第53話『芽愛の苦難』
何回かの大きな爆発音が聞こえていました。
どの場所の戦場も、おそらく激しい戦いになっているに違いありません。
かく言う私も例外ではありませんでした。
「ちょこまかと小賢しい娘め!」
私と対峙する女性は、名を
年齢は20代半ばぐらいでしょうか。
大人びた感じは、
彼女は属性攻撃を主体に、風を操り「かまいたち」のような攻撃をしてきます。
だけれど私は、それらの全てを交わし続けています。
「お前、芽愛とか言ったな。攻撃してこない限り、私は倒せないぞ?」
確かに彼女の言う通りです。
シューティングゲームのように、交わし続けていればボス前まで辿り着くとはならないのです。
ところがですね…。
私は索敵と情報解析に、かなりの力を入れてきました。
当然、訓練もそういったものを重点的に鍛えてきたつもりです。
お陰で、相手の
冷静に分析さえすれば、その能力攻撃の特徴、例えば斬りつける系なのか打撃系なのかといった種類から、硬度、速度、軌道までわかります。
そういった情報を
つまり、まさか1対1で私が最前線で戦うとは思っていなかったのです。
取得した属性は光です。
これは私の能力である
だけれど、直接的な攻撃方法というのは、特に模索していなかったのです。
思い出してみれば、心優と疾斗さんが戦った時から進歩が無いわけでして…。
しかし、そうは言っていられない状況となりました。
常識を打ち破る方法を考えなくてはならないのです。
では、常識とは何でしょうか?
戦いという観点から考えると、銃やナイフといった武器を思いつきます。
ところが、今は能力を主体とした戦いなのです。
銃やナイフは装飾にもなりません。
むしろ邪魔になります。
では、これらの武器を無効化するような能力を打ち破る方法とはなんでしょうか?
目の前の風華は、風でかまいたちを起こし、今も鋭く切りつけてきます。
これも常識を超えています。
私はどうでしょう?
透視関連の能力では、情報は索敵できても攻撃にはなりません。
では相手と同じように属性を利用するのはどうでしょう?
私の会得した光属性で攻撃…。
光と言えば、力音さんが見ていたロボットアニメで、光る武器で戦っていました。
レーザービーム?を主砲で撃っている宇宙戦艦があったことを思い出しました。
………。
ビーム…。
幼稚園や小学校以来に聞いた言葉です。
でも…。
心優もアニメやマンガ、小説といった、想像上の物語からヒントを得ていたはず。
こういった創作物は、そもそも常識を打ち破っている場合が多いからだと思います。
だったら…。
私は右手で銃の形を作ります。
すると風華は、かなり緊張した面持ちで構えていました。
あれ?
もしかして、属性攻撃ってこういう感じでやっていくものなの?
頭でレーザービームを想像すると、体が反応しているのがわかります。
私の
ならば…!
ドンッッッ!!!
