第59話『とっておきのサプライズ』

あれから3ヶ月が経ったわ。

今日は芽愛に集合をかけられていて、谷垣が運転する車で我が家からプライベートハウスに向かっているところよ。

暇だし、ついでだから近状報告でもしましょうか。


まずは私から。

最初に見た目。

銀髪に紅眼とか、ラノベの表紙を飾れそうな容姿は、結局は元に戻らなかった。

でもいいの。

だってコスプレする手間が省けるじゃない。

それに嫌いじゃないわ。


そんな私も、お母さんとの誤解もすれ違いも解けて、今では3人で楽しくやっているわ。

いくつか問題もあったけれど…

そうね、まずは時時雨財閥の行く末ね。

お母さんの能力、眠れる預言者スリーピング・プロフェットによって財閥の繁栄が決まっていたようなものだから、予知が無くなれば百戦錬磨だった財閥も、最悪ガタガタになるはずだった。


そうなる前に、私は提案したわ。

これからはパパが全部決めるんじゃなくて、部下に任せなさいって。

まぁ、普通の企業じゃ当たり前のことなんだけど、我が財閥は特別。

パパの独断で全てが決まっていたの。

異例中の異例な財閥だった訳ね。


だから、まずは些細なミスをするところから始めたの。

そこから独断を辞めて、部下によるプレゼンですすめていくという風に大改革したの。

蜂の巣を突っついたような大騒ぎだったみたい。

退社者も出るぐらい大事件だったけれど、辞めたい人はそれでいいじゃないかな。

自分で何も作れない、強い人に着いてくるだけの人材なんて、どこへ行っても不要でしょ。


そんな訳でパパは、判断するだけのポジションになったのだけれど、まぁ、これが難しいよね。

そこで私もこそーり覗いては助言しているわ。

今のところ案外何とかなっている。

私はこれを受けて、経済学の個人授業を受けているの。

これで業績が上向きになる…、なんてことは思ってなくて基礎を学んだ上で判断したいところよね。

忙しくなってきたわ。

むしろ、今は夢中になって時間を忘れるほど猛勉強中よ。


元気になったお母さんも問題と言えば問題ね。

すっかり中二病が板についちゃって、凄く困っているわ。

今では二人で黒歴史を爆進中ね。

楽しいと言えば楽しいけれど…、これで良かったのかしら?

これにはパパも苦笑い。

経済界でも有名になっちゃって、財閥の体面とかもあるしと思ったけれど…


逆にここは押し切ってしまおうと、二人で踊ってみたって動画を投稿したの!

