孤独な皇帝

しーた

第1話『ドSなお嬢様』

 私の名前は『時時雨ときしぐれ 心優みゆ』。

ガチのキラキラネームじゃないのが残念ね。

あ、苗字は時々雨ときどきあめじゃないからね。間違えないこと。

年は14歳。現役の厨二ね。中二じゃないわ、厨二よ。


見た目は一応お嬢様らしく、大人しくしているわ。

髪は染めても何も言われない立場ではあるけれど、そんな事をしなくても可愛いから必要ないわね。

顔は丸型童顔。髪型はロングのおさげ。目は猫目って言われる。

人前で本を読む時だけメガネ伊達をかけているわ。

背は低いの。こればかりは仕方ないわね。

まぁ、理想の体系を望むより、現状どうすれば輝くか考える方が現実的よ。

私の自己紹介はこんな感じ。

どう?想像しただけで可愛いでしょ?


学校の制服はセーラー服に黒ソックス。

襟の部分には濃い青のラインが三本、スカートのふちと袖にも同じ色のラインが一本入っているわ。

胸元のリボンは、少し明るい青ね。

地味だけど、意外と可愛いわ。

気に入ってあげる。私に気に入ってもらえるなんて、光栄でしょ?

孫の代まで自慢出来るわよ。万歳三唱して喜びなさい。


通っている学校は、都内の私立紅月あかつき中学校。超お嬢様学校よ。

もう一回言うわ。『超』お嬢様学校。

なんで二回言ったかって?私が厨二病だからよ。

隠す必要なんかないわ。嘘は嫌いなの。


勿論学校では、絵に書いた様なお嬢様を演じてる。

当たり前じゃない。私の趣味のアニメなんて誰も話題にしないからよ。

でも私は好き。超大好き。アニメも漫画も見て、ネットで情報漁っては一人で盛り上がっている。

変装してコミケにも行くわ。

神絵師のサイン入りイラストは、押し入れの宝物庫鍵付きチタンケースに閉まってあるぐらい。


ちなみにパパは時時雨ときしぐれ財閥の社長。つまり私は社長令嬢で、おまけに一人娘。

だからドレス着て、魑魅魍魎クソジジイ共が集まるパーティーとかにも渋々行って営業活動もするの。

その代わりお金に困った事はないわ。

まぁ、お嬢様と言えども一長一短ってところね。

嫌なことも我慢する。当然ね。

何でも楽して手に入るなんて思ったら、勘違いもいいところよ。


きっとこのままだと、パパの会社の次期社長候補みたいなお坊ちゃんと結婚させられる。

政略結婚ね。あぁ、なんて悲運なの、私…。

だけど全然悲観なんかしていないわ。

だって私には能力ちからがあるから。


この能力ちからを使えば、私に指一本触れることも出来ない。

断言出来る。私の能力をもってすれば、この国さえ乗っ取れるし、世界を動かすことも出来る。

どうしてかって?

そんなに聞きたい?


その前に。

ちなみに能力に名前をつけてみたの。

私の能力の名前は、『孤独な皇帝ロンリー・エンペラー』。

どんな意味かですって?

この能力が存在する限り、私以外に皇帝になれる人はないからよ。

つまり、私が西京最強にして至高ね。

どう?凄そうでしょ?

私の能力ちから、増々知りたくなった?


教えてあげる前に、どうしてこの能力に目覚めたか。

そこから語りましょうか。

せっかちは嫌いよ。話を聞きなさい。

あれは中学1年の時。

受験も無く私立中学に入学した私は、学級崩壊とは程遠い、神聖退屈な空気が漂う進学クラスに入ったわ。


ん?なんで受験が無いかですって?

お嬢様を見くびり過ぎだわ。世の中、金よ、金。わかるでしょ?

パパが融資するって     言えば、ハイ、大学卒業までのルートが確定!

こんなもんよ。


話がそれたわね。

その神聖なる教室ゴミ溜めで言ってきたのよ。

後々私の専属メイドになるそいつが。

時時雨ときしぐれさん。あなたには特別な能力ちからがあります。」

ってね。

ピクッと反応しちゃったのは、仕方のないことね。

私の大好物なキーワードですもの。


言ってきたのは同じクラスの『麻美澤あさみざわ 芽愛めいと』。

彼女はショートカットで、耳や顎の形を隠すようなまんまるな感じ。

垂れ目で、何というか、見た目からして大人しそうで子供っぽくて、そうね、守って上げたくなる感じ?