右手人差し指から発射されたレーザービームは、予想以上のど派手な演出で撃ち出されました。
あまりの威力に、私はよろよろっとしました。
風華は風の防御膜でビームの軌道を少しだけ変化させます。
くの字に曲がって飛んでいった先の柱を貫通し、ドームの外壁の一部を破壊するほどの威力で着弾…。
「虫も殺せそうにない顔して、とんでもねぇ小娘だな!」
私の攻撃を見ても、彼女には少し余裕があるように見えます。
真っ直ぐにしか飛んでこないビームならば、それほど脅威ではないということでしょうか…。
確かにそうですね。
相手も
もうひと工夫必要そうですね…。
右手を左から右へ振ります。
手の通り過ぎた後には、握り拳程度の大きさの光の玉が浮いています。
想像通りです。
その光の弾の数は7つ。
即興ですが、7つ作ったのには理由があります。
風華は、次々と新しい攻撃を仕掛けようとする私に、警戒感を強めているのがわかります。
慌てて攻撃せず、冷静に分析しようとしていると思いました。
そうですね。
確かに先手の方が不利なのは否めません。
能力者が繰り出す攻撃は、その1つ1つが致命傷どころか絶命させるだけの威力を持っています。
そう思うとちょっと怖くなるのですが、ここで弱気になってしまっては、死が待っているだけなのが、能力者達の異能バトルです。
その高威力の攻撃の弱点、欠点、死角を見つけ反撃を繰り出されたら、ひとたまりもないのです。
だから同じ攻撃を繰り返すと、相手に弱点を探させているようなものですし悪手となります。
常に変化を付けなければなりません。
現に風華も、同じかまいたちによる攻撃でありながら、速度、硬度、軌道、一度に出現させるかまいたちの数まで変化を付けてきています。
私には無意味なのですけどね…。
彼女の全力は、
つまり、半分の力で小手調べだったといったところでしょうか。
全力以上の能力攻撃をした場合、恐らく肉体の方がもちません。
体が砕け散るとか…、酷い状況になると思います。
そこへ私が反撃をしたところです。
先程のレーザーは簡単に交わされたうえに、相手には余裕がありました。
次は恐らく反撃を喰らうと思われます。
なのでさっきのは違うシチュエーションで放つしかありません。
厳しい世界です。
どの攻撃にも意味があり、それを察知出来なかった方が死んでしまうのです。
場面を盛り上げるような熱い会話をするような余裕は、まったくないのです。
さて、以上を踏まえて次の手を考えなくてはなりません。
そこで思いついたのが、同じアニメからヒントを貰った方法です。
さっそく仕掛けます!
「ゆけ!私の子供達!」
7人の
光属性の利点は、光の速度、光源、そして光から得られる熱量、欠点は直線的、光るが故に目立つこと。
対する風属性とは、かなりの部分で相反する攻撃能力。
風の利点は流動的で透明、風の流れを集約することによる鋭い攻撃、暴風や風圧からの目くらまし的な攻撃、欠点としては周りの意図しない物まで巻き込んでしまうこと、少なからず音が出てしまうこと、細かい攻撃には不向きということがあります。
故にお互い攻め辛いというのはあるかもしれません。
だから私は、絶対的に勝っている部分を徹底的に使うことにしました。
そう、速度です!
連射性を上げる為に威力は抑えていますが、それでも当たりさえすれば体は貫通するでしょう。
先程も述べた通り、ワンパターンではいつかは完全に防がれてしまう恐れがあります。
なので、7つの子供達の一人一人に個性をつけています。
分かり易いように、
1つは自分、情報収集を至近距離から行っています。
いつもよりも正確に
2つ目は疾斗さん、常に光速で動き回りながらビーム攻撃しています。
3つ目は力音さん、動きは遅いですが他のどれよりも威力の高いビームを放っています。
4つ目は夕美さん、細かく沢山のビームを発射しつづけています。
5つ目は護さん、風華が反撃してきた攻撃を防ぐ役割をしています。
6つ目は烈生君、レーザーではなく強い光を時折放ちながら目くらましを続けます。
そして7つ目は心優、不規則な雷攻撃をしています。
彼女は防戦一方でした。
思った以上に効果があったようです。
だから私はとどめを刺させてもらいます。
右手で銃の形を作り、左手を添える。
ありったけの能力粒子をかき集めていきます!
本来ならば、これだけスキのお多い攻撃は出来ません。
だけれど子供達が頑張っている今ならいけるはず!
これ以上は手が吹っ飛んでしまうというレベルまで高めた
ドンッッッッッッ!!!
あまりの威力に、体を支えきれず尻もちをついてしまうほどのパワー。
防戦一方だった風華の驚く顔を一瞬だけ確認できました…。
ボタボタボタ………。
あれ?
右手がジンジンする…。
巨大なレーザービームはドームの二階席へと続く階段を粉々に破壊し、その大量の瓦礫の中へ消えてしまった風華から視線を外し、自分の右手を見ます。
!?