そしたらそれがバカ受け。

あっという間にミリオン達成だし、コメントも凄いわ。

お母さんに対するコメントが多いのが気に入らないけれど…

まぁ、これはこれでいっか。


そんな訳で、何と言ってもお母さんの変化がとても大きいわ。

でも、いつも笑顔で、今までと同じ生活のはずなのに、とても明るい雰囲気を実感しているの。

そうかぁ…

パパはそんなお母さんに惚れちゃったのね。


そう思っていたら、何と弟か妹が誕生することに。

お母さんのお腹の中には、まだ性別は分からないけれど新しい家族が誕生しようとしている。

もしも男の子だったら…

パパはきっと社長の座を譲ろうとするよね。

だから私は弟だったら献身的にサポートするつもり。

その代わり、私自身はやりたいことも出来るしね。


妹だったら…

私を、いえ、財閥を助けて欲しいのが本音だけれど、まぁ、その時にならないと分からないかも。

強制はするつもりはないわ。

どちらにせよ悲観はしていないし、純粋に嬉しい出来事よね。


学校では積極的に友人を増やしているの。

どこで重要な人材と出会えるかはわからないし、将来協力して行う事業もあるかも知れないしね。

相変わらず取り巻きは持たないけど。


そんな忙しいお陰で、後遺症にはならなかったわ。

能力者だった人達が、突然特別じゃなくなったことで、精神的に支障をきたす人もいたの。

そりゃぁ、そうよね。

あれは特別中の特別。

あんなことは二度とない。

だけれど特別過ぎた。

専用のカウンセラーを政府から派遣してもらって、治療を続けている人もいるわ。

黙示録アポカリプスからは一人もいなかったけどね。


そう言えば黙示録アポカリプスは解散したの。

まぁ、役目を全うしたってところね。

新垣首相は、後で言うけれど事件解決後も親身になってサポートしてくれたわ。

財閥あげて組織票が欲しいのかと勘ぐったけれど、どうやら違うみたい。

純粋に日本を救ってくれたことへのお礼だったのは、時間を待たずに理解することが出来たわ。

今でもSNSで公安9課ごっこしてたりする仲よ。


さて。

次に旧黙示録のメンバーと行きましょうか。

まずは芽愛。

彼女とは相も変わらず親友のままよ。

向こうの財閥にも遊びに行ったりして、益々仲が深くなっている感じね。

何をやっても楽しいし、二人で新しい事にチャレンジしようとしたりと、凄く充実している。

家族が増える話をしたら…

「男の子だったら、私結婚します!」

「な…、何を言って…」

「そうしたら、心優がお姉ちゃんとなって、一生傍にいられるもんね!」

「はぁ…」

これはこれで嬉しいのだけれど、生まれる前から争奪戦が始まっているなんて…

冗談としても不憫に思っちゃったけれど、案外真面目に考えていそうで怖いわね。


次は疾斗。

彼は刀真と一緒に、再び馬鹿騒ぎを再開したようね。

彼のお父さんは、政府お抱えの病院で集中的に治療を受けることになったわ。

まぁ、私の口添えもあったのだけれど…、そこは新垣首相が汲んでくれたというか、察してくれたというか、多くを語らなくても協力してくれたの。

そのお陰か、少しずつ回復傾向にもあるみたいだし、これも明るい話題の1つよ。

どちらにせよ、二人は元に戻ったところか、更に親交が深まったみたいね。


次は力音。

彼は大学に通いながら、相変わらず肉体を虐めては鍛えているようね。

将来的にはスポーツジム経営とかしたいみたい。

痩せた経験も活かして、彼のように自分を変えたい人をサポートしたいみたいね。

将来の目標も出来たことで、忙しい毎日を送っているわ。


そうそう。

彼に可憐を紹介したの。

二人共アニメ好きだしね。

そしたら意気投合しちゃって…

今では恋人の関係にまでなっちゃった。


その可憐は少しの間、後遺症に悩んでいたわ。

そりゃ、そうよね。

あの事件以来突如、可憐な読心者プア・マインド・リーディングは使えなくなっちゃったから。

それに関してはプライベートハウスに呼んで、何が起きたのかを説明したの。

彼女が能力者だったという事実から丁寧にね。


私達が対峙した時の状況も説明したら、凄く納得はしていたけれど、可憐Girlsの運営というか付き合いは難しかったようね。

なので解散した。

だけれど、3人の同級生が残ってくれたみたい。

きっと彼女らは、本心で可憐のことを友人と思っていた人達だろうね。

今では彼女達とも上手く付き合っていけて、後遺症は克服出来たみたい。

まっ、力音も献身的に助けてあげていたみたいだしね。

二人には末永く幸せになって欲しいわ。


次は護。

彼のことは大変だったわ。

まずは詩織との婚約、そして転職したの。

