第13話『可憐Girls』
久しぶりに会うパパは、何もかもがいつも通りだったわ。
「お前を指名してきた財閥だが、
「わかったわ。任せておいて。」
「うむ。頼りにしている。お前ならではのアプローチがある事を忘れるな。」
「はい。」
パパお抱えの運転手は、
車は特注で、前部と後部のシートの間には仕切りがあり、会話は直接聞くことが出来ないようになっている。ちなみにマイクを通じてなら会話は出来るの。
少しの沈黙の後、もしかしたら物心付いてから初めて私生活を聞かれたかも。
「学校はどうだ?」
「退屈ね。」
「そうか…。それなら飛び級でアメリカの大学に…。」
「必要ないわ。今の立場ならではの社会勉強もあると思うの。」
また少し沈黙。
「incarnation of evilでの話は聞いている。これからも結果を出し続けなさい。」
「当然よ。無茶を言っているのは私なのだから。」
「よい心掛けだ。」
あぁ、きっと最近
一応心配してくれているらしいわ。
でも、私からは余計な事は言わないつもりよ。
言い訳にしか聞こえないのは明白だからね。
「心優も年頃だし、一つだけ伝えておきたいことがある。」
あら、珍しい。聞いてあげようじゃないの。
「はい。」
「俺は『お前が男だったら良かったのに』とは、一度も思ったことはない。自分の生き方は自分で決めろ。もしも迷う事があれば、何でも聞いてこい。そして、やりたいことが決まったら俺に報告しろ。全力でサポートしよう。」
「ありがとう、パパ…。」
私は人生で初めてパパの事を本物のパパだと実感した。
この人は時時雨財閥の社長にして、世界でも名の知れたエリートよ。
仕掛ける企画を全て成功させ、ここ20年で一気に世界に名を刻んだ。
その彼が言う言葉だもの。
金と社会的地位の力で、一流女優も、一流画家も、一流デザイナーも、それこそ女性初の総理大臣ですら夢ではなくなるわ。
だけどね、その全てがまがい物。偽物。金で作られた栄光よ。
そんなものはいらない。絶対にいらない。
金メッキは嫌いなの。中身がぎっしりつまっている純金が好きなの。
「ありがとう。でも私が欲しいのは2つ。実力と、素敵な旦那様が欲しいわ。」
「ほぉ。実力というのはお前らしいが、旦那…?」
ふふ。驚いているわね。
「そう。私の無いものを持っていて、ピンチの時には必ず駆け付けてくれる人。そんな人が傍に居てくれたら鬼に金棒だわ。」
「はははははは。鬼嫁宣言か?」
あら…。コレは流石に例えが悪かったわね。でも…。
「それもいいかも。」
パパはツボにはまったのか、まだ笑っていた。
笑い顔見たの、いつ以来だろう…。
「母さんには言えないな…。おっと、お前は母さんの事嫌いだったな。」
私は露骨に嫌な顔をしたかもしれない。
パパの事は尊敬しているわ。だけどママは無理。
時時雨財閥の一員という、我が家において一番重要な意識が完全に飛んでいるばかりか、いわゆる天然に加え、絵に描いたようなドジ気質で頼りないの。
どうしてパパは、あんなママを選んだのだろう?
ずっと疑問だったのよね。
こう言っちゃ何だけど、嫁は選びたい放題だったはずなのに。そうだ…。
「ねぇ、パパ?どうしてママみたいな人を選んだの?」
そう質問してみた。直後パパは複雑な表情をした。
直感で聞いてはいけないことだと思った。
きっと政略結婚の
そうだよね、アレはないわよね。
そんな事はパパが一番分かっているはずだもん。
財閥には不要の人材だって…。
だけどパパは意外な事を言ったわ。
「そうだなぁ。それこそ、お前が言う『自分に持ってないモノを持っていた』、からだな。」
無意識のうちに反論した。
「あいつが?パパの持っていないモノを持っている?嘘でしょ?まさか天然が癒されるとかふざけた内容じゃないわよね?家事すらまともにできないのに?」
「まぁ、落ち着け。」
珍しく慌ててしまったわ。いえ、ムカついたわ。
あいつは時時雨財閥の唯一無二の爆弾。とてつもなく大きな弱点よ。
だからパパのプライベートシーンにも滅多に出てこないし、財界人との会合やパーティーにも出席することはないの。勿論、今日も不参加。
そのぐらい酷い存在よ。
だから私は許せないし認めない。
まさか…、床上手とか…?