とか、反吐が出るけどね。


その芽愛めいとの突拍子もない言葉に、思わず厨二病発動で、

「左目がうずくのはそのせいね!」

とか言いそうになったのだけれど、ギリギリで押し留めたわ。超ギリギリでね。

「悪ふざけが過ぎますよ。」

そう冷静に切り返したの。さすが私。

これが私を貶める罠の可能性もあったからね。

輩は、昔から一定数いたってことも教訓になっているわ。


ところが芽愛は、真剣に言い寄ってきた。

「私も持ってます、能力ちからを。」

あぁ~ん?上等じゃないの!

からかうのもいい加減にしろって、当然のように思ったわ。

まぁ、その時はね。


だけど、彼女も能力を持っていると言う。

そこまで言うなら見せてもらうことにした。

ま、まぁ、ちょっと興味あるじゃん?私としては。

翌日の土曜日にプライベートハウスへ招待し、話を聞くことにしたわ。


夕方から合流し、ディナーの後に話を聞く。

食事が終われば、SP護衛を残して召使共邪魔な奴らが帰るからね。

そして二人きりになったところで切り出してみた。

「それで?能力ちからってどういうことなの?」

大好きな極甘レモンティー生命の源を飲みながら尋ねる。


「私、えたのです。」

「えっと、何が?」

「能力が、です。」

「それで?私の能力が視えるってこと?」

「はい。」


面倒臭い娘ね。さっさと結論言いなさいよ。

「では、どんな能力が視えるのかな?」

そう尋ねると、彼女は突然躊躇ちゅうちょした。

なんで?今更?


「時時雨さんの能力はとても強力だと思うのです。だから、伝えて良いのか、この期に及んで迷っています。」

はぁ~?美味い物エサまで恵んでやったんだから、さっさと言いなさいよ!

とは、言わない。グッと我慢する。


「えーっと、悪い冗談なら帰って欲しいのだけれど。」

私はこの時、かなり苛々していた。だって、そうでしょ?

厨二病の私を目の前にして、能力ちからがあるとかないとか勿体振りやがって。

だけれど、その苛々は彼女にも伝わったみたい。


「す、すみません…。では、言います。時時雨さんの能力は…。」

「能力は?」

「タイムストップです。」

「タイムストップ?時間を止めるってこと?」

彼女は静かにゆっくり力強く頷いた。


ハイッ終了!

さすがに本気で誂われたと思った。

ばっかじゃねーの?

時間を止めるぅ~?

もうちょっと出来そうで出来なさそうな、現実味のあるやつつくってきなさいよ。

信憑性ゼロじゃない!


「そんな経験、ないのだけれど?」

こう切り替えしてみた。

確かに時間を止めた経験なんてない。

「能力というのは万能ではありません。だから発動条件があるのです。」

!?

おっと。なかなか良い設定じゃない。

私、食いついちゃうよ?


「その条件は分かるの?」

「はい。時時雨さんの場合の発動条件は、『息を止める』です。」

「はぁ~?」

何とも微妙な設定に、つい口に出して呆れてしまった。


「あっ、すみません。おかしなことを言ってますよね。それは自覚しています。だけど、私にはそう視えるんです。『私は能力が視える』ことが能力なんです。」

芽愛は焦ったのか、まくし立てるように言った。

ふ、ふーん。

なら、試してやろうじゃないの。


「こちらこそごめんなさい。ちょっと突拍子もなかったから。」

メイドみたいな名前している癖に下を向いて、申し訳無さそうにしていた。

自信はないのね。

ん?