渡辺を説得するのも大変だったし、その転職先にねじ込むのも苦労したわ。

だけれど、絶対成功するって思ったのよね。

転職先は、陶芸で人間国宝の弟子。

彼の創り上げるという情熱とセンス、これに賭けて連れていったわ。


1ヶ月の様子見で正式決定となったの。

なかなか自分の作品は作らせてもらえないのだけれど、これはとても楽しみな状況となったわ。

何年かかるか分からないけれど、最初に作った作品は、絶対に、ぜぇーーーったいに私に売るように言ってあるわ。

一生の宝物の1つにするの。


次は夕美ね。

彼女は大学受験に向けて、遅らばせながらも受験の猛勉強中。

私のコネで…、という話もあったけれど、大反対されちゃった。

でも、自分の実力で道を切り開きたいという本人の意向はとても重要よね。

だから尊重する。

大好きな先輩の後を追う選択肢もあったけれど、地元の国立狙うみたいね。

せめてと懇願して、優秀な家庭教師をつけてあるわ。

来月受験だから、頑張って乗り越えて欲しいわね。


最後に烈生。

彼は相変わらず楽しい小学生ライフを送っているようね。

色んな事に興味を持って、その都度谷垣と調べたり解決したりしているみたい。

谷垣の方もまんざらでもなくて、休日は二人でよく出かけているわ。

彼が若すぎるが故に、今回の戦いがトラウマにならないか心配だったけれど、どうやら無用だったわね。

まぁ、谷垣の事を本当のお父さんのように慕っているし、二人で戦ったことも重なって何とかなってしまった感じ。

谷垣の方も、生涯独身を貫くつもりだったけれど、烈生の純粋さにすっかりやられちゃって…

東洋の悪魔が長い旅路でたどり着いた最後の場所は、純真な世界だったってことよ。


アダム側の人達は、吹雪と刀真を除いて全員が後遺症に悩まされているわ。

まぁ、こちらも新垣首相が主導してカウンセリングなどの処置がすすんでいるところ。

見通しもたってきたと報告を受けているし、何とかなりそうね。

それに…

死闘を繰り広げたはずの相手とは、ちょくちょく親交があるみたいで、そういった関係が回復の手助けをしているようよ。


不動は力音が立ち上げようとしているスポーツジムの手伝いを名乗り出ているし、風華は麻美澤財閥の系列の会社に勤めながら芽愛と時々会っているみたいだし、伸は谷垣の弟子入りをしようとしてきて一悶着ありながらも、今でも付き合いがあるし、火月は護を追いかけて近くで働きながら、今ではすっかり友達みたいね。

問題は内海ね。


夕美にすっかり惚れ込んじゃって、一歩間違えればストーカーよ。

十分注意はしているけれど、本人はストーキングだとか恋愛対象とかではなく、何か助けてあげたいらしい。

私を通すようにと念を押してあるし、まぁ、大丈夫でしょう。


それと圧縮君こと『篤』も生き返っているわ。

能力が無くても危険極まりない彼は、公安の監視下に置かれ、1週間もしないうちに傷害事件を起こしたのをきっかけに豚箱行きね。

まぁ、後遺症が悪い方向で出ているようだし、一生出られないでしょ。


吹雪はというと、結局私のプライベートハウスに転がり込んできちゃった。

趣味も合うし、同年代だしね。

これには芽愛が激しく嫉妬してくれたのだけれど、本人は付かず離れずの関係を望んでいたわ。

元々孤児院の出て、友人関係とか苦手みたい。

その辺は本人の意向を尊重しつつ、時々一緒にアニメ観たりして盛り上がっているの。

少しずつ打ち解けてきている感じね。

元々観察眼とか鋭いものを持っているし、私に恩返ししたいとか言うから遠慮しているのだけれど、将来何かの役に立ちたいと必死に勉強も頑張っているわ。

まぁ、どちらにせよ自分のためになるからと、今は勉強を応援してあげているところね。


最後にアダム。

彼は獄中。

精神的に狂ってしまったけれど、病気と判断されても出てくることは無いわね。


こんな感じで、少しずつ前の生活に戻りつつ、今回の事件で変わった部分を受け入れていっている状況ね。


さて、プライベートハウスに到着よ。

最近は家にいるから、こっちは休日メインで居ることが多いわ。

相変わらず烈生と吹雪は住んでいるけどね。

玄関に立つと、冬の寒さが身に染みる。

直ぐに芽愛が出迎えてくれた。

「お待ちしていました、ご主人様♡」

そんな会話も、今では笑い話になったわね。


早速、谷垣も含めて3人で私の部屋に行く。

「で?今日はいったい何の用事なの?」

「ふふふ…。それはドアを開けてからのお楽しみに。」

笑顔を振りまく、愛くるしい芽愛。

ちょっと気になるけれど、まぁ、悪いようにはされないでしょ。


そしてドアを徐ろに開ける。

………

真っ暗ね。


パンッ!パパンッ!!


