第49話『二人の覚悟』

グワングワングワン…。

空気が震えているのがわかるお。

いや、空気じゃなくて、能力粒子アビリティ・パーティクルだ。


これだけの密度は初めての体験。

黙示録アポカリプスの中で、一番能力粒子アビリティ・パーティクルを濃く展開出来る心優タソですら、こんなに濃いのは無理だと思う。

つか、これじゃぁ体が限界っしょ!

バラバラになってしまう!


そう言う僕もかなりヤバイ。

彼の自滅攻撃とも言える力に対抗しなきゃならないから。

グイグイ押され始めたのを期に、一気にギアを上げて対抗するお。

ゴゴゴゴゴォォォォォ…


もはや人間同士の戦いとは、次元が違ってしまっていると思った。


―予測不能。


今の状態の僕達の力同士が真正面からぶつかりあった場合、周囲がどうなってしまうのかすら検討もつかないよ。


―天変地異。


そんな状態になってしまった不動の説得を試みるけど、もう聞こえてないみたい。


「不動!貴様はこのまま自滅する気か!?目を覚ませ!!」

「ウガァァァァァァアアアァァアアアアアア!!!」

鬼の形相の不動は、ひたすら破壊を目指し続けているようにしか見えない。

何もかもに嫌気が差し、全てを壊してしまうつもりのようだ。

アダムの指令も何も関係なくなっていると思う。

むしろ、東京ドームごと吹っ飛ぶ気でしょ!


そこで違和感に気が付いたお。

彼の腕が岩で覆われている…。

もしかして…。

岩の中にある本来の腕は、もはや暴走した能力に耐えきれずに…、無くなっているんじゃ…。


このままじゃ、不動の残りの肉体自体が耐えきれないことは明白。

その証拠に、彼の腕を覆っている岩の範囲が、ジワジワと増えていっている。

既に理性は失われ、完全な暴走モードに入ってしまっていた…。





僕も限界点リミッター超える開放するしかない。





グググググッ…。


案の定、押され始めた。


ドンッ!


僕の両腕に、半透明の炎が覆う。


ジュッ…


一瞬で腕が焼かれたように消失したけれど、炎の腕が不動の岩の手を押し返す。






あぁ…。





もう、戻れないんだな…。





気が付けば、彼の両足も石化していく。

そして直ぐに腕から肩へも石化が広がっていった。

「不動!最後に僕に出会えて良かったな!」

「………。」

彼の正気を失った瞳が僕を見つめていた。

「僕が地獄の果まで付き合ってやるよ!」

「………!」


更に濃くなっていく能力粒子アビリティ・パーティクル


彼の頭部以外の体全体も石化し、もはや地球と一体化した彼を押し返すことなど不可能となってしまっていた。


「あの世で思う存分、力比べしようぜ!」

「アッ…、ァッ…。」

不動の顔の下部も石化し、もはや喋ることも出来なくなっていた。


(すまない…。)


そう、聞こえたような気がした。


そう、彼の石化と同じ程度には、僕の体も炎と化していたから。


(良いってことよ…。)


家庭環境や社会に不満を抱いて生きてきた不動と、後ろ指をさされながらオタク道を突き進んできた僕と、どちらが良い人生だったかなんて決められないし、決め付けられたくない。