「いやぁァァァァあああああああああ!!!!」
地面にはズタズタに切り裂かれた、
手首から先がなくなり、大量の血が溢れています…。
直ぐに
ガラガラ…。
瓦礫から風華が現れました。
どうやら風をクッション代わりに纏わりつかせ、身を守ったようです。
だけれど…。
左肩から先は、無くなっていました…。
痛みで頭が痛い…。
吐き気もするし、失った血のせいかクラクラもする…。
これが異能バトル…。
これが能力者どうしの戦い…。
死と隣り合わせの存在…。
そんなことは分かっていた。
だけど怖い…。
(そんなんじゃ駄目よ!しっかり前を視なさい!)
心優…?
心優の声が聞こえた気がした。
きっと自分に都合の良い幻聴だよね。
だけれど、自分の都合の良い声は、しっかり前を視ろと言ってくれた。
戦えっ!
今、戦わなかったら世界は無茶苦茶になっちゃう。
私の右手1つでこの世界が救えるなら安いものじゃない!
でも…、ごめんね、お父さん…、お母さん…。
こんな体になっちゃって…。
心優にも嫌われちゃうかな…。
(バカね、そんなんで嫌いになるわけないじゃない!)
そうだよね…。
きっとそう言ってくれる…。
それに、生きてなければ心優の声も聞けなくなっちゃう。
グッと左手に力を込める。
色々な想いが頭の中を駆け巡る!
「手がないなら作ればいい!」
右手だった所に光が集まると、直ぐに手の形になっていく。
開いたり閉じたりしながら、ゆっくりとこちらに向かってくる風華を見つめる。
彼女の
むしろ煮えたぎっているようにも感じる。
集中しろ。
気を抜いた瞬間、今度は首が飛ぶ。
そう強く思うんだ。
そういう世界なんだと。
「こーむーすーめー…。」
左の肩口を抑えながら、鬼のような形相で睨みつけてくる。
負けない!
集中するんだ。
目まぐるしく思考が駆け巡る。
私の光る右手を見つけると、なるほどと言った厭らしい笑みを見せ、彼女も同じように能力で左腕を作っていく。
!!
彼女が作った手は、体に不相応な大きさをしていた。
「今度はその可愛らしい顔を切り裂いてやる。」
恐怖を飲み込み勇気を絞り出す。
「やれるもんならやってみなさい!」
「そうこなくっちゃな!派手に
「あなたを倒して、アダムの野望も阻止してみせる!」
ハーッハハハハハハハハハッ!
風華の高笑いが響いた。
「ヒーローごっこはそこまでにしておきな。あいつは倒すとか倒されるとかって次元の奴じゃない。歯向かえば死ぬ。確実に。」
「私の…、私達の力を見くびらないで!」
「やってみるがいいさ。出会って1秒で死んでるだろうけどな。勿論…。」
ニヤリと笑う風華。
「私に勝てたならの話だけどな。」
その言葉が終わらないうちに、彼女の左腕が
私は光る右手を胸元に持っていく。
「子供達!」
周囲が一気に明るくなる。
7つの光が私を太陽のようにして周囲を周回している。
それに加えて…。
「貴様…。」
風華の苦虫を噛んだような表情。
それは、何百個と見える光の玉が二人の周囲を覆っていたから。
風景は光の世界に阻まれてほぼ見えない。
私は更に集中していく。
目からの情報では、あまりの濃さで映る映像がゆっくりと揺らいでいるけれど問題ない。
私の周囲5m程度ならば、視界からの情報よりも多くのことを得ているのがわかるから。
空気の成分比率から、舞い上がる埃まで、全てを認識出来る。
恐ろしい量の情報が襲いかかってきては、私の中に取り込まれていく。
膨大な情報処理が行われているのが分かる。
それらは無意識に認識し蓄積されている。
「面白いぞ…、これぞ殺し合いってもんだ。」
「違うわ。多くの人を救う戦いよ。」
二人の緊張が跳ね上がる。
瞬きすら許されない攻撃が、同時に繰り出されようとしていた。
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