突如何かが弾ける音が響いた。


「な、何!?」






「お誕生日、おめでとう!!!」





突如祝いの言葉を合唱される…


そっか…


今日は12月25日だっけ…


不意にろうそくに火が灯ると…


そこには皆が居た…


笑顔で並んでいた…


両親もいる…


あんなに苦しかった異能バトルが遠い昔のよう…


私は思わず…


大泣きしちゃった…


全員が生きて帰ってこられたと再確認できちゃったから…




ウワァァァァァァァァァン…




小さな子どものように…


こんなに嬉しいサプライズは今までなかったから…


「ほらほら、涙を拭いて。ささ、お誕生日席に座ってね。」


芽愛に催促されても涙が止まらないの…


もう枯れたと思ったのに…


悲しい涙と嬉しい涙は、別なものなのかも…


「さぁ、フーしてください、ロウソクをフーですっ!」


グズッ…グズッ…


未だ涙と格闘しながら…


フーーーーーーーッ


15本のロウソクが一斉に消えた…


それと同時に照明が点き拍手が巻き起こる…


そして沢山の手作りプレゼントに囲まれて…




私は…




最高に幸せな時間を感じながら…


最高の家族と仲間に…


いっぱいいっぱい感謝した…


この時の記念写真は…


私の一生の宝物の一つ…


頑張って良かった…


必死になって良かった…


この時だけは…


神様はいるのかもしれないと…


ちょっとだけ感じた…


「フフフ…。心優ったら、あんなに嬉しそうに…。見てよパパ。」

「そうだねママ。本当に良かった…。長かったね、僕らの戦いも。」

「そうね。20年もかかっちゃった。」

「でも無駄にならなかった…。見てみなよ。我が娘の、あの最高の笑顔…」

「新しい家族も楽しみね。」

「また頑張って迎えようじゃないか。」

「そうだね…。でも、ちょっと高齢出産気味になっちゃうね。」

「大丈夫さ。一杯サポートさせてもらうよ。」

「ありがと…、フフフ…」

「ハハハハハハッ!」


「そこっ!いちゃつくなら外でやってよね!」

私は拭ききれない涙と格闘しながら両親にツッコミを入れる。

「いやー、すまんすまん。」

と、優しい笑顔のパパ。

「さぁ!ケーキを分けましょ!」

ママは自らケーキを切り分けていく。

「それにしてもでけぇ…」

呆気にとられる疾斗。

「僕の身長より高いかも…」

同じく驚きを隠せない烈生。

「ふ、太っちゃうかも…」

夕美ったら、そんな心配ばかりするんだから。

「なら僕が全部食べちゃうお!」

力音が無邪気にはしゃぐ。

「りー君、一緒に食べよ!」

可憐のデレっぷりなんか、見たくもないわ。

「これは流石に食いきれないだろ。」

「残ったら包んでもらう?」

護と詩織が仲良く笑いあう。

「さぁ、お嬢様。最初に召し上がってください。」

谷垣が美味しそうなケーキが乗った皿を持ってくる。

「あーんして、あーーーーーーーん」

早速芽愛が甘えてきたわ。

「えー、たまには私があーんしてあげるよ。」

吹雪もフォークに乗せたケーキの切れ端を持ってきた。

「ちょ、ちょっと!そんなあっちもこっちも、同時に食べらないわよ!」


幸せ色の空間が、傷ついた心と体を癒やしていく―――










こうして、一連の異能バトルは幕を閉じることになったわ。











そのはずだった…

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