だけど、変わろうとしなかった不動と、変われた僕とでは、ほんの少し僕の方が幸せだったかも。


本当にありがとう。


ありがとうございました。


僕にチャンスと夢をくれた心優タソに最大限の感謝を。










「ごめん心優タソ!もう会えない!!!」









ドドドォォォォオオオオ………………ッン








遠くで爆発音が響く。

俺はその原因を気にしたが、直ぐに忘れなければならない。

何故なら、目の前のアダムの使者である火月かずきは、一瞬の油断もならない強者つわものだからだ。

「護のオッサン。なかなかやるけれど、能力自体は俺の方が上だと証明されたな。」


奴の言葉は、俺を惑わす為のものではない。

事実を述べただけだ。

俺はそれを認めている。


純粋な能力の比較では、残念ながら彼の方が上手と言わざるを得ない状況だ。

奴の繊細かつ大胆な攻撃に防戦一方であり、今のところ致命傷を受けていないのは、俺の絶対防御壁アンコンディショナル・ウォールが防御系で助かっているだけに過ぎない。

だが、まずは冷静に、俺と奴との比較をしてみる。


心優が相手の能力を探れる芽愛を重要視しているのも、情報を得ることにより、こちらの攻撃方法を探り先手を打てることの重大さを認識しているからだ。

俺もそれには同意する。


彼の能力は「えぐる」、言い換えると「削り取る」だ。

どうやら削り取れる範囲は手の平までのようだが、この能力は非情に厄介だ。

何せ容赦なく何でも削るからだ。


お陰で周囲の地面、柱、壁、それにテーブルまでと、あらゆる物体が手の平サイズで削り取られてしまっている。

削り取られた残骸は、粉々になって地面にバラ撒かれていた。

これを人体にやられたら…。

あまり想像したくない状況となるだろう。


唯一の救いは、発動条件が「腕を振り下ろす」動作なことだ。

これのが無ければ、避けることは難しかっただろうな。

例えば心優の「息を止める」や、疾斗の「瞬き」だったら、もう避ける事無く俺は死んでいただろう。


ここまでの状況ならば、勝算は十分残っていた。

だけど奴は、自分の基本的な能力はとっておきと位置づけ、属性攻撃を主体に攻めてくる。

これが実に厄介だ。

属性は「火」で、俺は「土」だから、相性としてはどちらも有利不利はない。


では、どこで差が付いているのか?