「変な理由ではないが…。いや、変かな?」
何故かパパは言葉を選んでいた。
「お前がもう少し年を取ったら教えてやろう。いや、伝えなければならないのかもしれん。」
えっ?伝えなければならない?
それって財閥にとって優位性をもたらしているって言っているのと同じよね?
私はアレコレと考えを巡らせたけど、どれだけ寛大に見ても、何一つ利点など見つから無かったわ。
例えて言うなら、時間の流れがゆっくりと感じる、大自然に囲まれた田舎が似合いそうなあいつと、一分一秒を争う財閥を背負って戦っているパパとでは、接点すら見つけられないのよ。
財界人は魑魅魍魎というのは前にも言ったわね。
そんな奴らの前に出したら一瞬で喰われるわ。アイツはそんな奴なの。
まぁ、いいわ。
「楽しみにしているわ。」
「うむ。」
車はビルの敷地に入り、豪華な構内道路をゆっくりと進んだ。
派手なキャノピーで止まると、助手席に座っていた秘書が直ぐに降りる。そして後部座席のドアをゆっくりと開いた。
車外には沢山の人が出迎えているわ。
まぁ、それだけ注目されているし、同時に恐れられているってことだね。
人の壁を進み建物の中に入る。目の前のエレベーターに案内されるまま乗りこみ、会場へと向かった。
広い会場には既に多くの人が集まっていたわ。
直ぐに一人の少女が近づいてくる。
「ご主人様…。」
「芽愛。どう?いた?」
「いえ。まだ見つかりません。」
「引き続き注意して。」
「はい。」
そう、能力者探しをしてもらっているの。
パパは直ぐに沢山の人に囲まれてしまっていた。
私は自分の役目を果たすべく行動する。財界人との挨拶や、他愛の無い会話をこなしていくの。
こんな他愛の無い会話ですら話題にされてしまうわ。
いいえ、揚げ足取りに使われるわね。
本当につまらない世界。何もかもぶっ壊したくなる。
そして最高につまらない男達。
年の近い男子が話しかけてくるけれど、どいつもこいつも語る世界が小さすぎて興味すら沸かないわ。
力音みたいにオタク話ししてくれた方が楽しいもの。
だって、アニメも漫画も小説も、可能性は無限じゃない。
こんなに楽しい世界は、どこにも無いわ。
そんな時、パパの秘書が近づいてきて耳打ちしてきた。
「社長はパーティー後にオフレコの商談が入りました。様子を見て先に帰るようにとのことです。」
「分かったわ。谷垣に連絡して頂戴。待機させて。」
「かしこまりました。」
予想通りね。
案の定、パパの周りはお金が集まるわ。
まぁ、これだけの財力、企業体力、技術力、営業力を備えた企業も少ないからね。
こんな事は毎回のことで驚きもしないし、こうでなくっちゃ今後の予定が狂ってしまう。
そう、早々に切り上げて疾斗達の所へ向かわないと。
そう言えば私を呼び出した奴が来ないわね。
その時だった。
不意にドレスの端を背中側から軽く引っ張られた。芽愛ね。
能力者が見つかったってことね。
!!
背後から小声で能力者の内容が伝えられる。
その事実に、私は久しぶりに絶望を感じたわ。
「あなたが時時雨 心優さんね。」
ついに、私を誘い出した能力者と対面する。
話しかけてきたのは、背は私よりかなり高い、そうね、165cmぐらいあるかしら。
スラッとしたスタイルに、肩より少し長いストレートな黒髪が映えているわね。
顔は美人系。私の可愛い系とは真逆かもね。
年は高校生ぐらいと予想したわ。
「はい。私が心優です。」
たかだか2、3年早く生まれた程度の年上を敬えってのもアレだけど、一応敬意は払っておくわ。
「申し遅れました。私は夜見山 可憐です。」
下の名前を聞いてピンときた。
噂で聞いた事があるわ。
通称「可憐Girls」。
財界人の娘達だけで結成されたグループよ。
まぁ、いわゆる仲良しごっこをしているだけね。
私から見たら、反吐が出そうなほど嫌いなやつだわ。
だからお誘いはあったけど即答で断ったの。
何の生産性もなければ、ただ夜見山 可憐を持ち上げるだけのイエスマングループ。
あ、イエスウーマンか。
どっちでもいいわ。
私は本当に背中を預けられる人としか組みたくないの。
ただし、一つだけ気になっていたことはあるわ。
可憐は裏切り行為を絶対に見逃さないこと。
可憐Girlsの人数は30を超えると聞いているわ。
それだけいたら、表面上逆らえないから仕方なく付き合っている人や、当然スパイも潜り込んでいると思うのよね。
彼女は、そういった輩を暴き出し追放しているの。
だけど、今日会ってみて、その些細な事も納得したわ。
財閥も協力関係にあるなかでの、私を誘いだしたってことは、私達の浄化を宣言した
これは面倒なことになったわ。
まぁ、状況は変わらないし、こんなくだらないことで呼び出したのなら速攻で帰らさせてもらう。
「どうかしら?少し静かなところでお話ししませんか?」
これで決まりね。可憐Girlsとかいうくだらない遊びに付き合うつもりはないわ。
「お断り…。」
「あなたに不思議な事が起きていると、小耳に挟んだの。」
おっと。やはりアポカリプスとの関係があるのね。
「何のことかしら?」
私は取り敢えずすっとぼけてみた。
「誤魔化しても駄目よ。」
そう言われてから、あぁ、そうか。こっちの思慮は筒抜けなんだっけ。
迂闊だったわ。
何せこいつの能力は読心術なのだから。
そうか…。ならば…。
私は彼女の顔を見ながら心の中でつぶやいた。
(早く終わらせて芽愛とイチャイチャしたいな。)
可憐のまゆがピクッと動いた。どうやら心を読んだようね。
(芽愛の足の付け根、内ももにあるホクロから上へキスしていきながら…。)
耳まで赤くなる彼女の反応を見て、何だか誂うのが楽しくなってきたわ。
芽愛を引き寄せ、後ろに回した左手で彼女のお尻を思いっきり摘む。
「やんっ。」
その言葉にハッとした表情を見せた可憐は我に返ったようね。
「いいわ。少しだけ付き合ってあげる。」
少しだけ冷静さを取り戻せたのか、
「こっちに来て。」
とだけ言った。
「この子も連れていくわ。」
「そちらわ?」
「申し遅れました。麻美澤 芽愛と申します。」
「あぁ…。麻美澤財閥の…。いいわ。その代わり、私も一人連れていきますわ。」
「どうぞ。」
可憐は私達を別の部屋へと案内するみたいね。
少しずつ距離をとり、芽愛に耳打ちする。
(発動条件は?)
(相手の顔を見ることです。)
それだけ分かれば十分だわ。対処の仕様があるわね。
ただ、気になるのは、もう一人の連れって奴だね。
そいつが能力者なら注意が必要よ。
『
あ、ちなみに即興で可憐の能力に名前をつけたわ。
少し皮肉っておいたけれど、分かるかしら?
このぐらい覚えておきなさい。
会場から少し離れた部屋に案内されたわ。
どうやら会議室のようね。
私達二人が中に入った途端、バタンッと勢いよく扉が閉まると同時に小さな悲鳴が聞こえた。
「キャッ!」
振り返ると、屈強な男が芽愛を羽交い締めにしている。
「何のつもりかしら?」
敢えて可憐に背を向けて男を睨む。
こうすれば彼女に読心されないからね。芽愛を見つめながら顎を少し上げた。
後ろの男は能力者かどうかの確認よ。
まさかとは思っていたけど、芽愛は首を小さく横に振る。
私は思わずニヤリと笑ってしまった。
直ぐに真顔になると不安そうな事を考えながら振り返る。
「可憐。これはどういうことか訪ねているのだけれど?」
言葉は強気でも、一応不安な事を思い描く。
案の定彼女は、私が強がっていると読心したわ。
だって可憐ったら、顔がにやけているんだもん。
「そうねぇ。どちらか選びなさい。可憐Girlsに入るか、あなたの秘密を話すか。」
ふーん。そういうこと?
私はわざと背後の芽愛の方へ振り向き読心されない状態にし、一瞬で考えをまとめる。
可憐は私の能力を知らないこと、そして恐らくアポカリプスとは関係がない事が分かった。
だって、関係があるなら可憐Girlsに入れなんて言わないでしょ。
私は可笑しくて、ついつい笑みがこぼれそうになったわ。
「いいでしょう。私の秘密、教えてあげる!」
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