待って…、もしかして…。芽愛って…。


麻美澤あさみざわさん。もしかして、能力者を見つけたことって他に無いんじゃ…。」

そう、私が初めて視えたんじゃないかと疑った。

「えーっと、その…。はい、その通りです…。いえ、視たことはあるんです。でも確かめた事はなくって…。だから…、私も確かめたくて…、違っていたら御免なさい!」

そう言いいながら思いっきり頭を下げた。

芽愛は苦しそうな表情をしていた。


私は完全に呆れてしまった。

ちょっと浮かれた自分が恥ずかしいぐらい。

まぁ、いいわ。ちょっとだけ楽しめたし。

でも、一応念を押しておこうかしら。

麻美澤あさみざわさん。」

「はい。」

「うちの時時雨ときしぐれ財閥、知っていますよね?」


その言葉に彼女は激しく反応した。

絵に書いたように「ビグゥッッッ」となった。

「はい…、知っています…。」

彼女は私の言葉の意味を理解している。

つまり、私を愚弄すれば、それは大人同士の喧嘩にまで発展する。

彼女がどこの財閥出身か知らないけれど、大したことはないわね。

うちの財閥と同等となると、数えるほどしかないから。

同等の財閥となると、日本ではその分野で1位を意味するしね。


入学前にチェックしたところ、そんな家柄はなかった。

なので周囲も私に気を使っているのが分かる。

校長…、いえ、文科省クラスまでもがね。

短くため息をつくと、この遊びを終わらせることにした。

それと、彼女の中の、ある匂いを感じ取っている。

そして決めた。こいつを従順なメイドにすることを。


「まぁ、いいわ。減るもんじゃないし、試してあげる。」

そう言うと、メイド風情の癖に興味津々なツラして私の顔を見た。

頭が高いわ。

「その代わり!」

私は釘を刺しておくことにする。

「もしも嘘なら、私の専属メイドになりなさい。」


!?


彼女の顔が歪む。入学早々災難ね。喧嘩を売った相手が悪かったわ。

「そして本当なら…。」

メイド風情が薄っぺらい希望に期待している様子がわかる。

たまらなくゾクゾクするわ。

「私の専属メイドになりなさい!」


!?!?


メイドの癖に混乱しているようね。

もう後戻りは出来ないってことよ。

「あの…。」

「メイドはメイドらしく、ハイッとだけ言えばいいのよ。」


そう言った時の悲しそうな中にも、少しだけメイドらしく悦んでいる雰囲気を敏感に感じ取る。やっぱりこいつは根っからのドMよ。

激しく罵られて悦ぶタイプ。私の嗅覚は正しかったようね。


現世この世界で14年しか生きていないけれど、人間は数種類に分類出来ると思っている。

トップに君臨するタイプ、ナンバー2タイプ、軍師タイプ、指揮官タイプ、そして下僕タイプがいるわ。

各々が自分の居場所を探しているの。だから私が導いてあげる。

トップに君臨する、君主タイプエンペラーの私がね!


芽愛は細かく震えながら、小さな声で「はい…」と答えた。

「声が小さいわ。それに私の事は「ご主人様」と呼びなさい!」

涙目になりながら、頬を紅く染める。

真性ね。増々悦んでやがる。


「はい!ご主人様!」

「なかなか良い返事よ。」

彼女は振り切った。もう後戻りは出来ない。

側へ来てしまったのだ。

ちょろいもんね。将来的には、彼女の会社ごといただこうかしら。


まぁ、いいいわ。

さて…。メイドの戯れ言のケジメはつけておきましょう。

こんな事、言われ放しだと後味が悪いからね。


「とりあえず試してあげる。」

「嬉しいです!ご主人様!」

立ち上がり芽愛の傍に行く。

従順なメイドの頭を撫でてやる。今にも涎を垂らしそうに悦んでいた。

「ふふふ。可愛いやつ。良い子にしていれば、飼い続けてあげるから。」

「はい!」


そして私は少し離れる。

まず左手を開く。普段はこんなに開く事はないと思うほど開くのが特徴。

目一杯開いた左手を、ゆっくりと顔の前に持ってくる。

手のひらは自分の顔の方に向けること。

そして、指と指の隙間から視線を向ける。

手と顔の距離は、少しだけ開けておく。この距離はその時の状況次第ね。


このポーズ、実はとても重要。即興だけど勿論意味があるわ。

それは後で教えてあげる。


ザンッ!!!


きっとこんな擬音が背後に出ている!

そして私は叫んだ!






孤独な皇帝ロンリー・エンペラー!!!」






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