それは熟練度となる。

悔しいが、奴はかなり研究してきていると思われる。

火属性となると、仲間のなかでは力音が担当し、勿論俺も訓練に付き合っている。

色々と試してきたつもりだったが、如何せん時間が足りなかったのも否めない。

力音自体、細かく考えて戦うタイプでもないしな。


火月の攻撃は、実に多彩だ。

力音が得意としていたような、炎を撒き散らすような攻撃は少ない。

目眩まし程度に使うだけだ。

逆に細かい攻撃を常にしかけてくる。


例えば炎の針による、全方向からの無差別攻撃だ。

これを最初にやられたのだが、念の為に展開しておいた絶対防御壁アンコンディショナル・ウォールのお陰で命拾いした。


奴も俺の能力はある程度知っていただろうし、恐らく攻略の糸口を探すための様子見だったに違いない。

勿論この程度で俺がやられるようなら、それはその程度という結論に達するだろう。

それからの奴の攻撃を振り返ってみれば、俺の絶対防御壁アンコンディショナル・ウォールだけでは、攻略されてしまうだろう。


奴がメインに据えている炎の針の攻撃は、「針」という言葉にすると、たかが針と思ってしまうが、これは非情に嫌らしい攻撃と言える。

速い飛翔速度と相まって、目で追うのは不可能に近い。


どこから飛んでくるか分からない攻撃は恐怖を誘い、集中力をごっそり持っていかれる。

数も分からなければ、方向も分からない。

防御壁で防いでいたが、俺は直ぐに能力粒子アビリティ・パーティクルによる索敵を開始しておいた。


これが助かった。

無数の針の中に、1本だけ強力な物が混じっている事に気が付くことが出来たからだ。

この1本だけは防御壁を貫通する、そう感じ取ると、直ぐに別の防御壁を展開し、滑るように方向だけを変えさせた。


それから奴は、炎のブレスや火柱といった目立つ攻撃の合間に、鋭く炎の針を飛ばしてくる作戦に切り替えてきた。

だがしかし、ブレスや火柱は只の派手な目眩ましではない。

1撃1撃が致命傷となり得る、非情に強力な攻撃でもある。


それでも一進一退の攻防になると、今度は火で作られたムチを振るってきた。

これも非情に嫌らしい攻撃だ。

能力で作られている為、普通の鞭ではない。

意のままに操れるのである。

曲がりくねって飛んできたかと思うと、直進してきたり突然伸縮したりと、動きの予測は不可能だ。


俺は、ここまでは奴の攻撃を見極めつつ、似たような攻撃で反撃してきた。

火柱には地面から岩を突き出させ、ブレスは強固な防御壁で防ぎきり、鞭には岩の鞭で対抗する。


不慣れな部分は絶対防御壁アンコンディショナル・ウォールでカバーだ。

こうすることにより、火月の攻撃を尽く防ぎながら反撃のチャンスを伺ってきた。

いくつか見えてきたことがある。


常識に捕らわれない攻撃を仕掛けられているということだ。

奴の放つ属性攻撃が、都合よく前からのみ飛んできたことは一度もないし、攻撃と攻撃の合間に会話出来るような余裕もない。

今までは完全に相手ペースだったこともあり、俺は只々必死で防いでいたに過ぎない。


そこで考えついたのが、「フェイント」である。

目眩まし的な攻撃から始まり、複数のフェイントを織り交ぜ、本命を叩き込む。

この1撃に全てを賭ける。

俺の攻撃のバリエーションは少ない。

全てを読まれ対処されたら、手も足も出なくなる。

だから1撃必中させる。


その1撃に俺の命と黙示録アポカリプスとしての存在意義と、日本の未来の全てを賭ける。


「ハハハッ!防戦一方だな!」

「残念ながら、そういう状況だな。」

「なんだぁ?余裕かぁ?それとも諦めかぁ?」

「残念ながら、両方共違うな。」

「ほぅ?この状況でも勝つ方法を模索してるってかぁ?」


火月は不気味な笑みをこぼしている。

雑でチャラい喋り方、そしてだらけた動作に騙されてはいけない。

こういった何気ない中でも、俺の動向を探ろうとしている意図が、ヒシヒシと伝わってきている。

俺は緊張感を持って向かい合わないといけない。

この瞬間ですら、攻撃チャンスはお互いにあるからだ。


「気に入ったぜ、護のオッサン。あんたみたいな慎重で頭脳派な参謀役を探していたんだ。どうだい?俺と組まないか?」

揺さぶりか?

「どういう意味だ?」

「言葉通りだ。俺は組織の中ではNo.3のポジションにいる。俺と組んでNo.1ののぼるのジジイとNo.2の吹雪をぶっ殺す。そうすれば俺達は組織内でNo.1と2になれる。」


「何を言っているんだ…、おまえ…。正気か?」

「エデンの園は実力主義だ。実力さえあれば、金も、女も、何もかも自由だ!最高じゃねーか!」

狂ってやがる…。

こんな組織…、ぶっ潰すしかねーだろ!


「断る。」

「ふーん。まぁ、あんたならそうやって警戒するよな。だけどよ、それこそ慎重に考えてみろよ。力さえあれば自由にやれるなんてよ、単純にして明快な社会で生きる権利を得られるんだ。何も怖がることも、警戒することもねーだろ。ハッキリ言ってやる。お前の実力があれば、死ぬまで安泰だぞ?どうだ?どうせパッとしない人生だったんだろ?これからは俺と一緒にバラ色で生きていこうじゃないか!」


「お前バカだろ。」

「あぁ~ん?」

「今直ぐお前を倒して、俺がNo.1になる選択肢だってある。」

「そうやって揺さぶろうったって駄目だ。俺には通用しない。それに、これまでの戦いを見ればわかるだろ?お前は俺に勝てない。」

「俺には奥の手がある。残念だったな。」

「それこそブラフだ。本当に奥の手があるなら、絶対に言わないわな。」


こいつ…。

やはり言動とは違い思慮深い。

だが、奴は既に俺の術中に嵌っている。

大丈夫だ…、いける!


「なら試してみるがいいだろう。」

「本当に残念だ。それこそ残念な言葉だ。お前とならエデンの園で覇権を握れたのにな。」

「そこまで考えているなら、むしろアダムをやればいいだろ?」

「あいつは駄目だ。」

「………。」

「あいつこそ狂ってやがる。触っちゃ駄目なタイプだ。放おっておくのがいい。」


なんだ?

これだけの大口を叩く奴ビックマウスが、アダムには一切の勝ち目がないと考えているのか…。

「お前ほどの奴でもアダムには敵わないのか?あんな奴、口先だけの奴だろう?」

「そう思っているなら幸せだな。」

「なに?」

「そのまま対峙してみろ。自分でも気が付かないうちに死んでいる。」

「バカな…。」

「あいつに言われた事を、無自覚に行わせるんだぞ?勝てるわけねーだろ!」


なるほど…。

まさしくマインドコントロールか…。

だが、統率力はないと見たが…、それが逆に危ない状況を作り上げている。

下克上の世界を作ってしまっている。


これは色々とヤバイな…。

その触っちゃいけない奴と戦うには、こいつを倒してゲートキーパーを攻略するしかないということか…。





俺はこの時点で腹をくくった。





「なるほどな。なら尚更俺が勝つしかないな。」

「どうしてそうなる?俺と組んだ方がいいだろ?」

「クズと組むほど、人間腐ってないんでね。」

「!!」

「さぁ、決着つけようじゃないか!」

「ならばそのクズに殺され、後悔しながら死ね!」


俺は先手を打つ。

目の前に、俺の姿もそっくり隠せるほど大きな岩を出現させると、その岩は三角柱のように先端が尖り、その先端は奴に向ける。

そのでかい岩をマッハで飛ばす!


同時に能力粒子アビリティ・パーティクルを徹底的に濃くする。

今の俺は、奴のどんな些細な動きも見逃さないほど、二人を包み込む。

呼吸、汗の一滴、全てが俺に伝わる。




緊張感と集中力が限界突破する!



この一瞬で決着をつける!





10秒後、どちらが立っていられるかは予測不能だった。

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