、豚の言ってる事は間違ってないわね。
「そっかー。残念だなー。お兄さんのゲットしたカード欲しかったなぁー。」
上目遣いで甘えたような声で聞いてみた。反吐が出そうだけど我慢するわ。
「えー?このカード欲しいの?いや、3枚目だからあげてもいいのだけれど…。」
かかったわね。
このレアカードじゃなくても良かったのだけれど、私が欲しかったのは交渉材料よ。
「3枚目ー??すごーい!!」
持ち上げたり、下げたり大変よ。いい加減苛々してくるわね。
「そ、そうかなぁ?えへへ。」
褒められれば嬉しいと思うのは当たり前の反応よね。
「でもでもぉ、タダじゃ駄目だよね…。」
そう言ってモジモジする。意外にも彼は別にいいよ的な雰囲気を出してきた。
それじゃ駄目なのよ。どれだけ人がいいのよ。
さっきも言ったけど交渉材料が欲しいの。
私は立ち上がって豚に近づくと耳元で囁いた。
「もっとスカートの中を見せたらカードくれる?」
!?!?
豚は混乱したようね。ムフーッ、ムフーッ!と鼻息も荒く興奮している。
「でもね、ここじゃマズイから別の所に行こうよ。」
彼は突然の事に、どうして良いかさえ分からないでいるようね。
こんなエロゲーのような展開、絶対に起こり得ないから。でも犯罪の匂いが漂う交渉に彼は難色を示してきた。
彼が断る前に仕掛けるわ。
「ね?お願いぃ~。」
緩い胸元から除く谷間を見た瞬間、豚の中の何かが切れた。
「う、うん…、い、いいよ。それならいいよ…。」
よし。まずは第一段階は突破ね。
「私のお母さんがここの地下で働いているから、誰もこない秘密の場所を知っているの。そこに行こう。」
豚は黙って着いてきた。
芽愛と疾斗は既に姿が見えないところをみると、ちゃんと先回りしているようね。
エレベーターで地下へ降り、スタッフ・オンリーの通路へと消える。
「ほ、本当に大丈夫かい?」
ここにきて急に怖くなったのか、豚が心配そうにしているわ。
でも今更ね。
この交渉に乗ること自体が犯罪だわ。
まともな人間なら即断るか、むしろ私が怒られるわね。
そして倉庫へと入り、入り口の鍵をかける。
照明をつけると、広い空間がぼんやり映しだされた。
壁際にはイベント用の大道具、小道具が乱雑に並べられている。
ステージ用の大道具の板の裏に、芽愛と疾斗が隠れていることになっているわ。
私はその近くへ、さりげなく移動した。
「ね?大丈夫でしょ?」
豚はキョロキョロしながら状況を把握しようとしていた。
もしも女の子のスカートの中を見ている無様な姿を誰かに見られれば、即逮捕間違いなしだからね。
彼の人生はそれで終わるわ。通っている大学にも居られないでしょうね。
扉には鍵もかけてある。鍵を開ける音が聞こえたら、道具の影に隠れることも出来るわね。
そう判断したのか、豚は一安心したような表情を見せた。
「ほ、本当に、見せてくれるの?」
「うん、いいよ。」
豚は私の目の前で正座待機する。
既に息が荒いわね。
焦らすように少しずつスカートを上げていく。
彼の目が見開き、一気に赤くなった。
ヤバイ!
私の直感が警告を発したわ。
!?
「ムホォォォォオォオオオオオオオ!!!」
豚は突然暴走した。
ドォォォンッ!!
壁ごと揺れる。よく見ると、彼の手が私の手を掴み、そのまま壁に少しめり込んでいるわ。
まるで壁に備え付けられている手錠のようになっている。
だけど私の手は強く握られていないわ。まさしく手錠を掛けられた状態ね。
それにしても想像以上のスピードに戸惑ってしまったわ。
「芽愛!疾斗!」
やはりバックアップ体制をとっておいたのは正解だったようね。
………。
あら?何故出てこないのかしら?
その時だった。ドアノブをガチャガチャと回す音が聞こえる。
まさか…。
あのバカ共、下僕のクセにまったく役に立たないわ。
後で
こうなったら自力で何とかするしかない。
だけど目の前には、異常なほど目を真っ赤に染めた野獣がいる。
彼は壁を削りながら、ゆっくりと私を持ち上げた。
下腹部が豚の目の前にくる高さに…。
息は増々荒くなり、豚が完全にぶっ飛んでいること、そして私が犯されようとしていることだけは理解出来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます